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文房具第3話

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datui

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関孝和によろしく ◆6/WWxs9O1s


あの人が死んだ。
それで私の全ては終るはずだった。
使われなくなった文房具に価値などありはしないし、私はコンパスという弱小文房具。
算盤や判子のように、持ち主を変えて何度も使いまわされるような立場でもない。
だから、私はあの人と一緒に終るつもりだった。
だけど、そんな時に現われた奇妙な男。
正直いって、信頼できるかどうかは怪しいと思う。
でも、あの人が生き返れる可能性が少しでもあるのなら、私にはそれに賭けない理由など無かった。


私は、まずはランドセルの中にいる仲間を狩りつくすことに決めた。
幸い、支給品はおそらく「当たり」の部類に入るであろう重い金属製の・・・・・・ナニカ。
だって今まで観たことが無いんだからしょうがないじゃない(一応、説明書を読んで使用方法は掴んだけど)。
さらに私には、たとえ支給品が無かったとしても戦えるだけの武器がある。
だから、誰が相手でも負ける気はしなかった。
私は、ランドセルの中ポケットから這い出ると、すぐ真下の―――大ポケット、とでもいうんだろうか?
とにかく一番大きいスペース、そこに飛び降りた。
そこにいたのは、
「・・・・・・そなたか。そんな険しい顔をしていかがした」
いつものように、飄々とした口調で笑顔を振りまく算盤だった。
「あんたこそ、そんな涼しい顔をしていかがしたのかって聞きたいわよ。
あの人が死んだってのに、やけにのんびりしてるじゃない」
すると算盤は、
「まさか、殺し合いに乗ろうというのか? このような下らぬ余興に」
こともなげに、そう言ってのけた。
「あんた・・・・・・正気? 」
「それは某の台詞だな」
算盤は、やはり変わらず軽薄な口調で続ける。
「なぜ別の主に仕えることを考えない。この世界に主はあの子供一人だけではない
この部屋と、せいぜい学校での主の机くらいしか知らぬそなたにはわからぬか。
ふむ。そもそも我らは同じ教科で使用される文具といえども、そなたは幾何学、
某は代数学を担当しておる。近き故に交わらぬ・・・・・・などとは言いすぎか」

「算盤。何が言いたいの」
算盤の様子はいつもと変わらない。みんなによく冗談を言って笑わせているあの算盤だ。
しかし、今はそんな算盤の周囲にある空気に触れるだけで吐き気がした。
「哀れな女よ、真の世界を知らぬ蛙に過ぎなかったか」
そう言って、算盤は破顔一笑、よく通る大声で哄笑した。
その隙を、私は見逃さなかった。
私は一気に間合いを詰めると、『それ』を奴の腹に当ててスイッチを入れた
「ぐっ!! 」
唸り声のような悲鳴を上げて後ろに飛びのく算盤。
私はその隙に彼を組み伏せようとしたが、ひょろりとかわされてしまった。なんともすばしっこい。
「そなた・・・・・・スタンガンか」
算盤が、私がその器具を当てた部位を片手で抑えながら口を開いた。
「へえ、そんな名前だったんだ。知らなかったよ」
「ふん。やはり蛙だな」
「・・・・・・あんたねえ、自分が古物屋出身だからって、世界の全てを見てきたような口を利くのはやめたら?
どうせあんただって、狭い世界で生きてきたことは大して変わりないじゃない」
私がそう言うと、算盤はますます呆れたような顔をして肩を竦めた。
「某とて、自分が世界の全てを知っているなどとは思わぬ。しかし、そなたと違うのは身の程をわきまえていることだ。
そなたは自分の目に入るもののみが世界の全てだと思っている。だからこそ、たかだか主一人の死で正気を失うのだ」
いつもと変わらない、真面目な交渉というものを徹底的に拒む口調。
ああ、どうやら私は本当にこいつとはどこまでも気が合わないらしい。
「そう。あんたとっては『たかだか主一人』なのかもしれないわね。でも、
そのために戦うことが間違いだなんて、なんであんたに言えるのかしら? 」
私はそう言うと同時に、一気に算盤に向かって踏み込んだ。
このスタンガンという武器は接近戦でしか使えない。しかし私にはよりオールラウンドな攻撃方法がある。
「それっ、針!! 」
鋭く尖った巨大な針が、算盤の頬を掠める。
「ぬう、流石はコンパスの針。なかなかおぞましい」
「ええい、まだまだ!! 」
手当たり次第に乱発する私の針撃を、算盤は紙一重で避け続ける。
最初はなぜそこまで正確に避けられるのが疑問だった。しかし、
(―――この音、数珠が鳴る音? )
算盤が動くたびに、忙しく鳴り響く耳障りな音。
(こいつ・・・・・・針の軌道を計算している!! )
体内に計算機を持っているも同然の算盤には、そのくらい朝飯前なのだろう。
確実に当てるには、技術ではなく運が必要のようだ。
数十回の針撃の後、流石に私は音を上げた。
「ああもう!! いい加減に降参しなさいよ!! 」
「戯言を。しかし・・・・・・ふむ、たしかにこのまま逃げてばかりというのも芸がないか」
涼しい顔で私の針を避け続けていた算盤は、突如大きく地面を蹴って私との距離を大きく広げた。
(これは・・・・・・・何か大技が来る? でも、私の針のほうが早い!! )
狙うは算盤の眉間。私は次の一撃で決める覚悟を固め―――

