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旅人さんの話 -St.2-

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beatnovel

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463 :旅人さんの話9-1:2007/10/12(金) 01:34:20 ID:Fy+96eeM0
ゆうがあれから休憩を終えて、またポップン筐体の前に立ってから何時間も経った。
彼は目の健康を第一に考える人だったので、何度か目薬を点しつつ椅子に座って休憩を取っていた。

いつの間にか夕日が沈んでいた。
その頃にはもう俺の仕事も無くなっていた。

この時、ゆうは目標であるlv30台に手を伸ばしつつあったからだ。
時間にして半日程度、殆どポップンをプレーしていたからとしても、ゆうのこの上達具合は異常だ。
しかし、ゆうの事をそういう風に思い始めたのは彼の元を去ってからずいぶん経った時の事だった。
何故、あの時にゆうの才を才と見れなかったのかと自問した事がある。


答えはすぐに返ってきた。
あの時、俺は「個人差」について考えていたのだった。


俺は、ゆうといた時も今も、ポッパーとしてのレベルは「上の下」位だと思っている。
あの時の、バラバラと降って来るポップ君の配置を冷静に捌き、
あまり音を立てないようにボタンを叩いていたゆうは「中の中」辺りだと思う。
あれから随分と経つが、今では俺のトラウマであった曲のEX譜面を余裕でクリアーする位の実力を持っているかもしれない。

464 :旅人さんの話9-2:2007/10/12(金) 02:09:41 ID:Fy+96eeM0
少し、話が逸れた。話を元に戻そう。

俺は、あの事件の前にIIDXを何回かプレーしたことがある。
俺には「向いていない」音楽ゲームであった、それが正直な感想だ。
これは、俺の「個人差」なのだろうと思う。
どう頑張っても鍵盤の位置を覚えられず、スクラッチを上手まわす事が出来ない、最低最悪のDJであった。
俺の目線で語ってきて何か申し訳ない気持ちになるのだが、言いたい事がある。
最近になってようやくギリギリで初段を取った俺にとっては、五・六段がもう十分上手い人であり、皆伝にいたっては人外の者としか思えない。

ゆうの持つ「個人差」は、音楽ゲームの方に長所が向いていた。
ポップンでは約半日でlv30台に到達、IIDXでは当時の俺には凄く上手い人の対象である五段を所持していたのだから、そこについて語るにはこれで十分だと思う。
…ポップンミュージックという音楽ゲームでの異常ともいえる上達の早さ。
それを俺は単なる「個人差」だと思っていた。
だが、それは半分間違っていたのかもしれないということを、ゆうの元を去ってからの旅の中、
それからの落ち着いた場所での定住生活の中で、思い始めてきたのだ。

大体こんな訳の分からない「個人差」についての思考を、ダークメルヒェンEXの2ボタン交互連打
(あれをトリルと呼ぶはずだが、イマイチ自信がない)に集中していたゆうの背中を見ながらしていた。
ゆうは、自分の後ろで評価をしている人間がこんな事を考えているとは思ってもいなかっただろう。
だから、自分の「個人差」の恩恵を、俺がアドバイス等をした恩恵であると思っていたのだ。
もし、俺が再びゆうに会うことがあるのなら、俺はゆうにそこら辺の話をしたいと思う。


再会できる望みは、殆どないが。




完全に日が落ち、夜になった。
俺とゆうは小屋を出て、豪邸へ夕食と風呂、そして睡眠のために歩いた。
その途中にゆうが、

「明日、もしよかったらの話ですが、正午過ぎになったら一緒にあのデパートのゲームコーナーに行きませんか?」

と俺を誘ってきた。
その位の事ならば、お安い御用であった。
俺はその誘いに乗り、明日の正午にゆうと遊ぶ約束を交わした。
あの音ゲーコーナーに、腕をぶん殴ってやったあの男はいないだろうと思ったことも、誘いに乗った理由の一つである。
俺は豪勢な食事を食べ、(慣れという物は本当に恐ろしいと思う。もう、こんな料理が当たり前に食べれると思っていたのだ。
数日もしないうちに現実を見たが)ライオンの口から湯の流れる風呂に入り、この屋敷で2回目の、最後となった睡眠をとった。





