一年が経ち、佐助は真田忍隊の勤めが忙しくなり戦場を駆け回る日々が続いていた。
忙しさも一段落した頃珍しく千代女から呼び出しが掛かった。
半年程前越後へ出向いたかすがと繋ぎ役が帰らないという。
千代女は大変気を揉んでおり、見つけたら必ず連れ帰る様に重ねて佐助に命じた。
――あれには甲賀の禁術が伝授してある
脇息に凭れた千代女が握り締めている扇が、ミシッと音を立てた。
――決して敵方に渡る事罷りならん
能面の様な千代女の顔からは、隠し切れない焦躁が滲み出していた。
佐助はいつもの如く御意、と謹んで承る以外無い。
(あいつは何をやっているんだ)
何人か二人の所在を探りに行ったらしいが、越後の軒猿は殊に忍を狩る術に長けている。帰って来た者は未だ皆無だった。
既にかすがも葬り去られているのではないか――そんな考えを佐助は降り払った。
仮にも甲賀の禁術まで会得した忍が易々と討ち取られる訳が無い。
怪我を負って身動きが取れないか、敵に囚われているか。いずれにせよ自分の助けが必要だろう。
(やれやれ、世話の掛かる)
まだこの時佐助はそう思っていた。
忙しさも一段落した頃珍しく千代女から呼び出しが掛かった。
半年程前越後へ出向いたかすがと繋ぎ役が帰らないという。
千代女は大変気を揉んでおり、見つけたら必ず連れ帰る様に重ねて佐助に命じた。
――あれには甲賀の禁術が伝授してある
脇息に凭れた千代女が握り締めている扇が、ミシッと音を立てた。
――決して敵方に渡る事罷りならん
能面の様な千代女の顔からは、隠し切れない焦躁が滲み出していた。
佐助はいつもの如く御意、と謹んで承る以外無い。
(あいつは何をやっているんだ)
何人か二人の所在を探りに行ったらしいが、越後の軒猿は殊に忍を狩る術に長けている。帰って来た者は未だ皆無だった。
既にかすがも葬り去られているのではないか――そんな考えを佐助は降り払った。
仮にも甲賀の禁術まで会得した忍が易々と討ち取られる訳が無い。
怪我を負って身動きが取れないか、敵に囚われているか。いずれにせよ自分の助けが必要だろう。
(やれやれ、世話の掛かる)
まだこの時佐助はそう思っていた。