小十郎は沈黙した。思考が過去に飛び、言葉を選んでいるのが分かる。
幸村の知る政宗は、苛烈で誇り高く、圧倒的な存在感を放っている姿だ。南蛮の言葉で罵り、六爪で嵐と雷を生む。
影を背負い込む姿を見たことがなく、夫がいたことなど、気づきもしなかった。
奥州に来て馴染めるだけの時が経ったが、何も知らずにいた。
好敵手だ宿命の相手だと騒いでいたのは、幸村の一方的なものだったのだろうか。
「――俺が見たのは、田村殿の遺骸を抱き締めておられるお姿だ。
……胸を一突き、だった。抵抗した様子はなかった」
「……それで」
「田村の家から来た者全てに死をお与えになり、ご子息は事故で亡くなった事になった」
ようやく、小十郎の目が幸村を見た。幸村を強く抱き寄せ、首筋に唇を寄せてくる。ん、と甘い声が漏れる。
「……田村殿は、切支丹だった」
「切支丹とは、あの、南蛮の教えにござるか」
「肥前の連中とは少し違うぞ? ……政宗様が南蛮に興味を持たれたきっかけだ」
「ザビー教とは違うのか。……南蛮は広いな」
「政宗様は帰依をされた訳ではないが、切支丹の教えでは離縁や再嫁を禁じているらしい。
――閨を共にされた次の日、政宗様は俺に切支丹の首飾りを見せられた。田村殿が教えを
守られる以上、俺も従うと仰せだった」
そういうことか、と幸村は目を閉じる。
切支丹の教えを守ることが、夫を愛する事と同じになっているのだろう。なんとなく、気持ちが分かる。
だが、政宗は奥州の大名である。血を繋ぎ、家を盛り立てる責務がある。
切支丹の教えなど、邪魔なだけだ。
「……明日が、ご命日にあたる。だが、皆、田村殿のことは口にすら出さない。
お前に教える者もいないだろう。……この事、胸に秘めておいてくれるか?」
幸村は頷き、小十郎の胸に顔を埋めた。着物に焚き染めた香が香ってくる。いい子だ、と
子供のように髪を撫でられる。
「……最近、家臣が二つに分かれている。家督を弟御に譲り政宗様を姫として
嫁がせようという意見の者と、政宗様に婿を取らせようとする意見の者だ」
「……大名とは、大変な立場にござるな」
「お前はどうだ? 最近は何をしているんだ」
これで話は終わりらしい。
幸村は顔を上げた。これ以上の話は、本人から聞いた方がいいだろう。人の口から伝え聞くものではない。
しかし、辛すぎる話だ。本人から聞くことは、傷口をえぐる事になる。
「裁縫を覚えるため、着物を縫っている。……もうすぐ、小十郎殿の袴が縫える」
「それは楽しみだ」
小十郎は幸村の唇に軽く触れると、そのまま肩に首を埋めた。声を漏らさぬよう
息を詰めるが、何もしてこない。
ぐうっと重みがかかった。今まで小十郎に体を寄せていたため、無理な体勢になる。
「酔った」
「……当たり前でござろう!」
あれだけ一気に飲めば、酔って当たり前だ。
幸村は小十郎の体を米俵のように抱え上げ、閨に向かった。
幸村の知る政宗は、苛烈で誇り高く、圧倒的な存在感を放っている姿だ。南蛮の言葉で罵り、六爪で嵐と雷を生む。
影を背負い込む姿を見たことがなく、夫がいたことなど、気づきもしなかった。
奥州に来て馴染めるだけの時が経ったが、何も知らずにいた。
好敵手だ宿命の相手だと騒いでいたのは、幸村の一方的なものだったのだろうか。
「――俺が見たのは、田村殿の遺骸を抱き締めておられるお姿だ。
……胸を一突き、だった。抵抗した様子はなかった」
「……それで」
「田村の家から来た者全てに死をお与えになり、ご子息は事故で亡くなった事になった」
ようやく、小十郎の目が幸村を見た。幸村を強く抱き寄せ、首筋に唇を寄せてくる。ん、と甘い声が漏れる。
「……田村殿は、切支丹だった」
「切支丹とは、あの、南蛮の教えにござるか」
「肥前の連中とは少し違うぞ? ……政宗様が南蛮に興味を持たれたきっかけだ」
「ザビー教とは違うのか。……南蛮は広いな」
「政宗様は帰依をされた訳ではないが、切支丹の教えでは離縁や再嫁を禁じているらしい。
――閨を共にされた次の日、政宗様は俺に切支丹の首飾りを見せられた。田村殿が教えを
守られる以上、俺も従うと仰せだった」
そういうことか、と幸村は目を閉じる。
切支丹の教えを守ることが、夫を愛する事と同じになっているのだろう。なんとなく、気持ちが分かる。
だが、政宗は奥州の大名である。血を繋ぎ、家を盛り立てる責務がある。
切支丹の教えなど、邪魔なだけだ。
「……明日が、ご命日にあたる。だが、皆、田村殿のことは口にすら出さない。
お前に教える者もいないだろう。……この事、胸に秘めておいてくれるか?」
幸村は頷き、小十郎の胸に顔を埋めた。着物に焚き染めた香が香ってくる。いい子だ、と
子供のように髪を撫でられる。
「……最近、家臣が二つに分かれている。家督を弟御に譲り政宗様を姫として
嫁がせようという意見の者と、政宗様に婿を取らせようとする意見の者だ」
「……大名とは、大変な立場にござるな」
「お前はどうだ? 最近は何をしているんだ」
これで話は終わりらしい。
幸村は顔を上げた。これ以上の話は、本人から聞いた方がいいだろう。人の口から伝え聞くものではない。
しかし、辛すぎる話だ。本人から聞くことは、傷口をえぐる事になる。
「裁縫を覚えるため、着物を縫っている。……もうすぐ、小十郎殿の袴が縫える」
「それは楽しみだ」
小十郎は幸村の唇に軽く触れると、そのまま肩に首を埋めた。声を漏らさぬよう
息を詰めるが、何もしてこない。
ぐうっと重みがかかった。今まで小十郎に体を寄せていたため、無理な体勢になる。
「酔った」
「……当たり前でござろう!」
あれだけ一気に飲めば、酔って当たり前だ。
幸村は小十郎の体を米俵のように抱え上げ、閨に向かった。




