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  • 【スタジアム】その2

【スタジアム】その2

最終更新:2020年03月02日 00:12

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 見えない運命の指先が幸せのスイッチを切って、たやすく破滅の暗闇に落としてしまうことだってある。

 私達三人はいつでも一緒だった。
 姉が出かける時は私も、妹のサナもまるで水鳥みたいに後をついて歩いた。
 私の姉は利発で美人で……私だけじゃない、近所の子供たち皆の憧れだった。
 今では決してそんなことはないと分かっていても、中学生だった姉は私にとって、勉強も運動も万能の天才みたいに思えた。
 彼女は私のヒーローだった――私はお姉さんだから、カナもサナも、ずっと守ってあげるからね。

 何が悪かったのだろう、と今でも考えることがある。

 晴れた日、なんてことのない休日の買い物に、私達三人は出かけた。姉と私、そしてサナの並びで。
 住宅街から出た辺りの行き慣れた大通りで、小さなサナがふざけて姉によりかかったりしながら歩いていたのを覚えている。
 サナを構って笑いながら、姉は通りの向こうを見た。

「ねえ、あれ、██████さんじゃない?」

 どんな名前だっただろう。親同士の仲が良くて私の家にも何回か来ていたから、覚えていなかったわけではないと思う。
 若い母親と、五歳くらいの元気な男の子だ。母親の方は散歩の途中で出会った友達か誰かと話し込んでいて、男の子はつまらなさそうにしていた。

「あっ、手を振ってる」

 姉は嬉しそうに手を振り返した。
 男の子は特に私の姉に懐いていて、その時もいつもみたいに姉に走り寄った。
 笑顔を浮かべて……小さな歩幅で、道路へ。母親が気付いて引き止める間もなかった。

(……あっ)

 あの子は轢かれる、と思った。

 男の子に迫っているセダンを、私は他人事みたいに眺めていた。
 すぐに母親が駆け寄って、小さな我が子をかばうように抱きしめるのが見えた。

(車だ)

 断末魔のようなスリップ音が響いた。車は親子を轢く寸前で急ハンドルを切って、路肩にいた私達の方へと飛び込んできた。
 車だ。そう思った。何かをしなければ。妹のサナの手を引いて、私は不格好に身を投げだした。
 私はお姉さんだから、守らなければと思った。

「お姉ちゃ」

 サナが呼んだ相手は、私と姉のどちらのことだっただろう。うつ伏せに地面に伏せた私のすぐ後ろ……本当にすぐ後ろで衝突の音があった。電信柱がボンネットを引き裂いて食い込む音があった。すぐ近くで、バヂッという不気味な音があった。

「……」
「サナ。ねえ、サナ」

 小さな私では、妹を庇いきることが出来ていなかった。私が引っ張ることができたのは彼女の腕だけで、膝から下が血に染まっていた。
 サナが、轢かれた。こんなに小さいのに。私の妹なのに。

「……ひ、ひっ……ぅっ……っ……」

 失血のためなのか激痛のためなのか、妹は青白い顔で震えていた。引きつった呼吸だけで、声が出ていない。
 私は……私だけが無傷だった。
 あの予測不能な事故現場の中で、動けたのは私だけだった。

「だ、大丈夫」

 サナの小さな手を握りながら、私は笑おうとした。

「お……お医者さん、救急車、呼ぶから。だ、大丈夫。つながる。つながるからね」

 妹の右足から下がないように見えた。腰もおかしな角度に曲がっている。
 こんなことが、どうして。お母さんになんて謝ればいいんだろう。
 誰も望んでいない。何も悪いことなんてしていないのに。

「お姉ちゃんがいるから。う、えううっ……がまんだよ。サナ。しっかりして」

 慰めの言葉を探しながら、私はひどく恐れていた。
 姉と私、そしてサナの並び。私はサナの手を取って車を避けようとして……

 そして、そのすぐ後ろを車が。

「ねえ、お姉ちゃんが……いるから」

 私の後ろがどうなっているのかを、確かめることができなかった。

 あの一瞬で、私はサナの手を取った。
 今では決してそんなことはないと分かっていても、中学生だった姉は私にとって、勉強も運動も万能の天才で、私ができることなら当然のようにできたはずだった。

「う……う、うあああああああ……!」

 私達三人はいつでも一緒だった。
 次女の私だけが、姉で、そして同時に妹だった。



「うわぁー、お姉さんがシスタードクター!? えっ美人……めっちゃ美人やん!? えっ握手とか……どうですか。できれば写真も撮らせてもらって……」
「治療すべき妹がいないのなら私は帰らせてもらうが」