503 :旅人さんの話10-1:2007/10/23(火) 01:27:46 ID:FXErkjbw0
次の日、俺の仕事は三日目を、最終日を迎えた。
この日の目標はゆうの安定lvを正午までどれだけ上げれるかということだった。

ゆうは先日でlv30台を安定させてクリアー出来ていた。
彼が自分で立てた目標はlv32だった。
俺はもっといけるのではと思ったが、敢えて口には出さなかった。
代わりに言ったのはこんな事だったと思う。

「最初はパーキッツのPing×Pong×DashのEX譜面ね。その後は自由に選曲して」

分かりました、とゆうは返して選曲操作にいそしんでいた。
その後赤ボタンを押し、ハイスピード設定をいじくってまた赤ボタンを押した。

1stステージ終了後のリザルト画面を見てゆうが言った。
「グド20、バド4です。どうですかね?」
「良い出来だと思う。それにしても本当にゆう君成長早いよね」
俺が褒めるとゆうは俺がいるから上達できるんだ、みたいな感じで答えた。
二度目の選曲に入り、ゆうは右緑ボタンを二回押し、12カテゴリへ移動した。
譜面を全曲H譜面に変更し、こたつとみかんを選曲した。

ところでこの曲のサビ部分、俺は思う所がある。
(dj TAKAの方の)memoriesのサビ部分とこの曲のサビ部分は似ているのではないだろうかと。
両腕を広げて広い間隔の同時押しを要求されるところが。
まぁ、どうでもいい事なのかもしれないけれど。

ゆうはこたつとみかんも余裕でクリアーした。
俺は普通にやるねぇ、なんて言って言っていた。
もう、ゆうがプロバロEXクリアーしましたなんて言ってもあまり驚きはしないだろう。
いや、驚くか。言い過ぎた。

そんなこんなでゆうは三度目の選曲に入った。
カテゴリー移動、青ボタン押しっぱなし、カーソルにはカドルコア。
H譜面で階段と同時押しを鍛えるのか?
と思っていたらゆうは黄色ボタンを同時押しし、EX譜面に切り替えた。

難易度は37。
急成長を遂げたゆうでもクリアーは無理だろう。
そう思って俺はこう声を掛けた。

504 :旅人さんの話10-2:2007/10/23(火) 02:04:17 ID:FXErkjbw0
「ゆう君、止めておいた方がいいんじゃない?ほら、階段目的なら33だけど13カテゴリでカーニバルがあるし…」

「ゆうさん、あなたが出来なかった曲をプレーするんじゃないんです。僕の出来なかった曲を選ぶんです」

ゆうはこんな風に俺の提案を受け入れなかった。ゆうは続けた。

「黙っていたけど僕もね、IIDXでこの曲の灰が出来なくて音ゲーを遊ばなくなった時期があるんですよ。
だから、今は無理だと分かっていてもあの双子には絶対勝ちたいんですよ。IIDXでも、ポップンでも」

そうだったのか、と俺は言ってゆうを止めなかった。
ゆうは赤ボタンを押して、現実を見た。
ため息をついて筐体を右手で軽く叩いた。
俺は残念そうなゆうの背中に向けてこう言った。

「焦る事はないんだよ。楽しみながら上達するのが一番の楽しみ方だろう?」

ゆうは少し黙ってそうですね、と笑って返した。
何か吹っ切れたようだったが余計な詮索はしないようにした。

それからゆうは正午までlv32台を埋めていった。



正午になった。
俺とゆうは小屋を出て、(俺にとってこの豪邸で食べる最後の)昼食を食べに豪邸へと歩き出した。
屋敷に入って昼食を食べている時、

「朝食も昼食も夕食も豪華という言葉では言い表せないほどの豪華なものを出してくれてありがとう」

フォークを動かしながらゆうにこう言ったら、こちらこそありがとう、と返されたことを今でも覚えている。
食後のデザートにはプリンの上に色々果物とかが乗っかっている何かが出てきた。
ゆうに何これ?と聞くと、これがプリンアラモードですよ、と答えをもらった。
始めて見るそのデザートを見つめて、ゆう、狙ったな?と思ったのは今でも少し恥ずかしい。

