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旅人的ガイドライン ~IIDXDP ver.~ -St.3-

最終更新:

beatnovel

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302 :旅人:2009/03/26(木) 00:31:26 ID:yVYIh3D/0
 田中の運転する覆面パトカーは、
あと3キロで大桟冥橋にたどり着くであろう所まで到達していた。
交差点を乱暴に左折した田中は、ハンドルを戻しながら小暮に訊ねた。
訊ねたというよりは、怒鳴ったと書くべきなのだろうが、とりあえず訊ねた、としておこう。

「おい、何か奴の動機は分からないか!?」
「ちょっと前に考えつきました。
 多分、犯人の動機はこれで当たっているかと思います」
「言ってみてくれ!」
「犯人は町田さんと中林さんを殺そうとしました。
 現に中林さんは奴の手にかかって死んでしまいました」
「そうだな。それで?」
「それで、二人の共通点といったら
『音ゲーが上手い』って事だけです。それも、この市で指折りのレベルの」
「言いたい事は分かる。で、続きは!?」
「犯人も滅茶苦茶上手いんだと思うんです。
 でも、二人と比べれば全然まだまだな………そんなレベルのプレイヤーだと推測します。
 大体のIIDXプレーヤーは公式の方でライバル登録をしたりしています。
 僕も、多分刑事さんもCSでやった事はあるんじゃないんですか?」

田中はうーんと唸りながら、走行している道と橋に続く道とが交差する交差点を右折した。
そしてハンドルを回しながら田中が答える。

「やった事はあるぞ!中井のメモカと俺のメモカでデータ交換とか、
 ディスクに入ってる同段位のプレーヤーをライバル登録したりとか!!」
「じゃあどうしてライバル登録したんですか?」
「どうしてって、やっちゃいけねぇのかよ!」
「ダメだなんて言ってませんよ!少し冷静になりましょう、スピード落として!
 で、何でライバル登録をしようと思ったんですか?その理由は?」

303 :旅人的ガイドライン ~IIDXDP ver.~:2009/03/26(木) 00:38:02 ID:yVYIh3D/0
「……競争の場で誰かに勝つってのは嬉しい事だ。
 負けるのは悔しい事なんだけどな」
「それですよ、それ。
 ライバル登録をする理由ってのは大抵の人がそうのはずです。
 大多数のIIDXプレーヤーが登録をするのは、
 目標を位置づけたり、友人知人に勝って喜んだりしたいからだと思うんです。
 でも、あまりに目標が高いと……
 例えば、トプランの人をライバルにするのってどう思いますか?」
「本当に奴らをライバル登録する奴なんてあまりいないんじゃねぇか?」
「どうしてですか?」
「そりゃあお前、奴らがあのゲームの世界においては神にも等しいからだろ!?」
「そうですよね。そうなんです。
 殺された中林さん、殺されかけている町田さん。
 二人とも、その域の一歩手前までは近づいていたんです。
 よく、『誰でも良いから殺したくなった』とかいうふざけた動機で人が死んだりします。
 でも犯人はそういう動機で動いていたはずなのに、狙うのは弱者ばかりなんです。
 そうですよね?そういう人たちが怖いお兄さんを刺したりしたって聞いた事がありますか?」
「無いな!今のところは!」
「そうでしょう。そういう人たちは弱者しか狙えない。
 これをこの事件にトレースしてみましょう。
 犯人はトプランでも殺してりゃよかったんです」

そう言った小暮に鬼のような形相をした田中の視線がずぶずぶと突き刺さった。

「…言い方が悪かったです。すみません。
 でも、奴は町田さんと中林さんを殺しにかかった。
 奴の中では『弱者』のカテゴリーに入っていた二人は狙われてしまった。
 これが、僕の考える犯人の動機です」

小暮は残り300mの所まで迫ってきた大桟冥橋を見つめながら、
その口調に若干の怒気を孕ませながら言った。

304 :旅人的ガイドライン ~IIDXDP ver.~:2009/03/26(木) 00:46:04 ID:yVYIh3D/0
 覆面パトカーが大桟冥橋を走行している時、
小暮は自分の上着から拳銃の形をした黒い物体を取り出した。
田中がそれを横目でちらっと見て、それから聞いた。

