「あーらら、手ひどくやられちゃったねえ」
緊迫した空気に似合わぬ、のほほんと呑気な声に、気を失いかけていた幸村がはっと顔を上げた。
ふらふらと頭を揺らしながら後ろを見上げる。自分を支える影の姿を認めた瞬間、その目がさらに
見開かれた。
「佐助!」
「はーい旦那。遅くなっちゃってごめんなさい」
「ごめんではないわ、この一大事にどこへ行っていた!」
「大将掘り出してたんだよ」
逸る幸村に、あのまんまにしといたら困るでしょ、と佐助は小さく肩をすくめた。
「兵士は直垂やら締めすぎたふんどしで悶絶して、みんなまともに動けないし、お館様はお館様で
その一番下でぶっつぶれてるし、もう俺様たーいへんだったんだから」
「ぬう、お館様や勇猛なる武田の兵を、そのような状態に貶めるとは……恐るべし徳川の罠!」
「いや、むしろ罠はあんたなんですけど」
佐助の独り言は、主の耳には届かなかったようだ。
腰をふらつかせながらも、一人かっかと怒りを新たにする幸村に、いっつもこうなんだからと
佐助は呆れ顔で天を仰いだ。
「俺の苦労も聞いてよ……しっかし大将、俺が救出するまでずっと、あの状態で五寸は浮いてたよ。
さすがは甲斐の虎っていうか、見習いたいような見習いたくもないような……」
「ぬおおお!よし佐助、槍を持て!この幸村がお館様の敵を討つ!」
「はあ?あんたふらふらじゃない。てかお乳丸出しでなにいってんの」
緊迫した空気に似合わぬ、のほほんと呑気な声に、気を失いかけていた幸村がはっと顔を上げた。
ふらふらと頭を揺らしながら後ろを見上げる。自分を支える影の姿を認めた瞬間、その目がさらに
見開かれた。
「佐助!」
「はーい旦那。遅くなっちゃってごめんなさい」
「ごめんではないわ、この一大事にどこへ行っていた!」
「大将掘り出してたんだよ」
逸る幸村に、あのまんまにしといたら困るでしょ、と佐助は小さく肩をすくめた。
「兵士は直垂やら締めすぎたふんどしで悶絶して、みんなまともに動けないし、お館様はお館様で
その一番下でぶっつぶれてるし、もう俺様たーいへんだったんだから」
「ぬう、お館様や勇猛なる武田の兵を、そのような状態に貶めるとは……恐るべし徳川の罠!」
「いや、むしろ罠はあんたなんですけど」
佐助の独り言は、主の耳には届かなかったようだ。
腰をふらつかせながらも、一人かっかと怒りを新たにする幸村に、いっつもこうなんだからと
佐助は呆れ顔で天を仰いだ。
「俺の苦労も聞いてよ……しっかし大将、俺が救出するまでずっと、あの状態で五寸は浮いてたよ。
さすがは甲斐の虎っていうか、見習いたいような見習いたくもないような……」
「ぬおおお!よし佐助、槍を持て!この幸村がお館様の敵を討つ!」
「はあ?あんたふらふらじゃない。てかお乳丸出しでなにいってんの」
ぎゃあぎゃあと、前方で繰り広げられる騒ぎを睨みつけていた忠勝が、ふと傍らを見下ろした。
家康は忠勝の足の影にいた。だが先ほどまでの元気はどこへやら、じっと押し黙り、うつむいたままだ。
そしてその手は、むき出しの自分のお腹をそっと押えていた。
気づくや否や、忠勝の目が鋭く光った。
ぎゃりーんと鈍い稼動音に、はっと家康が顔を上げた。
忠勝の体のあちこちから、やたらと騒々しい機械音が上がっている。
山のように立ち尽くし、主を見下ろす忠臣の顔はいつものように表情がないが、発せられる音は
いつもと違って支離滅裂で、ひどく慌しい。
異様に動揺したその響きに、夕日とは違う色でほんのり染まっていた家康の顔が、耳まで赤くなった。
「いや違う!違うぞ!低周波は切ったのだろう!?それはない!大丈夫だ!」
そうではなくてただちょっと、と小声で呟き、家康はまたうつむいて、腹を押えた。
きっちり着込んだ戦装束の中で、唯一むき出しの生身の肌。
