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みんなのパーティー 第三章 -後編-

最終更新:

beatnovel

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392 :旅人:2008/11/30(日) 01:25:49 ID:J7jv/Up20
 小暮は壁に貼り付けた手榴弾に狙いを定めている消音拳銃のトリガーを引いた。
狙いは正確だった。壁が直後に爆発したことがそれを証明する。
 直ぐに小暮は袋から閃光拳銃を取り出し、素早くトリガーを引いてから
ガラス張りの休憩スペースの扉に思い切りぶつけるように投げ込んだ。
ガシャーン!と盛大にガラスの割れる音がした後、
手榴弾が開けた穴と穴の開いたガラス張りの扉からギャラリースペース側に強烈な光が漏れ、同時に

     「キキャアアアアァァアァ―――!!!!」

と形容するに相応しいIIDXRED初出の楽曲、「GENOCIDE」のスクラッチにアサインされた印象的な音が小暮の耳を劈く。

 出だしは作戦通りだと内心ニヤリとしながら、
耳をふさぎつつ小暮は手榴弾で開けた壁の穴から休憩スペースに侵入した。
休憩スペースは、人質達のパニックに陥った声で満たされているだろうと小暮は思っていたのだが、
爆音のせいか人質達はあまり声を上げていなかった。
 小暮は侵入した後、消音拳銃をアメリカのアクション映画の数々のシーンを思い出しながら
そんな感じで消音拳銃を構えて、手近な脚の細い半径一メートル弱の円形のテーブルに飛び乗って叫ぶ。

「お前ら!両手を上げろ!さっさと降参して人質を解放しろ!さもなくば撃つぞ!」

光が起こしたモヤが霞んできた頃には、二人の人間が両手を上げているのが視認出来た。
一人は武装集団の格好をしていた。ちゃんと腰にホルスターと拳銃を装備しているが、
もう一人の黒コートの男は武装している雰囲気がなかった。
恐らく、コートに投げナイフか何かを仕舞っているに違いないと小暮は警戒した。
それが原因か、小暮は無意識に拳銃を握る手に更に力を込めていた。
どうでもいい事だったが、一人だけ突撃銃を腹で下敷きにしていた。爆音で気絶してしまったのだろう。
 武器を捨てろ!と小暮は怒鳴った。黒コートは何も取り出さない。本当に丸腰かどうかは分からないが、
自分ののとる行動次第で危険度は変わるだろうと小暮は考えた。
今のところ、危険度は低い。いや、こういう事には小暮は素人だから本当はどうか分からないが…
もう一人の男は、腰につけている手榴弾をそっと床に置こうとしたが、

「違う、外に捨てろ!」

小暮の指示で、ピンが抜かれていない手榴弾が、手を上げている武装兵の手によってギャラリースペースに転がった。
次に男は拳銃の入ったホルスターを取り出し、それも小暮の指示でギャラリースペースに投げられた。
 それを見てから小暮は銃を構えながら携帯電話で町田と通話、彼女に休憩スペースに来るよう指示した。
それから、町田が来るまでの時間はかなり長く感じた。1秒が1分、1分が10分…10分が30分………
 しかし、30秒も経たない内に町田はガラス張りの扉から休憩スペースに入ってきた。
少し息を弾ませながらも町田が小暮に聞いた。

「で、どうするの?その人達が犯人?小暮君、銃持っているけど、撃つの?」
「すみません、あの犯人達をこの袋に入っている手錠とかロープで動きを封じてください」

分かった、と町田は返して袋から手錠二つとロープ数メートルを取り出した。
小暮は目で「彼女に何かしようものなら撃つぞ」と二人に睨みつけた。
そう、小暮はそんな意思を込めながら二人を睨みつけていたのだが……




         「分かってる。もう俺達は終わりだってね。だから、そんな心配をするなよ」

393 :旅人:2008/11/30(日) 01:29:43 ID:J7jv/Up20
黒コートの男が小暮に語りかけてきたのだ。
何ぃ?と態度の悪いイントネーションで小暮は返答する。しかし、その言葉には

「何でそこの…その黒コートのアナタ、何で僕の思っている事が分かった?
 もしかしてエスパーとかって奴?又は超能力者?一体何者?えぇ、何これ何これ何これ……」

と混乱に満ちた疑問が込められていた。黒コートの回答は、フッという笑みだった。
最後の武装兵も例の睡眠ハンカチで眠らされてから縛られた。町田の作業は、黒コートの男を残すのみとなった。