 世界から切り離されたように、ただ一人だけ彩度の薄い女性である。
 長く美しい漆黒の髪に、色白の肌。コートは白く、瞳の色は黒い。

 石野カナは床上に置いていた医療鞄を手に取って、本当に応接室のソファから立ち上がろうとしていた。

「いや待って待って待って、話だけでも! ここで帰られたらマジで台無しになっちゃうん、でーっ!」

 一方で、対面に座る男は特徴と呼べるものを殆ど持ち合わせていない。
 H・リーという。表裏の社会に多大な影響力を持つフィクサーの名と、彼の容姿……ついでに言動を結び付けられる者は、極めて限られるだろう。
 彼はためらいなく土下座した。

「頼む! 大会に出てくれ!!!!」
「君を邪険にしたいわけではないが」

 足元にすがりつかんばかりの男を見下ろして、カナは淡々と呟いた。

「医師の時間は命そのものに等しい。私のではなく、患者の――だ。この部屋で十分二十分と無駄な会話に費やす時間で、死の淵にある妹を何人助けられるかを考えてほしい」
「そりゃね! そりゃこっちもシスタードクターの事情は知った上でってことだぜ! けれど、それを踏まえた上でのお願いっていうか……えっと、バトル、してくんないかなぁ……!」
「自分でも無理を承知しているようで話が早い。お断りする」

 石野カナは妹科医である。国籍も年齢も問わず、『妹である者』を専門とする不可解な診療科を標榜する、世界最高にして無免許のドクター。
 生まれ故郷であるここ日本には、密航船の乗り継ぎの関係上、僅かに立ち寄ったに過ぎない。あと四日もすれば、新たな船で中国へと旅立つことになるだろう。その情報をどこからか掴み接触を図ってきた男が、このH・リーであったが。

「そもそも専門が違う。紛争地や未開地で必要上戦闘を行うことがあるとしても、私の使命はあくまで妹の治療だ。そんな私に戦わせたところで、見世物以上のどんな意味がある?」
「これ自体が妹の治療……って言ったら?」
「まさか。戦闘行為がか?」
「過去を変えたいって思ったことは?」

 足元のH・リーを見下ろしながら、妹科医は白い表情を変えない。

「そういう魔人能力が一つくらいはこの世にあるんじゃないかな? って想像したことくらいはあるはずだぜ! あるんだな。明日戦ってくれたら、お前の過去を改変するよ。それで足りないなら賞金出したっていいんだぜ! 5000兆円くらいでいい?」
「私に恨みを持つ勢力はそれなりに心当たりがあるが」

 シスタードクターは僅かに沈思した。

「そこまで稚拙な罠を仕掛けてくるパターンはさすがに初めてだな。失礼する」
「ばっ、えっ、ウッソ!? 普通はここで『あの過去を変えられるなら……』って流れじゃない!? だって俺、もう手札ないんだけど!? 5000兆円だよ5000兆円!」

 もはや答えることもなく石野カナは応接室の扉へと歩いていく。シスタードクターを金で意のままに動かそうとした者など、いくらでも見てきた。患者の命は、特に妹の命は金では買えない。

「……一つ聞く」

 ドアノブに手をかけながら、カナは尋ねた。

「私を誰と戦わせようとしていた?」
「そのー、デスコックっていう……ちょっと、めちゃくちゃな殺人鬼で……ヤクザの事務所とか……潰しちゃうようなやつなんだけど……。そういうのと戦ってもらう……んだけど……あっでも、安心してね? 負傷とか死んだりとかは」
「出よう」
「えっ」

 長い黒髪を翻して、石野は告げた。白く怜悧な表情には、薄く微笑みが浮かんでいた。

「一度だけ、その戦いを受ける。罠の可能性は依然としてあるが」
「やったぜ! よく分かんないけど!」
「試合の場に君を連れていけばそこは問題ないな。人質だ」
「やった……ぜ……」



 翌日。建設中のスタジアムへと向かう二人の影があった。
 一人は白いコートをはためかせる美女。石野カナ。生来のバランス感覚の良さを伺わせる、凛とした歩みだ。
 対照的な猫背でとぼとぼと付き従う男は、H・リー。
 謎めいた影の権力者である彼に護衛はなく、秘書である牛尾栞も同行していない。あるいは、そもそも護衛にすら知られていないほど謎めいた男であるからかもしれない。

「シスタードクター」
「ああ」

 二人が進む無人のスタジアムは、赤い回転灯の光でまだらに照らされていた。
 H・リーが呟く。

「これは別に罠とかじゃないぜ。俺はデスコックが次の仕事をする場所がここだって教えてもらっただけだからさ」
「そうだろうな。これは予想できた事態だ……まだ」

 魔人機動隊。警視庁管轄の機動隊とは話が違う。魔人犯罪者の制圧に十分な戦闘能力を持つ魔人が特に選抜され、防具や警棒のみならず、機関銃や狙撃銃も配備された対魔人テロ用の戦闘部隊だ。
 だが、密集した彼らに近づく石野カナとH・リーに警告が投げかけられることはない。盾で進路を阻まれることも、警棒で威圧されることもない。