それは先ほど忠勝が、抱きかかえ、じかに触れた部分だった。
忠勝の機械音が止まった。真っ赤になってうつむく主の金色の兜を、無表情な目がどこか熱く見つめる。
秋の荒野に、春めいた空気が流れた。
家康は忠勝の足の影にいた。だが先ほどまでの元気はどこへやら、じっと押し黙り、うつむいたままだ。
そしてその手は、むき出しの自分のお腹をそっと押えていた。
気づくや否や、忠勝の目が鋭く光った。
ぎゃりーんと鈍い稼動音に、はっと家康が顔を上げた。
忠勝の体のあちこちから、やたらと騒々しい機械音が上がっている。
山のように立ち尽くし、主を見下ろす忠臣の顔はいつものように表情がないが、発せられる音は
いつもと違って支離滅裂で、ひどく慌しい。
異様に動揺したその響きに、夕日とは違う色でほんのり染まっていた家康の顔が、耳まで赤くなった。
「いや違う!違うぞ!低周波は切ったのだろう!?それはない!大丈夫だ!」
そうではなくてただちょっと、と小声で呟き、家康はまたうつむいて、腹を押えた。
きっちり着込んだ戦装束の中で、唯一むき出しの生身の肌。
それは先ほど忠勝が、抱きかかえ、じかに触れた部分だった。
忠勝の機械音が止まった。真っ赤になってうつむく主の金色の兜を、無表情な目がどこか熱く見つめる。
秋の荒野に、春めいた空気が流れた。
「乙女回路発動中なところ悪いんだけど、俺たちそろそろ帰っちゃってもいい?」
春風を蹴散らす無粋な声に、忠勝がすばやく振り返った。家康も表情一転、ふてぶてしさを
取り戻すと、忠臣の足の影から前方を睨む。
生乳丸出し状態のまま、なおもじたばた暴れる幸村を後ろから羽交い絞めにした佐助が、呑気な顔で
笑っていた。
「何を言っておるかああ!放せ佐助、某はまだまだやれるぞ!」
「今日はもうやめときなって。あんたの負けだよ」
「帰りたいといって帰れると思うか?」
家康が口元を歪ませ、嘲笑うように囁いた。その目はまっすぐ真田主従、ではなくて、
主の動きにあわせてブルンブルン暴れる、幸村の巨乳を睨みつけている。
「やっぱダメ?」
「敗者は責を負わねばならん。それともその方が代わって相手になるか?」
「さあて、俺様も掘り出し作業で疲れてるし。正直、戦国最強と真っ向勝負は分が悪いね」
「だからそーれーがーしーがあああ!」
「あんたはちょっとお黙んなさい」
がっちり拘束を固め直し、ひとまず幸村の動きを封じると、佐助はその肩の後ろから
ひょいと顔を突き出した。
言葉のわりには恐れも見せず、威風堂々立ち尽くす戦国最強とその主を眺め、またにっと笑う。
春風を蹴散らす無粋な声に、忠勝がすばやく振り返った。家康も表情一転、ふてぶてしさを
取り戻すと、忠臣の足の影から前方を睨む。
生乳丸出し状態のまま、なおもじたばた暴れる幸村を後ろから羽交い絞めにした佐助が、呑気な顔で
笑っていた。
「何を言っておるかああ!放せ佐助、某はまだまだやれるぞ!」
「今日はもうやめときなって。あんたの負けだよ」
「帰りたいといって帰れると思うか?」
家康が口元を歪ませ、嘲笑うように囁いた。その目はまっすぐ真田主従、ではなくて、
主の動きにあわせてブルンブルン暴れる、幸村の巨乳を睨みつけている。
「やっぱダメ?」
「敗者は責を負わねばならん。それともその方が代わって相手になるか?」
「さあて、俺様も掘り出し作業で疲れてるし。正直、戦国最強と真っ向勝負は分が悪いね」
「だからそーれーがーしーがあああ!」
「あんたはちょっとお黙んなさい」
がっちり拘束を固め直し、ひとまず幸村の動きを封じると、佐助はその肩の後ろから
ひょいと顔を突き出した。
言葉のわりには恐れも見せず、威風堂々立ち尽くす戦国最強とその主を眺め、またにっと笑う。
「だから徳川の殿様。取引しない?」




