小十郎が外に出ると賊徒はまだ距離を置いてこちらを窺い、御者の一人が刀を構えて牽制しているところだった。
もう一人の御者は御者台に残ったまま手綱を握り、いざとなれば強引にでも来た道を戻って政宗を安全な場所へと避難させるため、油断無く周囲に目を走らせている。そして慎重に、いつでも抜刀出来るようにも身構えていた。
彼らは御者で、同時に政宗の警護を任された者たちでもある。
政宗を護るために死力を尽くすのが最たる職分である彼らは、その点では小十郎と同じ立場と言えた。
しかし彼らと小十郎とには明確な違いがある。それは役職名や階級、力量というわかりやすいものでもあったし、もっと別の、わかりにくいものでもあった。
何がどう違うのか。それを明確に理解できるのは、おそらく小十郎だけだろう。
片倉様、と賊徒を睨めつけたまま御者が小十郎の名を呼ぶ。
指示を仰いでいるのだと把握し、小十郎は素早く目を走らせると状況を確認した。
──敵数は八。得物は刀が五、斧が二、短刀が一。
飛び道具は見当たらない。隠し持っている可能性は否定できないが、あれば姿を現す前にすでに使っているだろう。恐らく脅威にはならない。
相手の状況を量りながら敵の位置から馬車までの距離を目測し、次いでこちらの戦力を計算する。
御者は数多の候補から特に剣術の優れた者が選ばれる役目。ならば実質戦えるのが一人でも、二三人程度なら相手にするのも軽いはず。
問題は無いと踏み、小十郎は左手を刀の柄に伸ばした。鯉口を切る。
「一人でいい、生かせ。後は片付けろ。馬車に近づけさせるな」
それだけ告げて抜刀すると、小十郎は一気に駆け出した。白刃が閃く。
まさか獲物があえて立ち向かってくるとは思っていなかったのか賊は一瞬の躊躇を見せたが、すぐに立ち直り、好戦的な雄叫びを上げて木々の合間から次々に飛び出してきた。
もう一人の御者は御者台に残ったまま手綱を握り、いざとなれば強引にでも来た道を戻って政宗を安全な場所へと避難させるため、油断無く周囲に目を走らせている。そして慎重に、いつでも抜刀出来るようにも身構えていた。
彼らは御者で、同時に政宗の警護を任された者たちでもある。
政宗を護るために死力を尽くすのが最たる職分である彼らは、その点では小十郎と同じ立場と言えた。
しかし彼らと小十郎とには明確な違いがある。それは役職名や階級、力量というわかりやすいものでもあったし、もっと別の、わかりにくいものでもあった。
何がどう違うのか。それを明確に理解できるのは、おそらく小十郎だけだろう。
片倉様、と賊徒を睨めつけたまま御者が小十郎の名を呼ぶ。
指示を仰いでいるのだと把握し、小十郎は素早く目を走らせると状況を確認した。
──敵数は八。得物は刀が五、斧が二、短刀が一。
飛び道具は見当たらない。隠し持っている可能性は否定できないが、あれば姿を現す前にすでに使っているだろう。恐らく脅威にはならない。
相手の状況を量りながら敵の位置から馬車までの距離を目測し、次いでこちらの戦力を計算する。
御者は数多の候補から特に剣術の優れた者が選ばれる役目。ならば実質戦えるのが一人でも、二三人程度なら相手にするのも軽いはず。
問題は無いと踏み、小十郎は左手を刀の柄に伸ばした。鯉口を切る。
「一人でいい、生かせ。後は片付けろ。馬車に近づけさせるな」
それだけ告げて抜刀すると、小十郎は一気に駆け出した。白刃が閃く。
まさか獲物があえて立ち向かってくるとは思っていなかったのか賊は一瞬の躊躇を見せたが、すぐに立ち直り、好戦的な雄叫びを上げて木々の合間から次々に飛び出してきた。
賊の躊躇はごくわずか。
だがそのわずかな間で、小十郎は馬車から十分に距離を取れていた。
これだけ離れていれば馬車を血で汚さずに済むだろう、と小十郎はひとまず安心する。
主の乗る馬車を血で汚すは主を汚すも同然。それは避けなければならない。下賎の血で主を汚すなど、あってはならない。それがための先手。
小十郎が先手を打ったのは勝つためではなかった。
主を護る戦いで執事が負ける訳がない。勝敗など最初から疾うに決まっている。
否。
そんなものは──この場には端から存在すらしていなかった。
だがそのわずかな間で、小十郎は馬車から十分に距離を取れていた。
これだけ離れていれば馬車を血で汚さずに済むだろう、と小十郎はひとまず安心する。
主の乗る馬車を血で汚すは主を汚すも同然。それは避けなければならない。下賎の血で主を汚すなど、あってはならない。それがための先手。
小十郎が先手を打ったのは勝つためではなかった。
主を護る戦いで執事が負ける訳がない。勝敗など最初から疾うに決まっている。
否。
そんなものは──この場には端から存在すらしていなかった。