「…むぐ?」
「……申し訳ございませぬ。他に、政宗殿の口を塞ぐものが、思い当たらなかったゆえ」
心底すまなそうにしながら、幸村は政宗の口に含ませた団子を、更に人差し指で軽く押し込む。
恥ずかしそうに、だが恨めしそうにこちらに視線をやりながら、口の中の団子を租借する政宗を密かに可愛いと思いつつ、幸村は政宗が団子を嚥下するのを見止めると、己の表情を引き締めた。
その真摯な幸村の瞳を見て、政宗の心は期待と不安に揺れ動く。
「その先は、どうかそれがしから言わせて下され」
「幸村?」
「政宗殿。──お慕いしております」
大きくも小さくも無い声だが、自分を真っ直ぐ見つめながらの幸村の告白は、政宗の心にしかと届いていた。
「……やっと言いやがった。この朴念仁」
今度こそ泣くまい、という決意とは裏腹に、政宗の隻眼からは両の目にも匹敵する涙が、後から後から零れ落ちてきた。
「申し訳ございませぬ」
「謝んじゃねぇよ、バカヤロウ……」
「政宗殿…」
「…っ……」
精一杯強がりながら、声を殺して肩を震わせている政宗を、幸村は無言で見守っていた。
「……申し訳ございませぬ。他に、政宗殿の口を塞ぐものが、思い当たらなかったゆえ」
心底すまなそうにしながら、幸村は政宗の口に含ませた団子を、更に人差し指で軽く押し込む。
恥ずかしそうに、だが恨めしそうにこちらに視線をやりながら、口の中の団子を租借する政宗を密かに可愛いと思いつつ、幸村は政宗が団子を嚥下するのを見止めると、己の表情を引き締めた。
その真摯な幸村の瞳を見て、政宗の心は期待と不安に揺れ動く。
「その先は、どうかそれがしから言わせて下され」
「幸村?」
「政宗殿。──お慕いしております」
大きくも小さくも無い声だが、自分を真っ直ぐ見つめながらの幸村の告白は、政宗の心にしかと届いていた。
「……やっと言いやがった。この朴念仁」
今度こそ泣くまい、という決意とは裏腹に、政宗の隻眼からは両の目にも匹敵する涙が、後から後から零れ落ちてきた。
「申し訳ございませぬ」
「謝んじゃねぇよ、バカヤロウ……」
「政宗殿…」
「…っ……」
精一杯強がりながら、声を殺して肩を震わせている政宗を、幸村は無言で見守っていた。
未だ雨は止まず、またふたりも互いの手を繋いだままだった。
彼の想いを受け止めた政宗は、心の底から喜びを覚えると同時に、幸村ではないが欲張りな自分が頭を擡げている事に気が付いていた。
明日になれば、幸村は今度こそ奥州を去ってしまう。
そうなれば、次に会えるのは暫く先の事であろう。
(コイツを信じてない訳じゃない。でも……)
何か彼との間に、互いの気持ちを確認できる『形』が欲しい。
先程告白し合ったばかりだというのに、こんな事を考えていると知ったら、彼は軽蔑するだろうか?
(だけど、このまま…何もないまま会えなくなるのだけはイヤだ)
頭の中で逡巡し続けていた政宗だったが、やがて決意を固めると、幸村に向き直った。
「政宗殿?」
「あ、あのな幸村…っくしゅん!」
言いかけて小さくくしゃみをした政宗を、幸村は気遣うような視線を送る。
「だ、大丈夫でござるか?」
「平気だ。この雨だし夜だから、ちっと冷えたみてぇだな」
「どうかご無理はなさらずに。風邪でも引いたら大変です」
「だから、そんな大袈裟じゃねぇって。…じゃあ、そうだな。隣の部屋、俺の寝室なんだけど、そこに羽織があるんだ。悪ぃけど取ってきてくんねぇか?」
閉じられた障子の向こうを、政宗は顎で指し示す。
「羽織でございますか?」
「ああ。布団の傍に置いてある。行けば直ぐ判ると思うから」
「承知しました」
「足元、暗いから気を付けろよ」
繋いでいた手を名残惜しそうに離した幸村は、政宗に見送られて隣の部屋へと入っていった。
彼の想いを受け止めた政宗は、心の底から喜びを覚えると同時に、幸村ではないが欲張りな自分が頭を擡げている事に気が付いていた。
明日になれば、幸村は今度こそ奥州を去ってしまう。
そうなれば、次に会えるのは暫く先の事であろう。
(コイツを信じてない訳じゃない。でも……)
何か彼との間に、互いの気持ちを確認できる『形』が欲しい。
先程告白し合ったばかりだというのに、こんな事を考えていると知ったら、彼は軽蔑するだろうか?
(だけど、このまま…何もないまま会えなくなるのだけはイヤだ)
頭の中で逡巡し続けていた政宗だったが、やがて決意を固めると、幸村に向き直った。
「政宗殿?」
「あ、あのな幸村…っくしゅん!」
言いかけて小さくくしゃみをした政宗を、幸村は気遣うような視線を送る。
「だ、大丈夫でござるか?」
「平気だ。この雨だし夜だから、ちっと冷えたみてぇだな」
「どうかご無理はなさらずに。風邪でも引いたら大変です」
「だから、そんな大袈裟じゃねぇって。…じゃあ、そうだな。隣の部屋、俺の寝室なんだけど、そこに羽織があるんだ。悪ぃけど取ってきてくんねぇか?」
閉じられた障子の向こうを、政宗は顎で指し示す。
「羽織でございますか?」
「ああ。布団の傍に置いてある。行けば直ぐ判ると思うから」
「承知しました」
「足元、暗いから気を付けろよ」
繋いでいた手を名残惜しそうに離した幸村は、政宗に見送られて隣の部屋へと入っていった。
障子の隙間から零れる仄かな光源を頼りに、幸村は部屋の周囲を窺う。
「ええと、羽織は…」
程なくして、政宗の言うとおりの場所に、キチンと畳まれた羽織を見つけた幸村は、歩を進めるとそれを手に取った。
段々目が慣れてきたとはいえ、忍でもない自分が闇の中を動くのは、若干の不自由を感じる。
政宗の羽織を持って、立ち上がろうとした幸村だったが、不意に背後に人の気配を覚えると、何事かと振り返った。
するとそこには、
「ええと、羽織は…」
程なくして、政宗の言うとおりの場所に、キチンと畳まれた羽織を見つけた幸村は、歩を進めるとそれを手に取った。
段々目が慣れてきたとはいえ、忍でもない自分が闇の中を動くのは、若干の不自由を感じる。
政宗の羽織を持って、立ち上がろうとした幸村だったが、不意に背後に人の気配を覚えると、何事かと振り返った。
するとそこには、
「──幸村」
「政宗殿…?」
「政宗殿…?」
小袖を脱いで、肌襦袢だけになった政宗が、後ろ手に障子を閉めながら、何処か思いつめたような表情で幸村を見下ろしていた。




