汚れた体も散らばった着物もそのままに、二人は畳の上に寝転んでいた。
家康の体を優しく抱き締め、短く切りそろえた髪を梳いている元親を見上げ、家康はゆっくりと口を開いた。
家康の体を優しく抱き締め、短く切りそろえた髪を梳いている元親を見上げ、家康はゆっくりと口を開いた。
「……なぁ、元親ぁ」
「ん?どうした?」
「おめぇ、ずっとそれがしの味方で居てくれるか?」
「…何でェ、藪から棒に」
「……それがしが…秀吉殿を討ったのは知ってるだろ……直に、また戦が起こる。今までじゃ考えらんねぇくらいの…でかい戦だ」
「はは、何言ってやがんだ。天下の覇王様を倒して万々歳、だろ?」
「……それがしは本気だ!」
「ん?どうした?」
「おめぇ、ずっとそれがしの味方で居てくれるか?」
「…何でェ、藪から棒に」
「……それがしが…秀吉殿を討ったのは知ってるだろ……直に、また戦が起こる。今までじゃ考えらんねぇくらいの…でかい戦だ」
「はは、何言ってやがんだ。天下の覇王様を倒して万々歳、だろ?」
「……それがしは本気だ!」
先程のとろけきった表情とはうって変わって、家康は真剣な眼差しで元親を見据える。
「それがしは……三河の皆が傷付くくらいなら、相手を殺すのだって構わねぇ…殺さなきゃならねぇんだ。でも、それがしは、それと同じくらいに……おめぇを、おめぇの大好きなこの地を、大事に思ってる…」
「…家康、お前……」
「分かってる、おめぇが石田殿に並々ならねぇ恩義を感じてるって事は……それでも、それがしは、それがしは……」
「…家康、お前……」
「分かってる、おめぇが石田殿に並々ならねぇ恩義を感じてるって事は……それでも、それがしは、それがしは……」
噛み締めた唇の合間から絞り出すようにそれだけ言うと、家康は元親にぎゅ、としがみついた。
「……なーに寝ぼけた事抜かしてやがんだよ」
ごん。
「痛ぇ!も、元親?」
「しおらしくしてんじゃねェよ、らしくもねェな。……手前ェは手前ェの思う道を生きる。俺はそれを見届けてやる。それでいいだろ?ま、見届けてやるからには傍で一つ残らず見逃さねェようにしねェとなぁ」
「しおらしくしてんじゃねェよ、らしくもねェな。……手前ェは手前ェの思う道を生きる。俺はそれを見届けてやる。それでいいだろ?ま、見届けてやるからには傍で一つ残らず見逃さねェようにしねェとなぁ」
それに手前ェは見てねェと危なっかしいしな、と歯を見せて笑う元親に、家康の心は晴れていく。
安堵のせいか急に瞼が重くなり、家康はすりすりと元親の首もとに顔を寄せた。
元親はやっぱりまだガキだな、と笑うと、先程のように髪を梳き始めた。
安堵のせいか急に瞼が重くなり、家康はすりすりと元親の首もとに顔を寄せた。
元親はやっぱりまだガキだな、と笑うと、先程のように髪を梳き始めた。
「大体な、閨中に斬ったはったを持ち込むんじゃねェよ、全く」
「…うん、悪かった」
「こういう時は良かった、とかもっと、とか言ってりゃいいんだよ」
「……うん」
「ま、これで既成事実って奴もできた訳だ、堂々と手前ェを嫁に……っておい、聞いてんのか?」
「……………」
「…うん、悪かった」
「こういう時は良かった、とかもっと、とか言ってりゃいいんだよ」
「……うん」
「ま、これで既成事実って奴もできた訳だ、堂々と手前ェを嫁に……っておい、聞いてんのか?」
「……………」
長曾我部元親が石田三成によって討たれ、四国・中国が三成の下についたと家康に知らせが届いたのは、それから半年の後だった。