「…ゆきむら?」
「──それがしは無骨者ゆえ、あまり優しくは出来ぬかも知れませぬ。不快な時は、どうぞ『やめろ、このヘタクソ』とでも罵って下さいませ」
「い…言わねぇよ。そんなムードもへったくれもねぇ事……」
自分の緊張を解そうと、口調を真似て冗談交じりに語りかけてくる彼に、政宗は努めてぶっきらぼうな返事をする。
「いいえ、言って下され。『こういう事』は、ふたりで感じ合い、確かめ合うものだからです。それがしだけが快く思っていても、政宗殿が違うのなら、何も意味はございませぬ」
「ご…御託はいいから、さっさとしろよ。これ以上俺に、恥かかせんな……」
「はい」
「…!」
「──それがしは無骨者ゆえ、あまり優しくは出来ぬかも知れませぬ。不快な時は、どうぞ『やめろ、このヘタクソ』とでも罵って下さいませ」
「い…言わねぇよ。そんなムードもへったくれもねぇ事……」
自分の緊張を解そうと、口調を真似て冗談交じりに語りかけてくる彼に、政宗は努めてぶっきらぼうな返事をする。
「いいえ、言って下され。『こういう事』は、ふたりで感じ合い、確かめ合うものだからです。それがしだけが快く思っていても、政宗殿が違うのなら、何も意味はございませぬ」
「ご…御託はいいから、さっさとしろよ。これ以上俺に、恥かかせんな……」
「はい」
「…!」
短く返ってきた肯定の言葉に、政宗は僅かに身を竦ませると、幸村を仰ぐ。
だが、幸村はそんな政宗を安心させる為か優しく微笑みかけると、僅かに乱れた彼女の前髪を指でかき上げると、そこから現れた形良い額に、そっと唇を落とした。
ふわりとした感触を覚えた政宗は嬉しさと、しかし物足りなさに、些か不満げに幸村を見つめ返してくる。
そんな政宗を見てくすり、と笑った幸村は、今度こそ尖らせた政宗の唇に、己のそれを重ね合わせた。
だが、幸村はそんな政宗を安心させる為か優しく微笑みかけると、僅かに乱れた彼女の前髪を指でかき上げると、そこから現れた形良い額に、そっと唇を落とした。
ふわりとした感触を覚えた政宗は嬉しさと、しかし物足りなさに、些か不満げに幸村を見つめ返してくる。
そんな政宗を見てくすり、と笑った幸村は、今度こそ尖らせた政宗の唇に、己のそれを重ね合わせた。
じれったいほど優しく触れてくる手を心地良く覚える一方で、今が夜で本当に良かった、と政宗は思っていた。
幼い頃に患った疱瘡の痕は、右目をはじめ、未だ政宗の身体の至る所に残っている。
日々の努力の甲斐あって、どうにか傍目には目立たなくなってきていたが、それでも毎日の手入れだけでは隠し切れない皮膚の引き攣れに、政宗は激しい劣等感を抱いていたのだ。
「あ…あんまり見んなよ」
「何故でございますか?」
「だって…俺、元親みたいに綺麗じゃないから……」
幸村の手が、疱瘡の痕に触れている事に気付いた政宗は、羞恥と虚しさに眉を顰めた。
一緒に風呂に入った時に見た、元親の白く透き通った肌とは違い、自分のそれは異性どころか、他人の好奇の目を引く事しか出来ない。
優しい元親は何も言わなかったが、醜い傷跡は、未だ政宗の身体だけでなく心まで苛み続けているのだ。
「綺麗でございますよ」
しかし、幸村は己の指先にある政宗の傷跡を一瞥しただけで、顔色ひとつ変えずに呟きを返した。
「ウソ吐くなよ。こんな汚ねぇ肌が綺麗な訳……」
「いいえ。政宗殿が死の縁から生還を遂げたという、立派な生命の証にございます。それが綺麗でない道理など、どこにもございませぬ」
「……」
一切の迷いも無く断言する幸村に、政宗は胸の奥がじん、と熱くなって来るのを覚える。
次いで、幸村の鼻面が首筋から鎖骨の辺りへと移動するのを感じ、政宗は思わず身を捩った。
「な…?や、やめろよ、幸村…く、くすぐったい……」
「やはり、そうでございましたか」
「…え?」
顔を上げた幸村は、政宗を見るとニッコリと笑う。
「滞在中、それがしの元へ手弁当を届けてくれたのは、政宗殿だったのですね」
「…あいつら、あれほど口止めしたってのに……」
ここにはいない旅籠の人間へ、政宗は照れ隠しに悪態をつく。
「いいえ、彼らは何もしておりませぬ。それがしが食いしん坊ゆえ、鼻が利くだけです」
「は?」
「手弁当の包みにあった、仄かな香の匂いが、政宗殿の使われている香と、同じもので
ございますので」
「あ…」
ぽかんと呆気に取られた表情の政宗を、幸村は面白そうに眺めると、まるで犬のように
して、政宗の身体に更に鼻を近付けた。
幼い頃に患った疱瘡の痕は、右目をはじめ、未だ政宗の身体の至る所に残っている。
日々の努力の甲斐あって、どうにか傍目には目立たなくなってきていたが、それでも毎日の手入れだけでは隠し切れない皮膚の引き攣れに、政宗は激しい劣等感を抱いていたのだ。
「あ…あんまり見んなよ」
「何故でございますか?」
「だって…俺、元親みたいに綺麗じゃないから……」
幸村の手が、疱瘡の痕に触れている事に気付いた政宗は、羞恥と虚しさに眉を顰めた。
一緒に風呂に入った時に見た、元親の白く透き通った肌とは違い、自分のそれは異性どころか、他人の好奇の目を引く事しか出来ない。
優しい元親は何も言わなかったが、醜い傷跡は、未だ政宗の身体だけでなく心まで苛み続けているのだ。
「綺麗でございますよ」
しかし、幸村は己の指先にある政宗の傷跡を一瞥しただけで、顔色ひとつ変えずに呟きを返した。
「ウソ吐くなよ。こんな汚ねぇ肌が綺麗な訳……」
「いいえ。政宗殿が死の縁から生還を遂げたという、立派な生命の証にございます。それが綺麗でない道理など、どこにもございませぬ」
「……」
一切の迷いも無く断言する幸村に、政宗は胸の奥がじん、と熱くなって来るのを覚える。
次いで、幸村の鼻面が首筋から鎖骨の辺りへと移動するのを感じ、政宗は思わず身を捩った。
「な…?や、やめろよ、幸村…く、くすぐったい……」
「やはり、そうでございましたか」
「…え?」
顔を上げた幸村は、政宗を見るとニッコリと笑う。
「滞在中、それがしの元へ手弁当を届けてくれたのは、政宗殿だったのですね」
「…あいつら、あれほど口止めしたってのに……」
ここにはいない旅籠の人間へ、政宗は照れ隠しに悪態をつく。
「いいえ、彼らは何もしておりませぬ。それがしが食いしん坊ゆえ、鼻が利くだけです」
「は?」
「手弁当の包みにあった、仄かな香の匂いが、政宗殿の使われている香と、同じもので
ございますので」
「あ…」
ぽかんと呆気に取られた表情の政宗を、幸村は面白そうに眺めると、まるで犬のように
して、政宗の身体に更に鼻を近付けた。




