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ノック
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| 60 :ノック:2009/12/24(木) 00:39:13 ID:6EGdXRTWO |
今の状況を一言で表すなら最悪だ。
どれくらい最悪かというと普段皆伝と十段しか居ないゲーセンで誰も居ない時にこっそり穴冥を選び、
皿だけ適当に回している最中トップランカーが背後に並んでいる事に気付いてしまった時より最悪だ。
いや、実際問題状況はその数百倍以上に悪かった。
「おい!…ああくそっ、何で出ないんだよ!!」
呼び出し音の続く携帯を握り締めながら俺は31回目の電話を切った。玄関からは扉を激しく叩く音が断続的に響いている。
いっそ耳を塞いでしまいたい。
そんな衝動に駆られながら再び友人に電話した。
今日はベストアルバムの発売日。日本中の音ゲーマー達の元へ佐山急便が忙しなく荷物を配達している。
しかし俺の元にやって来たのは…
どれくらい最悪かというと普段皆伝と十段しか居ないゲーセンで誰も居ない時にこっそり穴冥を選び、
皿だけ適当に回している最中トップランカーが背後に並んでいる事に気付いてしまった時より最悪だ。
いや、実際問題状況はその数百倍以上に悪かった。
「おい!…ああくそっ、何で出ないんだよ!!」
呼び出し音の続く携帯を握り締めながら俺は31回目の電話を切った。玄関からは扉を激しく叩く音が断続的に響いている。
いっそ耳を塞いでしまいたい。
そんな衝動に駆られながら再び友人に電話した。
今日はベストアルバムの発売日。日本中の音ゲーマー達の元へ佐山急便が忙しなく荷物を配達している。
しかし俺の元にやって来たのは…
ドンドンドンドンドンドン!!
激しく扉を叩く音に思考を遮られて現実に戻される。繋がらなかった32回目の電話を切りながら俺は忌々しげに玄関を見た。
佐山の代わりに来た招かざる客。それは音ゲー板のあいつだった。
持ち前の反射神経と動体視力で何とか扉は閉めたものの、それ以降玄関に張り付かれて逃げも出来ない。
みんなふざけてんだと思ってたのにマジで居たのかよ…やっぱりあんな事書かなきゃ良かった。
しかし今更後悔したところでもう遅い。消される前に早く何とかしなければ。
ひとまずベランダに出ようか。手すりを伝って非常階段に出られれば逃げられるかもしれない。
こんな悪天候の日に高層マンションで曲芸紛いの事をするのは自殺行為としか言い様がないが手段を選んでいる場合ではない。
大丈夫、俺初見は得意じゃないか―――
根拠の無い自信で自分を奮い立たせる。
ベランダに出るにはリビングを横切らなければならない。
飛び出しそうな心臓を何とか押さえながら隣室の扉を開いた。
佐山の代わりに来た招かざる客。それは音ゲー板のあいつだった。
持ち前の反射神経と動体視力で何とか扉は閉めたものの、それ以降玄関に張り付かれて逃げも出来ない。
みんなふざけてんだと思ってたのにマジで居たのかよ…やっぱりあんな事書かなきゃ良かった。
しかし今更後悔したところでもう遅い。消される前に早く何とかしなければ。
ひとまずベランダに出ようか。手すりを伝って非常階段に出られれば逃げられるかもしれない。
こんな悪天候の日に高層マンションで曲芸紛いの事をするのは自殺行為としか言い様がないが手段を選んでいる場合ではない。
大丈夫、俺初見は得意じゃないか―――
根拠の無い自信で自分を奮い立たせる。
ベランダに出るにはリビングを横切らなければならない。
飛び出しそうな心臓を何とか押さえながら隣室の扉を開いた。
| 61 :ノック:2009/12/24(木) 00:48:08 ID:6EGdXRTWO |
しんと静まり返った室内には玄関からのノック音と先程より勢いを増した雨音だけが不気味に響いている。
よし、奴はまだ動いてないな…
足音を殺して窓際に移動し、そっとカーテンに手を伸ばした。
落ち着け、あと少し―――
カーテンに手を触れようとした瞬間、空一面を焼き尽くす様な閃光が迸った。直後に響くであろう轟音に備え反射的に耳を塞ごうと手を引っ込める。
目を瞑ろうとした刹那、俺の目と鼻の先に上の階のベランダを掴んでぶら下がる人間のシルエットが映し出された。
「――――――っ!!」
まさか上の階から…?
その可能を否定しようとした俺を嘲笑うかの様に玄関をノックする音にガラス窓をノックする音が加わった。
ああくそっ、今まで時間通りに来た試しがないくせにどんだけ仕事熱心なんだよ―――!?