「おい、そりゃ何だ。俺はここでお前を逮捕しなきゃいけないのか?」
「いいえ、その必要はありません。これの名前は……
『黒イカ墨発射装置』です。20回撃てます」
「そんな事を聞いているんじゃねぇよ。
 お前そんなもん作ってどうする気だったんだ?」
「誰かに襲われた時に便利じゃないですか。最近物騒ですし。今が物騒だけど。
 ってアレ、中井さんの車じゃないですか?そうじゃないっすか?」
「そうだな。あれは中井の……って、アイツ何やってるんだ!?」

前方を走る中井の車がいきなりスピードをあげ、
その前方を走るバスの横についたのだ。
運転席の横にまでつけた中井は、運転席から上がった短い炎が出ると同時に
車をバスの中腹のあたりに減速して移動させた。

「アイツ、まさか運転席に飛び込むつもりじゃなかったんだろうな!?
 やめてくれよ、オイ…これはアクション映画でも何でもないんだぞ!」
「もし彼がそうしようとしているのなら……刑事さん、窓開けて!」

小暮が田中にそう指示し、理由を訊ねる声と共に助手席の窓が開いた。
窓から入る寒い空気をまともに受けながらも小暮は答えた。

「中井さんのバス突入を支援します」
「馬鹿か?!お前、ホントは馬鹿だったのか!?」
「頭はまともなつもりです。
 この方法だったら町田さんを始めとする乗客全員の命は危ないのも承知です!
 でも、奴の狙いは本当はそこにはないんです!
 町田さんの命には用があるでしょうが、他の乗客の命には用は無いはずです!」
「お前、何を言ってるんだよ!?」
「この橋を渡りきった先、そこに建っている建物に奴は用があるんです!

その言葉を受けた田中は、まさか、と呟いてから言った。

「奴の狙いは……嘘だろ、オイ………」
「僕と刑事さんの予想が正しければ……奴はあのバスを白壁に突っ込ませる気でしょう」

305 :旅人的ガイドライン ~IIDXDP ver.~:2009/03/26(木) 00:54:20 ID:yVYIh3D/0
 それから数秒の沈黙が流れた。
現実味を帯びない犯人の動機、これからの行動。
トプランは殺せないからその一歩手前の奴を殺す。
さらに一歩手前の奴も、将来有望な奴も殺す。
殺して殺して殺しまくって、犯人は恐らく三番手あたりに上手い奴になる。
そんな馬鹿げた話があったとしたら笑うだろう。
だが、そんな馬鹿げたといって笑った話が、今こうして現実として起きている。
人間は狂う事も狂わない事も出来る。どちらかを選ぶのは自由だ。小暮はそう強く感じた。
沈黙を破ったのは、無線から流れる中井の声だった。

「おい、田中!遅いぞ、何やってんの!」
「何をやってるって、お前こそ何やってんだよ!」
「犯人を一刻も早く捕まえる!その為にだなぁ……」

そこで、小暮が田中の手から無線機を奪って会話に割り込んだ。

「中井さん?」
「おぉ、探偵じゃねえか!どうした?あまり時間はないんだがな!」
「僕がこれから、バスのフロントガラス、左サイドの窓以外に細工します」
「細工って、一体何をするつもりだよ?」
「お楽しみです…刑事さん、バスに近づいて!」

おう、と田中が返して彼の運転する覆面パトカーが加速した。
一気にバスの後ろまでに詰めよったパトカーの助手席から、小暮が半身を乗り出していた。

「これで……当たれ!」

ドゥーイ!と銃声替わりの声ネタが響いたと同時に、
小暮の手に握られている黒い拳銃から墨が勢いよく発射された。
隅はバスのバックガラスを黒くし、犯人の視界を後方に少しだけ狭めさせた。

306 :旅人的ガイドライン ~IIDXDP ver.~:2009/03/26(木) 01:01:31 ID:yVYIh3D/0
「いいぞ探偵、その調子でバスの右側の窓を全部黒で塗り尽くすんだ!」

中井が車を減速させて小暮の近くまで寄ってから無線で言った。
小暮は無言で中井に頷き、そして田中に近寄るように指示した。

「刑事さん、近くに寄せて!」
「オーライ、任せとけ!」

田中がそう返すと同時に覆面パトカーが
中井がやったのと同じようにバスに近づいていった。
小暮が『黒イカ墨発射装置』を撃ってバスの窓を黒くしていく。
十三回目のドゥーイ!が響き終わったと同時にバスの運転席から腕が伸び、
その先についている手が握っている黒光りする物が火を噴いた。
ビャウン!と轟音が響いたと同時に小暮は一旦身を車内に戻し、
轟音、いや銃声が鳴り響き終わったと同時にまた半身を車外に出した。
 小暮の銃が二十回目にドゥーイ!と響き終わった後、
バスの右半分からは乗客らの姿が全く見えなくなった。
体を車内に戻している小暮がそれを見、我ながらすごいなぁと思っていると、

