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第6章『血の終焉』

アコライトを発ったなゆたたちは、ジョンの《ブラッドラスト》を解くため、聖都エーデルグーテを目指していた。
ブラッドラストの悪化を防ぐため、ジョンは馬車の中で戦闘を避けて過ごす。そんな彼になゆたは、自分には二人の母親がいたことを語った。産みの母と、育ての母。どちらも愛していたのに、育ての母が亡くなる間際、最後まで「お母さん」と呼ぶことができなかった。その後悔があるからこそ、なゆたは今度こそ手の届く相手を見捨てたくない。ジョンを助けようとするのも、単なる正義感ではなく、彼女自身が過去に決着をつけるためでもあった。
一方、仲間に加わったガザーヴァは明神へ、バロールとローウェルがすでに対立していることを明かす。バロールがローウェルの死をきっかけに悪へ堕ちたという歴史は、後世に作られた虚偽。バロールは今も昔も、自分なりのやり方で世界を守ろうとしているのだという。
その話を聞き、明神は自分たちが知らされてきた歴史そのものへ疑いを抱く。バロールが味方だからローウェルも味方、という単純な構図ではない。むしろ、どちらを信じるのかを自分たちで決めなければならなくなっていた。
そんな一行を、麦畑から正体不明の狙撃が襲う。火を放たれ、逃げ場を失いかけた彼らを救ったのは、三人組のプレイヤー――さっぴょん、シェケナベイベ、きなこもち大佐。そして彼女たちが熱烈に崇拝する十二階梯の継承者、《聖灰の》マルグリットだった。
マルグリットはローウェルの命を受け、各地の異邦の魔物使いたちを集めていた。バロールはなゆたたちを利用していると警告し、自分たちと行動をともにするよう誘う。さらにエーデルグーテの指導者オデットとも縁があるとして、ジョンの解呪に協力すると申し出た。
なゆたたちは警戒しながらも、ひとまず彼らと同行することを選ぶ。しかし、マルグリット以外を見下す親衛隊の言動は、ジョンの殺意を強く刺激した。ジョンは自分を拘束具で縛らせ、発作に耐えながら、仲間へ告白する。
《ブラッドラスト》の習得条件は、人を殺した経験があること。
ジョンはかつて、人を殺していたのだ。
それでもカザハたちは彼を断罪しなかった。何があったのかはまだ聞かない。ただ、今ここで呪いに苦しんでいるジョンを助ける。その姿勢を崩さない仲間たちに支えられながら、一行はデリントブルグを横断し、アルメリアとフェルゼンを結ぶ橋梁都市アイアントラスへ到着する。
だが、街はすでに戦場となっていた。
都市を襲っていたのは、アサルトライフルなど地球の近代兵器で武装したゴブリン・アーミーだった。剣も弓も届かない距離から兵士や住民が次々と撃ち倒され、鉄橋の上が血に染まる。ニヴルヘイム側が地球人の装備を魔法で複製し、ゴブリン軍へ大量配備していたのだ。
混乱のさなか、ジョンは敵の指揮官らしき男を発見する。単独では手に負えないと悟った彼は、ついに仲間へ言った。
「助けてくれないか」
ずっと自分を迷惑な存在だと決めつけ、誰かに頼ることを拒んできたジョンが、初めて自分から差し出した救援要請だった。明神は待っていたとばかりに応じ、カザハたちも合流。力を合わせて包囲を崩していく。
しかし、敵指揮官がヘルメットを脱いだ瞬間、ジョンの表情が凍りついた。
男の名はロイ・フリント。ジョンの幼馴染であり、かつて彼をいじめから救い、「ずっと友達でいよう」と約束した親友だった。
ロイは米軍で鍛え上げられた現役軍人であり、ゲームの勝負には一切付き合わない《ブレイブハンター》。ミハエルや煌帝龍がゲームのルールで戦って敗れたのに対し、自分は現実の軍事戦術でなゆたたちを殺すと宣言する。
そして彼は、アイアントラスそのものへ爆薬を仕掛けていた。
大爆発とともに橋桁が破壊され、巨大な橋梁都市全体が大断崖へ傾いていく。なゆたたちは街を落下させることだけは防いだものの、大勢の住民が犠牲となり、フェルゼンへ続く線路も寸断されてしまう。ロイは戦うことすら目的とせず、一般人ごと一行を葬ろうとしたのだ。
惨状を前に、なゆたは「自分たちが来たせいだ」と立ち尽くす。ジョンもまた、ロイをこうしたのは自分だと自責する。だが明神は、責任を負うべきなのは殺した側であり、救助に来た自分たちではないと二人を叱咤する。一行は生存者の救出へ奔走し、助けられる命を可能な限り救った。
やがてなゆたは、ゴブリンの装備を複製した者が《黎明の》ゴットリープではないかとマルグリットへ問いただす。ゴットリープはローウェル配下の十二階梯を束ねる筆頭継承者であり、物質を複製する《業魔錬成》の使い手。ロイ一人では、あれだけの兵器を量産できない。
