「いいんだ、側にいると浮かれちまうから」
「祭りの日くらい浮かれればよかろう」
「祭りの日くらい浮かれればよかろう」
元親は目をしばたかせて、自らの顎に手を当てる。
「意外だな、あんたもっとお堅い奴だと思ってたんだけどよ」
元就は指摘されて、眉根を寄せた。
言われてみればそうだ。
祭り好きの阿呆に感化された可能性に思い至り、元就は苦々しく口の端を歪める。
言われてみればそうだ。
祭り好きの阿呆に感化された可能性に思い至り、元就は苦々しく口の端を歪める。
「怪我、どこかで手当てしねえと」
擦過傷を負っても尚、りんごあめを握りしめたままの手をとられそうになり、元就は後ずさった。
「このくらい、戦の刀傷に比べればたいしたことも無かろう、すぐに治るわ」
「傷残ったらどうすんだよ。あんた女だったんなら、傷跡なんて無いにこしたことはねえ」
「今更一つくらい傷が増えたところでどうということもなかろう。構うな」
「いやだね」
「傷残ったらどうすんだよ。あんた女だったんなら、傷跡なんて無いにこしたことはねえ」
「今更一つくらい傷が増えたところでどうということもなかろう。構うな」
「いやだね」
傷を負ったのとは別の手をとられ、近くにあった井戸まで引きずられるようにして連れて行かれた。
井戸の縁に腰掛けるよう促される。
何を言っても無駄だと悟り、元就は言われるがままそこに座った。
りんごあめを持つ手を持ち替えているうちに、元親が井戸の中へとつるべを落とす。
井戸の縁に腰掛けるよう促される。
何を言っても無駄だと悟り、元就は言われるがままそこに座った。
りんごあめを持つ手を持ち替えているうちに、元親が井戸の中へとつるべを落とす。
「それ、邪魔だろ。持っててやろうか」
元親がりんごあめを指した。
元就は、短く、否、と答え、背の後ろへと隠す。
元親は首を傾げながらも、汲んだ水で元就の傷を洗った。
「あんた一人か? 連れは?」元親が聞く。
元就は元親の問いにただ首を横に振る。
元就は、短く、否、と答え、背の後ろへと隠す。
元親は首を傾げながらも、汲んだ水で元就の傷を洗った。
「あんた一人か? 連れは?」元親が聞く。
元就は元親の問いにただ首を横に振る。
「あんた今人質なんだろ? 前田に軟禁されてるって聞いてたんだが……」
尚も問うてくる元親に、元就は話を逸らそうと試みた。
「そなたの方こそ戦に負けてから行方知れずと聞いた。
ここへ友と来たと言ったな。そなたは友と言うが、保護者であろう。何故一人でいる」
「一人の方が気楽なんだよ」
ここへ友と来たと言ったな。そなたは友と言うが、保護者であろう。何故一人でいる」
「一人の方が気楽なんだよ」
元就は、ふん、と、鼻を鳴らした。
「そなたが一人であったことなどなかろう」
元親は肩をすくめる。
「昔の話だろ。今じゃ野郎共とも散り散りになっちまって情けないざまだ」
「その友では物足りぬと申すか」
「あんまり長く側にいると情が移るだろ。いつか敵になるかもしれねえんだ。
俺が四国を取り戻したら」
「そなたが一人であったことなどなかろう」
元親は肩をすくめる。
「昔の話だろ。今じゃ野郎共とも散り散りになっちまって情けないざまだ」
「その友では物足りぬと申すか」
「あんまり長く側にいると情が移るだろ。いつか敵になるかもしれねえんだ。
俺が四国を取り戻したら」
すくめた肩が若干おとされたように見えたのは、元就の目の錯覚だろうか。