「よぉ探偵、まだ生きてるか?大丈夫か?何回か撃たれていただろ?」

中井から無線が入った。小暮が「応答します」と言ってから中井に言う。

「これで右半分の視界は奪いました。
 後は中井さん、よろしくお願いします」
「オーケー、任せておけ。町田は絶対に助けてやるからな!」

中井はそう言うと通信を切り、そして再びバスの運転席へと近づいていった。

307 :旅人的ガイドライン ~IIDXDP ver.~:2009/03/26(木) 01:10:08 ID:yVYIh3D/0
 それから、中井がバスの前まで車を動かしてフロントガラスから侵入、
中井の車はそのトランク部がバスのフロントガラスに直撃、
もはや運転されていないただの障害物となった中井の車は
ガガガガガという擬音と共にバスの頭で動かされていた。
 その後、二発銃声がバス車内から響いた。
小暮は何があったのかとバスを注視するが、
自分が窓を黒く塗りつぶしてしまったために中の様子を見る事が出来ない。
田中は心配そうにしている小暮に言った。

「大丈夫だ。奴は死なん」
「でも、さっき……」
「大丈夫だ。奴は死なん」

田中は二度同じ事を言って、そしてもう一度だけ、
今度は自分に言い聞かせるようにして呟いた。




     二発、銃声がバス車内から響いた。

 町田の顔、首、肩、まとめると全身が血を浴びていた。


突然バスの右側の窓が黒くなり、そして右側の窓が全て黒くなると
バスのフロントガラスから男が侵入した。
そして町田を羽交い絞めにしていた眼鏡男が
クレイジーな不法乗車をした男に向かって発砲した。
一発目は当たらなかった。眼鏡男の銃を握る右手が震えていたからだ。
それを見た男がにやりと笑い、眼鏡男(と町田)との距離を一気に詰めた。
男の突進は速かった。まるで、神速――

――銃弾も避ける事が出来たら、男は正真正銘の神であった。
だが彼は神ではない。人間だった。


 眼鏡男の放った銃弾は凶弾へと変わった。


         男の腹から赤い液が飛び散った。

308 :旅人的ガイドライン ~IIDXDP ver.~:2009/03/26(木) 01:18:14 ID:yVYIh3D/0
 次の瞬間、眼鏡男と彼が羽交い締めにしていた町田の二人に
ダッシュしていった男はその動きを止める。
男の上着の腹の部分に穴が空き、そしてその穴から大量の血が噴き出る。
男の体から噴き出す血は瞬く間にバスを朱に染めていく。赫く、染まっていく。
 町田はその光景を呆然と見つめている。
全てがスローモーションで流れる。彼女にかかる男の血も同様に流れる。
男は何の抵抗も無くうつ伏せのまま床に吸い込まれるようにして倒れていく。
それを町田は周りの乗客の悲鳴を聞きながら呆然と見つめ、
次の瞬間にはその両眼に憤怒の炎を燃やしていく。

「でやあぁぁ!!!!」

町田はあらん限りに叫びながら両の肘で眼鏡男の腹を殴った。
あぶっ、と眼鏡男は呻きながらよろめき、次に拳銃を町田に向ける。
町田はしゃがみながら左足を軸に右足を突き出し、眼鏡男の右脛を蹴った。
あでっ!と眼鏡男は両眼に狂気を宿らせながら一歩後退した。
 距離が空くと、飛び道具を持っている眼鏡男の方が有利になる。
町田は左足一本で床を蹴るという無茶な行動を起こしてでも、
眼鏡男に接近しなければ殺されてしまう。
 その事を十分理解していた町田は、軸にしていた左足を蹴って眼鏡男に近づいた。
一瞬狼狽した眼鏡男は銃を構える両手を町田に突き出したが、それが運のツキだった。

「やあああああぁぁぁ!!!」

町田の気合の叫びと共に、彼女の両手が銃口が向けられている拳銃に伸びる。
銃身を手に取った町田はそれをバスの天井に向け、自分への脅威を消失させる。
次の瞬間、眼鏡男のトリガーにかかった人差し指は引かれ、鉛玉が一発天井を突き破った。

