「あんたの子供が欲しい」
これ以上の望みはない。言葉も出てこない。
信玄は目を細め、政宗の髪を梳いた。耳を撫で、頬に手を添えた。
「言うてくれるのう、伊達よ」
信玄の胸に顔を寄せ、目を閉じた。顎を取られ顔を上げる。
「ん……」
酒の香りが残る舌を受け入れる。腕を首に絡めた。剃髪した頭は、絡まるものがない。
体が甘く疼く。いつの間にか、信玄に抱かれることに慣れ、悦びさえ覚えるようになった。
体を快楽に任せることはたやすい。信玄の技巧は、男を知らなかった政宗を簡単に飲み込んだ。
だがそれは、無上の歓喜と呼べるようなものではない。
心のどこかが冷えていた。信玄に抱かれれば抱かれる程、心が冷えて固まっていく。
――もう、手を取ることもないだろう。会うとしたら、それは「主君の側室」としてだ。
子を産めば、守り役を任せるかもしれない。子供と幸村が打ち合う姿を見て、
まだ奥州の筆頭だった頃を思い出すのもいいだろう。
それでいい。
唇が離れた。濡れた目で信玄を見上げると、信玄は笑っていた。
「続きは閨での。このような場で行えば、女中に怒られるわ」
「そうだな。――それではお館様、閨でお待ちしております」
唇に触れるだけの接吻を贈り、政宗は信玄から離れて着物を調えた。
信玄は袖を揺らして立ち上がり、部屋を立ち去った。近習が怪訝そうな顔を向けるので、
舌を出してからかった。
打掛をかい取って歩き、閨に向かう。体は既に清めてある。
幸村が「お館様」と慕い、暑苦しい主従愛を見せるだけの男だ。為政者としての手腕も、
大将としての器も、何もかもが大きい。安心して奥州を任せられる。
(そういえば、今、誰が奥州を治めてるんだ?)
小十郎は武田の軍門に下ったというから、彼だろうか。知行はどれくらいもらったのだろう。
まさか、奥州全土ということはあるまい。
(閨で聞く話じゃねぇし、明日聞くか)
信玄がどんな女を好むかは知らない。だが、閨で政の話をして喜ぶとも思えない。
(……そうだ。着物のことを聞こう)
信玄はどんな着物を好むのだろう。正室から聞いてもいいけれど、
やはり本人の好みを知っておきたい。
自室に戻り、小箱を開けた。幸村から貰った紐を手に取る。
上田の職人が織る紐を真似て、幸村が織ったという。慣れない機織なんかするものだから、
滅茶苦茶だ。組紐みたいになっている。
夜着に着替え、鬘を梳いた。この鬘の世話にならないようになるまで、あとどれくらいかかるだろう。
髪を、紐でくくる。
信玄を待つために、閨に入る。鬘が揺れ、紐がしゃらしゃらと音を立てた。
これ以上の望みはない。言葉も出てこない。
信玄は目を細め、政宗の髪を梳いた。耳を撫で、頬に手を添えた。
「言うてくれるのう、伊達よ」
信玄の胸に顔を寄せ、目を閉じた。顎を取られ顔を上げる。
「ん……」
酒の香りが残る舌を受け入れる。腕を首に絡めた。剃髪した頭は、絡まるものがない。
体が甘く疼く。いつの間にか、信玄に抱かれることに慣れ、悦びさえ覚えるようになった。
体を快楽に任せることはたやすい。信玄の技巧は、男を知らなかった政宗を簡単に飲み込んだ。
だがそれは、無上の歓喜と呼べるようなものではない。
心のどこかが冷えていた。信玄に抱かれれば抱かれる程、心が冷えて固まっていく。
――もう、手を取ることもないだろう。会うとしたら、それは「主君の側室」としてだ。
子を産めば、守り役を任せるかもしれない。子供と幸村が打ち合う姿を見て、
まだ奥州の筆頭だった頃を思い出すのもいいだろう。
それでいい。
唇が離れた。濡れた目で信玄を見上げると、信玄は笑っていた。
「続きは閨での。このような場で行えば、女中に怒られるわ」
「そうだな。――それではお館様、閨でお待ちしております」
唇に触れるだけの接吻を贈り、政宗は信玄から離れて着物を調えた。
信玄は袖を揺らして立ち上がり、部屋を立ち去った。近習が怪訝そうな顔を向けるので、
舌を出してからかった。
打掛をかい取って歩き、閨に向かう。体は既に清めてある。
幸村が「お館様」と慕い、暑苦しい主従愛を見せるだけの男だ。為政者としての手腕も、
大将としての器も、何もかもが大きい。安心して奥州を任せられる。
(そういえば、今、誰が奥州を治めてるんだ?)
小十郎は武田の軍門に下ったというから、彼だろうか。知行はどれくらいもらったのだろう。
まさか、奥州全土ということはあるまい。
(閨で聞く話じゃねぇし、明日聞くか)
信玄がどんな女を好むかは知らない。だが、閨で政の話をして喜ぶとも思えない。
(……そうだ。着物のことを聞こう)
信玄はどんな着物を好むのだろう。正室から聞いてもいいけれど、
やはり本人の好みを知っておきたい。
自室に戻り、小箱を開けた。幸村から貰った紐を手に取る。
上田の職人が織る紐を真似て、幸村が織ったという。慣れない機織なんかするものだから、
滅茶苦茶だ。組紐みたいになっている。
夜着に着替え、鬘を梳いた。この鬘の世話にならないようになるまで、あとどれくらいかかるだろう。
髪を、紐でくくる。
信玄を待つために、閨に入る。鬘が揺れ、紐がしゃらしゃらと音を立てた。




