「待てよ!それは、俺が信用出来ないって事なのか!?」
食って掛かる元親を軽くいなすと、毛利は淡々と言葉を返した。
「我個人としては、貴様が愚かな真似をするようなヤツではない、と確信して
いる。こやつらも思惑はどうあれ、貴様の命令なら喜んで受け入れるであろう」
他人を信じない、とされていた詭計知将の意外な科白に、長曾我部の海賊だけ
でなく、毛利の兵士達も思わず目を見張る。
「だが、四国に戻った貴様が、再び兵と共に我らを攻めにくるという可能性も、
否定出来ぬ。ならば、それらの事態も想定した策を取るのは当然の事」
奪い、奪われるのが常の戦国の世だ。
たとえ元親が望まなくても、四国に控える長曾我部の者達が、元親に毛利を攻
めるよう命令を与える事だって、充分に有り得る。
ならば、そうなった時の為に元親を人質に取るという、元就の策は的確であ
った。
彼らが強硬な姿勢を見せた時には、元親の首を四国に送り届ければ良いし、
(もっとも、元就自身にそんな気は毛頭ないのだが)仮に長曾我部が元親を見
捨てたとしても、それはそれでどうとでもなる。
無言のまま立ちすくむ元親に、元就はあえて挑発するような物言いをした。
「──いつ来るとも判らぬ仲間を待つのは、不安か?」
「なっ…ば、バカにするな!俺はあいつらを信じてる!信じて待ち続ける!」
「お嬢…」
「みんな、頼んだぜ。俺はここで吉報を待ってっからな」
「お嬢!」
「元親様!」
部下達を安心させる為に、元親は努めて明るく振舞う。
だが、その笑顔が何処となくぎこちない事に、元親の隣に立つ元就だけは気付
いていた。
食って掛かる元親を軽くいなすと、毛利は淡々と言葉を返した。
「我個人としては、貴様が愚かな真似をするようなヤツではない、と確信して
いる。こやつらも思惑はどうあれ、貴様の命令なら喜んで受け入れるであろう」
他人を信じない、とされていた詭計知将の意外な科白に、長曾我部の海賊だけ
でなく、毛利の兵士達も思わず目を見張る。
「だが、四国に戻った貴様が、再び兵と共に我らを攻めにくるという可能性も、
否定出来ぬ。ならば、それらの事態も想定した策を取るのは当然の事」
奪い、奪われるのが常の戦国の世だ。
たとえ元親が望まなくても、四国に控える長曾我部の者達が、元親に毛利を攻
めるよう命令を与える事だって、充分に有り得る。
ならば、そうなった時の為に元親を人質に取るという、元就の策は的確であ
った。
彼らが強硬な姿勢を見せた時には、元親の首を四国に送り届ければ良いし、
(もっとも、元就自身にそんな気は毛頭ないのだが)仮に長曾我部が元親を見
捨てたとしても、それはそれでどうとでもなる。
無言のまま立ちすくむ元親に、元就はあえて挑発するような物言いをした。
「──いつ来るとも判らぬ仲間を待つのは、不安か?」
「なっ…ば、バカにするな!俺はあいつらを信じてる!信じて待ち続ける!」
「お嬢…」
「みんな、頼んだぜ。俺はここで吉報を待ってっからな」
「お嬢!」
「元親様!」
部下達を安心させる為に、元親は努めて明るく振舞う。
だが、その笑顔が何処となくぎこちない事に、元親の隣に立つ元就だけは気付
いていた。
「じゃあ、俺らのいない間、お嬢を頼みますぜ」
「はい。長曾我部様の事は、我々にお任せを」
四国に帰る為の船に乗り込んだ長曾我部の海賊達は、昨夜の宴会で親睦を深め
た毛利の兵士達に、元親の身の回りの世話などを依頼した。
快く引き受けてくれた毛利の家臣に謝辞を述べると、船の外で自分達を見上げ
ている元親の姿を見つめる。