「さ、悪党!ちゃっちゃと眠っちゃいなさい!」

と、町田は黒コート男の後ろから鼻にハンカチを押し当てた。
しかし次の瞬間、町田の鼻にハンカチがあてられていた。町田は自分で自分を眠らせようとしていた。
自分の行為に対する驚きの顔を見せながら、町田はがくりと頭を垂れ、両膝を床につき、そして何の抵抗もなく
自ら前のめりに床に倒れこんだ。町田の顔は苦痛に歪まず、寝息と共に安らかな寝顔をたたえていた。
 そんな顔と正反対に、小暮の顔は驚きと焦りで埋め尽くされていた。
先程まで銃口を向けていた黒コートの男が消えたからだった。そして、後ろに何者かの気配を感じ取ったためである。
バッ!と擬音がつきそうな位に振り向きながら、小暮は町田が倒れている方に跳んだ。

 ……まさか、奴は後ろに?

小暮の予想通り、小暮がいた所の背後も背後、そんな所に黒コート男は立っていた。
 テーブルを挟んで小暮と黒コートが対峙した。
休憩スペースに緊張が走るのを感じてか、人質達はもう何も喋らなくなっていた。悲鳴の一つも上げなかった。
 少しの恐れと大きな緊張が小暮の表情から読み取れるが、黒コート男の表情からは諦観の感情のみが浮き上がっていた。
小暮が距離を取るために右足をスッと床をするように引いた時、黒コート男の唇が動いた。

「そう怖がるなよ。どーせ、俺はジョーカーに消されるんだからさ。
 下っ端の俺には、あの人に対抗なんて出来ないしね。だから、銃を下せよ」
「断る。どーせ、瞬間移動が出来るような奴相手に銃が当たるとは思えないけどな」
「ま、当たらないだろうね。それよりさ、普通の人間がジョーカーを見れる機会ってまず無いんだよ。
 だって俺ら、表立って存在する訳にはいかないからさ。
 あ、アンタは知らないんだったな、俺らの事。いけねぇ、すっかり忘れてた。
 まぁ、適当に聞き逃しといてよ。そんな大した事じゃないし、アンタが知ればパニックになると思うし」

それは大した事なんじゃないのか?と口に出さないでツッコミをかました小暮は、それを説明するように言った。
だが、黒コート男はそれを拒否した。どうやら、それは大した事らしい。男は続ける。

「まぁ…さ。俺はとりあえず屋上に行くわ。迎えが来る時間だから、急がないと」

黒コート男はそう言って、右手を小暮に向けて上げながら休憩スペースを去った。
小暮は直ぐに彼を追おうとしたのだが、それは出来ない事を悟った。
 今は恐らく、白壁上空をどこかのTV局のヘリコプターが飛びまわっているはずだ。
小暮は自分の携帯電話でTV番組を視聴し、(ワンセグとかって言うんだっけ?ホント、こういうのは苦手だ…)
案の定、某TV局が緊急特番を組んで白壁を中継しているのを知った。
当然のように屋上も映されており、そこで一番初めに眠らせた敵二人がまだ横になっているのも見えた。
携帯電話の小さな画面から、それらの情報を確認した小暮はポツリと呟いた。


「あ、このまんまじゃ外に出られない…仕方がない、スタッフルームで店員さんの服を借りよう」

394 :旅人:2008/11/30(日) 01:33:31 ID:J7jv/Up20
 白壁前にいる田中の目にも、奥田邸屋上で加藤を逮捕した中井の目にも、
白壁の上に誰かが、黒いコートを着込んだ誰かがいる事は分かっていた。
当然、某TV局の中継カメラにもその姿は映りこんでいた。
それにより、その人物の姿はお茶の間でリアルタイムで見ていた人々の目にも映った。
 次にお茶の間の人々が、カメラが、中井が、田中が目にしたのは、白壁の店員の制服を着た誰かだった。
あれは…小暮探偵か?と呟く田中の携帯電話に、中井からの電話が入った。
田中はすぐに携帯電話を開き、応対する。