 全員が死んでいるからだ。

 四肢を乱暴に引き抜かれて転がっている者がいた。その死に顔は失血性ショックの苦痛で死んだことを示している。引き抜かれた四肢は棍棒のように別の隊員のヘルメットを叩き割って、胴体にまで食い込んでいた。
 盾を構えたまま動かずにいる隊員がいた。盾には拳一つ分くらいの亀裂があって、その向こう側の隊員の顔面にも拳一つ分くらいの穴が貫通していた。
 多くの隊員は銃火器を展開していた。発砲の痕跡が明らかに認められるのにも関わらず、銃口は直接捻じ曲げられたかのように変形していて、銃把にかけた手ごと恐ろしい力で握りつぶされたものもあった。
 一人の隊員は体を引きちぎられて上半身しか残っていなかったが、下半身はそこから見えるビルの八階の窓をぶち破った状態で引っかかっている様子が見えた。あるいはこの隊員のものではなく、同じく半身を千切られた他の死体のものかもしれないが。
 念入りに焼き殺されているものもある。近くに転がっている鉄塊は、横転した人員輸送車から剥がされた燃料タンクであろう。何を目的としていたのかは分からないが、生きたまま火を放たれたことだけは間違いないようだ。

 尽く死んでいる。その目で凄惨な戦場の数々を見てきた石野カナですら目を背けたくなるほど、残虐かつ徹底的に破壊されている。

「取り押さえようとした警官を殺して……警官が呼んだ機動隊まで皆殺しか。デスコックは何のために殺してるんだろうなあ」
「……人殺しだからだ」

 これだけの虐殺劇を見せつけられながら、医師であるカナの声色に憎悪はなかった。代わりに、苦痛か悲痛のようなものが僅かにあった。
 彼らを救うことはもはやできない。誰が見ても死んだと分かるように、殺し尽くされた。

「念の為もう一度言っとくけど、シスタードクターが殺された場合、栞ちゃんが魔人能力で『シスタードクターは今日、そもそも戦わなかった』ことにする。それでも栞ちゃんが過去で直接干渉した人間――つまりお前は、改変後の世界と改変前の世界の自我が統合される。死の瞬間や、もしかしたら死後の認識も含めて。『記憶を引き継いだだけの別人』ってことにはならない。そこはオーケー?」
「ふ。それが『別世界の記憶を植え付けられた別人』ではない証明はどうやってできる? そんな保険に期待はしていないさ」
「ええー? だけど相手はデスコックだぜ!」
「不死身の殺人鬼を殺す方法を知らないのか?」

 H・リーは目を丸くした。

「いや……完全に知らないぜ! なにそれ」
「それに私も不死身だ」

 その事実が、石野カナの最大にして唯一の切り札であった。
 どのような紛争地や未開地においても、武装勢力や野生動物の危機に晒されても、彼女はその事実故に患者を治療し続けることができる。

「妹だから、自分の魔人能力で自分自身を治療できる。妹ではない時間のほうがずっと長いのだとしても……そう『認識』しているのは、姉妹三人で過ごした幸せの記憶が、今でも私の原風景にあるからだ」

 妹でなくなったあの日からずっと、石野カナは石野カナではないのかもしれない。
 あらゆる欲求や個性を打ち捨てて、努力を。研鑽を。
 残された妹を……石野サナの半身不随を治療するためだけに費やした人生だった。そしてその後は、世界中の無数の『妹』達を。彼女の命が終わるその日まで、そうし続けるのだろう。『妹を助けたい』と願った『妹』はあの日に止まったままで、永遠に動き出すことはない。

「私はシスタードクターなんだ」
「……えっと、シスタードクター。このバトルの依頼主だけどな?」
「ここまででいい。デスコックが噂通りの男なら君も危険だろう」

 医療トランクを片手に、シスタードクターは先を行った。
 H・リーはその背を見送ることしかできない。

「人質の話も気にしなくて構わない。ここまで付き合ってくれた時点で、君を信頼する」
「はは、そう? じゃあ写真とか撮っても?」
「秘書に殴ってもらえ」

 医師が怪我人を増やすつもりはないからな――と告げ、石野カナはスタジアムへと消えた。



 広大なスタジアムの中央に、赤い模様が描かれていた。太い直線。規則性のないジグザグの折れ線。極めて長い、落書きのような曲線。それらが奇妙な模様となって、ところどころで水溜りのように滞っている。
 中心には全裸の男が座り込んでいた。

「げへへ、へへへへ」

 殺戮劇のきっかけは、露出による迷惑防止条例違反である。その際に居合わせた警官の誰かがデスコックの存在を把握していたなら、スタジアムまで大事そうに運んでいた料理の皿を取り上げるという愚行を犯すことはなかっただろう。

「ジャンボン・ペルシエのマスタード添え。イチジクとマスカットのサラダ。ロブスターと近海魚のポワレ。仔牛のパイ包み焼きポルチーニソース。苺とクリームチーズのムース……」

