「……ああ……」
思えばそのときから、市はあの男から目が逸らせなくなっていたのだと思う。
ぞわりとしたものが背筋を駆け抜け、体が内側から溶け出していくような妙な感覚を覚えた。
己も戦闘に加わりたい、あの男の躍動する体を傷つけ、命の火を削ぎ落とし、
その首を斬りおとしたい――と、焼け付くような切望を抱いたそのとき、
長政の刀の一閃が、襲撃者の胴間をしたたかに打ち据えたのだった。
「あぁ……市は、市は……!」
白濁した液体が、市の身のうちの泉からあふれ出していく。
――その後、男は親衛隊に全身を押さえつけられ、高手小手に戒められて大地のうえに蹴倒された。
その時の男の表情を、市はいまだに忘れられない。
あらぬ屈辱に眉根を歪ませ、どこか内臓でも負傷したのか、唇を吐き出した血にまみれさせながらも――
彼の双眸ばかりは、炯炯と、どこまでも苛烈に鋭かった。
人間に縛された手負いの獅子のような面差しに、一瞬で、欲情した。
火酒を干したように、胸中がかっと燃え滾った。
そんな自分を浅ましいと逡巡する暇すら、なかった。
男たちが戦場へ赴く前に、湯女や芸者相手にさんざ遊蕩の限りを尽くすその理由が、
市にはようやくわかった気がした。
だって、女の身であろうとも、こんなにも『欲しくなる』瞬間があるのだから。
たまらぬ飢えを満たすように、喉の渇きを潤すように、ただ目前の異性が、
その肉体が欲しい、欲しい欲しい欲しい、と全身が泣いて叫んで戦慄いて、
統御できぬ瞬間があるのだから。男ならば――きっと――
一人遊び9
思えばそのときから、市はあの男から目が逸らせなくなっていたのだと思う。
ぞわりとしたものが背筋を駆け抜け、体が内側から溶け出していくような妙な感覚を覚えた。
己も戦闘に加わりたい、あの男の躍動する体を傷つけ、命の火を削ぎ落とし、
その首を斬りおとしたい――と、焼け付くような切望を抱いたそのとき、
長政の刀の一閃が、襲撃者の胴間をしたたかに打ち据えたのだった。
「あぁ……市は、市は……!」
白濁した液体が、市の身のうちの泉からあふれ出していく。
――その後、男は親衛隊に全身を押さえつけられ、高手小手に戒められて大地のうえに蹴倒された。
その時の男の表情を、市はいまだに忘れられない。
あらぬ屈辱に眉根を歪ませ、どこか内臓でも負傷したのか、唇を吐き出した血にまみれさせながらも――
彼の双眸ばかりは、炯炯と、どこまでも苛烈に鋭かった。
人間に縛された手負いの獅子のような面差しに、一瞬で、欲情した。
火酒を干したように、胸中がかっと燃え滾った。
そんな自分を浅ましいと逡巡する暇すら、なかった。
男たちが戦場へ赴く前に、湯女や芸者相手にさんざ遊蕩の限りを尽くすその理由が、
市にはようやくわかった気がした。
だって、女の身であろうとも、こんなにも『欲しくなる』瞬間があるのだから。
たまらぬ飢えを満たすように、喉の渇きを潤すように、ただ目前の異性が、
その肉体が欲しい、欲しい欲しい欲しい、と全身が泣いて叫んで戦慄いて、
統御できぬ瞬間があるのだから。男ならば――きっと――
一人遊び9




