不快・苦手な方はスルーして下さい。宜しくお願いします。
そこは遠くに山々を望む平凡な場所だった。
少し開けた所に一本、古ぼけたスダジイの樹がある。
「なぁ、種飛ばすの競争しない?」
木陰に並んで腰を下ろした娘に採ったばかりの薄紫の果実を手渡して佐助は言った。
「ガキの頃良くやったんだぜ。こうやってさぁ……」
苦無で皮を裂いて実にかぶりつき、種をねぶり出すと口を尖らせてプッと飛ばす。
吐き出された種は二間は飛んだろうか。
「おっ!結構飛んだな」
笑ってもう一口食べようとした時、こちらを見ている琥珀色の瞳とぶつかった。
何故大の男が子どもの遊びに興じているのか理解出来ない――。
まじまじと見詰められ気恥ずかしさが募る。
「いや…まぁ、そんな遊びもあるって言うか……」
視線を逸らしてしどろもどろになりながら答えるのが精一杯だ。
照れ隠しに実にかぶりつき、再び種を飛ばした。
野原を渡る秋風に金の髪をなぶらせたまま、娘の目は掌の中の果実を見ている。
薄紫の果実は裂けた皮の合間から白い果肉と黒い種を現し、甘い芳香を漂わせていた。
「食わないの?そっちは熟れてるから甘いよ」
佐助が覗き込むと琥珀はやや戸惑った色を浮べている。
「……食べるの初めてで」
知識は有る。
この植物の名前や皮の薬効は知っていても実際に実を食べた経験が娘には無かった。
自分はいつもそうだ。
知識が叩き込まれていても、経験はちっとも伴っていない――沈んだ娘を見て佐助はフと笑った。
少し開けた所に一本、古ぼけたスダジイの樹がある。
「なぁ、種飛ばすの競争しない?」
木陰に並んで腰を下ろした娘に採ったばかりの薄紫の果実を手渡して佐助は言った。
「ガキの頃良くやったんだぜ。こうやってさぁ……」
苦無で皮を裂いて実にかぶりつき、種をねぶり出すと口を尖らせてプッと飛ばす。
吐き出された種は二間は飛んだろうか。
「おっ!結構飛んだな」
笑ってもう一口食べようとした時、こちらを見ている琥珀色の瞳とぶつかった。
何故大の男が子どもの遊びに興じているのか理解出来ない――。
まじまじと見詰められ気恥ずかしさが募る。
「いや…まぁ、そんな遊びもあるって言うか……」
視線を逸らしてしどろもどろになりながら答えるのが精一杯だ。
照れ隠しに実にかぶりつき、再び種を飛ばした。
野原を渡る秋風に金の髪をなぶらせたまま、娘の目は掌の中の果実を見ている。
薄紫の果実は裂けた皮の合間から白い果肉と黒い種を現し、甘い芳香を漂わせていた。
「食わないの?そっちは熟れてるから甘いよ」
佐助が覗き込むと琥珀はやや戸惑った色を浮べている。
「……食べるの初めてで」
知識は有る。
この植物の名前や皮の薬効は知っていても実際に実を食べた経験が娘には無かった。
自分はいつもそうだ。
知識が叩き込まれていても、経験はちっとも伴っていない――沈んだ娘を見て佐助はフと笑った。