戦国BASARA/エロパロ保管庫

虎竜・隠れ鬼2

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momo

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空を渡る雲の影が、かろうじて視界に入る草むらを過ぎっていくのが見える。
こんな天気の良い日は、もっと時間を有意義に使うことのできる行動が他に
いくらでもあると思うのだが。
「『隠れ鬼』なんて久しぶりだなあ」
なのに俺の隣から聞こえる、そこはかとなく楽しげな声のせいで、温度を
上げかけた疑問もたちまち霧散してしまうのだから始末におえない。
「そ、その……よく遊ばれたのでござろうか?この、隠れ鬼、で」
「ああ。アンタはやらなかったのか?」
……まことに申し訳ないがこういう方法では致しませなんだ。
喉まで出かかった言葉を呑み込み、曖昧に笑う。
姫君は不思議そうな顔をされ、小さく首を傾げた。いくさ場では絶対に見る
ことのできぬそんな仕草は…………可愛らしい。とても。
面と向かって言ったら怒らせてしまう気がするので決して口にはしないが、
この姫君は何気ない仕草がいちいち可愛らしいので困る。
ひとたび剣を握ればまさに迅雷、並み居る敵を片端から切り捨てる勇猛果敢な
蒼竜。かつてはそれが、『奥州の独眼竜』に対する印象のすべてだった。
しかし現状、俺の名を呼び掛けてくる際に同時にこちらの袖を軽く引いたり、
反応を確かめるようにやや上目遣い気味に顔を覗き込んできたりといった、
ごく他愛ない、なのに何故か不思議に目を奪われる仕草を間近で見るにつけ、
当然ながらその印象も変えざるを得なくなっている。
というか、この落差は正直騙されているような気さえする。しかし何のために。
俺を騙して、姫君に一体何の得が。
「…………真田、幸村?」
大幅に脱線していた思考が、姫君自身の声によって引き戻された。
「何だよ。『隠れ鬼』は嫌いか?」
だからその、好きとか嫌いとかいう以前の問題で。
言葉を返すためにそちらに向けた、視線が竜の眼に捕まって暫し固まる。
何かが頭の中で警鐘を鳴らした。この瞳を間近で見つめ続けていたら、きっと
取り返しのつかないことが起こってしまう。
考えるより早く、俺はそこを飛び出した。
距離を置き、これで少しは平静な気持ちで見られるだろうと思って振り向くが、
その楽観はあっさりと覆された。
一瞬僅かに見開かれ、そしてすぐに軽く伏せられたひとつきりの瞳によって、
わけのわからぬもやもやした感情と同時に罪悪感すら覚える羽目になった
からだ。
「失礼ながら、某はもう隠れ鬼で遊ぶような年齢ではございませぬ故」
言い訳がましいと自分でも思った。案の定、そんな言葉では罪悪感は消えも
せず、陽の光の下に戻ったはずなのに心には暗い影が差す。
追い討ちを掛けるように、低い声が届いた。
「行ってもいいが、ここのことは秘密だからな。誰にも言うなよ」
だからここは武田屋敷の敷地内で、竜の住処ではないのでござるが。
言いかけた言葉をどうにか呑み込み、『承知致した』とだけ告げてその場を
立ち去る。
俺は揶揄われたのだろうか。あんな隠れ鬼などありえない。
頭の中で何度となく繰り返しても、胸に生じた不可思議なもやもやも罪悪感も
消えてはくれず、むしろ倍増したかとすら思える。
けれどその理由を追究したとしても、やはり取り返しのつかないことになる
だけのような気がしたので、俺はひたすらに足を速めた。


―――――お館様。後ろ髪を引かれる想いなのは気の迷いということで。



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