◇
それから一月。
ようやく肩の傷が塞がった。
幸い、風魔小太郎が女だという情報は、どこにも出回っていなかった。
松永は死に、伊達とのいざこざにも決着がついたと聞く。
あの男の中では、命を救われた風魔が感謝して、忍の世界から足を洗ったとでも思っているのだろう。
独りよがりな情けを敵にかけて自己満足に浸っている男のことを考えると、歯がゆくて仕方なかったが、小十郎が口外しなかったおかげで、今、風魔の首が繋がっているのも確かだった。
今回の失態が里に知れれば、彼女は消され、新たな風魔小太郎が誕生する。
そればかりか、世に知れ渡れば、歴代の風魔小太郎の名まで汚されてしまうのだ。
新たな雇い主を見つける前に、あの男を消さなければ。
そう決意して、風魔は傷跡の生々しい身体に晒しをきつく巻きつけ、新調した兜を目深にかぶった。
ようやく肩の傷が塞がった。
幸い、風魔小太郎が女だという情報は、どこにも出回っていなかった。
松永は死に、伊達とのいざこざにも決着がついたと聞く。
あの男の中では、命を救われた風魔が感謝して、忍の世界から足を洗ったとでも思っているのだろう。
独りよがりな情けを敵にかけて自己満足に浸っている男のことを考えると、歯がゆくて仕方なかったが、小十郎が口外しなかったおかげで、今、風魔の首が繋がっているのも確かだった。
今回の失態が里に知れれば、彼女は消され、新たな風魔小太郎が誕生する。
そればかりか、世に知れ渡れば、歴代の風魔小太郎の名まで汚されてしまうのだ。
新たな雇い主を見つける前に、あの男を消さなければ。
そう決意して、風魔は傷跡の生々しい身体に晒しをきつく巻きつけ、新調した兜を目深にかぶった。
奥州の地へは簡単に立ち入ることができた。
武田や上杉ほど忍の力のない伊達軍の守備体制は、風魔にとってはザルに等しい。
何の障害もなく城下や田畑を偵察し、伊達の居城へと潜入した。
衛兵による警護も、風魔にとっては意味もない。
闇にまぎれ、いとも容易く風魔は標的を発見した。
武田や上杉ほど忍の力のない伊達軍の守備体制は、風魔にとってはザルに等しい。
何の障害もなく城下や田畑を偵察し、伊達の居城へと潜入した。
衛兵による警護も、風魔にとっては意味もない。
闇にまぎれ、いとも容易く風魔は標的を発見した。
片倉小十郎は、縁側で主である伊達政宗と談笑していた。
二人の手には杯が握られている。
風魔はそれを確認すると、城の間取りを把握するため、再び闇に溶けた。
二人の手には杯が握られている。
風魔はそれを確認すると、城の間取りを把握するため、再び闇に溶けた。
すぐには殺せなかった。
何といっても、小十郎には一度敗れている。
焦って仕損じれば、次の機会は巡ってこないだろう。
時間をかけて小十郎の身辺を調べ上げ、確実に仕留める。
それが風魔の作戦だった。
何といっても、小十郎には一度敗れている。
焦って仕損じれば、次の機会は巡ってこないだろう。
時間をかけて小十郎の身辺を調べ上げ、確実に仕留める。
それが風魔の作戦だった。
三日かけて、風魔は小十郎の仕事ぶりや人間関係、行動範囲を確認し、城内の様子や警護態勢、実行後の逃走経路などを探った。
小十郎本人にはなるべく近づかないようにして調べたので、自分の存在には気づかれていないだろう。
そうして、風魔は暗殺の実行を決めた。
小十郎本人にはなるべく近づかないようにして調べたので、自分の存在には気づかれていないだろう。
そうして、風魔は暗殺の実行を決めた。
やはり寝込みを襲うのが一番確実だ。
また、城内の居室よりも、片倉邸の方が望ましい。
軍務だけでなく国政にも深く携わっている小十郎は激務に追われていて、ほとんど屋敷に帰ることがないようだったが、風魔は根気強く待った。
また、城内の居室よりも、片倉邸の方が望ましい。
軍務だけでなく国政にも深く携わっている小十郎は激務に追われていて、ほとんど屋敷に帰ることがないようだったが、風魔は根気強く待った。
そして、機会は巡ってきた。
申し合わせたかのような新月の晩だった。
小十郎は自邸へと帰り、自室にて就寝した。
申し合わせたかのような新月の晩だった。
小十郎は自邸へと帰り、自室にて就寝した。
時を見て、風魔は天井裏へと忍びこんだ。
小十郎の寝ている真上から、その様子を観察する。
寝息に耳をすませ、寝具の中の身体の弛緩具合をはかる。
完全に寝入っている。
武器は寝床の横の刀架に刀が二本。
相手が刀に手をかける前、起き上ることなく済ませるつもりだった。
小十郎の寝ている真上から、その様子を観察する。
寝息に耳をすませ、寝具の中の身体の弛緩具合をはかる。
完全に寝入っている。
武器は寝床の横の刀架に刀が二本。
相手が刀に手をかける前、起き上ることなく済ませるつもりだった。
風魔は慎重に天井板をはずして、忍刀を抜くと、小十郎の足もとに着地した。
否、着地寸前に、上掛けが飛んできた。
「!」
――気づかれた。
脇腹への一撃を腕で防いで、視界を覆う上掛けを忍刀で切り裂く。
「てめえか! 最近ちょろちょろしてやがったのは!」
夜着の白い着物一枚で、髪を振り乱した小十郎が吠えた。
予定がだいぶ狂ってしまった。
「……………」
「なんで俺を狙う? 誰の依頼だ?」
小十郎は刀架から愛刀を掴んで抜刀した。
否、着地寸前に、上掛けが飛んできた。
「!」
――気づかれた。
脇腹への一撃を腕で防いで、視界を覆う上掛けを忍刀で切り裂く。
「てめえか! 最近ちょろちょろしてやがったのは!」
夜着の白い着物一枚で、髪を振り乱した小十郎が吠えた。
予定がだいぶ狂ってしまった。
「……………」
「なんで俺を狙う? 誰の依頼だ?」
小十郎は刀架から愛刀を掴んで抜刀した。
「もしかして……俺が、お前が女」
それ以上言わせなかった。
一瞬で間合いを詰めると、心の臓めがけて忍刀を繰り出す。
が、刀で止められた。
すぐに足払いをかけるも、かわされる。
狭い室内では、短刀で体術にも長けた風魔が圧倒的有利。
のはずだったが、斬り結んだ瞬間、鋭い頭突きが飛んできた。
鉢金をもろともせず叩きつけられた衝撃に、風魔はあっさりと昏倒した。
それ以上言わせなかった。
一瞬で間合いを詰めると、心の臓めがけて忍刀を繰り出す。
が、刀で止められた。
すぐに足払いをかけるも、かわされる。
狭い室内では、短刀で体術にも長けた風魔が圧倒的有利。
のはずだったが、斬り結んだ瞬間、鋭い頭突きが飛んできた。
鉢金をもろともせず叩きつけられた衝撃に、風魔はあっさりと昏倒した。