みんなで無念まとめ wiki

文房具OP

最終更新:

匿名ユーザー

- view
管理者のみ編集可
 それは凶器と呼ぶにはあまりに小さすぎた。
 小さく丸く細く、そして金色過ぎた。
 それは、まさに画鋲だった。

 これはそんな何の変哲もない画鋲と、幾多の素晴らしい文房具達が繰り広げていく物語。

 ――文房具ロワイヤル~and a thumbtack the great stationery~――

 はじまり、はじまり。





 わたしは画鋲です。
 ……名前ですか? 画鋲ですよ。偽名でもないし、渾名だってありません。
 普通の工場で作られて、見た目がまるっきり一緒の仲間たちとケースに詰め込まれて、
 文房具屋で売られて、買われて、当たり前に使われているだけの、画鋲です。
 わたしが突き立てているのは、この家の一人息子にして、今年で小学四年生になるケンちゃんの部屋の壁。
 これまた普通の日めくりカレンダーを、重力に負けないよう必死で壁に押さえ付けておくことが、わたしの役目です。
 部屋の主のケンちゃんは、ちょっといたずらっ子の気はあるけど、基本的にはとってもいい子。明るくて、太陽みたいな子。
 よくカレンダーをめくり忘れては、三日か四日分くらいのページを一気に破いていくんだけど、
 そんなおっちょこちょいなところも可愛くてわたしは好きです。あ、これ、色んな意味でケンちゃんには内緒ですよ?
 わたしは、ケンちゃんの部屋にいられるだけで、ケンちゃんの指先がわたしの傍を掠めていくだけで満足なんですから。
 ……時々、今年が終わったらこのカレンダーも必要が無くなって、
 そしたらわたしも一緒にお役御免になっちゃうのかな、なんてことを考えたりもします。
 けど、遅かれ早かれ、何にだって寿命っていうものはあるんだから、
 覚悟を決めるのはその時になってからでも遅くないよね――なんて風に結論を先延ばしにしては、
 わたしはケンちゃんと一緒の、ありふれた日常を過ごし続けていました。

 あの日が、来るまでは。




 あの日、ご飯を食べ終えたケンちゃんが部屋へと戻ってきたとき、その左手には銀色に光る二本の細長い棒が握られていました。
 最初はお箸かなと思ったんです。だって、ご飯の後だから。ケンちゃんが左利きであることくらい、『わたし達』にとっては常識なのです。
 でも何でわざわざ部屋まで持ってきたんだろう? そう思ったとき、わたしは二本の棒の根元が、よく見たら繋がっていることに気がつきました。
 ケンちゃんにも、この部屋にも酷く不釣合いな無機質過ぎる道具。それは理科の実験とかに用いられる、ピンセットだったのです。
 ケンちゃんはそれを持ったまま部屋の角まで駆け寄っていくと、
 見慣れた顔で、そう、いつものいたずらをする前の好奇心と期待に満ち溢れた笑顔を覗かせて、その場にしゃがみ込みました。
 何故だか、嫌な予感がしてなりませんでした。ケンちゃんのいたずら癖は当然よく知っていたけれど、いたずらと言っても小学生のすること、
 何よりそれを叱るのは傍にいる親や大人たちの役目で、わたしみたいな画鋲が口出しすることじゃない。そう思っていたから、
 わたしはずっと、ケンちゃんのいたずらを傍観して――違う。黙認、していたのです。
 けれど――その時ばかりは、止めなきゃいけない、そう思いました。だってそれは、下手をしたらいたずらじゃ済まない、
 冗談も洒落も通用しない――そういう事態になり得る行為を、ケンちゃんがやろうとしていることが、分かったからです。
 ケンちゃんの目は、壁に刻まれた細長い対の空洞、
 それこそ手に持ったピンセットがぴったり入り込むくらいの隙間――コンセントに、釘付けになっていました。
『ケンちゃん、だめ! やめてっ!』
 わたしがそう叫んだときには、何もかもがもう、手遅れでした。
 コンセントに突き刺さったピンセットの先端から青白い火花が飛び散り、
 その瞬間に、蛍光灯の明かりは掻き消え、部屋を真っ黒が覆い尽くしました。
 わたしの脳裏には、今でもくっきりと焼きついています。
 視界が暗転する寸前に、小さく揺れたケンちゃんの頭が。
 視界が暗転した後に、ケンちゃんが床へと倒れ込んだ時の音が。
 そして、きっとお母さんがブレーカーを上げたのでしょう。すぐに視界が回復して、わたしは、目にしたのです。
 ――仰向けになって天井と向き合い、目を見開いたままぴくりとも動かない、ケンちゃんの――抜け殻を。

