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慰安旅行・慶次編

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「慶次!何度言ったら分るのです!」
「そうだそうだ!」
「……利さっきから『そうだ』ってしか言ってない。」
何時ものように喧々轟々と頭ごなしに叱られて、慶次は耳を両手で塞ぎながらそう呟いた。
大体、こんな温泉に旅行に来てまで何で怒られてんの俺?

「慶次、それはまつが俺の言いたい事をしっかりと言ってくれているからだ。」
「えーだって。」
「だってではございません!」
「……慶次、俺たちは本気で心配しているんだぞ。」
何時もの惚けた利の顔が真剣になる。これが利の本当の顔だと俺は良く分ってる。
「心配してくれるのは嬉しいよ。でも、これは俺の問題だからさ。」
段々旗色が悪くなる、いや始めっから悪いけど。

分って欲しいと思う。
でも、きっと利にもまつ姉ちゃんにも何を言ったって分ってもらえない。
悲しいけれど、二人の事を良く知っているから余計に説明しても無駄だと分るのだ。

「そう言う訳にはまいりません!慶次!あなたは嫁入り前の娘なのですよ。」
「うん。まあそうなんだけどさ。」
へらりと笑ってみせる。だってもう平気だよって笑ってあげるしか方法が思いつかないんだもん。
「あいつは良くない奴だ。」
「うん。知ってる。」
「慶次!ならば何故別れられぬのです。」

――――何故?
それは何時も何処かで考えていた事だった。
まあ、理由は分ってる。
だから仕方ないと考えるのを止めたのだ。

「だって惚れちゃったんだもん。仕方ないよねえ。」

俺は、自分が思う一番いい笑顔でそう言って、二人の部屋を後にした。
二人の呼び止める声が聞こえたけど聞かなかった事にして。

「久秀。風呂に行く?」
松永は客間の縁側で外を眺めていた。
慶次に頭の上から無遠慮に覗き込まれ眉間の皺を更に深くする。
鬱陶しそうに顔の横に垂れた慶次の長い髪を手で払うと立ち上がった。
「全く……きっと楽しいからとぎゃーぎゃー喚くから仕方なく来るだけ来てやれば、今度は風呂に入れとは……。」
「だって皆で来たほうが楽しいじゃない。」
「楽しいのは卿だけだ。他人に自分と同じ感情を求めるとは嘆かわしいな。」
「じゃあ、何で来たの。」
「卿が五月蝿いからだ。」
「だって俺が一緒に来たかったんだよ。」

横に立ち、そう身長も変わらないの見上げるように自分の顔を覗き込む慶次を見て、松永は深くため息をついた。
「……卿はまた飽きもせずに私を好きだとか世迷い事を言うつもりなのか?」
後に束ねた慶次の髪をつかみグイと引くと『痛い』と代わり映えのしない声を発した。
「そうだよ。悪い?」
「下らない感情だ。何度も言うようだが私は愛情とかそう言う感情を信用しては居ないのでね。」
「別に良いんだよ。俺の気持ちは俺が分かってればいい事なんだから。」

「でさ、温泉に来たら入らない手は無いと思うんだけど。」
「群れる趣味は無いと前にも教えたと思うがね。」
「えーじゃあ夜とか!誰も居ない時に入るのは?露天混浴だって言うし。」
慶次がそこまで言うと松永はああと相変わらず暗い笑みを浮かべた。

「そう言うことか……随分淫乱になったものだな。」
「ちょっ……痛いって。いい加減ひっぱんの止めてって。」
慶次の髪を指に絡め弄ぶように引き寄せる。
「何故?私が頼んだ訳では無い。卿が望んで此処に居るのだろう?」
そうだけどさ、と手を髪から何とか放させて睨みつける。
その慶次の顔を見て松永は笑った。


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