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虎の若子と竜の姫3

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momo

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それでもどうにか今回も合格点をいただけたのか、再び距離を詰めることを
許されて、俺は姫君と並んで座り、同じように川風を受けている。
先ほどといい今といい、回答如何によっては多分、それ以上の随行を許されは
しなかったのだろう。
「……真っ二つに斬り捨てたとして、だ」
再び開かれた朱唇が紡いだのはそんな言葉で、竜の姫の中でせんの話題が
まだ終わっていなかったと知らされる。
「それで、俺は楽になれると思うか?」
改めて、しかも当人から訊ねられると、やはり少々心得違いだったかと思う。
気性の激しさは、あくまでもこの姫君の一面にすぎぬのだ。
「いっときの激情は解消できても、真の解決にはならぬでしょうな」
戦で敵対する者、政で障害となる者、そういった輩には、きっと髪一筋の
容赦すらなく雷の如き激しさで相対する、それは奥州の竜姫の『公』の部分だ。
しかし、こと『私』の部分に於いても、果たして同じことが起こり得るものか。
このひと月余りの日々で俺が見てきた、いくさ場以外での姫君の顔。
激しさも穏やかさも、思慮深さも気まぐれも、すべて鎧に隠された細い身体の
中に詰まっていた。
『奥州筆頭』という肩書きを外してしまえば、そこにいるのは俺とそう歳の
変わらない、ひとりの娘だった。
「そもそも、そのとき俺がまだそいつに未練があったら……斬り捨てたあと、
俺の気持ちはどこに行けばいいんだ?」
相手を斬り捨てても、その者への愛が失われないとしたら。
還らぬ相手を想い続ける以外に、為す術がないとしたら。
「楽になるのは、死んだほうだけじゃねえのかな」
ぽつり、落とされた呟きに胸の迫る思いがする。
つまらぬ軽口を後悔しながら、必死に次の言葉を探した。
「で、では……斬り捨てぬまでも、何か罰を与えるくらいであれば」
「罰? たとえば、腕を斬り落とす、とか?」


―――――お館様。『斬る』方向から話が逸れませぬ。


「そ……それはなかなかに重い罰になりましょうな」
「武人だったら死活問題だよなぁ」
言いながら姫君は無造作に――――左側にいた俺の右腕をひょいと捕らえ、
御自身の肩へと回された。
「なっ……ななななな!」
何をなさる、と言おうとしたのだが言葉が完成されなかった。理由のひとつには、
相手があまりにも平然とそうしているため、あまり狼狽えていてはそれこそ
情けない男よとの評価を下される可能性があるからだ。
「好いた男の腕を斬り落とせば、もう抱いてはもらえねえ。足を斬り落とせば、
他所へは行けなくなるだろうが、そうしなけりゃ留めておけねえみたいで
やっぱり嫌だ。ちゃんと自分の意志で傍にいてくれるんじゃなきゃ意味がねえ。
それに離れていかれるくらいなら、最初からないほうがずっとましだ」
肩に乗せた俺の腕を玩具のように弄びつつ、竜の姫は歌うように言葉を綴る。
「……そもそも浮気ってのは、されるほうはいい気持ちはしねえと思うが……
それが甲斐性だと考えたり、据え膳食っちまう男にとっては、どうでもいい
ことなのかな」
そこまで言って、ふと口調が変わった。
「―――――ああ、アンタは違う意見だったか。じゃあ訊いても仕方がねえな」
「お役に立てず申し訳ござらぬ」
正直な心情だったのだが、笑いを買ってしまったのは何故なのだろう。
ひとしきり笑われたあとも、俺の腕は解放されることはなく、そのまま
姫君の肩の上に留まり続ける。……いいのだろうか。
「ま、いいさ。ここで浮気の意義とか据え膳の必要性とか説かれたところで
そんなもん聞きたかねえし」
俺の内心の呟きに呼応しているようでしていない台詞のあと、端麗な横顔が
たった今気付いたとでも言いたげに疑問を口にした。
「……なんで俺、アンタとこんな話してんだろう」


―――――お館様。それはむしろ某の台詞ではないかと思うてはいけませぬか。



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