元就が幼少の頃、諸国の会合へ行くという父親に連れられ、一度だけ四国に足を踏み入れた事があった。
四国には、自分と歳の変わらぬ子供がいるから、遊び相手になってやれ、と言われていたが、当時から人見知りの激しかった元就は、浜辺で独り遊びを繰り返していた。
その時、元就は慣れぬ岩場に足を滑らせ、転倒すまいとした事で、岩肌に腕を引っ掛けてしまったのだ。
腕に走った疼痛と出血に、懸命に涙を堪えながら、元就は傷口を洗い流す為、海水に腕を浸そうとした。
その時、
四国には、自分と歳の変わらぬ子供がいるから、遊び相手になってやれ、と言われていたが、当時から人見知りの激しかった元就は、浜辺で独り遊びを繰り返していた。
その時、元就は慣れぬ岩場に足を滑らせ、転倒すまいとした事で、岩肌に腕を引っ掛けてしまったのだ。
腕に走った疼痛と出血に、懸命に涙を堪えながら、元就は傷口を洗い流す為、海水に腕を浸そうとした。
その時、
「ダメよ、海の水で洗ったりしたら。大変な事になっちゃう」
涼やかな声と共に現れたのは、小袖に身を包んだ小さな女の子であった。
傷でも負っているのか、左目に包帯を巻いたその少女は、小走りに駆け寄ると、元就の隣に膝を着いてきたのだ。
「うわぁ、痛そう…」
「な、何だ貴様は!痛くなどない!あっちへ行け!」
「ウソ。貴方、私が声を掛けるまで、泣きそうな顔してたもの」
「なっ、オレは泣いてないどいない!」
「そんな事より、傷の手当てをしないと。一緒に来て!」
傷でも負っているのか、左目に包帯を巻いたその少女は、小走りに駆け寄ると、元就の隣に膝を着いてきたのだ。
「うわぁ、痛そう…」
「な、何だ貴様は!痛くなどない!あっちへ行け!」
「ウソ。貴方、私が声を掛けるまで、泣きそうな顔してたもの」
「なっ、オレは泣いてないどいない!」
「そんな事より、傷の手当てをしないと。一緒に来て!」
少女に連れられて、一件の民家に辿り着いた元就は、井戸から水を汲んできた少女に言われるまま、庭先の切り株に腰掛けた。
少女は懐から出した手拭いを数枚に切り裂くと、その切れ端を水に浸してから絞り、元就の傷口を拭い始めた。
思ったよりも傷口が深い事に気付いた少女は、その可愛らしい顔を歪める。
「痛かったでしょう…貴方、我慢強いのね」
「だから、オレは痛くなど……つぅっ!」
「もう少しの辛抱だから。頑張って」
言いながら、小さな手で元就の傷口を拭う少女は、感受性が強いのか、まるで自分が怪我をしたかのように、瞳にいっぱいの涙を浮かべていた。
その姿が、自分の代わりに泣いているようにも見えて、元就は、この美しい少女の泣き顔を独占している事実に、仄かな優越感を覚えていたのである。
途中、幾度か布を替えながら傷口を拭い終えると、少女は余った布を元就の腕に当てた。
「押さえててくれる?」
元就に布を固定するように頼んだ少女は、自分の頭の後ろに手を回すと、己の左目を保護していた包帯を解く。
「おい…」
「いいの。別に、怪我してる訳じゃないから。ただ…こっちを見ないでね」
そう言うと、少女は自分の包帯を元就の腕に巻きつけ始めた。
だが、たとえ子供でなくとも『見るな』と言われると、つい見たくなるのが人の性というもので、元就は気付かれないように、彼女の顔を盗み見る。
少女は懐から出した手拭いを数枚に切り裂くと、その切れ端を水に浸してから絞り、元就の傷口を拭い始めた。
思ったよりも傷口が深い事に気付いた少女は、その可愛らしい顔を歪める。
「痛かったでしょう…貴方、我慢強いのね」
「だから、オレは痛くなど……つぅっ!」
「もう少しの辛抱だから。頑張って」
言いながら、小さな手で元就の傷口を拭う少女は、感受性が強いのか、まるで自分が怪我をしたかのように、瞳にいっぱいの涙を浮かべていた。
その姿が、自分の代わりに泣いているようにも見えて、元就は、この美しい少女の泣き顔を独占している事実に、仄かな優越感を覚えていたのである。
途中、幾度か布を替えながら傷口を拭い終えると、少女は余った布を元就の腕に当てた。
「押さえててくれる?」
元就に布を固定するように頼んだ少女は、自分の頭の後ろに手を回すと、己の左目を保護していた包帯を解く。
「おい…」
「いいの。別に、怪我してる訳じゃないから。ただ…こっちを見ないでね」
そう言うと、少女は自分の包帯を元就の腕に巻きつけ始めた。
だが、たとえ子供でなくとも『見るな』と言われると、つい見たくなるのが人の性というもので、元就は気付かれないように、彼女の顔を盗み見る。
「あ…」
自分の手当てを続ける少女の瞳は、左右違う色をしていた。
青みがかった右目と異なり、先程まで隠されていた左目は、まるで琥珀のような輝きを放っていたのだ。
「…や、やだっ!」
元就の視線に気付いた少女は、弾かれたように両手で左目を隠した。
少女が手を離した事により、巻き終わってなかった包帯がだらり、と腕に垂れ下がったが、元就はそれに構わず彼女の傍に寄った。
「何故、隠す?」
「だ、だって気味が悪いでしょう?私、左右の目の色が違うから…周りの大人も私の事を、『異形の姫』だって……」
「気味が悪いものか。貴様の右目は空と海の色。そして、貴様の左目は、オレの大好きな日輪の色だ」
「え…?」
それまで顔を背けていた少女は、ゆっくりと両手を下ろすと、躊躇いがちに元就に向き直る。
「ほらみろ。やっぱり、オレの言ったとおりだ」
「?」
「貴様の目は綺麗だ。そして、そのような目を持つ貴様はもっと綺麗だ。だから……」
青みがかった右目と異なり、先程まで隠されていた左目は、まるで琥珀のような輝きを放っていたのだ。
「…や、やだっ!」
元就の視線に気付いた少女は、弾かれたように両手で左目を隠した。
少女が手を離した事により、巻き終わってなかった包帯がだらり、と腕に垂れ下がったが、元就はそれに構わず彼女の傍に寄った。
「何故、隠す?」
「だ、だって気味が悪いでしょう?私、左右の目の色が違うから…周りの大人も私の事を、『異形の姫』だって……」
「気味が悪いものか。貴様の右目は空と海の色。そして、貴様の左目は、オレの大好きな日輪の色だ」
「え…?」
それまで顔を背けていた少女は、ゆっくりと両手を下ろすと、躊躇いがちに元就に向き直る。
「ほらみろ。やっぱり、オレの言ったとおりだ」
「?」
「貴様の目は綺麗だ。そして、そのような目を持つ貴様はもっと綺麗だ。だから……」
続けられた元就の言葉を聞いた少女は、きょとん、と目を丸くさせた後で、少しだけ恥ずかしそうに、だが、嬉しそうに微笑んだ。