マルグリットもゴットリープの関与を否定できなかった。それでも彼には深い考えがあるはずだと庇い、話し合いの機会を求めてなゆたたちへ頭を下げる。しかし、どんな目的があろうと、大勢の命を犠牲にするやり方は受け入れられない。なゆたたちはマルグリットおよび親衛隊と袂を分かち、ローウェル陣営を敵と見なすことを決めた。
エーデルグーテへの鉄路を失った一行は、新たな移動手段として飛空艇ヴィゾフニールの回収を目指す。その格納場所は、かつて魔王バロールが世界を滅ぼすために作った巨大魔法――螺旋廻天レプリケイトアニマの内部だった。
全高八十メートル、直径三百メートル。大地を掘り進み、世界の要石《霊仙楔》を破壊するために造られた巨大ドリル。すでに攻略され停止していたはずのそれが、ニヴルヘイムの手によって再起動していた。
四時間以内に最深部のアニマコアを破壊しなければ、レプリケイトアニマは霊仙楔へ到達し、アルフヘイムそのものが崩壊する。
なゆたたちは飛空艇の回収と世界の破滅阻止を兼ね、巨大ドリル内部へ突入した。復活した罠とモンスターの群れを突破するため、ジョンは自らブラッドラストを発動する。圧倒的な力で敵を蹴散らしていく彼へ、明神とガザーヴァは「そんな力がなくても勝てる」と戦いを挑んだ。
二人はジョンが狙う敵を先回りして倒し続ける。ジョンを役立たずにするためではない。呪いを使わなくても、自分たちは彼とともに進めると証明するためだった。ガザーヴァも、かつてはブラッドラストの力を羨んでいたと語りながら、今はそんなものはいらないと言い切る。正義の味方になり、明神と一緒に生きるという目的を見つけたからだ。
最深部へ到達した一行を待っていたのは、ロイと五十体の武装ゴブリン――そして、別れたはずのマルグリットたちだった。
マルグリットはロイの戦いを見届けるようゴットリープから命じられていた。だが、一方的な銃殺を戦いとは認めず、ロイへ正々堂々と勝負するよう迫る。両者が衝突しかけるなか、なゆたたちと親衛隊もそれぞれ激突する。
なゆたとポヨリンは、かつて彼女を師匠と呼んだきなこもち大佐とスライム使い同士の決闘へ。明神とヤマシタは、シェケナベイベとアニヒレーターによる音響攻撃へ立ち向かう。カザハとガザーヴァは、未来を読むように先回りしてくるさっぴょんのミスリル騎士団に翻弄される。エンバースはレイド級モンスター、アニマガーディアンを従えたマルグリットと対峙した。
そしてジョンは、ロイと二人きりで過去の決着をつける。
二人の因縁は、ロイの妹シェリーの死から始まっていた。幼いころ、ジョン、ロイ、シェリーと愛犬の部長は家族同然に過ごしていた。だが山で熊に襲われ、シェリーは崖から転落。全身に致命傷を負い、助かる見込みのない苦痛のなか、彼女自身がジョンへ死なせてほしいと頼んだ。
ジョンはシェリーの願いを聞き入れ、その命を絶った。
誰かに裁かれることもなく英雄として扱われたジョンは、自分だけが生き残った罪に苦しみ続けた。一方、妹を奪われたロイはジョンを憎み、彼を殺すため軍人となった。二人ともシェリーの死から一歩も進めないまま、異世界で再会してしまったのだ。
ロイもまたブラッドラストを身につけていた。だが、殺意へ身を委ねることのできないロイは、その力を完全には扱えない。対してジョンは、ロイに右腕を切断された激痛をきっかけに、呪いへ完全に呑み込まれていく。
モンスターと化したジョンはロイを圧倒する。自分は元々殺し合いを好む化け物であり、ブラッドラストはその本性を映しただけだと言い放つ。ロイを殺して自分も死ねば、もう誰も不幸にせずに済む――それがジョンの出した結論だった。
そのころ、ほかの戦いにも決着がつき始める。なゆたは師匠越えを狙うきなこもち大佐を破り、明神は初代マホロの羽根を用いた《怨身換装・歌姫》でシェケナベイベとの音の激突を制する。エンバースはマルグリットに敗れるものの、《真理の》アラミガがバロールの依頼を受けて救援に現れ、マルグリットを引き受ける。
カザハとガザーヴァも、さっぴょんの騎士団を相手に追い詰められていた。自分は平凡なモンスターにすぎず、戦っても役に立てない。そう諦めかけたカザハは、精神世界で「一巡目」のカザハと出会う。
そこで明かされたのは、カザハが風精王を継ぐ資格《レクス・テンペスト》を持つ、特別なシルヴェストルだったという事実。一巡目のカザハからその力を託された彼は、新たな固有スキル《響き合う星辰の調べ》を発動する。仲間の数と強さに応じて全員の力を増幅する、独りでは決して完成しない力だった。
強化された一行は親衛隊を退け、ジョンのもとへ集結する。
ジョンは血で殺人鬼の仮面と斧を作り、これまで殺した者を模した血人形を無数に生み出す。パートナーである部長さえ遠くへ蹴り飛ばし、自分にはもう何も残っていないと拒絶する。
