半兵衛の体を起こすと、小十郎は白い戦装束に手をかけ、一気に引き剥いだ。胸を覆ってい
た晒しも引き下ろす。
「………くっ…!…」
鍛えてはあるがなだらかな肩と、日に当たったことの無いような白い肌、そして、意外と質
感のある乳房。小十郎に掴み締められた痕が、赤くなっている。
白銀の髪を掴んで、小十郎は無理にこちらを向かせた。
た晒しも引き下ろす。
「………くっ…!…」
鍛えてはあるがなだらかな肩と、日に当たったことの無いような白い肌、そして、意外と質
感のある乳房。小十郎に掴み締められた痕が、赤くなっている。
白銀の髪を掴んで、小十郎は無理にこちらを向かせた。
「貴様が自分を女人と見ておらずとも、他の者は違うぞ。試しに、その身を貴様に恨みを抱
く兵どもに与えてみようか…?自分が、女人だということを、嫌というほど思い出すぞ」
く兵どもに与えてみようか…?自分が、女人だということを、嫌というほど思い出すぞ」
凄みのある声音で囁かれても、半兵衛は何も言わない。
紫紺の切れ長の瞳が、侮蔑するように小十郎を眺めていた。
紫紺の切れ長の瞳が、侮蔑するように小十郎を眺めていた。
小十郎は、見慣れていて最早違和感さえも感じなかったものの存在を思い出した。
瞳と同じ色合いの、奇妙な形の仮面。
顔を隠すためというよりは、瞳の動きを隠すためのものなのだろう。
小十郎がその仮面に手をかけると、初めて半兵衛が動揺の色を見せた。
瞳と同じ色合いの、奇妙な形の仮面。
顔を隠すためというよりは、瞳の動きを隠すためのものなのだろう。
小十郎がその仮面に手をかけると、初めて半兵衛が動揺の色を見せた。
「よせ!」
「…妙な女だな。…裸体より、仮面か?」
「触るなっ!それに触れていいのは、秀吉だ…け…」
言ってしまってから、半兵衛は唇を噛んだ。
「…貴様、やはり、豊臣の…寵姫か……」
「違う…。僕は…友だ…」
小十郎は一気にその仮面を引き剥いだ。
「あっ…!」
「…妙な女だな。…裸体より、仮面か?」
「触るなっ!それに触れていいのは、秀吉だ…け…」
言ってしまってから、半兵衛は唇を噛んだ。
「…貴様、やはり、豊臣の…寵姫か……」
「違う…。僕は…友だ…」
小十郎は一気にその仮面を引き剥いだ。
「あっ…!」
首を捻って顔を背けるのを、顎に手をかけてこちらに向ける。
屈辱からなのか、白い頬は燃えるように赤くなっていた。
屈辱からなのか、白い頬は燃えるように赤くなっていた。
仮面をしている時と、見た目はあまり変わらない。
通った鼻筋と、ふっくらとした唇。
切れ長の大きな双眸。どれも、美女の持ち物だった。
通った鼻筋と、ふっくらとした唇。
切れ長の大きな双眸。どれも、美女の持ち物だった。
ただ、柔らかく弧を描いている優しい眉と、視線で射殺しかねない激しい双眸が、複雑な内
面を示しているようだった。
面を示しているようだった。
「言え。政宗さまは、何処だ」
「言うわけには、いかないな!」
小十郎は反射的に、その頬を打っていた。
「………手荒だね……片倉君」
切れた唇を軽く舐めながら、半兵衛は冷めた目で小十郎の顔を見つめた。
「…もう一度、聞く。…政宗さまは、何処だ」
「言うわけには、いかないな!」
小十郎は反射的に、その頬を打っていた。
「………手荒だね……片倉君」
切れた唇を軽く舐めながら、半兵衛は冷めた目で小十郎の顔を見つめた。
「…もう一度、聞く。…政宗さまは、何処だ」
一言、言えば楽になるし、このような屈辱を味合わなくてもいい。
そのことが、どうしてこの怜悧な女にはわからないのか、と。
何を言っても、何をしても、この頑固者には通じないのか。