「あの探偵、白壁の制服に着替えて出てきたけど、どういうつもりなんだ?」
「……探偵の名前って、ネット上で結構知られているだろう?
 全国ネットで放送されている場に、どんな状況でもそこに自分が居たって事を知られたくないからだ。
 …前にな、ネットで調べ物をしていたら『小暮探偵はこんな服装をして出没する!』って記事を見た。
 それには、ホラ、昔の探偵っぽいカッコした小暮探偵が……
 ありゃあ多分、隠し撮りだろうな。兎に角、あのカッコした小暮探偵の画像がアップされていたんだ。
 その気になれば誰だって、小暮探偵を探す事が出来るだろうな。
 ………探偵、あのサイトの事を知っているんだろうか………… 
 それはそうとしてな、警察と探偵の間に成立したこの依頼は、極秘のものとされているんだ。知ってるだろ?
 だから探偵が変装しようってのは、当然だと思うんだがな。中井、お前の頭大丈夫か?」

うるせぇ、と中井は返してから、あの黒コートの野郎は一体誰なんだろうと呟くように言った。
田中は近くのパトカーから取り出した双眼鏡で、屋上の様子を見ながら答える。

「可能性は二つある。人質か、襲撃グループの一味か。
 …お前、迎えの手段は封じたんだよな?」
「あぁ。○×銀行の支店長…加藤支店長が迎えの人だった。
 奥田邸の屋上に隠していたヘリで、大体この時間に迎えに来る予定だったようだ」
「時間が決まっていた?じゃあ、当初の要求だった金はどうなるんだよ」
「知らねぇよ、そんな事。まだ調べていねぇんだからよ。だが、それは成し遂げれそうにもないだろ。
 でもよぉ……あの襲撃グループ、何がしたかったんだか良く分からなかったな。
 …で、そろそろじゃないか?」
「何が」
「総突入だよ…田中、しっかりしてくれよ」
「あぁ、総突入か…じゃあ、今から総突入をかける。中井、お前は遅れて白壁に来てくれ」

分かった、と中井は返してから電話を切り、田中は控えてさせていた機動隊を呼び集め、


               「総員、突入だァー!」


と声を荒げて突入の合図を出した。防弾盾を突き出しながら白壁に突入する機動隊が、
まるで、人気パチスロ店の新イベントが始まる日にわらわらと人が集まるようだ……田中は場違いながらそう思った。

395 :旅人:2008/11/30(日) 01:39:02 ID:J7jv/Up20
 白壁の屋上に黒いコートを着たNO.9がいる。
彼の瞳を見ると、どうやら作戦は成功して失敗したというところかな。
9、悪いが…死んでもらう。依頼主の依頼は果たせたがな…
ここまで騒ぎが広がった以上、責任は死んで取らないとな。分かっているだろう?



 小暮は一度スタッフルームに戻り、男性店員の制服を拝借していた。
刑事たちの読み通り、あまり目立ちたくないというのが理由である。
 スタッフルームに置かれてあるテレビを見ると、白壁占拠事件の様子が生中継されていた。
ここで自分の古めかしい探偵をイメージさせる服を着て屋上へ行き、そしてカメラに映れば……
後が面倒臭くなる事は分かっていた。それに、この仕事はトップシークレットとされている。
姿を現わさなければならないとしても、変装くらいはしなければならなかった。

 小暮はスタッフルームで一度装備の整理をした。要らない装備をそこで外し、
袋の中には閃光拳銃が一丁、閃光円盤が二枚入っていた。
そして、小暮の右手に握られているのは一発も発砲されていない消音拳銃だった。

 小暮は屋上を目指して侵入経路を逆に走った。早くしないと、あの男が死んでしまう。
そうなる前にあの男から聞いておきたい事があった。「お前は一体何者なんだ?」と。
 小暮が屋上の扉を蹴破ると、一番最初に拘束していた二人の敵が暴れていた。
小暮は二人の意識を睡眠ハンカチで飛ばし、それから屋上の隅で立っている黒コートの男を見た。

「お、服変えたの?中々似合っているじゃん。ここのバイト?」
「うるさい違う。質問に答えろ。……お前は、いや、お前らは一体何者なんだ?」

小暮の問いに、黒コートの男はどうしよっかなーととぼけた言葉を返した。
それに対し小暮は、銃を構え、答えなければ撃つという意思表示を示した。
それを見た男は、仕方がないという風に語り始めた。

