「まあ、何でもいいさ。おネェちゃんくらいの器量良しなら、俺の女にして
やってもいいぜ。山賊の首領の花嫁ってヤツだ。悪かねぇだろ?」
「…?」
倒された仲間達に目もくれず、首領の男はいやらしい笑みを張り付かせな
がら、元親に問い掛けてきた。
思惑はどうあれ、自分の外見について好意的な形容をされた元親は、不覚に
もほんの一瞬だけ心が揺らめきかけたが、
やってもいいぜ。山賊の首領の花嫁ってヤツだ。悪かねぇだろ?」
「…?」
倒された仲間達に目もくれず、首領の男はいやらしい笑みを張り付かせな
がら、元親に問い掛けてきた。
思惑はどうあれ、自分の外見について好意的な形容をされた元親は、不覚に
もほんの一瞬だけ心が揺らめきかけたが、
(浮かれてんじゃねぇぞ、ブスが)
間髪入れずに、すっかり元親の頭に刷り込まれてしまった小十郎の揶揄が、
彼女の浮ついた気持ちを一瞬で吹き飛ばした。
彼女の浮ついた気持ちを一瞬で吹き飛ばした。
「──こんな所まで出てくんなよ!」
「……はぁ?」
「な…何でもねぇ。とにかくお断りだ!海賊が山賊の世話になんざなるか!」
「へぇ。こりゃあ、随分と可愛い海賊もいたモンだなあ。海賊のおネェち
ゃんなら、俺ら山賊の気持ちも判るだろ?」
「……はぁ?」
「な…何でもねぇ。とにかくお断りだ!海賊が山賊の世話になんざなるか!」
「へぇ。こりゃあ、随分と可愛い海賊もいたモンだなあ。海賊のおネェち
ゃんなら、俺ら山賊の気持ちも判るだろ?」
自分の胸元や腰に絡みつく男の視線に不快感を覚えながら、元親は厳しい表
情を向ける。
「判んねぇな。俺ら海賊は、お宝を手に入れるのに、無差別に船を襲うよう
な真似はしねぇ。漁師が魚を獲る時、むやみに海を引っ掻き回さねぇのと、
おんなじ事だ」
「……」
「テメェやテメェの仲間からは、その『賊』の掟や仁義の微塵も感じられね
ぇ。そんなヤツらの言葉を、俺が信じるとでも思ってんのか?」
「ちょっとおだててやれば、簡単に引っ掛かるかと思っていたが…甘かった
って所か。ションベン臭い小娘が、調子に乗りやがって」
「生憎、そういった罵詈雑言は慣れっこなんだ…いいぜ。この『鬼』が、オ
メェに海賊の流儀ってヤツ、教えてやらあ!」
情を向ける。
「判んねぇな。俺ら海賊は、お宝を手に入れるのに、無差別に船を襲うよう
な真似はしねぇ。漁師が魚を獲る時、むやみに海を引っ掻き回さねぇのと、
おんなじ事だ」
「……」
「テメェやテメェの仲間からは、その『賊』の掟や仁義の微塵も感じられね
ぇ。そんなヤツらの言葉を、俺が信じるとでも思ってんのか?」
「ちょっとおだててやれば、簡単に引っ掛かるかと思っていたが…甘かった
って所か。ションベン臭い小娘が、調子に乗りやがって」
「生憎、そういった罵詈雑言は慣れっこなんだ…いいぜ。この『鬼』が、オ
メェに海賊の流儀ってヤツ、教えてやらあ!」
男から放たれた鉄球を横に避けると、元親は、武器の碇の部分に足を駆け、
地を蹴った。
すると摩擦力か何かの影響か、元親を乗せた碇槍は、まるで波打つような炎
と共に、男目掛けて突進していく。
そうはさせじ、と再度男の鉄球が元親の攻撃を阻まんと迫ってきたが、元親
は絶妙な均衡を保ちながら、それらを器用に擦り抜けていく。
やがて、何度目かの男の鉄球を交わすと、裂帛と同時に碇槍ごと大きく跳躍
した。
地を蹴った。
すると摩擦力か何かの影響か、元親を乗せた碇槍は、まるで波打つような炎
と共に、男目掛けて突進していく。
そうはさせじ、と再度男の鉄球が元親の攻撃を阻まんと迫ってきたが、元親
は絶妙な均衡を保ちながら、それらを器用に擦り抜けていく。
やがて、何度目かの男の鉄球を交わすと、裂帛と同時に碇槍ごと大きく跳躍
した。
「食らえ!」
「……させるかぁ!」
「……させるかぁ!」
だが、炎を纏った元親が男を捕らえんとした瞬間、男の手から鉄球とは反対
側の武器の柄が、彼女のこめかみを狙ってきた。
柄とはいえ、鋼鉄で出来たそれを、至近距離で食らえばひとたまりもない。
間二、三髪、という所で、辛うじて身を捻り直撃を防いだが、空中で僅かに
体勢を崩した元親を、男は見逃さなかった。
丸太のような太い足を振り上げると、元親のわき腹に蹴りを入れる。
側の武器の柄が、彼女のこめかみを狙ってきた。
柄とはいえ、鋼鉄で出来たそれを、至近距離で食らえばひとたまりもない。
間二、三髪、という所で、辛うじて身を捻り直撃を防いだが、空中で僅かに
体勢を崩した元親を、男は見逃さなかった。
丸太のような太い足を振り上げると、元親のわき腹に蹴りを入れる。
「くぁっ!」
落下の際に背中を打った元親は、短く叫ぶと、息苦しさに咳き込んだ。
勝ち誇ったような表情の男を睨み返すも、隠し切れない苦痛と疲労に、全身
が悲鳴を上げていくのを覚える。
「どうした?小娘。山じゃ海賊の技も、通じねぇってトコか?」
「く…」
懸命に立ち上がろうとする元親を一笑に伏すと、男は、すっかり勝利を確信し
たかのような表情を浮かべながら、元親へと歩み寄ってきた。
「安心しな、直ぐには殺しゃしねぇ。槍使いの上手なおネェちゃんに、俺の『槍』
を手入れして貰うだけだ。念入りにな」
「だ…誰がお前なんか!」
「まだ強情張るのかい。可愛がり甲斐があるじゃねぇか」
片膝を着いたまま、痛みに顔を顰めている元親を、男はわざと哀れむように
見下ろす。
落下の際に背中を打った元親は、短く叫ぶと、息苦しさに咳き込んだ。
勝ち誇ったような表情の男を睨み返すも、隠し切れない苦痛と疲労に、全身
が悲鳴を上げていくのを覚える。
「どうした?小娘。山じゃ海賊の技も、通じねぇってトコか?」
「く…」
懸命に立ち上がろうとする元親を一笑に伏すと、男は、すっかり勝利を確信し
たかのような表情を浮かべながら、元親へと歩み寄ってきた。
「安心しな、直ぐには殺しゃしねぇ。槍使いの上手なおネェちゃんに、俺の『槍』
を手入れして貰うだけだ。念入りにな」
「だ…誰がお前なんか!」
「まだ強情張るのかい。可愛がり甲斐があるじゃねぇか」
片膝を着いたまま、痛みに顔を顰めている元親を、男はわざと哀れむように
見下ろす。




