黒いコートの橙色は歌姫が着替えて出て来るのを待っていた。
意識すればまだ鳩尾に鈍痛が残っている。なかなか良いパンチだった。
だが腕っ節は強くとも真夜中近い時間に歌姫独りでは少々危ない。
ステージが跳ねた後は駅まで送るのが二人の不文律になっていた。
傘を忘れた歌姫と無理矢理相合傘をしたのが最初だったと思う。
初めのうちは嫌がられたが、今では不機嫌そうにしながらも歌姫は橙色と並んで歩く。
ミュールを投げ付けられたのは「先に帰るな」と言う彼女からの非難だった。
「待たせた」
ベージュのコートを着た歌姫は余程寒いのかラベンダー色のマフラーを
グルグル巻きにしているが、鼻先だけがちょこんと見えている。
「そのマフラー可愛いね。良く似合ってるよ」
本当は「鼻先が可愛い」と言いたい所だが、再び鳩尾に拳を喰らいかねないので
自重した。
当然の様に荷物を押し付け、歌姫はブーツのヒールを高く鳴らしながら
サッサと歩き出す。
「行くぞ。終電に遅れる」
「はいはい」
二人はコートのポケットに両手を突っ込んで夜の街を並んで歩いた。
「今日は寒いねぇ」
白い息を吐きながら橙色が言う。
「そうだな」
マフラーに顔を埋めながら歌姫が答えた。
「ちょっと失礼」
素早く歌姫の右手を握り、そのまま左のポケットへ手を突っ込む。
「あ…」
中はほんのり温かい。いつ買ったのか缶コーヒーが忍ばせてあった。
「へへ、あったかいっしょ」
心底嬉しそうな橙色を見て顔を背け舌打ちする。
(イヤな奴)
ポケットの中で橙色と手を絡めながら、頬が熱いのは缶コーヒーの所為だと
歌姫は思った。
意識すればまだ鳩尾に鈍痛が残っている。なかなか良いパンチだった。
だが腕っ節は強くとも真夜中近い時間に歌姫独りでは少々危ない。
ステージが跳ねた後は駅まで送るのが二人の不文律になっていた。
傘を忘れた歌姫と無理矢理相合傘をしたのが最初だったと思う。
初めのうちは嫌がられたが、今では不機嫌そうにしながらも歌姫は橙色と並んで歩く。
ミュールを投げ付けられたのは「先に帰るな」と言う彼女からの非難だった。
「待たせた」
ベージュのコートを着た歌姫は余程寒いのかラベンダー色のマフラーを
グルグル巻きにしているが、鼻先だけがちょこんと見えている。
「そのマフラー可愛いね。良く似合ってるよ」
本当は「鼻先が可愛い」と言いたい所だが、再び鳩尾に拳を喰らいかねないので
自重した。
当然の様に荷物を押し付け、歌姫はブーツのヒールを高く鳴らしながら
サッサと歩き出す。
「行くぞ。終電に遅れる」
「はいはい」
二人はコートのポケットに両手を突っ込んで夜の街を並んで歩いた。
「今日は寒いねぇ」
白い息を吐きながら橙色が言う。
「そうだな」
マフラーに顔を埋めながら歌姫が答えた。
「ちょっと失礼」
素早く歌姫の右手を握り、そのまま左のポケットへ手を突っ込む。
「あ…」
中はほんのり温かい。いつ買ったのか缶コーヒーが忍ばせてあった。
「へへ、あったかいっしょ」
心底嬉しそうな橙色を見て顔を背け舌打ちする。
(イヤな奴)
ポケットの中で橙色と手を絡めながら、頬が熱いのは缶コーヒーの所為だと
歌姫は思った。