309 :旅人的ガイドライン ~IIDXDP ver.~:2009/03/26(木) 01:24:26 ID:yVYIh3D/0
 もう一度バス車内から銃声が響いた時、
小暮は何かが物凄いスピードで天井を破ったのを見た。
自分の脳が結構なペースで回転しているから、あんなものが見えたのだろうと小暮は思った。
 それから三十秒が経ち、バスはようやく停止した。
大桟冥橋の路肩に駐車した田中は小暮を連れ立ってバスの前へと歩く。

「うわ、中井さんの車、もう駄目だなぁ」
「あーあ、アイツ、絶対後悔してるぜ」

そんな事を二人は言い合いながら、運転手がまだ狼狽していてか、
全く開く事のないバスの扉から乗車するのを諦め、中井と同じように乗車した。




 二人は考えたくなかった光景を目にした。
バス車内が血に染まっている。通路が血の海と化している。
そして、車内の通路、血の海に誰かがうつ伏せで倒れている。
「町田さ…」と小暮は言いかけ、そして倒れている人物が違う事に気がついた。

「おい………オイ!!」

田中がそう叫んで血の海に沈む誰かに走って近づいた。
そして、彼がそれが誰であったのかを確認した後、小暮に向き直って叫んだ。


         「探偵、大至急救急車を呼べ!!!」


312 :旅人的ガイドライン ~IIDXDP ver.~:2009/03/27(金) 01:13:27 ID:sc7zk7A70
 事件は解決した。最悪の形をとって。
不幸中の幸いといえば、中井と町田が生きていたくらいのものだ。
中井の方は重傷であったが、どうにか一命は取り留めたらしい。
 後で小暮がバス乗客に聞かされた事だが、町田は物凄い格闘で犯人をノックアウトしたそうだ。
音ゲーをやって高難易度曲をメインにプレーする人なら、
なにかしら得意な事があっても不思議ではない。
小暮は中井が手術を受けている間、待合室でそう考えていた。



 夜になった。
小暮と町田は一度事務所に戻り、
そしてタクシーを使ってある所へ移動した。
法定速度を遵守するタクシーの中で町田が小暮に言う。

「ねぇ、小暮君」
「何ですか」
「あの人…どうして中林さんを殺したのか、分かる気がする」
「どうしてですか?」

町田はそこで一つ間を置いてから、そして一言前置きをいれてから話す。

「こういう女だったんだ、って軽蔑するかもしれないけど」
「内容によりけりです。でも町田さんを軽蔑なんてしません」
「優しいんだかそうじゃないんだか……
 私も今ほど上手くない時ね、滅茶苦茶スコアを取ってる人が憎くて憎くてたまらなかった。
『こんな奴らの命とスコアデータさえ消えれば、私が一位に近づくのに』って」
「僕も、犯人はそう思っていたんじゃないかと思います。
 今の町田さんなら分かりますけど、そんなの、ちゃんちゃらおかしいんですよ」

小暮がそう言うと、町田がうつむいて小さく何かを言った。
運転手も小暮も彼女が何を言ったか分からなかった。
だが、確かに町田の唇は「ごめんなさい」と言っていた。

313 :旅人的ガイドライン ~IIDXDP ver.~:2009/03/27(金) 01:18:00 ID:sc7zk7A70
 小暮と町田を乗せたタクシーは白壁の前で止まった。
眼鏡男にバスを突っ込まされ、
更なる惨劇を生み出す場となるはずだったそこは相変わらず平和だった。
 二人は入店し、プレーされていないIIDX筐体の前に立つ。
小暮がお立ち台に上がり、町田が筐体横に立っている。

「あ、あの人…」
「彩ちゃんの彼氏?」
「いや、小暮探偵…?」
「遊びに来たのかな…」

小暮がイーパスを入れ、コインを入れている時に
彼の後ろでは人が集まっていた。
 既にこのあたりでは、先のバスジャック事件が
中井の件を伏せられて知れ渡っているのだ。
そして、その解決に導いた中心人物が小暮だという噂も出回っているのだった。

