畳の上に押し付けられ、顔をしかめた。
不自然に伸ばした両腕を左手一つでつかまれ、頭上に上げられる。無理やり
動かされたため背がしなる。
痛い、と素直に文句を言えばいい。どんな命令を下したところで、小十郎が政宗を乱暴に
扱うことは絶対にありえない。
今日だけは、と政宗は歯を食いしばって痛みをやり過ごした。
「政宗様」
小十郎の左手が動く。政宗の腕を撫でて持ち上げる。二の腕の内側の、ひときわ柔らかな部分に
唇が当たる。ぴちゃ、と濡れた音が聞こえる。その音は先ほどの口淫の音とよく似ていて、
政宗は顔をひねって逃げた。顔が火照る。
唇がすうっと腕から手へと移動した。ただ舐められているだけなのに、体が疼く。
小十郎の舌が政宗の手を舐めた。五指を口に含まれる。生温い温度が、蠢く舌が、
ぴちゃぴちゃと濡れた音が、政宗を嬲る。
光を奪われ、今の政宗はいつも以上に皮膚感覚が鋭敏になっている。小十郎の舌が
どう動くか大体の予測はつくのに、体が熱くなっていく速さが尋常ではない。
「……ぁ………は、」
手を投げ出される。小十郎の体温が離れる。どこに行った、と小十郎を探す。すぐに
見つかったが、やんわりと腕を外された。
「……俺の好きにしていいんでしょう?」
愉悦を含んだ声。いつもなら「勝手にするな」と罵るが、今日はできない。
小十郎に主導権がある。どう動くのか決めていいのは小十郎だ。
「だって、見えない……」
「どこにも行きませんよ」
そんなことを言われても、小十郎の体温が傍にないだけで不安になってしまう。自暴自棄に
なったせいで荒んだ精神が、小十郎を必死に求める。
右のまなこが光を失って、政宗はずっと世界を閉じた。掬い上げたのは小十郎だった。
小十郎がいなければ何もできない。
幼いままだ、と己を嘲笑う。
ぎゅっと両手で拳を握り、体をうつ伏せにした。耳を凝らし、音だけで小十郎を探す。
かたん、と櫃の開くような音を近くで聞いた。櫃はすぐに閉まる。
しゅ、と衣擦れの音がした。長い布だ。おそらく、手拭。鋭敏になった耳はそれだけの
情報を政宗にもたらす。
「……逃げる、つもりですか?」
「ちが」
「そうはいきません」
背中に小十郎を感じた。
胸の前で手首をぐるぐると執拗に縛られる。巻き方こそ執拗だが、敵を縛るような
きついものではなく、もがいたら取れそうな結び方だった。手加減のつもりなのか、
ただの趣向のつもりなのか。
これを解いてはいけない。小十郎をますます怒らせてしまう、と言い聞かせる。
「なかなかいい眺めだ。ご気分はいかがですか?」
「……bad。最悪だ」
「減らず口を」
背中に小十郎が圧し掛かってくる。ぴちゃ、と濡れた音を立ててうなじを舐められ、
歯を立てられる。
「ん……!」
指が政宗の胸元を探り出した。小十郎の指は政宗の乳首を摘み、爪で弄る。与えられる
場所が絶妙で、政宗は声を抑えることができない。耳を塞ぎたくなるような甘えた声に
羞恥を覚え、歯を食いしばる。
歯が耳たぶに触れてきた。甘く耳朶を噛まれることに弱い。手はまだ胸を弄っている。
「んんんっ!」
必死に声を抑えるが、漏れてしまう。体を捩ると、小十郎の喉が動いた。耳元で
おかしそうに笑っている。低く心地いい声が耳をくすぐり、体がとろんと蕩けていく。
「何が、おかしいんだよ」
「いえ。政宗様にも羞恥心があったのかと感心しておりました」
「てめぇ、過ぎた――ひゃあっ!」
反論しようと口を開けたままだったので、間抜けなほど大きな声を上げた。
「声を抑える必要などありますまい」
手が胸を包む。小十郎の熱い体温が体に沁みこんでくる。
ゆっくりとした動きで手が腹を撫でる。臍を引っかくような動きをしたかと思えば
背を執拗に撫で、口付けを落としてくる。微かな痛みと快感を覚えるが、肝心の刺激は
いつまでたっても与えられない。一度頂点を迎えて満足したというのだろうか。
普段なら罵って強引に跨るところだが、ぐっとこらえる。嬲られるような快楽も悪くない。
執拗に背中を愛撫されることも、跡を残す口付けも初めてだった。どの辺りが感じるのか
など互いに分かるはずもないが、小十郎は不規則に、まるで心得でもあるかのように