だが、部長を受け止めたなゆたは諦めなかった。
明神は、化け物という言葉へ逃げるなとジョンを怒鳴る。シェリーを殺したのも、その罪に苦しんでいるのも、怪物ではなくジョン・アデルという一人の人間だ。エンバースはロイの安否を気にしたジョンの反応から、彼の人間性がまだ残っていることを暴く。カザハは自分の弱さや迷いもさらけ出し、それでも仲間とともに生きる道を選ぶ。
そしてなゆたは、誰の心にも恐ろしい部分はあると告げる。それを持っているから人間ではないのではない。抱えたまま何を選ぶかが、その人を決めるのだ。
なゆたはジョンへ最後の勝負を挑んだ。仲間全員の力を部長へ集中させ、ジョン自身に受け止めさせる。黄金の光をまとった小さな部長は、呪血の軍勢を突破して主人のもとへ飛び込んだ。
部長という名は、ジョンが失ったシェリーと、その愛犬の記憶につながっている。罪の証であると同時に、彼が捨てきれなかった幸福な過去と、人間性の名残でもあった。
部長を受け止めたジョンの心は、ついに殺人鬼の仮面から引き戻される。
しかし、暴走したブラッドラストはすでにジョンの意思を離れ、彼が気絶すれば仲間を襲って血を奪うところまで進行していた。その血人形を一瞬で斬り伏せたのは、幼い少女の姿をしたシェリーだった。
彼女は生き返ったわけではない。ジョンへ取り憑き、呪いの中に残り続けていた魂。そのシェリーが、ようやくジョン本人の前へ姿を現したのだ。
シェリーは兄ロイについて多くを語らず、いずれ彼には相応の罰が下ると告げる。そして仲間たちへ、これからもジョンをよろしく頼むと言い残し、彼を蝕んでいたブラッドラストとともに消滅した。
長年ジョンを縛りつけていた呪いは、こうして解かれた。
一方、敗れたロイの処遇を巡り、一行の意見は割れる。アイアントラスの虐殺を許せない明神は殺すべきだと主張し、ジョンは満身創痍の身体でロイを庇う。カザハは今のロイに脅威はないとして助命を求める。
最後になゆたは、敵であろうと誰も死なせず世界を救うと決める。ここで一度「殺して解決する」ことを選べば、もうその信念を貫けなくなる。たとえ理想論でも、今はまだ諦めるときではない。
だがロイはすでに致命傷を負っていた。しかも、アニマコアを破壊すれば五分で内部が崩壊するよう、ニヴルヘイムによって仕組みが変更されている。今から全員で脱出するのは不可能だった。
ロイは最後に、格納庫を十五分後に開くと約束する。自分が残ってシステムを操作し、なゆたたちをヴィゾフニールへ逃がすつもりだった。
ジョンは必死にロイを救おうとする。だがロイは、自分がしてきたことの結末を受け入れていた。かつて自分とシェリーだけがジョンの世界のすべてだった。しかし今のジョンには、自分を殺させず、化け物にもさせず、力ずくで連れ戻してくれる仲間がいる。
ロイはジョンへ、いい仲間を持ったなと告げる。
十五分後、約束どおり格納庫が開く。なゆたたちはヴィゾフニールへ駆け込み、レプリケイトアニマから脱出。飛空艇の発進直後、巨大ドリルは崩壊し、ロイはその内部に残ったまま消えていった。
シェリーに続いて、ロイまで失ったジョンへ、仲間たちはかける言葉を見つけられない。だがジョン自身は密かに、失われた存在を蘇らせる技術がこの世界にあるかもしれないと考え始めていた。たとえなゆたたちを裏切ることになっても、ロイとシェリーを取り戻したい――新たな執着が、彼の中に芽生えていた。
さらにエーデルグーテ行きも中断される。ブラッドラストが消滅したため、バロールは急遽、一行へ風渡る始原の草原へ向かうよう指示する。バロールが同盟を結ぼうとしていたもう一人の人物――かつて大軍を率いて世界制覇を目指した覇王が、始原の草原へ侵攻を開始したのだ。
ヴィゾフニールは進路を変え、カザハの故郷へ向かう。
その夜、ガザーヴァは明神へ苦しみを打ち明けた。自分はカザハを忠実にコピーして作られ、戦闘能力ではカザハを上回っている。それなのに、風精王の資格を持つカザハだけが「特別」で、自分にはその力がない。
コピーのはずなのに、なぜ自分は同じではないのか。
明神は、特別はひとつではないと伝えようとする。しかしガザーヴァは答えを聞く前に話を打ち切り、その場を去る。
そして翌朝、飛行中のヴィゾフニールからガザーヴァの姿が消えていた。
カザハが自分だけの力を取り戻した一方で、その模造品として生まれたガザーヴァは、自分が何者なのか分からなくなってしまった。互いを「上位互換」と恐れ、居場所を奪い合うように感じていた二人。その関係に答えが出ないまま、一行はガザーヴァを欠いて、風渡る始原の草原へ突入することになる。

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最終更新:2026年08月13日 20:58