アットウィキロゴ
創作小説with音ゲー  臨時まとめWiki
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

創作小説with音ゲー  臨時まとめWiki

古時計

最終更新:

beatnovel

- view
管理者のみ編集可
44 :古時計 ◆A5kZRIzhk6 :2010/06/30(水) 02:42:51 ID:RAVpT3Wd0
 私は何をやっても遅い。
話をするのも、どこかへ歩くのも、何もかもが遅い。
嫌いなことは、早いものである。
話が早いのも、足が速いのも、何もかもが早いものが嫌いなのである。

 だから私は遅いものが大好きだ。
亀と兎が競う童話でも、亀は勝っている。
だから何なのだといわれても困るが、遅いものが大好きなのだ。

 私の住む古い家に、一つの古時計がある。
これが刻む時も、別の時計が知らせる時も一切が同じだ。
私の感性は、古時計が告げる時が遅く感じた。
しかし古時計に遅延があるわけではない。他の時計と同じように、時を数えている。


 この日、私の息子が地下室にこもっていた。
息子が言うには「ドラマニの練習をしたい」らしい。
私はそっけない返事を返したのだが、一体ドラマニとは何なのだろうか。
 これが気になった私は、パソコンの電源を入れてネットで調べることにした。
一時間くらいの時間をもってして、私はドラマニとは何かを知った。
どうやらこれは音楽ゲームと呼ばれる遊びらしく、ドラムの演奏を模した遊びであるらしい。
別のゲームにギタフリと呼ばれるものもあり、これがドラマニと連動するらしい。
今ではXGなるものまで現れ、実物との再限度が半端ないことになっているらしい。

45 :古時計 ◆A5kZRIzhk6 :2010/06/30(水) 02:48:05 ID:RAVpT3Wd0
 しかし私はこれを面白そうだと思うことはできなかった。
年のせいにするつもりは毛頭ない。理由はただ一つ。早いからだ。
インターネットで、このゲームを遊んでいる人間を撮影した動画を何本か見た。
早い。筐体から出っ張っているものをガシガシと
両手に握るスティックで高速で叩きつけていた。
下に突き出ているペダルが、高速で動く右足でカカカカカと踏まれていた。早い。

 息子もこんなゲームが好きなのだろうか。
私は邪魔をしないように地下室に降り、様子をうかがってみた。
 27インチのブラウン管のテレビ。
それに繋がるPS2に繋がる電子ドラムをバンバンガシガシとやっている息子。15歳。

「あ、父さん、どうしたの?」

 後ろを振り向いて、息子が私にそう問いかけた。

「何をやっているのか、見に来たんだ」
「さっきも言ったでしょ、ドラマニの練習だよ」
「そうか……ちょっと見せてくれないか」
「いいけど、父さんからしてあまり良いものではないと思うよ」
「分かってる」

 それから息子は聞き覚えのある曲を遊び始めた。
これらはライセンス曲と呼ばれ、昔はよく色んな人にカバーされて収録されていたと息子は語った。
ところで、この時息子がPS2の中に入れていたソフトは
マスターピースシルバーなるものらしい。
息子はこの中の一曲のために買ったとまで言った。そんな事を思い出した。

46 :古時計 ◆A5kZRIzhk6 :2010/06/30(水) 02:52:33 ID:RAVpT3Wd0
「上手いな。けど、やっぱり早いな。
 なんかないのか。ほら、大きな古時計みたいな」
「童謡なんてある訳ないよ。そんなの入れる訳がない」
「そうか。若い者は皆、早いのが大好きだよな」
「そうかもしれないね。昔から早い曲は人気だったから」
「ところで、前に言っていたよな」
「何を?」
「ある曲のためにこのソフトを買ったとかなんとかって言っただろう」
「あぁ、その曲? 聴いてみたい?」
「どうせ早い曲だろ」
「そうなんだけどさ。とりあえずこれで最後にするよ」

 息子はそう言って、ある曲にカーソルを合わせた。

「Timepiece phaseⅡっていうんだ。
 かなりいい曲なんだ。神がかかってるとまで言ってもいい」
「そうか、聴いてみたくなった」

 私がそう言うと、息子は嬉々としてシンバルを叩いた。



 曲は、ピアノの和音が何回か響いた後、ものすごい勢いで展開を始めた。
テレビの左半分を見れば、それを意識せずにはいられなくなった。
右半分には、昔のトランプのジャックやクイーン、キングのような人達がいた印象がある。
あくまでも印象であるため、これは適当なものである。

 また、早い曲か。
私は聴いていて物悲しさを覚えていた。
早いのは苦手なのだ、仕方がない。
 しかしそれは、テレビの右半分に映った時計の絵を見て吹き飛んだ。
どうして時計の絵を見て気が晴れたのかは分からない。
分からないが、とても心地が良い。早いのに、何故。

 曲は終盤に差し掛かり、ドラムは相変わらず激しいビートを刻んでいく。
ギターが龍のような唸りを上げ、そして落ち着いた調子で曲は終わった。

47 :古時計 ◆A5kZRIzhk6 :2010/06/30(水) 02:59:20 ID:RAVpT3Wd0
「良い曲だったでしょ」

 演奏を終えた息子が問いかけた。

「あぁ、早い曲だったけど、早くなかった」
「え?」
「父さんも言っていて分からない。
 でも、早いけど早くなかった気がした」
「……父さん、大丈夫?」
「上に戻って、本でも読んでる。
 もうそろそろで休憩は取るんだぞ」
「分かってるって」

 息子はそう返した。私を気遣う目で、私を見送ってくれた。
 私は一階に戻り、古時計を見つめた。
あの時の感覚がこれを見つめると蘇る。
早いようで遅い。ならば、遅いようで早い……?

 そうか。そうだったのだ。
時計は一秒一分一時間を数える。それはあたりまえのことだ。
そして時計が数える時間に差異はない。一秒は一秒であり、等しい。

 ゆっくり時を刻んでいるような気がするこの時計も、等しく時を刻んでいる。
そして時計の内部構造はせわしなく動いているのだ。
この古時計だって、きっと。遅く時を刻んでいるように見えて、とても早く動いている。

 そんなことにどうして気付かなかったのだろうか。
理由は分からない。しかし理解した理由はある。息子が演奏したあの曲だ。
 これに気付いて、私の中で変化が起きた。
早いものが苦手でなくなったのだ。
話が早いのも、足が速いのも、テレビを見て確認したが、嫌いじゃない。
それも多分、あの曲……Timepiece phaseⅡが理由となるのだろう。

 あれから二十分は経った。
私は地下室に降り、息子に声をかける。

「なぁ……父さんにもそのゲーム、やらせて欲しいんだが、いいか?」

自分でも分かった。この声が、ちょっとした期待で震えていることに。



コメント

名前:
コメント:
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー