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トップランカー殺人事件 解答編 第0.1.A話『BOLCEと1046』 -phase1-
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| 292 :トップランカー殺人事件(306) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/04/01(木) 00:38:06 ID:f6LNsWxq0 |
俺がBOLCEと出会ったのは高校一年生の春だった。
その頃の俺はどちらかと言えば無気力に生きてる人間だったと思う。
特別に成績が良いわけじゃないから、大学に向けて受験勉強をしようだなんて考えもしなかったし、
かと言って熱中できるスポーツもないから、部活にも入らなかった。
特別に成績が良いわけじゃないから、大学に向けて受験勉強をしようだなんて考えもしなかったし、
かと言って熱中できるスポーツもないから、部活にも入らなかった。
その一方でクラスの連中は、これから始まるであろう
充実した三年間を思い描いては目を輝かせていたものだから、
いわゆる夢や目標と呼べる何かがなかった俺にとって、彼らはとてもまぶしかった。
充実した三年間を思い描いては目を輝かせていたものだから、
いわゆる夢や目標と呼べる何かがなかった俺にとって、彼らはとてもまぶしかった。
でも、そんな俺にも一つだけ誰にも負けない特技があった。
音ゲーだ。
音ゲーだ。
「まぁそういうわけだよ」
「どういうわけだよ」
「だからさ、俺も高校生になったわけだし、
場合によっちゃもう音ゲーから足を洗ってだね、
輝かしい青春時代ってヤツを謳歌しようと思ってたのさ。
でもやっぱ駄目だ。俺には音ゲーくらいしかやることがないもん」
「ったく、中坊の時から全っ然進歩がねぇな、お前は」
「どういうわけだよ」
「だからさ、俺も高校生になったわけだし、
場合によっちゃもう音ゲーから足を洗ってだね、
輝かしい青春時代ってヤツを謳歌しようと思ってたのさ。
でもやっぱ駄目だ。俺には音ゲーくらいしかやることがないもん」
「ったく、中坊の時から全っ然進歩がねぇな、お前は」
カウンターを挟んで向かい合った店長が苦々しく笑った。
「なんだよ、その言い草。
俺の貴重な小遣いを割いてこの店の売り上げに貢献してやろうってのに。
少しは感謝してもらいたいんだけど」
「俺はそういうことを言ってるんじゃねぇの。あれ見ろあれ」
俺の貴重な小遣いを割いてこの店の売り上げに貢献してやろうってのに。
少しは感謝してもらいたいんだけど」
「俺はそういうことを言ってるんじゃねぇの。あれ見ろあれ」
店長が指差したのは、壁に貼られている見慣れたポスターだった。
ビデオゲームのように熱く。
メダルゲームのように大きく。
プライズゲームのように明るく。
メダルゲームのように大きく。
プライズゲームのように明るく。
この三行に加えて、「アミューズメント・シルバー 店長 神崎誠一」の名前が毛筆で書かれている。
良く言えば荒々しく力強い字体。
悪く言えば下手クソといったところだ。
良く言えば荒々しく力強い字体。
悪く言えば下手クソといったところだ。
「1046ちゃんよ。あの格言を見てどう思う?」
「どう思うと言われましても」
「どう思うと言われましても」
これまでそのポスターを背景の一部としてしか認識していなかったので、
そこに書かれた意味を考えたことなど一度もなかったし、
あらためて考えてみてもやっぱり意味が分からなかった。
まさか下手クソな字ですねと正直な感想を漏らすわけにもいかずに困惑していると、
そこに書かれた意味を考えたことなど一度もなかったし、
あらためて考えてみてもやっぱり意味が分からなかった。
まさか下手クソな字ですねと正直な感想を漏らすわけにもいかずに困惑していると、
「今のお前には熱さも大きさも明るさも足りねぇんだよ」
店長が溜め息半分に言った。
| 293 :トップランカー殺人事件(307) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/04/01(木) 00:50:35 ID:f6LNsWxq0 |
「音ゲーをやるのは結構だよ。
だけどその理由が、他に何もやることがないからってのは悲しくねぇか?
どうせやるならよ、もっと能動的に、もっと情熱を持ってやればいいんじゃねぇのか?」
「だって俺より上手いヤツなんていないんだもん。本気になんてなれないよ」
「そういう言葉はな、全国トップになってから言えってんだ。
インターネットを見てみろよ。
1046ちゃんがそうやって思い上がってる間にも、血で血を洗う激戦が繰り広げられてるんだぞ」
だけどその理由が、他に何もやることがないからってのは悲しくねぇか?
どうせやるならよ、もっと能動的に、もっと情熱を持ってやればいいんじゃねぇのか?」
「だって俺より上手いヤツなんていないんだもん。本気になんてなれないよ」
「そういう言葉はな、全国トップになってから言えってんだ。
インターネットを見てみろよ。
1046ちゃんがそうやって思い上がってる間にも、血で血を洗う激戦が繰り広げられてるんだぞ」
店長はまるで見てきたように話し、
体格の良い体で俺に覆い被さるような仕草をした。
言葉に迫力を持たせるための演出のつもりなのか何なのか知らないが、
俺はカウンターに片肘をついたまま身じろぎもしなかった。
体格の良い体で俺に覆い被さるような仕草をした。
言葉に迫力を持たせるための演出のつもりなのか何なのか知らないが、
俺はカウンターに片肘をついたまま身じろぎもしなかった。
「そりゃ世の中には俺なんかより上手い人達がいっぱいいるんだろうけどさ。
インターネットとか言われても、相手が見えなきゃピンと来ないよ」
「ダチとして言わせてもらうけどな。
そうやって何のかんのと理由をつけて、お前は本気で取り組むことから目を背けてるんだよ」
インターネットとか言われても、相手が見えなきゃピンと来ないよ」
「ダチとして言わせてもらうけどな。
そうやって何のかんのと理由をつけて、お前は本気で取り組むことから目を背けてるんだよ」
店長は眉をハの字に曲げて、心底不憫そうな目で俺を見てきた。
そんな不憫な目を向けられると、まるで俺が可哀想な子みたいだからやめて欲しい。
そんな不憫な目を向けられると、まるで俺が可哀想な子みたいだからやめて欲しい。
「俺は今のままでいいの。
本気だろうが本気じゃなかろうが、音ゲーは楽しいし」
「楽しいだけじゃ駄目なんだぜ、1046ちゃん。
男ならな、ビデオゲームのように熱く、メダルゲームのように大きく、
プライズゲームのように明るく生きなきゃ駄目なんだよ」
本気だろうが本気じゃなかろうが、音ゲーは楽しいし」
「楽しいだけじゃ駄目なんだぜ、1046ちゃん。
男ならな、ビデオゲームのように熱く、メダルゲームのように大きく、
プライズゲームのように明るく生きなきゃ駄目なんだよ」
店長は胸を張って言い、悦に浸っている。
よほどこの格言が気に入っているらしい。
が、やはり俺には意味がよく分からなかった。
上手いこと言ったつもりなのかも知れないが、
ただ単にゲームのジャンルへそれっぽい形容詞を当てはめただけじゃないか。
よほどこの格言が気に入っているらしい。
が、やはり俺には意味がよく分からなかった。
上手いこと言ったつもりなのかも知れないが、
ただ単にゲームのジャンルへそれっぽい形容詞を当てはめただけじゃないか。
「そもそも、なんで今時音ゲーが仲間外れなの?」
「仕方ねーだろ。このポスターはな、俺がシルバーを開店した記念に書いたんだ。
もう何年も前の話だ。
信じられないかも知れないがな、当時はビデオゲーム・メダルゲーム・プライズゲームが
アーケードゲームの三本柱って言われてたんだよ。
その頃には音ゲーもプリクラもまだ存在してなかったんだぜ」
「音ゲーのないゲーセンなんて、今じゃもう考えられないのにね」
「仕方ねーだろ。このポスターはな、俺がシルバーを開店した記念に書いたんだ。
もう何年も前の話だ。
信じられないかも知れないがな、当時はビデオゲーム・メダルゲーム・プライズゲームが
アーケードゲームの三本柱って言われてたんだよ。
その頃には音ゲーもプリクラもまだ存在してなかったんだぜ」
「音ゲーのないゲーセンなんて、今じゃもう考えられないのにね」
俺はシルバーの店内をぐるりと見回した。
目に入ってくるのは音ゲー、音ゲー、音ゲー。
猫も杓子も音ゲー、まさにそんな状態だった。
目に入ってくるのは音ゲー、音ゲー、音ゲー。
猫も杓子も音ゲー、まさにそんな状態だった。
| 294 :トップランカー殺人事件(308) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/04/01(木) 01:02:06 ID:f6LNsWxq0 |
ダンスダンスレボリューションが二台並べて設置されており、
そのどちら側も順番待ちの長い列で賑わっていた。
「BUTTERFLY」でぴょんぴょん飛び跳ねてはしゃぐ女子高生。
その隣で「PARANOiA MAX」を華麗に踊りこなし、ギャラリーから拍手を受けるサラリーマン。
2nd MIXにバージョンアップされて以来、その人気はますます加熱している様子だった。
そのどちら側も順番待ちの長い列で賑わっていた。
「BUTTERFLY」でぴょんぴょん飛び跳ねてはしゃぐ女子高生。
その隣で「PARANOiA MAX」を華麗に踊りこなし、ギャラリーから拍手を受けるサラリーマン。
2nd MIXにバージョンアップされて以来、その人気はますます加熱している様子だった。
他にも冬に入荷したばかりの新作であるギターフリークス、
先月バージョンアップされたばかりのポップンミュージック2、
そして、これまたつい先日バージョンアップされたばかりのビートマニア4thMIX。
それら全てにプレイヤーが大挙して押し寄せ、
先を争ってプレイしている光景は、もはや日常茶飯事だった。
先月バージョンアップされたばかりのポップンミュージック2、
そして、これまたつい先日バージョンアップされたばかりのビートマニア4thMIX。
それら全てにプレイヤーが大挙して押し寄せ、
先を争ってプレイしている光景は、もはや日常茶飯事だった。
時代は音ゲー全盛期。
社会現象を巻き起こすほどの熱狂的な音ゲーブームが続いており、
コナミはこの機を逃すまいと言わんばかりに、飛ぶ鳥を落とす勢いで新作をリリースしていった。
夏には6パネルのダンスダンスレボリューションや、
ドラムをシミュレートした音ゲーが発売されるとの噂まで流れていた。
社会現象を巻き起こすほどの熱狂的な音ゲーブームが続いており、
コナミはこの機を逃すまいと言わんばかりに、飛ぶ鳥を落とす勢いで新作をリリースしていった。
夏には6パネルのダンスダンスレボリューションや、
ドラムをシミュレートした音ゲーが発売されるとの噂まで流れていた。
そんな中、ある音ゲーだけ閑古鳥が鳴いていた。
他の音ゲーより一回り大きく、またデザイン的にも異彩を放っているというのに、
まるでバリアが張られているかのように誰一人として客が寄りついていなかったのだ。
まるでバリアが張られているかのように誰一人として客が寄りついていなかったのだ。
「……ねぇ店長、IIDXやばいんじゃないの?今日も誰もやってないじゃん」
「あぁ……今日も誰もやってないな」
「あぁ……今日も誰もやってないな」
店長は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「だから何回も言ってるけど、高過ぎるんだよ。
1プレイ200円じゃ誰もやらないってば」
「そうは言うけどな、他の店を見てみろよ。
ABCだってどこだって、1プレイ300円だろ?
そこをウチは出血大サービスの200円にしてるんだよ。これが精一杯の営業努力だよ」
「けど、客が金を入れてくれなきゃ200円も300円も同じだろ」
「いや、大丈夫だ」
1プレイ200円じゃ誰もやらないってば」
「そうは言うけどな、他の店を見てみろよ。
ABCだってどこだって、1プレイ300円だろ?
そこをウチは出血大サービスの200円にしてるんだよ。これが精一杯の営業努力だよ」
「けど、客が金を入れてくれなきゃ200円も300円も同じだろ」
「いや、大丈夫だ」
店長は親指を真っ直ぐに立てて、顔をほころばせた。
「1046ちゃんがプレイしてくれるからな」
「……はいはい。店長には敵わねーよ」
「……はいはい。店長には敵わねーよ」
つられて微笑んだ俺は、同じように親指を立てて、店長の指と腹を合わせた。
「その代わり、メンテナンスは手を抜かないでくれよ」
「まかせとけって」
「まかせとけって」
俺は店長に背中を向け、誰もいないIIDX筐体へ向かった。
| 295 :トップランカー殺人事件(309) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/04/01(木) 01:11:52 ID:f6LNsWxq0 |
なけなしの小遣いから200円を払ってまでIIDXをプレイするのは、店長への同情心が理由じゃない。
まず一つに、他の音ゲーはすでにほとんど極めてしまい、
上達の楽しみが見出せる音ゲーがIIDXしか残っていなかったから。
そしてもう一つは、純粋に面白かったからだ。
まず一つに、他の音ゲーはすでにほとんど極めてしまい、
上達の楽しみが見出せる音ゲーがIIDXしか残っていなかったから。
そしてもう一つは、純粋に面白かったからだ。
ビートマニアの鍵盤が七個に増えた。
最初は「なんて安直で浅はかなコンセプトだ」と揶揄したものだけど、
安直で浅はかだったのはその自分自身の思考だとすぐに思い知らされた。
楽曲の方向性も、ゲームシステムも、インターフェースも、
全ての要素が五鍵盤のビートマニアから正統に進化していた。
特筆すべきはその音圧だ。
ボタンを一発ポンと押した時、鼓膜だけじゃなく体の芯が震えるこの感覚は、
他の音ゲーでは絶対に味わうことはできなかった。
初めてIIDXに触れたその日から、
俺はこのゲームがいずれ音ゲーのメインストリームになると確信していた。
最初は「なんて安直で浅はかなコンセプトだ」と揶揄したものだけど、
安直で浅はかだったのはその自分自身の思考だとすぐに思い知らされた。
楽曲の方向性も、ゲームシステムも、インターフェースも、
全ての要素が五鍵盤のビートマニアから正統に進化していた。
特筆すべきはその音圧だ。
ボタンを一発ポンと押した時、鼓膜だけじゃなく体の芯が震えるこの感覚は、
他の音ゲーでは絶対に味わうことはできなかった。
初めてIIDXに触れたその日から、
俺はこのゲームがいずれ音ゲーのメインストリームになると確信していた。
この日も俺はIIDXを存分に楽しんだ。
一曲目「Dr.LOVE」で五鍵盤には存在しない実写ムービーを横目で楽しみ、
二曲目「perfect free」で五鍵盤より大きい皿の感触を楽しみ、
三曲目「celebrate」で五鍵盤ではあり得ない密度のオブジェを楽しみつつ、
順調にクリアを重ねていった。
一曲目「Dr.LOVE」で五鍵盤には存在しない実写ムービーを横目で楽しみ、
二曲目「perfect free」で五鍵盤より大きい皿の感触を楽しみ、
三曲目「celebrate」で五鍵盤ではあり得ない密度のオブジェを楽しみつつ、
順調にクリアを重ねていった。
そしてEXTRAステージ「GRADIUSIC CYBER」。
難易度は非常に高かったが、俺は五鍵盤のビートマニアより遙かに洗練された
ファットなサウンドを全身で感じながら、七つの鍵盤を次々に押しまくった。
左右それぞれの指がそれぞれの役割を独立してこなしている感覚が実に心地良い。
難易度は非常に高かったが、俺は五鍵盤のビートマニアより遙かに洗練された
ファットなサウンドを全身で感じながら、七つの鍵盤を次々に押しまくった。
左右それぞれの指がそれぞれの役割を独立してこなしている感覚が実に心地良い。
俺のテンションが絶頂に達すると同時に、
「GRADIUSIC CYBER」は呻き声のような音色を放ち終了した。
やはりIIDXは最高だ。
なのに、どうして世の人々はこの魅力に注目してくれないのだろう?
急に寂しいようなもどかしいような気持ちになりながら、
俺はIIDXの筐体を下りようと振り返った。
「GRADIUSIC CYBER」は呻き声のような音色を放ち終了した。
やはりIIDXは最高だ。
なのに、どうして世の人々はこの魅力に注目してくれないのだろう?
急に寂しいようなもどかしいような気持ちになりながら、
俺はIIDXの筐体を下りようと振り返った。
すると、プレイ中はまったく気付かなかったが、一人の少年がこちらをじっと注目していたのだ。
風貌からすると中学生か、
あるいは少し大人びた小学生だろうか。
当時の俺はそんな風に見当をつけたのだけど、実際には大いなる間違いで、
まさかそいつが俺と同い年の高校生だなんて思いもしなかったし、
ましてや俺の人生にとてつもなく大きな影響を与えることになる人物だなんて、考えもしなかった。
あるいは少し大人びた小学生だろうか。
当時の俺はそんな風に見当をつけたのだけど、実際には大いなる間違いで、
まさかそいつが俺と同い年の高校生だなんて思いもしなかったし、
ましてや俺の人生にとてつもなく大きな影響を与えることになる人物だなんて、考えもしなかった。
ともかく、俺とBOLCEはこの瞬間に出会ってしまったのだ。
1999年、春。
BOLCEがIIDXのトップランカー決定戦で優勝し、
そしてこの世を去ることになる九年前の出来事だった。
そしてこの世を去ることになる九年前の出来事だった。
| 307 :トップランカー殺人事件(310) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/04/13(火) 23:53:58 ID:+jR6Egsy0 |
その少年は紺色のパーカーのポケットに手を突っ込んで、こちらを見ていた。
背が低いので、「見上げていた」と言った方が正確かも知れない。
背が低いので、「見上げていた」と言った方が正確かも知れない。
特徴的だったのが、身長と相反して髪が妙に長いことだった。
えり足が肩にかかるくらいまで伸びており、耳はほとんど隠れてしまっている。
オシャレのために髪を伸ばしているというよりは、
ただ放っておいたら伸びてしまったかのような無造作感がある。
だけど、なぜか不潔な感じはしなかった。
えり足が肩にかかるくらいまで伸びており、耳はほとんど隠れてしまっている。
オシャレのために髪を伸ばしているというよりは、
ただ放っておいたら伸びてしまったかのような無造作感がある。
だけど、なぜか不潔な感じはしなかった。
俺は筐体からどいて彼の背後に回ったが、
そのまま二十秒ほど待っても、彼はIIDXを見つめたまま動こうとしなかった。
しびれを切らした俺は、後ろから声をかけてみた。
そのまま二十秒ほど待っても、彼はIIDXを見つめたまま動こうとしなかった。
しびれを切らした俺は、後ろから声をかけてみた。
「やるの?やんないの?」
俺の質問に対する彼の答えは、やるでもなく、やらないでもなく、無言だった。
彼は振り向くどころか、微動だにしなかったのだ。
彼は振り向くどころか、微動だにしなかったのだ。
聞こえなかったのだろうか。
やかましいゲーセンの中だから無理もない。
さてもう一度声をかけようかどうかと躊躇していると、
ようやく彼はのろのろと歩き、IIDXのステージに上って、筐体に200円を入れた。
そして腫れ物にでも触るかのように、おそるおそるSTARTボタンを押したのだった。
やかましいゲーセンの中だから無理もない。
さてもう一度声をかけようかどうかと躊躇していると、
ようやく彼はのろのろと歩き、IIDXのステージに上って、筐体に200円を入れた。
そして腫れ物にでも触るかのように、おそるおそるSTARTボタンを押したのだった。
彼の慣れない手つきからすると、おそらくIIDXに触るのは初めてなのだろう。
その証拠に、彼はモード選択画面を前にして、どれを選ぶべきか決めあぐねている。
その証拠に、彼はモード選択画面を前にして、どれを選ぶべきか決めあぐねている。
珍しく自分以外の客がIIDXに興味を持ってくれた。
そのことは喜ばしくもあったし、
同時に、彼があっさりと興味を失ってしまうことが心配でもあった。
そのことは喜ばしくもあったし、
同時に、彼があっさりと興味を失ってしまうことが心配でもあった。
だから俺は彼の背中に近付き、意を決して再び話しかけた。
「初めてなら4KEYSか5KEYSがいいよ。いきなり七鍵盤はちょっと難しいから」
声のボリュームを上げて、さらに喋る。
「初代ビーマニに慣れてても、やっぱ最初から七鍵盤はやめた方がいいと思うよ。
五鍵盤とは完全に別ゲーになってるし、IIDXってのは……」
五鍵盤とは完全に別ゲーになってるし、IIDXってのは……」
ピチューン。
近未来的な効果音と共に選ばれたモードを見て、俺は愕然とした。
俺の助言に対する彼の答えは、4KEYSでもなく、5KEYSでもなく、まさかの7KEYSだったのだ。
近未来的な効果音と共に選ばれたモードを見て、俺は愕然とした。
俺の助言に対する彼の答えは、4KEYSでもなく、5KEYSでもなく、まさかの7KEYSだったのだ。
確信した。
今の声の大きさと距離で聞こえなかったわけがない。
俺は堂々と無視されたのだ。
今の声の大きさと距離で聞こえなかったわけがない。
俺は堂々と無視されたのだ。
| 308 :トップランカー殺人事件(311) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/04/13(火) 23:57:46 ID:+jR6Egsy0 |
この野郎。
さすがにムッとした。
精一杯の親切心のつもりでアドバイスしたのに、なんて態度だ。
さすがにムッとした。
精一杯の親切心のつもりでアドバイスしたのに、なんて態度だ。
死んでしまえと思った。
もちろん本当に死んでしまえと思ったわけじゃない。
ゲーム的に死んでしまえと思っただけだ。
俺の言うことを聞かず7KEYSに特攻した報いとして、
一曲目でゲームオーバーになっちまえと念じたのだ。
もちろん本当に死んでしまえと思ったわけじゃない。
ゲーム的に死んでしまえと思っただけだ。
俺の言うことを聞かず7KEYSに特攻した報いとして、
一曲目でゲームオーバーになっちまえと念じたのだ。
そしたら彼は、本当に一曲目でゲームオーバーになってしまった。
彼は初心者御用達の入門曲「5.1.1.」を選曲したのだが、
鍵盤を叩くタイミングが音楽に全然合っておらず、ゲージが地を這ったまま曲は終わった。
200円が1分ちょいで溶けてしまったということになる。
鍵盤を叩くタイミングが音楽に全然合っておらず、ゲージが地を這ったまま曲は終わった。
200円が1分ちょいで溶けてしまったということになる。
「ったく、言わんこっちゃない……」
1秒単価3円。
どこの国際電話だよ。
どこの国際電話だよ。
ざまみろという気持ちより、罰の悪い気持ちが先行した。
学生の身分において200円は大金だ。
きっと計り知れないほどの喪失感に苛まれていることだろう。
少なくとも俺ならへこむ。
学生の身分において200円は大金だ。
きっと計り知れないほどの喪失感に苛まれていることだろう。
少なくとも俺ならへこむ。
しかし、彼は思いのほか潔かった。
"STAGE FAILED"が表示された画面とブーイングの鳴るスピーカーに
くるりと背を向けたかと思うと、IIDXから離れて、
そのままさっさと店を出て行ってしまったからだ。
すれ違い様に一瞬だけ目が合ったけど、彼は俺の存在など歯牙にもかけていない様子だった。
"STAGE FAILED"が表示された画面とブーイングの鳴るスピーカーに
くるりと背を向けたかと思うと、IIDXから離れて、
そのままさっさと店を出て行ってしまったからだ。
すれ違い様に一瞬だけ目が合ったけど、彼は俺の存在など歯牙にもかけていない様子だった。
彼はもう二度とIIDXに近寄らないだろう。
これじゃ楽しむどころか、単にトラウマを植え付けられただけだ。
これじゃ楽しむどころか、単にトラウマを植え付けられただけだ。
俺は溜め息をついた。
せっかくの新規参入者を増やすチャンスが、また一つ潰れたわけだ。
この時俺は実感した。
このゲームが流行らない理由は値段が高いからだけじゃない。
敷居が高いから、という理由も確実にある。
満足度だって負けずに高いのは間違いないけど、
そこに到達する前に、ほとんどのプレイヤーは離れていってしまうんだ。
せっかくの新規参入者を増やすチャンスが、また一つ潰れたわけだ。
この時俺は実感した。
このゲームが流行らない理由は値段が高いからだけじゃない。
敷居が高いから、という理由も確実にある。
満足度だって負けずに高いのは間違いないけど、
そこに到達する前に、ほとんどのプレイヤーは離れていってしまうんだ。
でもこれで良かったのかも知れない。
はっきり言って嫌なヤツだった。
とてもじゃないが俺は彼と仲良くできる自信なんてない。
はっきり言って嫌なヤツだった。
とてもじゃないが俺は彼と仲良くできる自信なんてない。
だから、これで良かったんだ。
| 309 :トップランカー殺人事件(312) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/04/14(水) 00:05:00 ID:+jR6Egsy0 |
なんて思っていたら、彼は次の日もIIDXをやりに来た。
しかも、昨日より上手くなっていた。
しかも、昨日より上手くなっていた。
昨日あっさりゲームオーバーにさせられた「5.1.1.」を、
まだおぼつかない手つきながらも、今日はちゃんとクリア達成していた。
「5.1.1.」だけじゃない。
二曲目に選んだ「Beginning of life」もクリアできていた。
まだおぼつかない手つきながらも、今日はちゃんとクリア達成していた。
「5.1.1.」だけじゃない。
二曲目に選んだ「Beginning of life」もクリアできていた。
つまり、彼は☆1ができるようになったのだ。
けれど、彼は☆1ができるようになっただけで、☆2はまだ無理だった。
彼が三曲目に選んだのは☆2の「GAMBOL」で、前半はなんとか善戦を見せていたのだが、
後半に何度か登場する鍵盤と皿の複合パターンで体勢を崩し、
ラストの1鍵連打でとどめを刺された形だった。
けれど、彼は☆1ができるようになっただけで、☆2はまだ無理だった。
彼が三曲目に選んだのは☆2の「GAMBOL」で、前半はなんとか善戦を見せていたのだが、
後半に何度か登場する鍵盤と皿の複合パターンで体勢を崩し、
ラストの1鍵連打でとどめを刺された形だった。
その姿を見て俺は思った。
彼に上達は見込めない。
彼に上達は見込めない。
一曲目であっさり死亡した昨日に比べれば確かにめざましい進歩ではあるが、
なんとなく先が見えてしまったと言うか、すぐ頭打ちになるだろうな、という気しかしなかった。
仮に音ゲーをプレイするのが初めてだったとしても、
ちょっと見ればそいつが音ゲーに向いているかどうかくらい大体分かる。
彼は音ゲーに向いてない。
むしろ、彼ほど音ゲーに向いてない人間も逆に珍しいほどだった。
なんとなく先が見えてしまったと言うか、すぐ頭打ちになるだろうな、という気しかしなかった。
仮に音ゲーをプレイするのが初めてだったとしても、
ちょっと見ればそいつが音ゲーに向いているかどうかくらい大体分かる。
彼は音ゲーに向いてない。
むしろ、彼ほど音ゲーに向いてない人間も逆に珍しいほどだった。
いかんせん彼には音楽的なセンスが無さ過ぎる。
音ゲーで大事なのは音楽。
音楽に合わせてオブジェを処理することが全てだ。
誰だって特別な訓練を受けなくたって本能的に歌ったり踊ったりできるのと同じように、
普通の人間なら例え初プレイであっても、多少は音楽にノるものなのだ。
もちろん個人差はある。
その差が、音ゲーに向いているかどうかの俺的判断基準だ。
音楽に合わせてオブジェを処理することが全てだ。
誰だって特別な訓練を受けなくたって本能的に歌ったり踊ったりできるのと同じように、
普通の人間なら例え初プレイであっても、多少は音楽にノるものなのだ。
もちろん個人差はある。
その差が、音ゲーに向いているかどうかの俺的判断基準だ。
その点、彼のプレイはあまりにも音楽に無頓着だった。
おそらく落ちてきたオブジェを単に目だけで追い、
耳でタイミングを合わせるという重要な作業をしていないのだろう。
結果としてひどいリズムのよれ具合になってしまっており、
まさかこれをグルーブ感のある演奏だと好意的に解釈するわけにもいかなかった。
おそらく落ちてきたオブジェを単に目だけで追い、
耳でタイミングを合わせるという重要な作業をしていないのだろう。
結果としてひどいリズムのよれ具合になってしまっており、
まさかこれをグルーブ感のある演奏だと好意的に解釈するわけにもいかなかった。
それでも、俺はなんだか嬉しかった。
昨日200円を無駄にしたと言うのに、懲りずに戻って来てくれたことが嬉しかったのだ。
きっと彼はIIDXの魅力に気付いてくれたんだ。
そうに違いない。
昨日200円を無駄にしたと言うのに、懲りずに戻って来てくれたことが嬉しかったのだ。
きっと彼はIIDXの魅力に気付いてくれたんだ。
そうに違いない。
結局彼はこの日も一プレイで帰った。
その後ろ姿を見送りながら、自然と「明日も来いよ」と願っている自分に気付いた。
無視されて腹を立てたことも、もう半分忘れていた。
その後ろ姿を見送りながら、自然と「明日も来いよ」と願っている自分に気付いた。
無視されて腹を立てたことも、もう半分忘れていた。
| 310 :トップランカー殺人事件(313) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/04/14(水) 00:15:22 ID:0YTuxAdq0 |
その願いが通じたのか、彼は翌日以降も姿を見せた。
驚いたことに、彼はどんどんクリアできる曲を増やしていった。
三日目の彼は☆2の曲をクリアできるようになっていた。
四日目には☆3の曲を、五日目には☆4の曲をクリアできるようになった。
三日目の彼は☆2の曲をクリアできるようになっていた。
四日目には☆3の曲を、五日目には☆4の曲をクリアできるようになった。
一日あたり星一つ分の上達。
あり得ない。
一体どんな手品を使ったんだ?