その後、16時まで俺はゆうとあのデパートのゲームコーナーに行った。
デパートの前まではゆうの家の黒い車で送ってもらった。
俺の旅は基本、歩きでやっていたので車のありがたみをひしひしと感じていた。
自動ドアを抜け、右手に曲がってゲームコーナーへ入った。
ゆうは楽しそうに音ゲーコーナーへ向かっていった。俺はその後に続いていた。

ポップン筐体の方へ足を運んだが、二台ともプレー中だったから俺とゆうは近くのベンチに座った。
右のポップン筐体で遊ぶポッパーは超チャレでずっとダークをつけていたからか、後ろで座って見ている俺とゆうに気が付いた様子だった。


その時だった。
俺はどこかで暗い画面で反射するそのポッパーの顔に覚えがあった。…誰だったろうか、彼は?

俺はそのポッパーが赤いカード(e-amusementpassと言ったか)を取り出し、こちらを向いたときに彼が誰だったかを思い出した。


532 :旅人さんの話終-1:2007/10/30(火) 00:46:11 ID:MtaTbjI20
その男はあの時ゆうの事を馬鹿にしていた、俺が腕をぶん殴ってやった奴だった。
男は俺にこう言ってきた。

「お前!金は返してもらうぞ!」

何のだ、と俺が返すと、男は右腕をどこかの子供がラジオ体操で腕をブンブン振り回すように振り回した。
治療費などの要求ではないのか?と俺がそう思っていた時、男は言った。

「右腕の話じゃねぇ、腕時計の話だ!あの時お前は俺の腕時計をぶっ壊したんだ!
その弁償をしろと言っているんだよ!」

俺はあの時、この男の腕を砕いたような感覚が、実は彼の腕時計を壊した感覚だったのだと分かった。
俺は財布から、ゆうからの報酬である六万円のうちの一万円札をその男に手渡した。

「福沢一人で十分か?…腕時計のこと、本当にすまなかったな」

当たり前だ、と男は言ってその場を去ろうとした。
俺は男を呼び止めてゆうの方を見るようにと言った。
男は無言でゆうの邪魔にならない程度の距離まで近づき、口を開けた。
愕然とか驚愕とか、そんな形容詞があの時の男の表情を表現するのに最良だろうと思う。

それもそのはず、ポップン暦三日の少年が一気に自分と同じ程度のlvの曲を選曲していたのだから。
ゆうが一曲目に選んだのはカラフルポップH譜面だ。
男は数秒後に俺のほうに振り向き、こう言ってきた。

533 :旅人さんの話終-2:2007/10/30(火) 01:02:59 ID:MtaTbjI20
「お前、こいつに何をした?この間はエンジョイ5ボタンも出来なかった奴が
何でたった数日でここまで…?」

「俺のアドバイスが良かったからか、ゆうには類稀なるポップンの才能があるからか…
多分、二つとも正解だと思うが?」

「いや、これがコイツの実力、才能なんだろう?
…悪かったな、全くの初心者を見下してちっぽけな優越感に浸るような奴でさ…」

男のこの発言に俺はそれはゆうに言えと返し、しょんぼりした様子の男の様子を見ていた。
ゆうは難なく一曲目をクリアーして、二曲目の選曲に入った。
選んだのはロックギターH譜面だった。

「うわぁ、アブソリュートだ!譜面がIIDXのハイパーと似てる!
原曲もいいけど、こういうロック調もなのも好きだなぁ!ゆうさんはどう思います?」

「原曲は聴いた事はないけど、この曲は好きだなぁ」

俺は昨日、始めてゆうがこの曲を選んで、無事クリアーした後の俺との会話を思い出していた。
原曲はどんなのかは分からないから今度機会があればIIDXに百円を入れてやってみようかと思うが、先に語ったような実力だ。
ノーマルがクリアー出来るかどうか微妙だが、ゆうと同じ喜びを共有したいならハイパーでクリアーしなくてはならないようだ。
俺には、永久にゆうとその喜びを共有するのは無理そうに思えた。

三曲目には15新曲のウェルフェアHをゆうは選曲していた。
デフォルトであさき曲が出ているのはこりゃ珍しいなと思っていた。
曲を聴いた感想としては、やっぱり何を言っているか分からないな、とだけ言っておこう。