 これが、日常に刻み込まれた亀裂。

 こうしてケンちゃんは亡くなりました。死因は当然、感電です。
 取り残された『みんな』が、それぞれの感情の波に襲われている一方で――わたしはただ、呆然としていました。
 こんなこと、想像したことも無かったから。ケンちゃんとの別れが来るとしたら、いなくなるのはわたしの方で、
 ケンちゃんの方が先にわたしの前からいなくなるだなんて、そんなのは、あり得ない筈のことだったから。
 わたしは何度も思いました。何で? どうしてケンちゃんが? こんなの嘘だ、夢だ、ドッキリだ。そうに決まってる。そうでしょ?
 今思い返してみるに、きっと『みんな』もそう思っていたのでしょう。『わたし達』の強い思いが、本来起こり得ない一つの奇跡を生み出した。
 だから、『彼』は現れたのです。
 だから、『それ』は――始まったのです。



「――ケンちゃんが死んで、悲しいか? お前達」
 『誰も』が気が付かないうちに、その人は部屋の中心に立っていました。
 その人はお面を被っていて、どんな顔かは見えないし見当も付きません。
 けれど、その声からは何処か和やかな雰囲気が感じられて、そして彼のお面にはくっきりと、
 『感電』の二文字が刻まれていました。
「我が名は感電の神。パロロ……げふっげふっ! ……こ、この世界のありとあらゆる感電を司る唯一神だ。
 お前達がそれを強く望み、我の願いに応じるのならば、我もお前達の意を汲み取り、ケンちゃんを生き返したる――ノゥ! ノゥ!!
 ――ケンちゃんを蘇らせてやれるのだが、どうかね?」
 それはあまりにも突然だったし、俄かには信じがたい言葉でした。けれど、この人が不思議な力を持っていることは確かのようだし、
 何より、ケンちゃんを生き返らせてやるという提案は、『わたし達』にとってあまりにも抗い難く、そして魅力的な誘惑でした。
 事実、『わたし達』のうちの何人かが、口々に彼へと言葉を浴びせ掛け始めました。本当なのか、頼むやってくれ、何をすればいい、etc――
 そういった質問責めの嵐を掻き消す返答は、彼の口から実にあっさりと、告げられました。

「『君達』に、殺し合いをしてもらう――」



 そうして、わたしは壁の呪縛から解き放たれて、『みんな』との――ケンちゃんが大切にしていた、
 『文房具』達との殺し合いの真っ只中にいます。
 今のわたしは、何も考えていませんし、何も決めていません。
 全ては、そう、先延ばし。
 わたしを動かしてくれる何らかの要因が働くその時まで。
 わたしの意思を繋いでくれる誰かが現れるその時まで。
 今のわたしは、ただの画鋲であり続けているのです。

 ただ一つ、断言出来ることがあるとすれば。
 わたしの日常は、この時をもって完全に砕け散ったのです。
 わたしが壁を離れた時に。わたしが、カレンダーを繋ぎ止めることを辞めた時に。
 わたしとケンちゃんの日常の象徴だった日めくりカレンダーが、呆気なく床へと落ちたその時に――きっと。



【ゲーム開始】
【残り42『人』?】

ウィキ募集バナー