 彼はいつでも、決して提供されることのないメニューの名を嬉しそうに呟いている。
 不死の肉体と無限の殺人衝動を恐れられ、戦場に放り込まれたこともある。しかしそこでも彼の狂気は止まらなかった。
 魔人警察も、魔人自衛隊もこの最悪の殺し屋を止めることはできない。
 彼の殺しは隕石の落下と同義である。死の星だ。

「楽しみだあ。ら、来客はまだかなあ」

 銃撃や打撃が数十度に渡って彼の脳を破壊している。デスコックの認識は曖昧な赤い霧の中にあった。

「どうやら、随分と遅れてしまったようだな」

 赤い霧を裂いて、白の色彩が差し込む。開け放たれた扉から現れたのは、妹科医の白コートだ。
 彼女は武器のエキスパートではない。デスコックのように常軌を逸した魔人の膂力も持ち合わせていない。少しばかり器用でバランス感覚に優れているだけの医師に過ぎない。――そして、同じく不死身だ。

 白い指先にやはり純白の手袋を嵌めながら、彼女は告げた。

「……貴様と試合をしろと言われている。始めようか」
「シスタァー……」

 男が、ぐるりと首を回転させてカナを見る。その回転に連動するように、デスコックの右肩から先がぐるりと回ったように見えた。カナは身を躱そうとした。
 バヂッ、という音がある。
 デスコックが投擲した機動隊の胴体が、遥か背後の壁面へと叩きつけられた音だった。

「ドクター、様!!! お待ちしておりました!!」
(やられた……今ので、肋骨か!)

 ――肋骨が折れた、という意味ではない。
 投擲された胴体が掠った左肩から肋骨までを、まとめて持っていかれた、という意味だ。
 常人ならば当然致命の負傷だが、事前にアンジオテンシン変換酵素阻害薬を自己投与しており、急性低血圧による意識喪失はない。

(一秒)

 全裸体のデスコックが立ち上がる。グラウンドを蹴って駆け出す。距離およそ80m。一秒。

「さ……あっ!」

 『シスタードクター』。妹である自分自身を全快させる。ライオットガンの散弾がデスコックの膝から下を吹き飛ばす。機動隊の武器。再生した左腕で虚を突くことができた。距離30m。

「お、お料理がゲブッ!」
「やはり化物だな。お互い」

 激痛に汗を流しながら、カナは苦笑した。リロード。
 倒れたデスコックの頭部を狙い、散弾で吹き飛ばす。

 この怪物に対しては、この攻撃も時間稼ぎ程度の意味しかない。デスコックの不死能力――『陸ガメのステーキ』には、カナの『シスタードクター』に存在する一秒の精神集中という制約すらない。完全に死んだ後でさえ、血液の一滴からでも再生できるのだという。
 それでも再生の範囲に応じて一秒以上の時間がかかる点が、唯一カナがデスコックの能力に優位を取れる点だ。

 距離を離しつつ散弾銃のコッキングを行い、一発ずつデスコックへと撃ち込んでいく。装填されていた弾丸は五発。
 再生の兆候を見逃さずにいなければいけない。仮にデスコックの死体に再生の兆候がなければ、別の細胞から再生を始めている可能性がある。

「……初撃を凌ぐだけで、これか……」

 別の機動隊の死体へと到達し、機関銃を取り上げる。残弾が少ない。予備マガジンを探り当てて再装填する。紛争地での経験など、役立てる機会がないに越したことはなかったのだが。

「ジャンボン・ペルシエの、マスタード添えが、ございますよ。シスタードクター様の、ために、グブッ」

 デスコックが不気味に痙攣しながら立ち上がり始めていた。片足の骨は露出して額から上が吹き飛んでいるが、それでも胡乱な意識で殺戮を続けようとしている。牛尾栞の能力で蘇った人間は『別世界の記憶を植え付けられた別人』であるかもしれない。しかし頭部を失ってなお蘇り続けるデスコックの自我に、果たして同一性などあるのだろうか。

(速度は測った。1秒で50m。私はそれ以上の距離を取り……かつ、それを悟らせずに凌ぎ続ける。できるか)

 シスタードクターがこの戦いに臨んだ理由がある。取り戻したいものも存在する。
 だが何よりの前提として、この殺人鬼の底なしの殺意の淵に落ちてはならない。

「……デスコック。貴様の所業は海外でも聞こえていた。まるで鏡写しだな。私は人の命を救い続けて、貴様は人の命を奪い続けた……」
「そんなあ。げへへ、へへ。私は……美味しいお料理を、提供して、いるだけですから……何も違いませんよ」
「ずっと聞きたかったんだ。どうして殺す」
「こ……殺すなんて、とんでもない。暴力に暴力で復讐するのは……愚かなことです」

 座り込んだデスコックは、周囲の死骸をかき集めている。恐るべき剛力で骨を絡めて圧縮し、筋肉から血を絞り出していく。
 カナは機関銃で再び敵の足を破壊し、移動能力を阻害することもできた。そうしない理由がある。

(何度も同じ手を繰り返すのも、危険かもしれない)

 それは野生動物を相手取った時の直感に近いかもしれない。シスタードクターの強さは治癒能力そのものではなく、その治癒能力を頼みに常人にとっては死地に等しい戦闘を無数に経た実戦蓄積にある。

(デスコックは明らかに人の理性を失っている。ならばどうやって多種多様な、戦闘訓練を積んだ魔人能力者を全滅させたのか?)