本来なら見送られる立場の自分が、こうして陸で仲間の出航を見守る事に、元
親は不思議な気分を覚えていた。
「じゃあな。親貞や親泰たちにもよろしくな」
「はい。必ず、良き知らせ持って参りますゆえ」
「ん」
「もしもの時があったとしても、俺らはずーっとお嬢の味方っスよ!」
「そーそー。そん時は、一緒にあちこちの海を巡りましょうや!」
「ははっ、それもいいかもな。海賊の本領発揮だ!」
そうしている間に、出航の準備が整った船は、碇を上げると、ゆっくりと岸から
離れ始めた。
「それでは元親様、行って参ります」
「気を付けろよ!慌てて無茶はすんじゃねーぞ!」
「お嬢もお元気で!いってきます!」
船上から一斉に手を振ってきた部下達に、元親は笑顔で手を大きく振り返す。
次第に遠ざかっていく船を、元親はそのままずっと見送っていたが、
「はい。長曾我部様の事は、我々にお任せを」
四国に帰る為の船に乗り込んだ長曾我部の海賊達は、昨夜の宴会で親睦を深め
た毛利の兵士達に、元親の身の回りの世話などを依頼した。
快く引き受けてくれた毛利の家臣に謝辞を述べると、船の外で自分達を見上げ
ている元親の姿を見つめる。
本来なら見送られる立場の自分が、こうして陸で仲間の出航を見守る事に、元
親は不思議な気分を覚えていた。
「じゃあな。親貞や親泰たちにもよろしくな」
「はい。必ず、良き知らせ持って参りますゆえ」
「ん」
「もしもの時があったとしても、俺らはずーっとお嬢の味方っスよ!」
「そーそー。そん時は、一緒にあちこちの海を巡りましょうや!」
「ははっ、それもいいかもな。海賊の本領発揮だ!」
そうしている間に、出航の準備が整った船は、碇を上げると、ゆっくりと岸から
離れ始めた。
「それでは元親様、行って参ります」
「気を付けろよ!慌てて無茶はすんじゃねーぞ!」
「お嬢もお元気で!いってきます!」
船上から一斉に手を振ってきた部下達に、元親は笑顔で手を大きく振り返す。
次第に遠ざかっていく船を、元親はそのままずっと見送っていたが、
「──そろそろ参りましょうか」
「……もう少しだけ、ここにいても良いか?」
「……もう少しだけ、ここにいても良いか?」
肩を震わせながら、振り絞るような声を出してきた元親に、毛利の兵はそれ以上
何も言わずに小さく会釈を返すと、さり気なくその場を離れた。
足音が遠ざかるのを確認した矢先、元親は、それまで堪えていたいっぱいの涙を
両の瞳から溢れさせると、しゃがみ込んで嗚咽を漏らし始めた。
頭では判っているが、隠し切れない不安と、それまでずっと一緒だった仲間と離
れ、独りぼっちになってしまった事で、例えようもない悲しみと寂しさが、元親
の中を支配していたのだ。
「ぅ…ひっく……」
声を殺して泣いている元親の影が、浜辺の砂浜に頼りなげに映し出される。
すると、そこにもうひとつ人影が、ゆっくりと重なってきた。
何も言わずに小さく会釈を返すと、さり気なくその場を離れた。
足音が遠ざかるのを確認した矢先、元親は、それまで堪えていたいっぱいの涙を
両の瞳から溢れさせると、しゃがみ込んで嗚咽を漏らし始めた。
頭では判っているが、隠し切れない不安と、それまでずっと一緒だった仲間と離
れ、独りぼっちになってしまった事で、例えようもない悲しみと寂しさが、元親
の中を支配していたのだ。
「ぅ…ひっく……」
声を殺して泣いている元親の影が、浜辺の砂浜に頼りなげに映し出される。
すると、そこにもうひとつ人影が、ゆっくりと重なってきた。




