「上総介様」
そっとその名を呼ぶ。首は動かさずじろりと視線だけを投げかけられる。
あの頃から変わらない、信長の癖のようなものだ。
濃姫はクスリ、と小さく微笑むと信長の隣に立つ。
「上総介様、お隣宜しいでしょうか?」
「好きにせい」
ズズッと茶を啜りながら信長は答える。
では遠慮なく、と隣に腰掛け濃姫は庭を見やる。
季節の花々が綺麗に咲き誇る庭はとても美しく、天から降り注ぐ陽の光も心地良い。
濃姫は暖かな陽だまりに目を細めながらも、此処に来た本来の目的を果たそうとする。
「上総介様」
「何ぞ」
声をかければ答えてくれる。
輿入れ当初は考えられなかったこのやり取りに、思わず笑みが零れた。
クスクスと笑う濃姫に、信長は訝しげに眉を顰める。
「用があるならばさっさと言わぬか」
「…この花を」
そう差し出したのは可愛らしい小さな黄色の花を幾つもつけた、白妙菊の花。
先ほど庭で摘んできたものだ。
差し出された花に、信長はさらに眉を顰める。
「…花?」
「貰っていただけませぬか?」
口元に小さな笑みを浮かべ、小首を傾げれるように顔を覗き込めばゆっくりと花に手が伸ばされた。
「ふん、貰ってやらぬこともないわ」
むすっとした顔で花を持つ信長の顔はなかなか面白い。
その表情が照れ隠しなのも知っている。
だからこそさらに深まる笑みを抑えきれない。
そっとその名を呼ぶ。首は動かさずじろりと視線だけを投げかけられる。
あの頃から変わらない、信長の癖のようなものだ。
濃姫はクスリ、と小さく微笑むと信長の隣に立つ。
「上総介様、お隣宜しいでしょうか?」
「好きにせい」
ズズッと茶を啜りながら信長は答える。
では遠慮なく、と隣に腰掛け濃姫は庭を見やる。
季節の花々が綺麗に咲き誇る庭はとても美しく、天から降り注ぐ陽の光も心地良い。
濃姫は暖かな陽だまりに目を細めながらも、此処に来た本来の目的を果たそうとする。
「上総介様」
「何ぞ」
声をかければ答えてくれる。
輿入れ当初は考えられなかったこのやり取りに、思わず笑みが零れた。
クスクスと笑う濃姫に、信長は訝しげに眉を顰める。
「用があるならばさっさと言わぬか」
「…この花を」
そう差し出したのは可愛らしい小さな黄色の花を幾つもつけた、白妙菊の花。
先ほど庭で摘んできたものだ。
差し出された花に、信長はさらに眉を顰める。
「…花?」
「貰っていただけませぬか?」
口元に小さな笑みを浮かべ、小首を傾げれるように顔を覗き込めばゆっくりと花に手が伸ばされた。
「ふん、貰ってやらぬこともないわ」
むすっとした顔で花を持つ信長の顔はなかなか面白い。
その表情が照れ隠しなのも知っている。
だからこそさらに深まる笑みを抑えきれない。