「俺はなぁ、人じゃないんだ。人なんだけどな、ある特殊な能力を持っている」

何なんだよそれ、ファンタジーな展開になりそうだなオイと小暮は思いながら短く問う。

「何だ?言え」

黒コートの男はそこでしばし沈黙した。
焦らしているつもりなのかどうなのかは知らないが、その十数秒にわたる沈黙が黒コートの男によって破られる。








                「……人に錯覚を起こさせる事が出来るんだ」

396 :旅人:2008/11/30(日) 01:44:02 ID:J7jv/Up20
「……何だって?」

一瞬、自分の耳を小暮は疑った。
人に錯覚を起こす事が出来る。それが本当なら、一体あの瞬間移動はどうやって説明をつける?
あの出来事があったからこそ、奴が人ではないという事は言われて納得できるが、
錯覚を起こすと言うと何かが違うような気がした。そんな小暮に黒コートの男が言う。

「だから、人に錯覚を起こさせる事が出来るんだってば。
 あ、あの瞬間移動のアレも錯覚で起こさせる事が出来るよ?本当なんだって」

ホラ、と男が言った時には、小暮の消音拳銃の射線上に彼はいなかった。そして、
こっち。と小暮の後ろで声が聞こえて「うわあぁ!」と小暮は前に転がるようにして男から遠ざかった。

「最初にね、俺がいる所に『そこに俺の姿はない』って錯覚させる。
 すると、錯覚を受けた人間は俺の姿が見えなくなるのさ。
 でも、ちゃんと俺が立っている場所には俺はいるし、錯覚効果が切れない限りは俺の姿は見えない」
「つまり…瞬間移動をしているのではなく、錯覚によって自分の姿を消して
 それから錯覚を解いてやることによって瞬間移動させているようする、と?」

正解だ、と男は言って、中々物分かりがいいじゃんかと続けた。
褒めているのか?と小暮は思ったが、それは今は関係がない。言ってやることがある。

「馬鹿な。人に錯覚を起こす…人の脳に干渉することなんて出来る訳g」

出来るんだよ。男は小暮の言葉を遮った。そして、重力の成すままにしていた両腕を上に振り上げた。
すると屋上の床の一部がボコッと窪む。なっ…と小暮は口から漏らしていたが、男が続ける。

「だけど実際、あの床は窪んでいない。
 カメラか何かでそこを撮ってみろよ。何の変哲のない床だ」

 小暮は携帯電話を取り出し、窪んだ床を撮影した。画面を見ると、確かに床は窪んでいない。
平らだった。他の床と同様、平らだった。小暮はそれを見て震えた。そして、その震える唇で男に言う。

「どうやって人の脳に干渉する?一体、お前は何をしたって言うんだ!」
「それは俺にもよく分からねぇ。悪いな。でも、出来るんだ。そういう事が」
「…そんな事が出来る奴が、この世には少数ながらも存在すると?そしてそんな奴らは何かを組織している?」
「勘がいいね。そういうのを見習いたいな、俺は。
 確かに俺と同じような能力を持った奴らはいるし、そんな奴らと俺は仲良くしている。
 そして、そこのリーダーに今から殺されますってこった」

小暮は無言で返した。先にジョーカーがどうこうとか言っていたから、そいつなのだろうか。
そう小暮が考えていると、

「うん。そういう事だ。言っていなかったが、人に干渉するって事は人の考えも読み取れるってことさ。ある程度な」

397 :旅人:2008/11/30(日) 01:49:24 ID:J7jv/Up20


                 「さて、お喋りはそこまでだ」


 小暮の耳にそんな冷徹な声が聞こえたのは、黒コートの男が語り終えた直後だった。
振り返った黒コートの男がジョーカーと小さく呟いた。これが、これがジョーカーなのか。
小暮はその声の主である異様な服装をした男を見て思った。
 全身を緋色のコートで包み、マ○リックスの登場人物たちがつけるようなサングラスをかけている。
外見だけを見ればただの変人だ。不審者だ。小学校の前なんてうろついていたら即お縄だろう。
小暮がジョーカーにそんな評価を下していると、黒コートの男が口を開いた。

「殺せよ。俺を」
「ああ、そうさせてもらうよNO.9…」

ジョーカーはそう言って両腕をクロスさせた。
すると、屋上から見えていた景色が闇一面に染まった。
直後、何かがボンッ!と爆発するような音も聞こえた。
一体何が起きているのか、小暮はそれが気がかりで仕方がなかった。
そんな小暮に目もくれずにジョーカーは黒コートの男…NO.9に向けて言う。

