「それで、お館様とは仲睦まじくやってんの?」
政宗は息を詰めた。その一瞬を佐助は見逃さない。
「そりゃ……仲が悪くなる、理由なんかねぇし」
「そ」
政宗は俯く。佐助は政宗のうなじを見た。日の光に当たったことがなさそうな色だ。
顔の左半分以外を隠すような装束で戦場に出ていたし、普段もきっちりと着物を
着ていたという。元々の色が白いのだろう。
武田の側室に収まってからは遠出もせずに、館の奥で静かに暮らしている。
疱瘡の跡は、言われないと分からないくらい薄い。着物の下の肌は、
きっと眩しいくらい白いだろう。
幸村はそれを知っているのだろうか。知っているとは思えないが。
いずれ、政宗は子を産むだろう。信玄は頻繁にこの棟に通っているというし、
近いうちに御懐妊の報せを聞くことになりそうだ。
きっと、第一に幸村がそのことを聞くだろう。もしかしたら、子の守り役に
任ぜられるかもしれない。そうなったら幸村は断ることなどできない。
政宗が信玄を「夫」と慕う姿。子を孕んだ姿。子を慈しむ姿。
ずっと、見ることになる。
その度に、幸村は泣くだろう。誰にも見せず。ただ一人で、声を殺して。
(――辛いよ)
目の前で泣かれたら、宥めることも叱ることもできる。幸村はそれをしない。矜持なのだろう。
目を真っ赤にした幸村が、鼻にかかった声で「なんでもない」という姿が、
寝所で呻くように泣く声が、どれ程痛ましいか。
政宗は知らない。
知らせてもいけない。
「……ま、精を搾り取ったりしないようにね。大将も若いわけじゃないんだから」
「佐助!」
政宗の声がきつくなった。佐助はけらけら笑って政宗の怒りを受け流した。
政宗は息を詰めた。その一瞬を佐助は見逃さない。
「そりゃ……仲が悪くなる、理由なんかねぇし」
「そ」
政宗は俯く。佐助は政宗のうなじを見た。日の光に当たったことがなさそうな色だ。
顔の左半分以外を隠すような装束で戦場に出ていたし、普段もきっちりと着物を
着ていたという。元々の色が白いのだろう。
武田の側室に収まってからは遠出もせずに、館の奥で静かに暮らしている。
疱瘡の跡は、言われないと分からないくらい薄い。着物の下の肌は、
きっと眩しいくらい白いだろう。
幸村はそれを知っているのだろうか。知っているとは思えないが。
いずれ、政宗は子を産むだろう。信玄は頻繁にこの棟に通っているというし、
近いうちに御懐妊の報せを聞くことになりそうだ。
きっと、第一に幸村がそのことを聞くだろう。もしかしたら、子の守り役に
任ぜられるかもしれない。そうなったら幸村は断ることなどできない。
政宗が信玄を「夫」と慕う姿。子を孕んだ姿。子を慈しむ姿。
ずっと、見ることになる。
その度に、幸村は泣くだろう。誰にも見せず。ただ一人で、声を殺して。
(――辛いよ)
目の前で泣かれたら、宥めることも叱ることもできる。幸村はそれをしない。矜持なのだろう。
目を真っ赤にした幸村が、鼻にかかった声で「なんでもない」という姿が、
寝所で呻くように泣く声が、どれ程痛ましいか。
政宗は知らない。
知らせてもいけない。
「……ま、精を搾り取ったりしないようにね。大将も若いわけじゃないんだから」
「佐助!」
政宗の声がきつくなった。佐助はけらけら笑って政宗の怒りを受け流した。