「う…ちょっと緊張ものですね」
「大丈夫。小暮君にギャラリーがつくのは意外だけど、
 まぁかぼちゃだと思えば。そう思っちゃえばオーケイよ!」

なんてベタな自己暗示なんだ、と小暮は思いながら
プレーモード選択でダブルプレーを選んだ。

「おぉ、DPだぜDP」
「探偵さん上手いのかな」
「いやぁ、まだ初段レベルにもなってないでしょ」
「まぁとにかく見物しましょ」

小暮の後ろで沢山のかぼちゃが、白壁内全体に響き渡る爆音の中で口々に言った。
だが、彼らの声は混ざり合って誰一人正確に聞きとる事は出来なかった。
聖徳太子でも聞き取るのは無理なんじゃないかな。ふと小暮はそう思った。

314 :旅人的ガイドライン ~IIDXDP ver.~:2009/03/27(金) 01:27:42 ID:sc7zk7A70
 小暮はもう既に何をプレーするかは決めていた。
スタンダードを迷わず選択、そして真っ先にQRSTフォルダを開く。

「一体何やるんだ?」
「QQQ?いや、あれはムリだろー」
「おっ、Sの所で……おぉ、spica(N)だー!」

そう、小暮が一曲目に選んだ曲はそれだった。
この曲はN,H,A譜面で曲が変わる。
同曲の作曲者が得意とするところだ。
 難易度の問題や、たまにはN譜面のゆったりしたピアノを聴きたい
という願いがあって小暮はこの曲、そしてこの譜面を選んだ。
そういう訳で、小暮はDP専用スタンダードポジションを取った。

「1,2,4,6,7,に左手の小、薬、中、人、親で…
 8,9,11,13,14で右手の親、人、中、薬、小。ハイスピはいつもより1,0だけマイナスにして…」

小暮は心の中で呟きながら曲名表示の画面でハイスピを調整、
そして両手を開いて彼はスタンダードポジションをもう一度取った。
 spica(DPN)はとても叩きやすい譜面構成となっている。
DP慣れした人なら初見クリアーは容易に達成できるだろう。
無理皿も無く、DP初心者にお勧めな譜面を持つこの曲を小暮はクリアーした。

「おっ、クリアーしたぞ!」
「Aだ!A出してる!」
「SPの経験が活きたんだな…
 って、次は8thフォルダを開いたぜ!」
「何をやるんだ?ンメエェモリイィィズか?」
「違うだろ……あれ、lv5なんだぜ?…お、カーソルが止まった」
「え、murmur twins(N)か!?」
「spicaでA出したからって、murmur twinsはどうなんだ?」
「一応あれ、lv5なんだぞ。まさかの二曲目落ちか?」

小暮は後ろの声々を無視してオプションでハイスピを調整、
それから一瞬だけ躊躇って白鍵を押した。

315 :旅人的ガイドライン ~IIDXDP ver.~:2009/03/27(金) 01:33:44 ID:sc7zk7A70
 quellで落ちてしまった小暮だが、あれから譜面認識力は高まっていた。
同時押しも殆どなく、ただただリズムとピアノを叩かせる譜面は
一種のパターンのような物を作りあげ、曲をよく聞きこんでいる小暮には
次の譜面がある程度予測出来たりしていた。
 一曲目のspica同様、murmur twinsもN,H,A譜面で曲が変わる。
B譜面でも曲が変わると小暮は聞いた事があったが、
残念ながら彼はそのバージョンを聞いた事は無かった。
 N譜面はリズム等は変わらないものの、ピアノのメロディーラインが
譜面に直すと易しいものになっている。16分階段などは存在しないのだ。
まったりと曲を楽しむ分には最適の難易度と言えよう。

 小暮は余裕をもってプレーする事が出来た。
約二分後に筐体から歓声が上がっている事も、当然の帰結というわけだ。

「おぉ、次は何を選ぶんだ?」
「フォルダは……GOLD?」
「スタダDPのエクストラ条件はlv7曲をノマゲクリアだから……
 lv7曲ったらheaven aboveか?」
「いや、探偵さん、レザクラに合わせてないか!?」

一人のギャラリーが(聞こえてないにしろ、小暮にとっては一つのかぼちゃだ)
選曲画面を見てびっくりした声を上げた。

「いやいや、そんなに慌てる事はねぇ」
「どうして?」
「レザクラ……LASER CRUSTER(DPN)の譜面は、
 人によりけりだろうけどlv7程度の難度に感じる人がいるって聞いた」
「そうそう。あれはlv8かどうかは怪しいって俺も思ってたんだよな……」
「案外、昔のlv7表記の方が合っているかも分からないような気がするんだが…」
「それでもlv8に格上げしたんだ、探偵さん、頑張ってエクストラを出してほしいな」