 それは、受けた攻撃を本能的に学習するからだ――とカナは仮説している。
 故に彼女は機関銃を構えたままで、デスコックが死体遊びを終えてこちらへと駆け出すその時を待っている。
 バキ、ミチ、という不気味な音だけが、無人の広大なスタジアムに響き渡り続けている。

「ジャンボン・ペルシエ」

 デスコックが嬉しそうに囁く。弱い雨が降り始めていた。

「ハムと……たくさんのパセリを、ゼラチン入りのスープで固めたお料理なんですよ」

 シスタードクターは柳眉をひそめた。医師ではないただの少女であれば、嘔吐していたことだろう。
 恐るべき力で圧縮された、2m四方の肉の立方体がデスコックの傍らに現出していた。
 大地を踏みしめ、デスコックが上体を真後ろ近くにまで捻った。

「ぜひ、味わってくださいね。シスタードクター様に美味しくいただいてほしいので、ほ、本日、ご用意したんです」
(来る)

 肉の立方体を拳が殴り飛ばす寸前、機関銃の連射がデスコックの背骨を貫いた。拳は止まることなく立方体を殴りぬいた。圧縮された大質量は鮮血のレールを敷きながら滑り、遠くスタジアムの客席までを削り取って弾けた。

「……デスコック。もう一度聞くぞ。どうして殺す」

 銃撃で遅らせたごく一瞬のタイミングで、カナは死の軌道から逃れていた。右手の指で医療トランクのロックを外している。振り返った目の前にデスコックの顔面があった。巨大な立方体でカナの視界を塞いだその時間で……

「イチジクとマスカットのグァァァァァーッ」
「ぐうっ、げはっ……!」

 パン、という音とともに白煙が弾ける。ブロモアセトンをベースにした催涙剤であったが機動隊から回収した装備ではなく、自前でトランクに仕込んだ特製のものだ。
 トランク内の装置で噴霧された薬剤に、デスコックとシスタードクターが同時に悶絶する。この距離で自分を巻き込まずに使うことはできない薬だ。だが。

(一秒)

 『シスタードクター』の優位点はもう一つある。肉体の損傷を伴わぬ毒物であっても、僅か一秒の時間さえあれば分解が可能だということ。多用したくない応用ではあるが、一秒以上の時間を稼ぐ薬剤を備えていれば、常にカナが先んじて仕切り直しができる。

「はーっ、はーっ……こんな」

 カナは笑った。どこか自嘲的な笑いだった。
 雨がポツポツと黒い点を落とす中で、彼女の顎から滴る汗が混じった。

「こんな、酷い感覚なのか。こんなことを、ずっと味わってきたのか」
「げへ、へへへへへ……へへぇ……」

 デスコックがゆらりと立ち上がるまでに、カナは距離を取る。
 ――距離。このスタジアムという環境ならば、その最低限の生命線だけは保つことができた。

(即死すること。集中が必要な一秒の間、続けざまに攻撃を受けること。距離を縮められ、掴まれること)

 『死の条件』を確認する。
 自らの魔人能力に驕ったことはない。けれど狂ったこの男に話をするというだけのことが、どれだけ遠いのだろう。

「本当に……随分と……遅れてしまったかもしれない。覚えていないのか? 私の……私の名前は、石野カナだ」
「……?」

 デスコックは薄ら笑いを浮かべたまま首を傾げた。
 人はこれほどまでに壊れてしまえる。幸せのスイッチが切れたあの日から、彼女は人の命を救い続けて、彼は人の命を奪い続けた。

「だから、ずっと……私を殺そうとしていたんじゃないのか。私達が……いいや、私が」

 スタジアムに雨が降っている。あの日からずっと、晴れた日なんてない。

「――貴様の幸せを壊した。そうだろう?」
「全く覚えがございません」

 デスコックは微笑んだ。パン、という音とともにカナの胴体に大穴が開いた。スタジアムの地面を手の平で抉って、一瞬で投擲したのか。投擲物を手にしていないという先入観があった。