534 :旅人さんの話終-3:2007/10/30(火) 01:26:06 ID:MtaTbjI20
ゆうはEXステージを出すことなくプレーを終了した。
俺のほうに向き直り、そして驚いた顔をしていた。

あの時自分を馬鹿にしていた男が自分に土下座していたのだ。

ゆうは男に顔を上げるように言って、男を許した。
男は涙ぐみながら本当にすまなかったと言い残し、福沢一人を右手に握り締めてゲームコーナーから去った。
新しい腕時計を買いに行くのだろう。
俺は男の背中を見送って、それからポップン筐体の前に立ち、百円を入れようとした時だった。

右の方にギタドラV4筐体が設置されているのだが、俺の立つ右側のポップン筐体に近いのはドラマニ筐体だった。
その筐体から変な音がしたのだった。

ピーとかパーとか電子音(ビープ音と言うのだろうか?)の後にプスン…と気の抜ける音がした。
その後少し間を空けて男の絶叫を強制的に聞く事になった。

「ああああああああ!!!!!!デイドリフルコン達成したのにいいいぃぃぃぃいいい!!!!!!!」

俺は百円を入れるのをやめて、絶望感を漂わせまくる絶叫を発する男の後ろに立ち、彼の肩越しに画面を見た。
なるほど、あの赤いカードに超難関曲の超絶リザルトがエラーによって記録されなかったのか。
そうか、ご愁傷様でした。
自業自得でしたね。

エラーが起きるのも当然だろう。
この音ゲーコーナーにいるドラマニプレーヤーは全員、超を付けても文句を言われないようなクラッシャーだったのだから。
俺は叫び続ける男の後ろの襟を掴んで後ろに引っ張って、床に倒して言った。

「五月蝿いんだよ、お前。筐体のエラー?そんなのお前やその他大勢のクラッシャー共のせいで起きたんだろうが!
少しは反省しろ!」

男は俺の言葉にビクッとした様子を見せたが、すぐに奇声を上げつつ逃げ出した。
俺はその後ろ姿を見送っていた。

その時だった。
後ろから誰かが俺の肩を掴んだ。
俺がびっくりして振り返ると、そこにはこのゲームコーナーの係員らしき男がいた。彼は言った。

「ちょっと、事務所に来てもらえますか?」

「分かった。…だが、俺の他にもう一人連れて行くべき奴がそこにいるんじゃないのか?」

俺はギタフリ筐体にリザルト画面を見て、奇声を上げながら蹴りを入れるオタク風の男を指差して言った。
係員はその話なんです、と言って俺を事務所に連れて行った。どこにでもありそうなパイプイスに俺と係員がテーブルを挟んで座っていた。
係員が重く口を開いた。

535 :旅人さんの話終-4:2007/10/30(火) 01:52:37 ID:MtaTbjI20
「あなたに、音ゲーコーナーの異常なマナー違反を取り締めてほしいんです」

は?と俺は言い返した。
それと同時にゆうからの頼みも、は?で返していたなと思い出して
これは条件反射なのかな?と思っていると係員が続けた。

「どうか、頼まれてくれませんか?」

「…俺よりは俺の知り合いが運営する何でも屋に頼んだほうがいいだろうし、
大体にしてそういう事はあんたのリーダーというか、上司の指示の元にあんた達が動くんじゃないのか?」

「今の世の中、下手な動きをするとすぐにお縄になりますから。我々も下手に手出しできないんです。
それに、上層部からこれ以上デパートのイメージを悪くするような奴が沸いていたら、ゲームコーナーから
音ゲーコーナーが消えるんです」

俺はその最後の部分に驚いた。

音ゲーコーナーが消える?
これは大事なんじゃないのか?
こんな港町に音ゲーがあるのはここだけじゃないのか?

