あれから二年。
佐助がゆきと名を変え城下に降りてから、幸村は何度もゆきの所に通った。
もう佐助は死んだのだから、ゆきは佐助と呼ばれても答えないし、もう幸村を『旦那』とは呼ばない。
「ゆき」
「はい?」
ゆきの姿を見るたびに幸村は胸を締め付けられる思いがする。
あのしなやかで軽やかな身ごなしはもう戻って来ない。
死地にあって不敵に笑うあの顔を見る事もない。
もう、共に戦場を駆ける事は出来ない。
取り戻せないものを悔やむだけではない。
その壊れ物のような身体を抱き締めたい、大人しやかな笑顔を見つめていたいと願う幸村がいる。
ゆきは、自分から幸村の手を取った。
そっと、何をするにも豪快な幸村の手がためらいながらゆきの腰を抱く。
熱い胸の中に抱き込まれる瞬間いつもゆきは何が正しいのかわからなくなってしまう。
ゆきは、何もしない。
随分と大人びた幸村にされるがまま、寝間に連れ込まれ、柔らかな布団の上にそっと横たえられる。
ゆき、と名を呼ぶたびに微かな戸惑いを幸村が覗かせるのが堪らなく嬉しかった。
幸村の中でまだ『佐助』が生きているのだと。
かつてのように強く口を吸い合う事はない。
幸村は薄く紅を佩いたゆきのくちびるにそと己のくちびるを重ねる。
帯を解いて、着物を開く。
そこにある身体は野生の獣のようにしなやかで力強いものではなく、大きくひきつれた傷を見せるやせ細った壊れかけの身体だ。
幸村はいつも丁寧にゆきの身体を扱った。
愛咬の跡をつけることはなくなった。
本当に生きている肉だと確かめるようにまず片手で折れそうな首の血管をくちびるでなぞり、浮き出た鎖骨に口付ける。
膨らみに乏しい胸に頬を寄せ、不規則な鼓動に聞き入る。
触れる手は愛撫というよりは触診のようなものだ。
ゆきの身体がきちんと動くのか、壊れていないか。
そんな触れられ方でもゆきは小さな声をあげて微かにみじろいだ。
「…っ」
幸村さま、旦那。名を呼ぼうとして、ゆきは戸惑った。
身体を重ねるたびに何と呼べばいいのかわからない。
結局何も言えずに熱い息を吐くだけだった。
骨張った腰をなぞる手が滑り降り、促されるままに脚を開いた。
決して傷つけまいと幸村は気遣うので、嫌だと拒むのは本当は簡単なはずだった。
佐助がゆきと名を変え城下に降りてから、幸村は何度もゆきの所に通った。
もう佐助は死んだのだから、ゆきは佐助と呼ばれても答えないし、もう幸村を『旦那』とは呼ばない。
「ゆき」
「はい?」
ゆきの姿を見るたびに幸村は胸を締め付けられる思いがする。
あのしなやかで軽やかな身ごなしはもう戻って来ない。
死地にあって不敵に笑うあの顔を見る事もない。
もう、共に戦場を駆ける事は出来ない。
取り戻せないものを悔やむだけではない。
その壊れ物のような身体を抱き締めたい、大人しやかな笑顔を見つめていたいと願う幸村がいる。
ゆきは、自分から幸村の手を取った。
そっと、何をするにも豪快な幸村の手がためらいながらゆきの腰を抱く。
熱い胸の中に抱き込まれる瞬間いつもゆきは何が正しいのかわからなくなってしまう。
ゆきは、何もしない。
随分と大人びた幸村にされるがまま、寝間に連れ込まれ、柔らかな布団の上にそっと横たえられる。
ゆき、と名を呼ぶたびに微かな戸惑いを幸村が覗かせるのが堪らなく嬉しかった。
幸村の中でまだ『佐助』が生きているのだと。
かつてのように強く口を吸い合う事はない。
幸村は薄く紅を佩いたゆきのくちびるにそと己のくちびるを重ねる。
帯を解いて、着物を開く。
そこにある身体は野生の獣のようにしなやかで力強いものではなく、大きくひきつれた傷を見せるやせ細った壊れかけの身体だ。
幸村はいつも丁寧にゆきの身体を扱った。
愛咬の跡をつけることはなくなった。
本当に生きている肉だと確かめるようにまず片手で折れそうな首の血管をくちびるでなぞり、浮き出た鎖骨に口付ける。
膨らみに乏しい胸に頬を寄せ、不規則な鼓動に聞き入る。
触れる手は愛撫というよりは触診のようなものだ。
ゆきの身体がきちんと動くのか、壊れていないか。
そんな触れられ方でもゆきは小さな声をあげて微かにみじろいだ。
「…っ」
幸村さま、旦那。名を呼ぼうとして、ゆきは戸惑った。
身体を重ねるたびに何と呼べばいいのかわからない。
結局何も言えずに熱い息を吐くだけだった。
骨張った腰をなぞる手が滑り降り、促されるままに脚を開いた。
決して傷つけまいと幸村は気遣うので、嫌だと拒むのは本当は簡単なはずだった。