次々と跡を残していく。
不自然に伸ばした両腕を左手一つでつかまれ、頭上に上げられる。無理やり
動かされたため背がしなる。
痛い、と素直に文句を言えばいい。どんな命令を下したところで、小十郎が政宗を乱暴に
扱うことは絶対にありえない。
今日だけは、と政宗は歯を食いしばって痛みをやり過ごした。
「政宗様」
小十郎の左手が動く。政宗の腕を撫でて持ち上げる。二の腕の内側の、ひときわ柔らかな部分に
唇が当たる。ぴちゃ、と濡れた音が聞こえる。その音は先ほどの口淫の音とよく似ていて、
政宗は顔をひねって逃げた。顔が火照る。
唇がすうっと腕から手へと移動した。ただ舐められているだけなのに、体が疼く。
小十郎の舌が政宗の手を舐めた。五指を口に含まれる。生温い温度が、蠢く舌が、
ぴちゃぴちゃと濡れた音が、政宗を嬲る。
光を奪われ、今の政宗はいつも以上に皮膚感覚が鋭敏になっている。小十郎の舌が
どう動くか大体の予測はつくのに、体が熱くなっていく速さが尋常ではない。
「……ぁ………は、」
手を投げ出される。小十郎の体温が離れる。どこに行った、と小十郎を探す。すぐに
見つかったが、やんわりと腕を外された。
「……俺の好きにしていいんでしょう?」
愉悦を含んだ声。いつもなら「勝手にするな」と罵るが、今日はできない。
小十郎に主導権がある。どう動くのか決めていいのは小十郎だ。
「だって、見えない……」
「どこにも行きませんよ」
そんなことを言われても、小十郎の体温が傍にないだけで不安になってしまう。自暴自棄に
なったせいで荒んだ精神が、小十郎を必死に求める。
右のまなこが光を失って、政宗はずっと世界を閉じた。掬い上げたのは小十郎だった。
小十郎がいなければ何もできない。
幼いままだ、と己を嘲笑う。
ぎゅっと両手で拳を握り、体をうつ伏せにした。耳を凝らし、音だけで小十郎を探す。
かたん、と櫃の開くような音を近くで聞いた。櫃はすぐに閉まる。
しゅ、と衣擦れの音がした。長い布だ。おそらく、手拭。鋭敏になった耳はそれだけの
情報を政宗にもたらす。
「……逃げる、つもりですか?」
「ちが」
「そうはいきません」
背中に小十郎を感じた。
胸の前で手首をぐるぐると執拗に縛られる。巻き方こそ執拗だが、敵を縛るような
きついものではなく、もがいたら取れそうな結び方だった。手加減のつもりなのか、
ただの趣向のつもりなのか。
これを解いてはいけない。小十郎をますます怒らせてしまう、と言い聞かせる。
「なかなかいい眺めだ。ご気分はいかがですか?」
「……bad。最悪だ」
「減らず口を」
背中に小十郎が圧し掛かってくる。ぴちゃ、と濡れた音を立ててうなじを舐められ、
歯を立てられる。
「ん……!」
指が政宗の胸元を探り出した。小十郎の指は政宗の乳首を摘み、爪で弄る。与えられる
場所が絶妙で、政宗は声を抑えることができない。耳を塞ぎたくなるような甘えた声に
羞恥を覚え、歯を食いしばる。
歯が耳たぶに触れてきた。甘く耳朶を噛まれることに弱い。手はまだ胸を弄っている。
「んんんっ!」
必死に声を抑えるが、漏れてしまう。体を捩ると、小十郎の喉が動いた。耳元で
おかしそうに笑っている。低く心地いい声が耳をくすぐり、体がとろんと蕩けていく。
「何が、おかしいんだよ」
「いえ。政宗様にも羞恥心があったのかと感心しておりました」
「てめぇ、過ぎた――ひゃあっ!」
反論しようと口を開けたままだったので、間抜けなほど大きな声を上げた。
「声を抑える必要などありますまい」
手が胸を包む。小十郎の熱い体温が体に沁みこんでくる。
ゆっくりとした動きで手が腹を撫でる。臍を引っかくような動きをしたかと思えば
背を執拗に撫で、口付けを落としてくる。微かな痛みと快感を覚えるが、肝心の刺激は
いつまでたっても与えられない。一度頂点を迎えて満足したというのだろうか。
普段なら罵って強引に跨るところだが、ぐっとこらえる。嬲られるような快楽も悪くない。
執拗に背中を愛撫されることも、跡を残す口付けも初めてだった。どの辺りが感じるのか
など互いに分かるはずもないが、小十郎は不規則に、まるで心得でもあるかのように
次々と跡を残していく。