無論本物の佐山なら2~3回ノックして応答が無ければ不在票を一枚残してさっさと帰るのだろう。
僅かに残った理性で悲鳴を噛み殺しつつリビングを飛び出し、隣の台所に転がり込んだ。こんな季節にも関わらず、全身びっしょりと汗をかいていた。
普段は開けっ放しにしている引き戸を後ろ手に閉め、その場に座り込んだ。
この部屋にあるのは小さな冷蔵庫と流し台と僅かな食器。今入ってきた扉意外に出入り口は無い。
ここなら大丈夫か…?
ベランダと玄関はやられた。風呂場とトイレはそもそも窓が無い。
雨はいよいよ勢いを増し、ノックの音すらまともに聞こえなくなった。
こんな時にゲリラ豪雨か。これでは外の状況がよく分からない。
よし、奴はまだ動いてないな…
足音を殺して窓際に移動し、そっとカーテンに手を伸ばした。
落ち着け、あと少し―――
カーテンに手を触れようとした瞬間、空一面を焼き尽くす様な閃光が迸った。直後に響くであろう轟音に備え反射的に耳を塞ごうと手を引っ込める。
目を瞑ろうとした刹那、俺の目と鼻の先に上の階のベランダを掴んでぶら下がる人間のシルエットが映し出された。
「――――――っ!!」
まさか上の階から…?
その可能を否定しようとした俺を嘲笑うかの様に玄関をノックする音にガラス窓をノックする音が加わった。
ああくそっ、今まで時間通りに来た試しがないくせにどんだけ仕事熱心なんだよ―――!?
無論本物の佐山なら2~3回ノックして応答が無ければ不在票を一枚残してさっさと帰るのだろう。
僅かに残った理性で悲鳴を噛み殺しつつリビングを飛び出し、隣の台所に転がり込んだ。こんな季節にも関わらず、全身びっしょりと汗をかいていた。
普段は開けっ放しにしている引き戸を後ろ手に閉め、その場に座り込んだ。
この部屋にあるのは小さな冷蔵庫と流し台と僅かな食器。今入ってきた扉意外に出入り口は無い。
ここなら大丈夫か…?
ベランダと玄関はやられた。風呂場とトイレはそもそも窓が無い。
雨はいよいよ勢いを増し、ノックの音すらまともに聞こえなくなった。
こんな時にゲリラ豪雨か。これでは外の状況がよく分からない。
と、視線を滑らせた先にあるものが目に止まった。床に落ちている茶色い物体。
一瞬枝か何かかと思ったが、よく見るとカマキリの死骸だった。それも最近死んだようなものではない。
植物の様な瑞々しさは既に無く、カラカラに干からびて変色していた。
こんなもの最初からあっただろうか。いや、無かった。じゃあ一体どこから…?
首を捻る俺の目の前に一匹の蛾が落下してきた。それはカマキリと同じ様にミイラ化している。
一瞬枝か何かかと思ったが、よく見るとカマキリの死骸だった。それも最近死んだようなものではない。
植物の様な瑞々しさは既に無く、カラカラに干からびて変色していた。
こんなもの最初からあっただろうか。いや、無かった。じゃあ一体どこから…?
首を捻る俺の目の前に一匹の蛾が落下してきた。それはカマキリと同じ様にミイラ化している。
上?
それ以外有り得ない。
しかしどうしても見上げる事が出来なかった。その間にも俺の周りには次々と干からびた虫の死骸が降ってくる。
トンボ、蛾、カミキリ虫…あっという間に俺の周りは虫で埋め尽くされていった。
それ以外有り得ない。
しかしどうしても見上げる事が出来なかった。その間にも俺の周りには次々と干からびた虫の死骸が降ってくる。
トンボ、蛾、カミキリ虫…あっという間に俺の周りは虫で埋め尽くされていった。
| 62 :ノック:2009/12/24(木) 01:03:26 ID:6EGdXRTWO |
全身が総毛立つ。堪えるまでもなく、最早悲鳴さえ出なかった。
虫嫌いな人でなくとも失神してしまいそうな地獄絵図。
頭に降ってきた死骸が髪を撫で、汗で濡れた首筋にオブラートの様な薄い羽が水分を吸ってぴったりと張り付く。
気色悪いことこの上ない。しかし俺はこの感覚に覚えがあった。
今でもはっきりと覚えている。あれは一昨年の夏だった。汗だくになって友達の引っ越しを手伝った時。
荷物を全部運んだ後、背の低い友達に代わって台所の掃除をしていたら―――
ガコンッ
結論に辿り着くよりも早く、換気扇のファンと虫除けネットが音を立てて落下した。
虫嫌いな人でなくとも失神してしまいそうな地獄絵図。
頭に降ってきた死骸が髪を撫で、汗で濡れた首筋にオブラートの様な薄い羽が水分を吸ってぴったりと張り付く。
気色悪いことこの上ない。しかし俺はこの感覚に覚えがあった。
今でもはっきりと覚えている。あれは一昨年の夏だった。汗だくになって友達の引っ越しを手伝った時。
荷物を全部運んだ後、背の低い友達に代わって台所の掃除をしていたら―――
ガコンッ
結論に辿り着くよりも早く、換気扇のファンと虫除けネットが音を立てて落下した。
「―――う、うわぁぁぁぁぁぁぁ……いてっ!」
全力で走り出そうとした途端、両足を襲った痛みに悶絶しながら俺は飛び起きた。
まず視界に飛び込んできたのは古ぼけた合板の天井。部屋の片隅に置かれた机の上に、ところ狭しと積み上げられた本やCD。
見間違える筈もなく自分の部屋だ。
「…あれ?」
何かがおかしい。
俺は確か朝から佐山を待ってて…そうだ、中々来ないから寝っ転がったんだ。
強かに両足を強打した机を忌々しげに睨みながらその上に載せられた時計に視線を移す。
時刻は午後5時47分。指定の時間を大幅に過ぎている。どうやら待ちくたびれてうたた寝をしていた様だ。
つまり全部夢だったのか?