「これで、お前の始末が出来る…いいな?」
「あぁ。さっさと殺せって言ってるだろ。ほら、さっさと殺せよ」

その言葉を受けたジョーカーは、NO.9を睨みつけた。
すると、NO.9の体が宙に浮き上がった。小暮はそれを見て驚愕し、そしてジョーカーに叫んだ。

「止めろ!何をしてる、止めろ!」
「人間か…黙れ!」

そう言うとジョーカーは、クロスしていた両腕をほどいて小暮を突き飛ばすような動作をした。
だが、伸ばした両腕、両手には一切小暮は触れられていない。だが、伸ばした腕の直線上に小暮はいた。
小暮がそれに気がついた次の瞬間、小暮の体が後ろに吹っ飛んだ。
わけの分からない不意打ちを食らった小暮は床に思い切り背を打ちつけた。あまりの痛さに立ち上がることすらできない。

「俺のような数字と、ロイヤルは錯覚を起こすことが出来る…
 エースからの奴は、錯覚よりも一段階上の変容を使う…奴には手出しできない」

仰向けになった小暮の視界の中で、NO.9がそう言った。
NO.9は30メートル程度の高さまで浮かされていた。しかし、その声は全く震えていなかった。
そこから落とされたりでもしたら、彼の命の保証は全く出来ない。それなのに、である。
 不意に、ジョーカーがだらりと全身の力を抜いた。
それに呼応して、NO.9の体が落下していった。それも、頭から。
 NO.9に近づく死の瞬間、最後に彼は小暮に言った。


               「最後の壁は……」



  その言葉を聞いた小暮の朱に染まる視界には、NO.9という人物を形作っていた肉塊と、
 それがまだ生きているかのような錯覚を与える黒コートが映っていた。

398 :旅人:2008/11/30(日) 01:54:46 ID:J7jv/Up20
そして、白壁占拠事件はそれだけでは終わらなかった。
いきなり白壁屋上のドアが荒々しく叩き開かれるとそこには鬼の様な形相をしていた一人の黒コートの男が立っていた。

「おいアンタ!さっさと起きろ!」

物凄い怒鳴り声が響く。
それは今までの彼を知っている人間からは想像も出来ない位怒気に満ちた表情をしていた。今までのなんて知らないが。
やがてゆっくりと立ち上がった小暮に掴みかからんばかりの勢いで捲し立てる。

「アンタ、早く床を見ろ!」

小暮はNO.9に言われるまま、視線を下にやった。すると、そこには地獄が広がっていた。

「見ろ!」
「何だこれは!?」
「いいから見ろ!」
「何を言ってる!?…どういう事だ!?皆、死んでる…」

地獄。小暮がイメージするのとは全く違う世界だった。
眼下に広がる地獄という世界は、白で統一された何もない空間だった。
そこに、無数の人間が横たわり、山を形成している。
しかし、全員が口から血を流して死んでいた。
異様な光景を見続ける小暮は、ある一つの山に見覚えのある女性を見た。町田だ。
町田の顔も、口から血を流して死んで、眼は異様なまでに見開いている。

「町田さん……」
「12/19、全部が終わる!音ゲーをやった奴らは全員死ぬ!」
「おい誰かこいつの言っている事まとめてくれ!意味が分からない!何なんだよここは!!何なんだよこれは!!!」
「いいから聞け!回避方法は、お前がこれまで見聞きしたものを包み隠さず話す事だ!!!」

そう言ってNO.9はスーッと地獄に堕ちていった。
そして、彼は口から血を流しながら一つの山に突っ込んで埋まり、姿を消した……







 小暮は絶叫しながら目覚めた。恐怖の叫びと形容できる、と小暮は思いながら辺りを見回す。
白壁の屋上から意味の分からない、皆死んでいた世界に飛ばされ、そして今はプリウ○の車内で眠っていたらしい。
運転する中井がミラーで小暮の目覚めに気がついたのか、小暮に声をかけた。