まるで彼の才能を見くびった俺をあざ笑うかのような、信じがたい成長スピードだった。
あり得ない。
一体どんな手品を使ったんだ?
まるで彼の才能を見くびった俺をあざ笑うかのような、信じがたい成長スピードだった。
ただし、俺の考察がまったくの見当外れだったかと言えば、そうでもない。
「彼に上達は見込めない」という予想が間違っていたのは認める。
けど「彼が音ゲーに向いてない」という考えは、あながち間違ってもいないようだった。
「彼に上達は見込めない」という予想が間違っていたのは認める。
けど「彼が音ゲーに向いてない」という考えは、あながち間違ってもいないようだった。
と言うのも、彼は☆4がクリアできるようになった五日目においても、
相変わらず音楽的なプレイがままならない状態だったからだ。
つまり、彼はゲージを80%以上に引っ張り上げられる程度には
オブジェを処理することができているのだが、
その一方で、「音楽に合わせて」オブジェを処理する能力が壊滅的に欠如していた。
相変わらず音楽的なプレイがままならない状態だったからだ。
つまり、彼はゲージを80%以上に引っ張り上げられる程度には
オブジェを処理することができているのだが、
その一方で、「音楽に合わせて」オブジェを処理する能力が壊滅的に欠如していた。
彼が鍵盤を叩くタイミングは早めのGOODから遅めのGOODまで広範囲に分布しており、
そこへところどころミスが加わるものだから、
彼のプレイ画面の判定表示はJUST GREAT、GREAT、GOOD、BAD、POORが
ほどよくブレンドされていて、実に賑やかだった。
だから聞いてて心地良くないし、スコアも低い。
当然、俺のスコアとは比べるべくもなかった。
そこへところどころミスが加わるものだから、
彼のプレイ画面の判定表示はJUST GREAT、GREAT、GOOD、BAD、POORが
ほどよくブレンドされていて、実に賑やかだった。
だから聞いてて心地良くないし、スコアも低い。
当然、俺のスコアとは比べるべくもなかった。
でも、俺は徐々に彼の驚異的な成長から目を離すことができなくなっていった。
もしかして彼なら。
彼ならいずれ、俺のスコアを脅かす日がやって来るんじゃないだろうか。
彼ならいずれ、ずっと探し求めていた俺のライバルになる可能性を秘めているんじゃないだろうか。
彼ならいずれ、俺のスコアを脅かす日がやって来るんじゃないだろうか。
彼ならいずれ、ずっと探し求めていた俺のライバルになる可能性を秘めているんじゃないだろうか。
「なぁ店長。あいつってよく来るの?」
「んあ?」
「あいつだよあいつ」
「んあ?」
「あいつだよあいつ」
カウンターの内側で間の抜けた声を出した店長の前で、
俺は☆5の「prince on a star」へ挑戦している彼に向けて顎をしゃくった。
俺は☆5の「prince on a star」へ挑戦している彼に向けて顎をしゃくった。
「おお、あの子ね。最近よく見るぞ」
「最近ってどれくらい最近?」
「四月に入ってからだな。
春からこの辺の中学に通うようになったとか、それ系じゃねーか?
ここ数日はIIDXもプレイしてるけど、本業はシューターみたいだぞ」
「シューター?」
「最近ってどれくらい最近?」
「四月に入ってからだな。
春からこの辺の中学に通うようになったとか、それ系じゃねーか?
ここ数日はIIDXもプレイしてるけど、本業はシューターみたいだぞ」
「シューター?」
今度は俺が間の抜けた声を上げる番だった。
| 311 :トップランカー殺人事件(314) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/04/14(水) 00:21:37 ID:0YTuxAdq0 |
「シューターって、シューティングゲーマーのこと?」
「そうだよ。よく『怒首領蜂』とかプレイしてるけど、かなり上手いぜ」
「道理であんなプレイスタイルなわけだ」
「そうだよ。よく『怒首領蜂』とかプレイしてるけど、かなり上手いぜ」
「道理であんなプレイスタイルなわけだ」
色々と納得がいった。
彼はおそらく、シューティングゲームのような感覚で音ゲーをプレイしていたのだろう。
彼はおそらく、シューティングゲームのような感覚で音ゲーをプレイしていたのだろう。
シューティングにおいて重要なのは、判定の見極めだ。
「判定を見極めることで、ギリギリで弾丸を避け続ける」……その技術を、彼は音ゲーに応用した。
つまり、彼はオブジェを正確なタイミングで押すことを目標にはせず、
オブジェの判定を見極めて、GOODの範囲内で鍵盤を押せばそれで良しとしていたのだろう。
だからあんなにもリズムがよれていたのだ。
「判定を見極めることで、ギリギリで弾丸を避け続ける」……その技術を、彼は音ゲーに応用した。
つまり、彼はオブジェを正確なタイミングで押すことを目標にはせず、
オブジェの判定を見極めて、GOODの範囲内で鍵盤を押せばそれで良しとしていたのだろう。
だからあんなにもリズムがよれていたのだ。
まして、怒首領蜂と言えば弾幕系シューティングとして有名な作品だ。
発狂するほどの密度の敵弾をくぐり抜けてきた彼には、
IIDXのオブジェを見切る能力の下地がすでに出来上がっていた。
そう考えれば、音ゲーの上達がこれほど速いのにも頷ける。
発狂するほどの密度の敵弾をくぐり抜けてきた彼には、
IIDXのオブジェを見切る能力の下地がすでに出来上がっていた。
そう考えれば、音ゲーの上達がこれほど速いのにも頷ける。
「でも、なんで急にIIDXなんか始めたんだろうね?
