声をかけようとした元親だが、秀吉の方が早かった。
わずかに動揺をにじませた声で、言う。
わずかに動揺をにじませた声で、言う。
「――慶次……!」
「半兵衛ならあっちで倒れてる。この戦に豊臣の勝ちはない。退け、秀吉」
「半兵衛ならあっちで倒れてる。この戦に豊臣の勝ちはない。退け、秀吉」
まつは目頭をぬぐっている。
元親は、ひとり置いてけぼりの状況だ。
それでも、何とか想像力を働かせてみる。
元親は、ひとり置いてけぼりの状況だ。
それでも、何とか想像力を働かせてみる。
――まつの隣に立っている男は、精鋭のひとりとして、元親とともにこの戦艦に乗りこんだ長曾我部軍の兵だ。
それは間違いない。確か利益という名の。
古参どころか、徴兵に名乗り出たのはつい最近のことだが、それでも恐ろしく腕が立つ。元親とも気が合った。
それは間違いない。確か利益という名の。
古参どころか、徴兵に名乗り出たのはつい最近のことだが、それでも恐ろしく腕が立つ。元親とも気が合った。
秀吉は、利益のことを、慶次と呼んだ。
長身とその長身を上回るほどの長刀、派手な着物と長髪に飾った羽飾り、
そのうえ小猿を連れて歩くという前田慶次の噂は、土佐にまで聞こえている。
でも、目の前にいる男は違う。長身ではあるが、使う武器はごく普通の刀だ。
身につけているものは長曾我部軍の鎧だし、髪だって短い。猿も連れていない。
だけど、これは――
そのうえ小猿を連れて歩くという前田慶次の噂は、土佐にまで聞こえている。
でも、目の前にいる男は違う。長身ではあるが、使う武器はごく普通の刀だ。
身につけているものは長曾我部軍の鎧だし、髪だって短い。猿も連れていない。
だけど、これは――
天下に名高き傾奇者・前田慶次。