「……く、」

 血を吐きながらカウントする。一秒。
 出血性ショックや催涙剤の作用化でも魔人能力の集中を持続できるのは、アンフェタミン系の覚醒剤の作用だ。

「石野、石野カナだ。私の名前は」

 猛然と接近しつつあったデスコックを、機関銃の掃射で阻む。フルオートで吐き出された弾は一瞬で切れる。

「もう、機会なんてないかもしれない。私は、もしかしたら……永遠に、貴様と話せないままで」
「お話ならしているじゃあないですか。どうして私の料理を食べてくれないんです? 大怪我には料理が一番ですよ? ロブスターと近海魚のポワレをご用意しています――」
「いいか。大通り……十九年前の、晴れた日で、乗用車が……二人の少女を轢いた。彼女らは姉妹で、一人は即死だった。知っているだろう」
「げへへ、げへへへへ。悲しい事件ですねえ。そんなことは忘れて、幸せな気分になってもらいたいんです」
「忘れられないはずだ――」

 デスコックが攻撃したのはデスコック自身だった。絶命による転移。どこに。

(唾液だ)

 先程凌いだ接近。催涙剤で吐き出した唾液が彼女自身に付着しているはずだ。コートの裾から生えた屈強な腕がカナの太腿を握りつぶす。骨まで砕ける感触を味わい、絶叫を噛み殺す。集中――まだだ。掴まれている。右手のトランクを操作し、薬液を自らの身体に諸共浴びせる。

「……!!」

 フッ化水素酸という名の劇物は自覚症状なく人体を透過して骨に到達し、フッ化カルシウム化して激痛とともに破壊する。このケースでは、再生途中の骨に直接浴びせられるデスコックの方がより素早く甚大な苦痛を被ることになる。

 緩んだ指を払い除け、転がるように逃れた。
 カナの体内に劇物が浸透しつつある。骨にまで浸透したならば、覚醒剤の作用を以てしても能力行使の集中は保てはしないだろう。一秒。

「シスタードクター、さま、ばぁ、ばばば、う……」

 ゴボゴボと血泡を吐きながら、デスコックが再生していく。
 カナも必死で距離を離す。しかし武器も切り札の薬物も使い切りつつあるこの状況で、それにどれほどの意味があるだろうか。

「……忘れられない……事件の、はずなんだ。そうだろう」
「ばはっ、どう、ばっ、されたのですか、急に、きゅ、急に」
「貴様は」

 雨水に足を引きずりながら、カナは振り向いた。

「私達を轢いた車の運転手だったからだ」

 ――何が悪かったのだろう、と今でも考えることがある。

「…………」

 いつも、姉と三人で出かけていた彼女らが悪かったのだろうか。二人の妹がいなければ、姉も車を避けられる方向に飛びのけたかもしれない。
 姉が皆に慕われていたことが悪かったのだろうか。大通りの向こうの子供が姉に駆け寄ろうとしなければ、悲劇は起こらなかったのかもしれない。
 子供が、あるいはその親が悪かったのだろうか。幼い子供がふと駆け出してしまわなければ、それを止められない一瞬がなければ、そう責めることもできるのかもしれない。

 石野カナが悪かったのだろうか。あの時に妹ではなく、姉を選んでいたのなら。
 運転手が悪かったのだろうか。あの時に親子ではなく、三人の姉妹を選んでしまった運転手が。

「……医学には、トリアージという考え方がある」

 雨が降る中で彼女は立ちすくんでいる。
 身を守らなければ。新たな銃火器を拾って、デスコックの動向を見逃さないようにしなければ。

「重症者の程度を判断して……治療の、命の優先順位をつけることだ。医者が一人しかいなければ、二人が今にも死に瀕していても……必ず、どちらかを、先に選ばなければならない」
「へへ」

 ぐしゃり、と石野カナの体が曲がった。至近距離から飛びかかったデスコックの腕が彼女を薙ぎ倒したのだ。身を守る術はなかった。左側頭部に硬い壁が激突する。自分自身がそちらの方向に倒れたのだと分かった。

「げへっ、へへへへえ……! 大丈夫です! お、お料理を、美味しいお料理を食べれば、辛いことなんて全て忘れてしまえるんです!!」

 一秒。肉体が再生する。拳が肉体を破壊する。一秒。肉体が再生する。拳が肉体を破壊する。

(どうして殺す。こんな、残酷なことを――)

 デスコックは馬乗りに殴りかかっていた。シスタードクターの肩を、首を、胸を殴る。殴る。殴る。

「そうでしょう! 私、私は、食べてほしかったんですよ!! 料理を、美味しい料理を、作りたかったのに!!」

 故郷でのデスコックの所業を聞く時、カナの心に憎悪はなかった。代わりに、苦痛か悲痛のようなものがあった。ずっと。

(分かっている。分かっていたのに)