否定する要素は何もない。数秒の沈黙の後、ひどく情けない気分になって一人苦笑いした。
あれほど怖かった筈なのに今はもう輪郭すら思い出せない。唯一覚えているのは佐山が出てきた事くらいだ。
「…で、肝心の佐山はまだなのか?」
午前中の指定にしたはずなのに遅すぎる。窓の外を見るとずぶ濡れの庭が夕日を受けてキラキラと輝いていた。
そういえば朝から天気が悪かったし昼過ぎには遠くで雷鳴も聞こえた気がする。寝ている間に随分降っていた様だ。
しかしここまで赤い空も珍しい。せっかくだし写真でも撮ろうか。
カメラを起動させようと携帯を開いた俺は待受画面を見てぎょっとした。
全力で走り出そうとした途端、両足を襲った痛みに悶絶しながら俺は飛び起きた。
まず視界に飛び込んできたのは古ぼけた合板の天井。部屋の片隅に置かれた机の上に、ところ狭しと積み上げられた本やCD。
見間違える筈もなく自分の部屋だ。
「…あれ?」
何かがおかしい。
俺は確か朝から佐山を待ってて…そうだ、中々来ないから寝っ転がったんだ。
強かに両足を強打した机を忌々しげに睨みながらその上に載せられた時計に視線を移す。
時刻は午後5時47分。指定の時間を大幅に過ぎている。どうやら待ちくたびれてうたた寝をしていた様だ。
つまり全部夢だったのか?
否定する要素は何もない。数秒の沈黙の後、ひどく情けない気分になって一人苦笑いした。
あれほど怖かった筈なのに今はもう輪郭すら思い出せない。唯一覚えているのは佐山が出てきた事くらいだ。
「…で、肝心の佐山はまだなのか?」
午前中の指定にしたはずなのに遅すぎる。窓の外を見るとずぶ濡れの庭が夕日を受けてキラキラと輝いていた。
そういえば朝から天気が悪かったし昼過ぎには遠くで雷鳴も聞こえた気がする。寝ている間に随分降っていた様だ。
しかしここまで赤い空も珍しい。せっかくだし写真でも撮ろうか。
カメラを起動させようと携帯を開いた俺は待受画面を見てぎょっとした。
| 63 :ノック:2009/12/24(木) 01:08:45 ID:6EGdXRTWO |
残された32件の着信。その全てが友人のTからだった。
何だ…?何かあったのか?
妙な胸騒ぎがする。
かけ直してみても呼び出し音が聴こえるだけで応答する気配は無い。
あいつが電話に出ないなんて変だ。音ゲーをプレーしながらでも器用に出るのに。
まさか急病?いや、事件かもしれない。これから行ってみようか。
今まで中に入った事は無いけれども場所だけは知っていた。駅前にあるマンションの…確か73階だ。
その時、立ち上がろうとした俺の耳に玄関の扉をノックする音が聞こえた。
こんな時に誰か来たのか?…あ、佐山かな?
何だ…?何かあったのか?
妙な胸騒ぎがする。
かけ直してみても呼び出し音が聴こえるだけで応答する気配は無い。
あいつが電話に出ないなんて変だ。音ゲーをプレーしながらでも器用に出るのに。
まさか急病?いや、事件かもしれない。これから行ってみようか。
今まで中に入った事は無いけれども場所だけは知っていた。駅前にあるマンションの…確か73階だ。
その時、立ち上がろうとした俺の耳に玄関の扉をノックする音が聞こえた。
こんな時に誰か来たのか?…あ、佐山かな?