女の口数の少なさは生来のものか、それとも此処で受けた非道な扱いのせいか。
ただぼんやりと壁にもたれ何をするでもなくただそこに在った。せっかく取ってやった目隠しは次に訪れた監視兵に付け直された。
私の手枷も変わらない。日々の食事を終えしばらくすると、牢から出され厠に連れて行かれる。
そこでも枷は外されず、屈辱のまま用を済ませば着物を剥がれ湿った布で全身を磨かれた。
定期的な食事と清潔を保たれ、確かに虜囚としては良い待遇なのだろう。
世話をする兵達も下卑た発言をする訳でもなく、ただ黙々と作業するだけなのも安堵出来た。
ただぼんやりと壁にもたれ何をするでもなくただそこに在った。せっかく取ってやった目隠しは次に訪れた監視兵に付け直された。
私の手枷も変わらない。日々の食事を終えしばらくすると、牢から出され厠に連れて行かれる。
そこでも枷は外されず、屈辱のまま用を済ませば着物を剥がれ湿った布で全身を磨かれた。
定期的な食事と清潔を保たれ、確かに虜囚としては良い待遇なのだろう。
世話をする兵達も下卑た発言をする訳でもなく、ただ黙々と作業するだけなのも安堵出来た。
幾日がたったのかは定かではない。
ずっと長い間のように思えるが、伸びた爪が邪魔にならない程度なので実際には僅かな日数なのだろう。
女は時折牢から出され、数刻の後帰ってきた。いつも髪が湿っているのは、汚された後に清められているからか。
何をされているのかは分かる。消耗した女が這って布団に横たわり、泥に沈むように眠る。いつものことだ。
が、今その定型が破られた。女が掠れた声で語りかけてきた。
「そなた、男は知っておるか」
あからさまに色を漂わせた気だるげな声音と、真新しい痣のついた素足を放り投げて問われた内容に息が詰まる。
「必要がなかった」と返せば興味もなさそうに「そうか」と。
ずっと長い間のように思えるが、伸びた爪が邪魔にならない程度なので実際には僅かな日数なのだろう。
女は時折牢から出され、数刻の後帰ってきた。いつも髪が湿っているのは、汚された後に清められているからか。
何をされているのかは分かる。消耗した女が這って布団に横たわり、泥に沈むように眠る。いつものことだ。
が、今その定型が破られた。女が掠れた声で語りかけてきた。
「そなた、男は知っておるか」
あからさまに色を漂わせた気だるげな声音と、真新しい痣のついた素足を放り投げて問われた内容に息が詰まる。
「必要がなかった」と返せば興味もなさそうに「そうか」と。
私には、公私ともに男子の必要がなかった。
女性として生を受けたが浅井の頭首になる事に何の疑問もなかった。むしろ誇らしい天命である。
家というのものは只組織として成り立てばいい。血筋にこだわれば醜い我欲も生じよう。素質ある者、優れた者が上にたてばいいのだ。
織田から妻を娶ったのもその為だ。世は形式で作られる。秩序を重んじ、整然とあればいい。
跡継ぎは追って優秀な若者を養子に迎えるつもりであった。
そうして生きてきた私には、男に抱かれる必要など一欠けらも感じなかったのだ。それが今では……
私も間を置かず、この女と同じ身分に堕とされるのだろう。それならばいっそ、舌を噛んで誇りを守るか。
……いいや。私にそれは出来ない。そうと分かっていて口枷を着けないのだろう。あやつらは。
出会いが政の為だったとはいえ、私は妻を愛していた。彼女が生きている限りは死を選ぶなどとんでもない。
今頃はどこにいるのだろう。織田に帰ったか、それとも豊臣の下で苦渋に耐えているか。
それでも、生きていてくれるならそれでいい。市、私の事は考えに入れず、お前は残りの生を幸せに過ごせ。
けれど。いつか、いつかここを抜け出して、そしてお前も無事なら、市、今度こそ離れる事のないよう、二人添い遂げよう。
取り留めなく思考を紡いでいると、ちいさな寝言が聞こえた。
「…にいさま……」
ああ、この女にも兄がいるのか。
市を思わせるため息のような声と、やはり市が兄を呼ぶのと同じ言い方に親しみを覚えた。
女性として生を受けたが浅井の頭首になる事に何の疑問もなかった。むしろ誇らしい天命である。
家というのものは只組織として成り立てばいい。血筋にこだわれば醜い我欲も生じよう。素質ある者、優れた者が上にたてばいいのだ。
織田から妻を娶ったのもその為だ。世は形式で作られる。秩序を重んじ、整然とあればいい。
跡継ぎは追って優秀な若者を養子に迎えるつもりであった。
そうして生きてきた私には、男に抱かれる必要など一欠けらも感じなかったのだ。それが今では……
私も間を置かず、この女と同じ身分に堕とされるのだろう。それならばいっそ、舌を噛んで誇りを守るか。
……いいや。私にそれは出来ない。そうと分かっていて口枷を着けないのだろう。あやつらは。
出会いが政の為だったとはいえ、私は妻を愛していた。彼女が生きている限りは死を選ぶなどとんでもない。
今頃はどこにいるのだろう。織田に帰ったか、それとも豊臣の下で苦渋に耐えているか。
それでも、生きていてくれるならそれでいい。市、私の事は考えに入れず、お前は残りの生を幸せに過ごせ。
けれど。いつか、いつかここを抜け出して、そしてお前も無事なら、市、今度こそ離れる事のないよう、二人添い遂げよう。
取り留めなく思考を紡いでいると、ちいさな寝言が聞こえた。
「…にいさま……」
ああ、この女にも兄がいるのか。
市を思わせるため息のような声と、やはり市が兄を呼ぶのと同じ言い方に親しみを覚えた。