 ――あの日。

 姉を見ることもできずに、妹のぐちゃぐちゃになった下半身から目をそらすこともできずに、石野カナはそこに座り込んだままだった。

「救急車。救急車を。あ、ああ」

 何度も呟きながら、妹を救うためのことを何もできていなかった。

「誰か、助けて……」
「げへ、へへへ」

 そして、衝突してひしゃげた乗用車の運転席が開いた。
 血まみれのゾンビみたいな男が、よろめきながら路上に歩き出してきたのを見た。

「だ、大丈夫、ですよ。ねえ、お……お嬢、さん。ね」

 男の頭部には大きな金属片が突き刺さっていて、それでも彼は死んでいなかった。
 死の淵に瀕して魔人能力が覚醒する例があるのだと、彼女は後から知った。

「お、お料理を、食べてください。大丈夫です」

 脳を破壊されて混濁した意識で、彼は千切れかけていた自分の腕をブチブチと千切った。きっと心からの善意の行動だったのだろう。彼は――彼は料理人だった。あの日の瞬間までは、本当に。

「仔牛のパイ包み……焼き、へ、へへ……へへへ」

 恐ろしかった。
 それが本当に、妹のサナを死の世界に引きずり込もうとする悪魔のように見えた。
 そして、彼は。

 彼は、カナの姉を殺した。

「来ないで! 来ないで! 来ないで!」

 瀕死のサナをかき抱いて彼女はただ叫んだ。
 脳が壊れ、魔人に覚醒して狂った脳に永遠に焼き付く言葉を。

「あ、あなたが殺したくせに! 人殺し! だ、誰が……誰が、人殺しの料理なんて食べるもんかッ!」

 ――デスコックは何のために殺してるんだろうなあ。



 救った。妹の笑顔。生後間もない赤ん坊でも、命が助かったその時には笑ってくれた。両腕に感じた軽さを覚えている。89歳の老婆であっても、妹には違いなかった。その後老衰で死ぬまでの八日間を、何よりも輝かしい世界で過ごしたと彼女は言ってくれた。サナと同じような境遇の子供を救ったこともあった。サナがあの事故で失った何年もの時を、彼女は両足で歩いて生きることができる。砂漠の武装組織を倒したこともあった。妹を救うためなら、何も苦しいことなんてなかった。『シスタードクター』。人を救うとは、なんて素晴らしいことなんだろう。

 絶え間なく破裂するカナの中身を、雨が溶かしていく。
 涙か、血か、あるいは脳漿のようなものが眼窩からこぼれた。

(分かっているんだ)

 デスコックが人を殺していく。シスタードクターが命を救っていく。
 シスタードクターは妹を選んで救う。デスコックは殺す相手を選びはしない。

(私が、彼を人殺しにした――)

 一秒。肉体が再生する。拳が肉体を破壊する。一秒。肉体が再生する。拳が肉体を破壊する。一秒。肉体が再生する。拳が肉体を破壊する。一秒。肉体が再生する。拳が肉体を破壊する。一秒。肉体が再生する。拳が肉体を破壊する。一秒。肉体が再生する。拳が肉体を破壊する。一秒。肉体が再生する。拳が肉体を破壊する。一秒。肉体が再生する。拳が肉体を破壊する。
 殺し合い、は苦しい。人を殺すのはなんて悲しくて、辛いことなんだろう。

 あの事故で生き残った私が、人を救う素晴らしさを味わっていた一方で。
 あの事故で狂ったもう一人は、こんな酷い感覚を、こんなことを、ずっと味わってきた。

「はははははははははは!! はははははははははは!! はははははははははは!!」

 デスコックは笑いながら殴り続けている。一秒感覚の集中が保たなくなってきた。
 集中が途切れたその時に、シスタードクターは死ぬだろう。いや、それよりも乱打され続ける拳がカナの頭蓋を砕いてしまう方が先だろうか。

 勝てないことは分かっていた。
 けれど、もしも彼が出し続ける『料理』を全て食べ切れる者がいたなら。
 無敵のデスコックを前にそれができる不死身の誰かが、世界にただ一人存在するというなら。
 生涯にただ一度、その機会が与えられることがあったのなら。

「ごめん」 

 カナは泣いていた。シスタードクターと呼ばれた世界最高の妹科医は、怜悧な美貌をぐしゃぐしゃに崩して泣いた。
 どんな痛みにも、どんな苦痛にも耐えるつもりでいたのに。
 自分自身の罪悪感だけが。

「ごめんなさい」
「シスタードクター様」

 デスコックの暴力が止まった。

「泣かないでください」

 彼は微笑んだ。優しい声だった。この地獄のような死の光景なのに、何かの善意が彼を動かしているのだ。ずっと。

「美味しい料理を食べる時に……涙を流していては、いけませんからね」
「う、ううう、うううううっ……うあああああああああああああっ……」

 分かっていた。
 誰も悪くなかった。何もかもが過ぎ去った過去で、彼女にも彼にも、どうすることもできなかった。
 見えない運命の指先が幸せのスイッチを切って、たやすく破滅の暗闇に落としてしまうことだってある。