…ここが消えたら、あのギタフリ筐体に蹴りを入れるような奴らはどうするのだろう?
このデパートで暴動でも起こすだろうか?
それなら奴らに音ゲーコーナー消滅の件を話しておいたほうが良いのではないのか?などと俺が考えていると、

「彼らにこの事が知れたらすぐにでも暴動が起きるでしょう。
…報酬は十分払うと約束します。あなたと、何でも屋さんにマナー違反者たちを取り締まって欲しいんです。
お願いします」

係員が頭を下げてお願いしてきた。
俺はわかった、じゃあ今から何でも屋の代表を呼んでくる、と残して事務所を出た。

一分もしないうちに俺はゆうの手を引いて事務所に戻ってきた。
係員がこの子が代表?と言いたげな顔をしていたがゆうは事情を聞くなり早速行動を起こした。
明日にでも活動できるように準備すると言って、俺にも協力するように言った。
ゆうの頼みとあれば、俺は当然手を貸してやる。
今でもそう思っている。

仕事の期間は一週間だった。
俺とゆうが事務所で待機、何でも屋のメンバーがマナー違反者を事務所に連れ込んで二人で説教する、というのがゆうの立てた作戦だった。
しかし人を説得するのにこれほどまで苦労するとは思わなかった。
何せ人の話を聞かない、分からない奴が多すぎるのだから。
もし、この世で最低最悪な人間を選ぶ大会があったとしたら俺は連行された奴ら全員を選手として推薦したかった。

しかし、俺たちの仕事は彼らをそんな大会に出す資格のない人間に戻すことであった。
俺はいいとして、本当にゆうは頑張ったと思う。
一週間も短い間に過ぎ、港町のデパートのゲームコーナー、特に音ゲーコーナーのマナー違反者の数は相当減った。

マナー違反者がいれば、常連が注意する。
違反者はマナーを守るように努力する。

この良い循環がいつまでも続けば良いなと、係員から報酬として八万円を貰いながら俺は思った。
仕事の最終日の翌日の朝、俺はこの港町を去った。




536 :旅人さんの話終-5:2007/10/30(火) 02:16:29 ID:MtaTbjI20
ゆうは、テープレコーダーの停止ボタンを押し、一息ついた。
いまどき録音するのにテープはねぇか、と思っていたが、
もうじき二歳になる彼の娘への誕生日プレゼントには、十分すぎる価値かなと言い聞かせていた。


ゆうが同じ名前の少年と出会ってから、三年が経つ。
港町を出てからゆうはこの町にたどり着き、素敵な女性と出会い、
幸せに結ばれ、子供にも恵まれ、ゆうは旅人であることをやめ、立派に職に就いて…ゆうは幸せだと思う。

ゆうは壁にかけられたカレンダーを見る。
今日の日付(日曜日)に黒のボールペンで印を書き入れたのが確認できる。

今日が娘の誕生日だ。

昨日の夜九時から休憩も含めて約半日しゃべり続け、少し苦しそうな声でゆうは娘を呼ぶ。
ゆうは娘に散歩をする事を提案した。
娘はそれに大いに喜んでいた。

色んなところをゆうと娘は歩いた。
川原、遊歩道などをゆうは娘と共に歩き、最後に少し寂れてきた商店街を歩くことになった。
商店街通りが終わりを迎えようとした時、娘がケーキ屋を見つけた。
娘はイチゴショートケーキが食べたいとねだり、ゆうは誕生日だからね、と言ってそのケーキ屋に入った。
ドアを開けるとカランコロンと古臭い、しかしだからこそ暖かい鈴の音が店内を包んだ。
その鈴の音に先客が反応して後ろを振り向いた。

ゆうはその先客の男の顔に懐かしさを感じた。
先客も、ゆうの事を懐かしそうに見ていた。

「ゆう!」「ゆうさん!」

二人のゆうはお互いの名前を呼んで、久しぶり!と声を重ねた。
ゆうが店主のおばさんから手渡された袋を持ったゆうに問いかける。

「君、いつから…どうして、この町に?」

「仕事ですよ。この町のゲーセンの店長から直々の依頼です。マナー違反者の取り締まりを引き受けたんです。
どうです?ゆうさんも一緒に仕事しましょうよ」

ゆうの問いにゆうはこう返し、ゆうを誘った。ゆうはこう返した。

「あぁ。けど、少し待ってくれ。先に娘を家に送ってくるから。その後に手を貸そう」

ありがとう、とゆうは言って、一足先にこの町のゲーセンに走り出した。
娘が父にあの人は誰?と聞く。
父はこう言う。



「あの人かい?あの人は俺の友達だよ。…ずっと忘れられない友達さ」



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