そのまま二刻は寝入っていただろうか。
寝入る時にはずっと側にいてくれた忠勝の手を握っていたはずだが、夕餉ですよと女房に起こされて
はっと目覚めた時には食事の邪魔をしないように遠慮をしているのか部屋には居なかった。
そのことが少し不満だったが、居る場所は見当がついているので誰かを呼びに遣らせれば良いと
起き抜けのぼんやりした頭で考えて着物に袖を通した。
寝入る時にはずっと側にいてくれた忠勝の手を握っていたはずだが、夕餉ですよと女房に起こされて
はっと目覚めた時には食事の邪魔をしないように遠慮をしているのか部屋には居なかった。
そのことが少し不満だったが、居る場所は見当がついているので誰かを呼びに遣らせれば良いと
起き抜けのぼんやりした頭で考えて着物に袖を通した。
「大阪ではきちんと召し上がられているだろうかと心配しておりました」
「はは、まあそう悪くは無かったがやっぱ食べなれた飯の味が一番だな!」
「褒めても何も出ませんよ?」
「飯が出るだろ、飯が」
「はは、まあそう悪くは無かったがやっぱ食べなれた飯の味が一番だな!」
「褒めても何も出ませんよ?」
「飯が出るだろ、飯が」
そんなことを言い合いながら笑い合うにつけても帰ってきたのだという実感が湧く。
食膳に並べられたものをもそもそとかきこみ終える頃には見計らったかのように忠勝がやってきたが、
こちらにやって来ようとして兜の脇立てをがつん、と鴨居にぶつけてしまうのが見えた。
いつもなら頭を少し下げて引っ掛からないはずだが、この男も少しは慌てているということか。
ずれた兜を直すのを見て、恥ずかしい顔じゃねえから兜のついでに面も取ってしまえと
心の中で舌打ちしたが、茶をぐいぐいと飲んで何も気がつかなかった振りをした。
こちらにやって来ようとして兜の脇立てをがつん、と鴨居にぶつけてしまうのが見えた。
いつもなら頭を少し下げて引っ掛からないはずだが、この男も少しは慌てているということか。
ずれた兜を直すのを見て、恥ずかしい顔じゃねえから兜のついでに面も取ってしまえと
心の中で舌打ちしたが、茶をぐいぐいと飲んで何も気がつかなかった振りをした。
それで、何でわざわざこの男が来たのかといえば、別にやましいところがあって来たわけではない。
ただ護るために側に居るだけだ。忠勝には、そういう静かで慎ましいところがある。
家康は茶碗を侍従に渡して下がらせると、二人きりになった部屋の中、立ち上がって歩み寄った。
手を伸ばして兜を掴み、蜻蛉の文様に口付けた。それと同時に、腰に手が回されるのがわかる。
ただ護るために側に居るだけだ。忠勝には、そういう静かで慎ましいところがある。
家康は茶碗を侍従に渡して下がらせると、二人きりになった部屋の中、立ち上がって歩み寄った。
手を伸ばして兜を掴み、蜻蛉の文様に口付けた。それと同時に、腰に手が回されるのがわかる。
「まあ待て、久しぶりなんだから湯浴みくらいさせろ」