 もうとっくに拳は止まっている。……一秒。
 一秒。一秒。一秒。もう魔人能力を維持することはできなかった。
 全身に負った致命傷を、石野カナは治すことができない。
 涙のように血の海を流し続けて、シスタードクターは泣いた。妹のように泣いた。

 死んでいくのだ。

「――死なないでください」

 暗闇に落ちそうな意識の中で、頭を抱きしめる感触を感じた。
 それはやっぱり笑っているようで、けれど何故か酷く悲しそうに聞こえる声だった。

「死なないでほしかったんです。幸せになってほしかったんです。ずっと、それだけでよかった。ずっと――」

 命を手放していく彼女の唇に、何かが触れた。
 それはまるで心臓のような形だったけれど……苺とクリームチーズのムースのように、甘い味がした。



「……結局、シスタードクターは『病人』を治療したってことか」

 中国への密航船は二十分以内に到着すると連絡を受けていた。
 波止場には、これといった特徴を持たない男と、白いコートと黒い目の女が佇んでいる。艷やかな黒髪は今は肩の高さで切られていた。

「そう。病気だったんだ。彼も私も、……ずっと」

 その後に何が起こったのかをシスタードクターが話すことはなかった。
 けれどスタジアムからは彼女一人だけが現れて、デスコックが目撃されたという話はない。
 石野カナはやはり集中を取り戻して、自分自身の体を再生することができたのだろう。あるいは。
 H・リーは気まずそうに頭をかいた。

「シスタードクター。俺にバトルの依頼をしてきたのはデスコックだったよ。勝ち負けに関わらず過去改変の願いを叶えてやってほしいって」
「……そうか。そんな気がしていた」

 何を取り戻したいのかを思い出すことすらできないデスコックにとって、石野カナの存在だけが最後の記憶の欠片だったのだ――と考えることもできる。真実は永遠に分からないことかもしれないが。

「だから、監視カメラだって記録しちゃいない。どうやって不死身の殺人鬼を倒したんだ?」
「……デスコックは、脳や神経が消滅しても自分の意志で細胞や血液から完全に肉体を再生できる。ならば何か肉体以外に意識の主体があって、それが自由に再生の起点を決定していると考えられないか? ……『再生したい』と思わないように、殺してやればいいんだ」
「医者の君にそんなことできるの? 驚きだぜ」
「不死身の殺人鬼の殺し方を知ってると言っただろう」

 石野カナは笑った。
 かつてのシスタードクターとは違う、屈託のない美しい笑みだった。

「――いつかは人間だったと、思い出させてやればいいんだ」

 船の灯りが、沖合いから近づきつつある。

「……これが最後のチャンスだぞ! 過去を改変するなら、対象者の君が日本にいるうちじゃないとできない!」
「分かっている。けれど……いい。いいんだ。過去ならもう、取り戻せた」

 何もない右手を掴んだ。左手も。
 私達三人はいつでも一緒だった。

 あの日に起こったことはあまりにも残酷な、取り返しのつかない悲劇だった。
 誰も悪くなかった。彼と戦って、やっとそれを確かめることができた。

「あの日のことがなくても、私は妹科医としての在り方を変えるつもりはない――と思っていた。けれど、やっぱり違う。あの日のことがあったから、私はシスタードクターで……私達以外のいくつもの命を助けたんだ」

 まるで鏡写しのような、死ぬはずだった命を生へと留める能力。
 『陸ガメのスープ』も『シスタードクター』も、あの日の悲劇がなければ決して発現することのない魔人能力だったはずだ。数え切れないほどの生と死が、シスタードクターとデスコックという存在の上に積み重なっている。

 カナが首を縦に振れば、きっと牛尾栞があの日に戻って子供を引き止めるだろう。ただそれだけで、あの日の残酷な悲劇は、何もかもなかったことになるだろう。その先に積み重なったいくつもの生と死も。
 この世界のあらゆる選択が、きっとそうなっているのだ。

「必ず、どちらかを選ばなければならない」

 あの日の三姉妹の中で生き残ったのが、妹だけだったように。

「……そう? そうか。それなら、いいんだ。賞金のほうは妹を救う基金にでも使ってくれ」
「ああ。ありがとう。けれど本当に勝ったのは、彼のほうだったよ」
「どうして?」

 接岸した船へと踏み出して、カナの足は故郷の地から離れた。
 過去は変えられない。けれど『妹を助けたい』と願った『妹』はあの日から歩き出そうとしている。

「勝ちでないはずがない……だって」

 白いコートが夜風にはためいている。
 雲ひとつない、晴れた夜空だった。
 もう一度振り向いて、彼女は笑った。

「料理人が、お客を笑顔にしたんだ」

 船は海の闇に遠く消えて、まるで残滓のように水面の月が揺らめいていた。
 残された男はしばらくそれを眺めていたが、やはり夜の闇の向こうへと去った。
「【スタジアム】その2」をウィキ内検索
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