「ここが、わたくしのしか」
川中島での何度目かの戦い。犠牲を少なくするため右腕のかすがに戦場をまかせ、
単身武田信玄のもとへ向かった上杉謙信は、一騎打ちで屈した。
信玄の軍配がひと振り当たっただけで謙信の細い剣とその身を吹き飛ばし、
身体がバラバラになってしまう程の衝撃を与えたのだった。
単身武田信玄のもとへ向かった上杉謙信は、一騎打ちで屈した。
信玄の軍配がひと振り当たっただけで謙信の細い剣とその身を吹き飛ばし、
身体がバラバラになってしまう程の衝撃を与えたのだった。
全身の力が抜けてしまい、横たわるように倒れたまま起きあがることができない。
「かんぱいです、たけだしんげん。みごとないちげきでした…」
「うむ、ヌシも素晴らしき剣よの。馳走になった」
「このいのち、あなたさまにささげましょう。さあ、わたくしのくびをとって、かちなのりを
あげるがいい…」
「かんぱいです、たけだしんげん。みごとないちげきでした…」
「うむ、ヌシも素晴らしき剣よの。馳走になった」
「このいのち、あなたさまにささげましょう。さあ、わたくしのくびをとって、かちなのりを
あげるがいい…」
こふっこふっ、と苦しそうに謙信がせき込む。
「つらいか?」
「ふふっ、これは…おかしなことをいう」
無理矢理に笑顔をつくる。その辛そうな顔を見た信玄は、謙信の左側に膝をついてから
彼女の上半身をゆっくりと抱き上げた。謙信の左腕が力無く下に垂れる。
「つらいか?」
「ふふっ、これは…おかしなことをいう」
無理矢理に笑顔をつくる。その辛そうな顔を見た信玄は、謙信の左側に膝をついてから
彼女の上半身をゆっくりと抱き上げた。謙信の左腕が力無く下に垂れる。
片手で謙信の頭や首を行者包みでくるんでいる白い布を外すと
「あっ…」
隠れていた美しい艶やかな黒髪がぱさりと鎖骨の下あたりまでほどけ落ちた。
「こうして見ると美しいな、軍神よ」
「ふふっ…そんな、どうでもよいことではありませんか。わたくしとあなたさまのあいだに
おいては」
「あっ…」
隠れていた美しい艶やかな黒髪がぱさりと鎖骨の下あたりまでほどけ落ちた。
「こうして見ると美しいな、軍神よ」
「ふふっ…そんな、どうでもよいことではありませんか。わたくしとあなたさまのあいだに
おいては」
信玄の想いをはかりかねて謙信は目を閉じた。
あぁ、きっと黄泉の国に旅立つ前にせめてものいたわりをくれたのかもしれない。
変な気分だが優しい男なのだな、武田信玄…と頬をくすぐる風を心地よく感じながら
思っていた。
あぁ、きっと黄泉の国に旅立つ前にせめてものいたわりをくれたのかもしれない。
変な気分だが優しい男なのだな、武田信玄…と頬をくすぐる風を心地よく感じながら
思っていた。
謙信はしばらく目を閉じていたが、自分を片手で持ち上げたままいっこうに
とどめをさす気配を見せない男に焦れて再び目を開く。そのとき、
「いかん、謙信」
「…しんげん?」
信玄が顔を引き寄せ、そのまま互いの…唇を触れ合わせた。
とどめをさす気配を見せない男に焦れて再び目を開く。そのとき、
「いかん、謙信」
「…しんげん?」
信玄が顔を引き寄せ、そのまま互いの…唇を触れ合わせた。