シューティングよりずっと値段が高いくせ、プレイ時間はずっと短いってのに」
「知らねぇよ。つーか、んなこと本人に聞いてくりゃいいじゃねーか」
「だって……」
シューティングよりずっと値段が高いくせ、プレイ時間はずっと短いってのに」
「知らねぇよ。つーか、んなこと本人に聞いてくりゃいいじゃねーか」
「だって……」
俺は口を尖らせた。
「アイツ、なんか知らないけど俺のことシカトするんだよ」
「本当かよ。そんな性格の悪そうなヤツにゃ見えないけどな」
「本当だよ。間近で話しかけたのに、振り返りもしなかったんだから」
「もしかして耳が聞こえないんじゃねーの?」
「んなわけないでしょ。耳が聞こえなかったら誰も音ゲーなんてやらないよ」
「まぁそれもそうか……あ、死んだぞ」
「本当かよ。そんな性格の悪そうなヤツにゃ見えないけどな」
「本当だよ。間近で話しかけたのに、振り返りもしなかったんだから」
「もしかして耳が聞こえないんじゃねーの?」
「んなわけないでしょ。耳が聞こえなかったら誰も音ゲーなんてやらないよ」
「まぁそれもそうか……あ、死んだぞ」
見ると、彼のプレイはゲームオーバーを迎えていた。
どうやら「prince on a star」に、完膚無きまで叩きのめされたらしい。
さすがに☆4までと☆5ではレベルに差があり過ぎる。
ここから先は簡単にはいくまい。
どうやら「prince on a star」に、完膚無きまで叩きのめされたらしい。
さすがに☆4までと☆5ではレベルに差があり過ぎる。
ここから先は簡単にはいくまい。
だが。
彼は三日目で☆2をクリアし、四日目で☆3をクリアし、五日目のこの日、☆4をクリアした。
この法則に従えば、彼は六日目の明日に☆5をクリアしてしまう。
彼は三日目で☆2をクリアし、四日目で☆3をクリアし、五日目のこの日、☆4をクリアした。
この法則に従えば、彼は六日目の明日に☆5をクリアしてしまう。
一週間も経たずに☆5をクリア?
いくらなんでもそりゃ無茶だろう。
けどもし現実にそんなことができたとすれば、前代未聞の大事件だ。
いくらなんでもそりゃ無茶だろう。
けどもし現実にそんなことができたとすれば、前代未聞の大事件だ。
俺はもうすでに、明日が待ち遠しくなっていた。
| 312 :トップランカー殺人事件(315) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/04/14(水) 00:32:42 ID:0YTuxAdq0 |
翌日。
すなわち、彼がIIDXを始めて六日目。
俺は学校が終わると、寄り道もせず全速力でシルバーへと向かった。
すなわち、彼がIIDXを始めて六日目。
俺は学校が終わると、寄り道もせず全速力でシルバーへと向かった。
今日、彼は☆5に挑戦するはずだ。
クリアできるかも知れない。
クリアできないかも知れない。
そのどちらだとしても、俺は一部始終を見届けておきたかった。
クリアできるかも知れない。
クリアできないかも知れない。
そのどちらだとしても、俺は一部始終を見届けておきたかった。
店長と駄弁って時間を潰しつつも、注意深く待ち構えていると、やがて彼が来店した。
長い前髪が目に覆い被さっていて表情を読み取りづらかったが、
すでに集中力をカミソリのように研ぎ澄ませて歩いて来るのが分かった。
彼は本気だ。
長い前髪が目に覆い被さっていて表情を読み取りづらかったが、
すでに集中力をカミソリのように研ぎ澄ませて歩いて来るのが分かった。
彼は本気だ。
俺は店長との会話を一方的に切り上げて、
IIDXと向かい合う彼の後ろ手に回り、その瞬間を心待ちにした。
IIDXと向かい合う彼の後ろ手に回り、その瞬間を心待ちにした。
一曲目、☆3、「diving money」。
問題なくクリア。
二曲目、☆4、「Deep Clear Eyes」。
ちょっとは手こずるかな、と思ったら、またも問題なくクリア。
やっぱりリズム感は最低だけど、昨日より上手くなっているのは確かだ。
問題なくクリア。
二曲目、☆4、「Deep Clear Eyes」。
ちょっとは手こずるかな、と思ったら、またも問題なくクリア。
やっぱりリズム感は最低だけど、昨日より上手くなっているのは確かだ。
そしていよいよ問題の三曲目。
彼は、☆5の「GRADIUSIC CYBER」を選んだ。
彼は、☆5の「GRADIUSIC CYBER」を選んだ。
「グラサイかよ!」
俺は口の中で小さく叫んでいた。
よりにもよって、全曲中最高難易度の曲を選ぶなんて。
よりにもよって、全曲中最高難易度の曲を選ぶなんて。
でもあるいは、彼なら。
俺は期待に胸を高鳴らせ、手に汗を握りながら、彼のプレイを固唾を呑んで見守った。
すでに俺には確信めいた予感があった。
彼ならきっとクリアする。
すでに俺には確信めいた予感があった。
彼ならきっとクリアする。
そうして始まった「GRADIUSIC CYBER」。
鳴り響く図太い低音。
はずむような鍵盤を叩く音。
真剣にプレイする、彼の後ろ姿。
鳴り響く図太い低音。
はずむような鍵盤を叩く音。
真剣にプレイする、彼の後ろ姿。
彼のプレイは、想像を遙かに超えていた。
それを目の当たりにした俺の感情を、どう表現すればいいだろう?
それを目の当たりにした俺の感情を、どう表現すればいいだろう?