316 :旅人的ガイドライン ~IIDXDP ver.~:2009/03/27(金) 01:41:11 ID:sc7zk7A70
 LASER CRUSTER(DPN)が小暮にファイナルステージで選曲された。
先にギャラリー達が「lv8かどうかは疑問」と述べていたが、
それについては個人が実際にプレーして
体感難易度を確かめるしかその判断はつかないだろう。
 小暮はCSGOLDにて譜面は触れていて、
「明らかに他のlv8譜面と比べると易しい」と感じていた。
懸念されるのは中盤あたりのパートで、
そこだけが妙にミスを誘発する地帯となっていた。
 ちゃんとした実力のあるプレーヤーなら何て事は無いのだろうが、
まだまだDP歴一日未満の彼にとっては脅威以外の何物でもなかった。

 曲が始まった。小暮は所々コンボを切りながらもゲージを伸ばしていく。
最初の盛り上がりでは一度ゲージが80%を越えるが、
しかし中盤に差し掛かっていくとゲージは徐々に減少していく。

「あー、やっぱりそこか……」
「俺もそこで…そこが正念場だ、頑張ってくれ…!」

ギャラリー達の祈りが小暮に伝わったか、
ゲージ減少のペースが緩やかになっていった。
そして曲は最もゲージの稼ぎどころとなる最後の盛り上がりへと展開する。

「残りゲージは48%…イケる、イケるぞおぉ!!!」
「こりゃクリア出来たな!やったな!!」

ギャラリー達の顔にそんな文字が浮かび上がった。
そんな事は全く知らない小暮はクリアーを賭けて一心に鍵盤を叩いていく。
最後のノーツを処理し、リザルト画面に移行すると、
筐体は小暮を歓声で包んだ。同時にギャラリー達も歓声を上げる。
小暮は小さくガッツポーズをし、そしてエクストラステージの選曲に入った。

317 :旅人的ガイドライン ~IIDXDP ver.~:2009/03/27(金) 01:48:20 ID:sc7zk7A70
 最後の選曲は「rainbow rainbow」(DPN)であった。
最高にハッピーな気分にさせてくれるこの曲であるが、
譜面上恐れられることが一つあった。
 対称譜面、という用語がある。
SPを例にとって説明すると、1鍵と7鍵の同時押しの次に
2鍵と6鍵の同時押し、そして3鍵と5鍵の同時押し…といったように
文字通りシンメトリーとなっている譜面である。
 こういった譜面構成上、シンメトリーが好きな人には
ビジュアルは最高にイカしている譜面だと思われるかもしれないが、
実はこの対象譜面、DP歴が浅い人間だと泥沼にはまる恐れがあるのだ。

 そう、小暮を襲った悲劇は最後の最後で起きた。
頭に良く残るメロディーが終わって「レインボゥ」と女性の声が響いて曲は終了する。
 小暮はちゃんと1P側、2P側にひとつづつノーツが降る
大規模なシンメトリーを成す譜面を捌いていた。
 が、最後の最後で小暮はイージーミスを犯してしまったのだ。
よくDP歴の浅い人間に見られる事だ。鍵盤と鍵盤の間に指を突き立ててしまう
という事がよく起こると言われている。
 小暮も例外ではなかった。逆ボーダー落ちした彼はがっくりとうなだれ、
排出されたイーパスを取ってふらふらと外へ出ていった。
まだまだ寒さの残る季節。息を吐けばそこに白く跡が残る。
小暮は長い溜息をついた。その分だけ長く細い煙が上っていく。
そして、小暮は上って消えていく自分の息を見上げながら叫んだ。


「チックショ――!!!肝心なところでイージーミスかよ、うわああぁぁーー!!!!」



 この日、白壁で小暮正俊のIIDXDPでのACデビューを目撃した人々は一つの教訓を得た。

「どんなゲームでも一番怖いのは、
 プレー中のくしゃみでも、ちょっかいをかけられることでもない。
 プレー上一番怖いもの、それは己が犯すイージーミスなのだ」

そんな事を大きな筆で書かれた大きな紙が
白壁店内で展示されている、という話を小暮は町田から聞き、
わけの分からない事を叫んで顔を赤くしたそうな。


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