「よっ!お疲れさん。さっきからうなされていたが、大丈夫か…?」

399 :旅人:2008/11/30(日) 02:01:09 ID:J7jv/Up20
「………町田さんは?」
「大丈夫だ。今警察が保護している。他の人質も全員救出された」
「良かった。…聞きたい曲があるのですが、REDサントラありますか?」
「あ~、確かダッシュボードに…赤信号に引っ掛かったらかけてやるよ」
「ありがとうございます。二曲だけでいいです、あ、いや、三曲。GENOCIDEと蠍火、そしてearth scapeを…」
「おう、分かった。けど、どうしてその三曲なんだ?」
「……この事件で、僕は大変な思いをしました。
 任務遂行が大変だったとかそういうのじゃなくて、いや、大変でしたけど。
 ……屋上で起きた現実離れした出来事が、今でも目に焼き付いていて……
 ………そうだ、あそこで死体があったでしょう?あれは一体何処に?」
「はぁ!?死体ぃ!?探偵さんよ、そんな寝言を言うのはやめてくれよ。
 どこにも死体なんて無かったぞ?そういや、屋上で一体何があったんだよ。
 白壁を包み込むように黒い壁がそびえ立ったし、TV局の中継ヘリのカメラは壊れたみたいだし…」
「じゃあ、血痕は?無いんですか?」
「おいおい、一体どうしちまったんだよ探偵さん…っていうか俺の話スルーかよ?
 …白壁のどこにも、死体及び死体があった痕跡は一切無かった」
「………ジョーカーか……」
「あ?ジョーカー?今度ババ抜きでもしませんかって?んな暇はねーよ、警察は忙しいんだ」
「んなこと言っていません。…すみません、まだ、夢を引きずっているみたいで…」

 でも実際、そんな事はなかったと小暮は思う。アレは現実に起こった事だ。
いつの間にかプリウ○の車内にはGENOCIDEが流れ始めていた。
目をつむる小暮の視界に、高所から頭を打ちつけて死んだNO.9と地獄で見た死体の山、
そしてそれに紛れた町田の死体が映し出されていく。

           ―12/19、全てが終わる―
                    ―回避方法は、お前がこれまで見聞きしたものを包み隠さず話す事だ―


小暮は地獄で聞いたNO.9の遺言を思い返していた。
もしそれがそうだとしたら。今ここで二曲目の蠍火をバックに中井にこの事を話すか。
それともあの不可思議で非現実的なあの体験を話さないか。
 小暮は即決で話さないという選択肢を取った。信じてもらえる訳がない、と小暮は強く感じたのである。
だが、もしかしたら彼なら。いや、彼らなら信じてもらえるかもしれない。分からない。
本当にXデーが12/19だとすると、その日に行われる「松木ゆうの秘密の誕生日パーティー」で話そう。
そっちの方が面白そうだし、信じてもらえそうだし、何よりそうした方が良さそうだと自分が確信している。

 自分が平和を取り戻せるカギとなるなら。それならば中井に言うべきだっただろう。
だが、これは松木に告白したい事件の真相だ。そして彼の周りにいる人たちにも。彼が友人と呼べる人たちにも。
これは、この真実は言いたくない事だが、19日に死人が出るという事を伏せて話せばいい。
真実の一部を包み隠してしまっているが、良い嘘と悪い嘘という二種類の嘘がある。これは良い嘘だろう。
そう、この世は空言で満ちている。中には何かの真実に繋がるものもあるのだろうが…

 とりあえず、この事を話そう。NO.9の遺言を果たすために。全てを終わらせないために。
earth scapeが流れている車内で、流れる外の景色を見ながら小暮は決心した。




         ………タイムリミットは刻々と迫ってきている。全てが終わる警鐘が鳴り響いてゆく………

400 :旅人:2008/11/30(日) 02:07:16 ID:J7jv/Up20
08/12/19 21:33

 小暮はNO.9の言っていた、今日で音ゲーマーが死ぬという事を隠しつつも事件の真実を語った。
小暮が語り終えてからかなり重苦しい雰囲気が談話室に漂う。
 それもそうだ。人が一人死んだのだから。悪党側の人間とはいえ、それでも人だ。
 そして、ジョーカーという謎の人物を始めとする超能力のような能力を持つ人間がいる事も、
この話で明らかにされたのだ。…殺人超能力。これを法で裁く事は出来ない。



 21:35。この重苦しい雰囲気を打ち破るためにある人物が口を開いた。
それは、先のシリアスな話とうって変わって何の特徴のない話だったが
この雰囲気が崩壊する役目を果たす事は言わずもがな、である。


以下作者更新待ち



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