結論を先に言えば、彼はクリアできなかった。
| 313 :トップランカー殺人事件(316) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/04/14(水) 00:39:06 ID:0YTuxAdq0 |
クリアできなかったどころか、てんでお話にもならなかった。
惨めなほどボロボロだった。
圧倒的物量譜面を前に、彼は為すすべもなかったのだ。
惨めなほどボロボロだった。
圧倒的物量譜面を前に、彼は為すすべもなかったのだ。
俺は急に冷静になって考えた。
そもそも、最初からちょっと頭を使えば分かる話じゃないか。
普通の人間が一週間で「GRADIUSIC CYBER」をクリアできるようになるか?
なるわけがない。
そもそも、最初からちょっと頭を使えば分かる話じゃないか。
普通の人間が一週間で「GRADIUSIC CYBER」をクリアできるようになるか?
なるわけがない。
なんのことはない。
勝手に俺が変な期待を抱いて、期待通りにならなかったというそれだけのことだ。
裏切られただなんて思うのは、筋違い以外の何物でもない。
彼は彼なりに全力でもってゲームをプレイしただけで、何一つ悪くないのだから。
勝手に俺が変な期待を抱いて、期待通りにならなかったというそれだけのことだ。
裏切られただなんて思うのは、筋違い以外の何物でもない。
彼は彼なりに全力でもってゲームをプレイしただけで、何一つ悪くないのだから。
頭ではそう分かってるのに、俺は落胆する気持ちを止められなかった。
俺は彼に何を望んでいたんだろう?
俺は彼とどうしたかったんだろう?
急に何もかもが分からなくなって、俺は呆然とその場に立ち尽くしてしまった。
俺は彼とどうしたかったんだろう?
急に何もかもが分からなくなって、俺は呆然とその場に立ち尽くしてしまった。
だから、彼が振り返ってまともに目が合った時、俺は不意を突かれたような気分だった。
別にそんな義務はないのに、何か喋らなきゃいけないような気がして、
俺は無視されていることも忘れてしどろもどろに喋った。
別にそんな義務はないのに、何か喋らなきゃいけないような気がして、
俺は無視されていることも忘れてしどろもどろに喋った。
「お、惜しかったな」
口をついて出たのはそんな馬鹿みたいな言葉だった。
言ってしまってから恥ずかしくなった。
別に惜しくもなんともないのに、惜しかったなもないだろう。
言ってしまってから恥ずかしくなった。
別に惜しくもなんともないのに、惜しかったなもないだろう。
けれど、そんな俺の動揺は些細な出来事でしかなかった。
俺は彼の次の行動を見て、生まれて初めて自分の目を疑った。
俺は彼の次の行動を見て、生まれて初めて自分の目を疑った。
彼はほんのちょっぴり眉に皺を寄せたかと思うと、
両手を耳の方に持って行き、耳たぶをつまむような仕草をした。
何やってんだ?と思ったのも束の間、
彼の長い髪の毛から、黒く細いケーブルが、まるで芋づるのように掘り起こされたのだ。
両手を耳の方に持って行き、耳たぶをつまむような仕草をした。
何やってんだ?と思ったのも束の間、
彼の長い髪の毛から、黒く細いケーブルが、まるで芋づるのように掘り起こされたのだ。
それはイヤホンだった。
彼はイヤホンを外したのだ。
彼はイヤホンを外したのだ。
「何か言った?」
彼は怪訝そうな目を俺に向けて、小声で話しかけてきた。
| 314 :トップランカー殺人事件(317) byとまと ◆iK/S6sZnHA :2010/04/14(水) 00:44:21 ID:0YTuxAdq0 |
開いた口が塞がらないとは、まさにこのことだ。
俺は彼の顔とイヤホンを何度か交互に見やってから、やっとのことで声を絞り出した。
俺は彼の顔とイヤホンを何度か交互に見やってから、やっとのことで声を絞り出した。
「……まさかそれ、ずっと聞いてたの?」
「そうだけど」
「昨日も?一昨日も?」
「そうだけど」
「……」
「そうだけど」
「昨日も?一昨日も?」
「そうだけど」
「……」
俺はようやく全てを悟った。
思い返せば、彼がIIDXに興味を持ったのは
俺が「GRADIUSIC CYBER」をプレイしているところを見てからだ。
彼はイヤホンをしたままそのムービーを見て、ある大きな勘違いをしてしまったのだ。
思い返せば、彼がIIDXに興味を持ったのは
俺が「GRADIUSIC CYBER」をプレイしているところを見てからだ。
彼はイヤホンをしたままそのムービーを見て、ある大きな勘違いをしてしまったのだ。
彼はシューティングゲームのような感覚で音ゲーをプレイしていたんじゃない。
彼は音ゲーをシューティングゲームだと思い込んでいたんだ。
彼は音ゲーをシューティングゲームだと思い込んでいたんだ。
こいつは紛れもなく、近年稀に見る本物のアホだ。
じゃなけりゃ、本物の天才に違いない。
じゃなけりゃ、本物の天才に違いない。
俺は恥も外聞も無く、その場で腹を抱えて笑った。
昨日の店長の言葉が頭をよぎる。
「もしかして耳が聞こえないんじゃねーの?」――当たらずとも遠からずだよ、店長。
彼がますます怪訝そうな目を向けてきたけど、俺は我慢できず、いつまでも大声で笑い続けてた。
昨日の店長の言葉が頭をよぎる。
「もしかして耳が聞こえないんじゃねーの?」――当たらずとも遠からずだよ、店長。
彼がますます怪訝そうな目を向けてきたけど、俺は我慢できず、いつまでも大声で笑い続けてた。
こうして俺とBOLCEは衝撃的な出会いを果たした。
IIDXが音楽に合わせて鍵盤を叩くゲームであることを理解したBOLCEが、
次のプレイであっさり「GRADIUSIC CYBER」をクリアしたことも、今ではいい思い出だ。
次のプレイであっさり「GRADIUSIC CYBER」をクリアしたことも、今ではいい思い出だ。