「うっ…うっうっ…」
ぽろぽろと大粒の涙をこぼして慟哭しはじめた氏政を目の当たりにし、小太郎は寝巻きを脱がせる手を止めた。
「お前は酷い奴じゃ!わしをいじめてそんなに楽しいのか!そりゃ、わしは無能な城主じゃ!
武道もからきし駄目だし、知恵もないし、肝も据わっておらん小心者じゃ!
お前からすれば、わしなんぞただのムシケラみたいなモノかもしれんが、ムシケラにだって矜恃はあるのじゃ!」
武道もからきし駄目だし、知恵もないし、肝も据わっておらん小心者じゃ!
お前からすれば、わしなんぞただのムシケラみたいなモノかもしれんが、ムシケラにだって矜恃はあるのじゃ!」
涙声でまくし立てるように言い終わると、両腕に寝巻きの袖を通しているだけというほぼ全裸に近い状態で、布団に突っ伏してわんわんと泣き出してしまった。
「………」
小太郎はそんな氏政の姿をしばらく眺めていたが、突っ伏した氏政を背後から抱きかかえ、寝巻きの前を合わせて帯を締めなおしてやると、音もなく小屋から出て行った。
「ふ、風魔…?」
氏政は、小太郎が何もせずに引き下がった事には驚いたが、内心ほっと胸をなでおろした。…だが、それと同時に何とも形容しがたい罪悪感を覚えた。
半刻が過ぎ、小屋の周囲も暗くなってきた。
風が戸板をカタカタとしきりに叩く。
嵐でも来るのか、風の吹きすさぶ音も次第に大きくなってきている。
風が戸板をカタカタとしきりに叩く。
嵐でも来るのか、風の吹きすさぶ音も次第に大きくなってきている。
「風…か。」
ひとり取り残された小屋の中で、氏政は考えた。
「……少し言い過ぎたかのう。わしを手込めにしようとはしたが、恩人である事には変わりないし…。
それに、嫌がって泣いているのを見て止めてくれたし。…もしや、他意でもあったのじゃろうか。」
それに、嫌がって泣いているのを見て止めてくれたし。…もしや、他意でもあったのじゃろうか。」
物言わぬ小太郎が、自分に対してどのように接してきたか思い出した。…何故か、胸が締め付けられるような切ない気持ちになる。
…小太郎は、背も高く無駄な肉付きのない鍛え抜かれた頑強な体格をしている。また、肌もやや日焼けしている程度の健康的な色と発疹のひとつもない滑らかなを表面を維持している所から、生まれながらに堅強な体質である事を伺わせた。
そんな小太郎に比べて、氏政は何もかも脆弱だった。
一言で言うなら、小柄で華奢。背丈は小太郎の肩にも届かず、肩幅も狭く、腰は柳の様で、手足も筋肉などついていないのではないかと思うほどにか細い。肌も抜けるように白く、少し強い日差しにあたっただけで火傷の様に赤くただれてしまう。幼い頃に比べればまだマシになったが、身体を壊しやすく床に伏せる事も度々ある。
肌同様、髪も眉も睫も雪の様に白い。…氏政は生まれつき色素を持たない白子(アルビノ)だった。
肌同様、髪も眉も睫も雪の様に白い。…氏政は生まれつき色素を持たない白子(アルビノ)だった。
…そうじゃ、あやつにとって、わしはムシケラのようなものじゃ。
「風魔がわしに優しく触れるのはきっと【力加減を間違えたら潰してしまう】と思ったからだ。
床にわしを横たえる瞬間さえ、わしに体重がかからないようにしておった。
わしを抱こうとしたのも、欲求を満たそうと思ったからで、途中で止めたのも、わしが泣き喚いたから興が冷めただけじゃ。」
床にわしを横たえる瞬間さえ、わしに体重がかからないようにしておった。
わしを抱こうとしたのも、欲求を満たそうと思ったからで、途中で止めたのも、わしが泣き喚いたから興が冷めただけじゃ。」
そうに違いない……氏政は、そう自分に言い聞かせた。
……小太郎の仕草が何もかも優しく感じたのは、そのせいなのだと。




