堅城と名高い小田原城が陥落した。
…豊臣の軍師・竹中半兵衛の策略に見事に嵌ってしまったためだ。
…豊臣の軍師・竹中半兵衛の策略に見事に嵌ってしまったためだ。
竹中半兵衛には、北条家の切り札・風魔小太郎を刺客として差し向けるつもりではあったが
小田原城に押し寄せる屈強な豊臣の兵を、小太郎なしでやり過ごす事などできず、結局は力押しで負けてしまう形となった。
北条家当主である氏政も応戦したのだが、小田原城に乗り込んできた竹中半兵衛に傷を負わされ、そのまま意識を手放してしまった。
小田原城に押し寄せる屈強な豊臣の兵を、小太郎なしでやり過ごす事などできず、結局は力押しで負けてしまう形となった。
北条家当主である氏政も応戦したのだが、小田原城に乗り込んできた竹中半兵衛に傷を負わされ、そのまま意識を手放してしまった。
…あれから一体どのくらいの間、意識を失っていたのだろう。
氏政は、ぼんやりした頭のまま、ゆるゆると目を開いた。
氏政は、ぼんやりした頭のまま、ゆるゆると目を開いた。
まず最初に視界に飛び込んだのは、粗末な家屋を思わせる天井。
貧しい農夫の家…と言った所だろうか。…ただ、囲炉裏はあるものの、布団以外に生活必需品の様なものは何もない。
普段は誰にも使われていない家なのだろうか。
よくよく見れば、天井や部屋の隅にはクモの巣が張っているし、状況からしてこの小屋は元々廃屋なのだろう。
貧しい農夫の家…と言った所だろうか。…ただ、囲炉裏はあるものの、布団以外に生活必需品の様なものは何もない。
普段は誰にも使われていない家なのだろうか。
よくよく見れば、天井や部屋の隅にはクモの巣が張っているし、状況からしてこの小屋は元々廃屋なのだろう。
…わしは……生きておる。誰かが、わしを助けてくれたのか…?
目は覚めたものの、頭がまだぼんやりとしている。
脇腹に負った傷のせいか、どうも発熱しているようだ。
額に乗った濡れた手拭の冷たさが心地よい。
脇腹に負った傷のせいか、どうも発熱しているようだ。
額に乗った濡れた手拭の冷たさが心地よい。
ぱしゃん
水面が小さくはねる音がする。
視線を音のする方へ向けると、たらいに張った水で手拭を洗う男の姿が見えた。
氏政は少し驚いた。さっきまでは確かに人の気配などなかったのに。
気配を消していたのか?
視線を音のする方へ向けると、たらいに張った水で手拭を洗う男の姿が見えた。
氏政は少し驚いた。さっきまでは確かに人の気配などなかったのに。
気配を消していたのか?
氏政は、しばらくその男の姿を見ていたが、ある事に気づいた。
北条で傭兵として雇っていた忍に似ている。
肩にかかる程度の長さの赤い髪と、引き締まった逞しい身体つき。
頬とあごに施された紅。そして、気味が悪いほど物静かな動作。…何もかもが、あの忍と似ている。
頬とあごに施された紅。そして、気味が悪いほど物静かな動作。…何もかもが、あの忍と似ている。
身なりも、よく見れば甲冑の一部は砕け、あちこちボロボロになっていたため
多少印象が異なってはいたが、小太郎が常に身に纏っている黒と白を基調とした忍装束だった。
多少印象が異なってはいたが、小太郎が常に身に纏っている黒と白を基調とした忍装束だった。
「…風魔小太郎…か?」
恐る恐る呼びかけると、男は絞った手拭を持ってゆっくりと氏政に歩み寄ってきた。
枕元に膝を折ってかがむと、氏政の額に乗せていた手拭を取り替えた。
氏政は、間近で男の顔を見て「これは小太郎だ」と、はっきりと確信した。
氏政は、間近で男の顔を見て「これは小太郎だ」と、はっきりと確信した。
小太郎の顔は、鉢金で目元が隠れていたが、形の良い唇と鼻から端正な顔立ちをしている事は容易に推測できた。
この男も、目元以外の特徴は小太郎と合致する。
…まるで言葉を知らないかのような、この極端に無口な所も。
この男も、目元以外の特徴は小太郎と合致する。
…まるで言葉を知らないかのような、この極端に無口な所も。
想像していたとおり、素顔でも小太郎は無表情だった。
ただ、そっと手のひらを額に当てて熱の具合を測る仕草や眼差しが、何処か優しく感じた。
ただ、そっと手のひらを額に当てて熱の具合を測る仕草や眼差しが、何処か優しく感じた。
意識を手放している間、傷の手当ても着替えも、小太郎がしてくれたのだろう。
傷を負った当初は激痛のあまり身じろぎさえも辛かった脇腹の傷が、少しくらいなら動いても平気なくらいになっていた。
しかし、ここに来て疑問が湧いた。
傷を負った当初は激痛のあまり身じろぎさえも辛かった脇腹の傷が、少しくらいなら動いても平気なくらいになっていた。
しかし、ここに来て疑問が湧いた。
何故風魔がわしを助ける…?
こやつも、小田原城が陥落するのを見ていた。
もうわしは「北条家当主」ではない事も、百も承知のはず。
なのに、何故…
もうわしは「北条家当主」ではない事も、百も承知のはず。
なのに、何故…