■蝶と狂と聖
私はただ、普通の女として「愛」を享受したかった。
「何を言い出すかと思えば…」
光秀の表情は髪に隠れて良く見えない。
光秀の表情は髪に隠れて良く見えない。
「殺しなさいよ…」
「何故死に急ぐのですか?」
「あなたなんかに情けをかけられる位なら、死んだ方がマシよ!」
「おや…月並みな…」
鬱陶しげに手を振って見せる。
「そんなに信長公が大事で…?」
「そうよ!上総助様に世話を掛ける位なら死んだ方がマシ!」
少しだけ光秀の表情が歪んだ気がした。
「何故死に急ぐのですか?」
「あなたなんかに情けをかけられる位なら、死んだ方がマシよ!」
「おや…月並みな…」
鬱陶しげに手を振って見せる。
「そんなに信長公が大事で…?」
「そうよ!上総助様に世話を掛ける位なら死んだ方がマシ!」
少しだけ光秀の表情が歪んだ気がした。
何故か感情が収まらなかった。始めて胸に秘めた事を口にした。
「私は…役立たずの…」
「…」
「誰も…私を愛してくれないもの…」
彼は、沈黙。
「私は…役立たずの…」
「…」
「誰も…私を愛してくれないもの…」
彼は、沈黙。
「光秀…?あなた私を殺さないんでしょう…?」
心の抜けた声で、人形に語るように語る。感情が壊れているのか、涙を流したままで。
「私を好きにしてみる…?ほら…まだ私経験なんてないわよ…」
「…」
「誰もこんな女振り向かないもの…」
「…」
「あなたの趣味でいいわ…裸にして犬にでも犯させるのかしら?…それとも手足を切って見世物にでもする…?」
「…」
「それも嫌なの?なら…」
「帰蝶!」
心の抜けた声で、人形に語るように語る。感情が壊れているのか、涙を流したままで。
「私を好きにしてみる…?ほら…まだ私経験なんてないわよ…」
「…」
「誰もこんな女振り向かないもの…」
「…」
「あなたの趣味でいいわ…裸にして犬にでも犯させるのかしら?…それとも手足を切って見世物にでもする…?」
「…」
「それも嫌なの?なら…」
「帰蝶!」
始めて私の唇に、他人の唇が触れた。
温かくって、柔らかくって、あの人の腕に抱かれたみたいな、幸せな感触。
「光秀が…帰って参りました…」
「み…つ…ひ…で?」
「あの人」としての明智光秀を、始めて名前で呼んだ気がする。
英雄の瞳、気品溢れる風格。
かつての俊才、信長と唯一渡り合える聖人が、そこに居た。
私は私に戻る。
蝶と聖(しょう)
「み…つ…ひ…で?」
「あの人」としての明智光秀を、始めて名前で呼んだ気がする。
英雄の瞳、気品溢れる風格。
かつての俊才、信長と唯一渡り合える聖人が、そこに居た。
私は私に戻る。
蝶と聖(しょう)