《シンフォニア・グドコフ(汽笛のシンフォニー)》は、ロシアの作曲家アルセーニイ・アヴラアーモフが構想・実現した実験的音楽作品であり、1922年にアゼルバイジャンのバクーで初演された。正式名称は《工場の汽笛のシンフォニー》(Симфония гудков)とも呼ばれ、都市空間そのものを舞台とする大規模な音響パフォーマンスとして、20世紀前衛音楽史において特異な位置を占めている。
概要
本作は、従来の演奏会場や管弦楽編成に依拠せず、港湾施設、工場、軍艦、砲台などを含む都市インフラ全体を音源として用いる点に特徴がある。大砲や銃の発射音、工場や汽船の汽笛、蒸気の噴出音、サイレン、飛行機のエンジン音など、いわゆる「機械音」が組織的に配置され、指揮者の合図のもとで鳴らされた。人間の合唱やブラスバンドも加わったが、それらは巨大な産業的サウンドスケープの一部として統合された。
初演は1922年、十月革命5周年を記念する祝賀行事の一環として実施された。翌1923年にはモスクワでも革命記念日に上演されている。演奏は屋外で行われ、広範囲に配置された音源を視覚的信号や旗、発煙などによって統制する方法が採られたと伝えられる。そのため本作は、単なる楽曲というよりも、祝祭的・政治的イベントと一体化した総合的行為であった。
音楽的観点から見ると、《汽笛のシンフォニー》はしばしば無調的・純粋騒音的作品と誤解されるが、アヴラアーモフ自身の説明によれば、基礎には12音半音階が置かれ、調性も長短調体系を前提としていた。したがって本作は、無秩序な騒音の集積ではなく、既存の音楽理論と産業音響を結合しようとする試みであったと解釈される。
この作品は、芸術と技術、音楽と都市空間の統合を志向した1920年代ソビエト・アヴァンギャルドの理念を体現している。産業機械の音を肯定的に取り込み、革命後の新社会を象徴する音響的イメージを創出しようとした点で、未来派的都市礼賛とも通じる側面をもつ。同時に、後のミュジック・コンクレートやサウンド・アートの先駆的実践としても再評価されている。