「数珠球、解放」

「な・・・・・・」
一瞬にして、私は激しく旋回運動する円盤の群れに囲まれていた。
「動くな。そこから一ミクロンでも動けば、お前の体は穴だらけになる」
「これが、あんたの切り札? 」
「某とて計算するばかりが能ではない。算盤は結構強力な武器にもなる。小学生の間ではわりと有名だぞ」
「そう。コンパスも凶器としては優秀よ。特に女子生徒にはね」
私はそう言いながら、両手を頭の上に挙げた。ここまでくればチェックメイトだ。この劣勢、どうあっても崩せない。
「ふむ。引き際は心得ていたか」
算盤は、心底つまらなそうな顔でそう呟いた。
「コンパスよ。某の体に入っている全ての数珠玉を使えば、果たして何通りの計算が出来るか知っておるか? 」
「あん? 何よそれ」
脈絡の無い話を始める算盤に、私は思わず聞き返す。
「そなたの針と芯を使えば、何通りの円を描けると思うか? 」
私の言葉を無視して、算盤は続ける。
「某は有限、そなたは無限だ」
奴はそういうと、何を思ったのか少し微笑みやがった。
「数学とは無限であり永遠だ。我らは例え狭き世界に住まおうとも、果ての無い数の世界に繋がっておる。
そんな我らが、一人の人間の死にばかり囚われておるなどと愚かしいとは思わんか? 」
次の瞬間、私の体は数十個の数珠によって弾き飛ばされた。
「っつ・・・・・・」
私はランドセルの底に、背中から倒れこんだ。全身に痛みが走る。しかし急所は外れていることから、どうやら手加減をしてもらったらしい。
「コンパス。某は自らそなたに手を下そうとは思わぬ。そなたはこの殺し合いの中で自ら、自分の愚かしさを思い知るがいい。
自分は蛙に過ぎなかった、とな」
ぐらぐらと揺れる私の頭に、あいつの声が届いた。
もちろん、後を追おうとは思わなかった。


約十分後、ようやく起き上がることが出来た。
体のあちこちが痛む。しかし、致命的な傷や故障には至っていないようだ。
「算盤・・・・・・確かにあんたのいう通り、私は了見の狭い女かもしれない。死んだ人間にまだ縋り付くんだからね」
でも・・・・・・あんたのいう『数の世界』がどれだけ広くて素晴らしいものだとしても私にとってはそれは価値の無いもの。
私にとっては、あの人がいる世界こそが全てなんだ。
「あんたにはわからないでしょうね。私は、蛙でいい。蛙らしく、井戸の底でもがいてやるわよ。水が枯れるまでね」


【現在位置:ランドセルの中】

【コンパス】
 [状態]:全身に軽い打撲
 [道具]:スタンガン
 [行動方針]:優勝して、ケンちゃんを復活させる


【算盤】
[状態]:やや疲労
[道具]:不明
[行動方針] :殺し合いに乗る気は無いが、襲われれば容赦しない

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