そのことが、どうしてこの怜悧な女にはわからないのか、と。
何を言っても、何をしても、この頑固者には通じないのか。
「では…。貴様の、女の体に聞こう……」
はっと、体を強張らせるのを見て、小十郎はこれは案外効くと踏んだ。
「…好きにするといい…君に、できるならね…」
怯えの色を押さえ込み、まだ気丈に言い放つ。
はっと、体を強張らせるのを見て、小十郎はこれは案外効くと踏んだ。
「…好きにするといい…君に、できるならね…」
怯えの色を押さえ込み、まだ気丈に言い放つ。
床に倒れた白い体の咽喉元を押さえつけながら、小十郎は無造作に半兵衛の袴に手を掛けた。
帯を解き、脚の括りも解く。
男の手を本能的に懼れた体が、仰け反って抵抗する。
小十郎はそれを軽く封じ、袴を引き下ろす。
帯を解き、脚の括りも解く。
男の手を本能的に懼れた体が、仰け反って抵抗する。
小十郎はそれを軽く封じ、袴を引き下ろす。
厚い衣に隠されていた、女の甘い匂いが立ち上った。
苦鳴が、小十郎の手に直に伝わった。
袴も下着も全て剥がされて、見開かれた双眸がようやく恐怖の色を浮かべた。
袴も下着も全て剥がされて、見開かれた双眸がようやく恐怖の色を浮かべた。
半兵衛は、片倉小十郎という男がこのような真似はするまい、と踏んでいたのだろう。
たとえ、女と知っても何の遠慮もなくその細首を落とすとしても、その身に恥辱を与えるよ
うには思えなかった。
半兵衛の読み違いは、小十郎が政宗に関することには鬼にも蛇にもなれる、という一事のみ
だった。
たとえ、女と知っても何の遠慮もなくその細首を落とすとしても、その身に恥辱を与えるよ
うには思えなかった。
半兵衛の読み違いは、小十郎が政宗に関することには鬼にも蛇にもなれる、という一事のみ
だった。
それは、半兵衛自身にも当てはまる。
秀吉のためには、悪名が立とうが誹られようが、一向に平気だった。
秀吉のためには、悪名が立とうが誹られようが、一向に平気だった。
無骨な手が、内腿を撫で上げる。
柔らかいだけの感触ではなく、常に馬上にある独特の堅さがあった。
きつく膝を合わせて小十郎の手を阻もうとするが、咽喉元を押さえつけられているために、
抵抗を激しくすれば、息が止まりかける。
柔らかいだけの感触ではなく、常に馬上にある独特の堅さがあった。
きつく膝を合わせて小十郎の手を阻もうとするが、咽喉元を押さえつけられているために、
抵抗を激しくすれば、息が止まりかける。
「………く…っ…!…やめろ、片倉っ……」
「やめて欲しければ、することは一つだろう。竹中」
半兵衛の目が、獣脂の蝋燭へと流れる。
ゆらゆらと、焔は揺れていた。
「やめて欲しければ、することは一つだろう。竹中」
半兵衛の目が、獣脂の蝋燭へと流れる。
ゆらゆらと、焔は揺れていた。
「火でもつける気か?貴様の剣でもなければ、届かんぞ」
小十郎は油断なく、目配りをした。
半兵衛の視線が、小十郎へと戻る。
同時に、小十郎の腹に半兵衛の膝が入った、かに思えた。
小十郎は油断なく、目配りをした。
半兵衛の視線が、小十郎へと戻る。
同時に、小十郎の腹に半兵衛の膝が入った、かに思えた。
予期していなければ、まともに喰らっただろう。
蹴りを交し、もう一度平手で面を打った。
蹴りを交し、もう一度平手で面を打った。
半兵衛は、無駄なことを一切しない。
何か仕掛ける時にも。
蝋燭へ目を向けたのも、小十郎にそちらへと気を逸らせるためであった。
何か仕掛ける時にも。
蝋燭へ目を向けたのも、小十郎にそちらへと気を逸らせるためであった。




