Helpless Predicament


《Virtue or Vice》



 撤退、あるいは逃走。
勝算がなかったわけではない。相手は二人といっても、片方はまだ少年だ。
攻め入ればどうにかなった可能性は充分にある。しかし、万が一ということもあった。
また無闇に突っ込んで、武器を奪われるのはさすがに癪だ。そばにいる警官のこともある。
ここは一度手を止め、足場を固めるべきだろう。老獪な男は胸中で頷く。
「あれはいったい何だったんだ」
 警察署から脱出した矢先、マービンから疑問が飛び出した。
「ゾンビとも他の化け物とも違う。あれはまるで人間のようだった。
いや、もしかしたらあれが人間なのかもしれない」
 警官は自身の腹部に視線を落とす。おそらくほとんど再生済みで、ケガどころか痛みさえなくなりかけているのだろう。
その異常に不審を抱くのも無理はない。

 志村は何と答えればいいのかわからず、ただ幻想的な街並みを見回した。
すると西洋風の屋敷を見つけ、無意識に目を細める。


『アンブレラがあの洋館でTウィルスの実験をしていたのは間違いないのだ。

 Tウィルスに感染すると、人間はゾンビになってしまう――』


 署内で見つけた日記には、そのように記されていた。
あの動く屍が本当にウィルスによるもので、『洋館』とやらがあれを指すのだとすれば、
あの館はウィルスやゾンビの感染・発生源ということになる。
 調べる必要はあるかもしれないが、“アンブレラ”とやらに迎撃される危険性がある以上、無策で潜入するのは危険だ。
不死といっても痛覚はある。それに拘束されて実験材料にされるのは御免だ。
 さて、どうしたものか。

 志村がそんなことを考えていると、隣の男が肩を掴んできた。
「教えてくれ。どっちが本当の“人間”なんだ」
「そんなことを聞いてどうする」
 老人は無愛想に返す。かりに真実を告げても、状況が改善されることはない。
もうどうにもならないのだ。どうあがいても、その先には絶望しかないだろう。

 だが、絶望の底に立ってこそ見える光もある。

「もし自分が怪物だと知って、お前はどうする。銃口を咥えて死ぬか? やめておけ、無駄なことだ。
そんなことで死ねるほど、この体は柔にできてはいない」
「そうか」
 その言葉の含意を察し、マービンは項垂れる。しかし、と志村は話を続ける。
「意思も尊厳もない肉塊よりは、はるかにマシだとは思わんか。
たしかに醜い身ではあるかもしれない。だが、お前の目に映る世界は違うはずだ」
 赤い水を摂取することにより、人は人でなくなる。その結果が不死身の肉体と楽園だ。
その性質・外見から生前は忌み嫌っていたが、そうなってしまった今となっては、もう受け入れるしか道はない。
「これはある種の救済だ。むざむざあんな形で死なせるより、こうして生きていた方がまだ救いはあるだろう」
 違うか?と志村は目の前の男に問う。ああなっては後悔も苦悩さえもできはしないのだ。
ただ、その身が朽ちるまで恥を重ねていくだけだ。そんな屈辱を受けるより、
こうして自分の思うように行動できた方が、まだ幸せだと思えるのではないか。


 どちらにしろ、もう元の姿には戻れないのだ。

 選択肢など、自ずと限られてくる。


「……少し、待ってもらえないか」
 マービンは複雑な表情で志村の方を向く。老人は腕を組み、その顔をじっと見るに留める。釈明を促しているのだ。
「あんたのいうことに間違いはないと思う。それはわかっているんだが、ほかの方法だってあるかもしれない。
無事な人達を引き摺り込む必要が本当にあるのか、確かめたいんだ」
「好きにするがいい。だが、俺はこの考えを変える気はない」
 明確な解決策・指針がない以上、それはもう個人の信条の問題だ。他人がどうこう言えるものではない。
老兵は銃身を肩に担ぎ、警察署から離れていく。警官は今まで世話になった職場を一度振り返った後、遠ざかっていく背を追った。


【アイテム情報】



ショットガン@バイオハザード
レミントン・アームズ社開発のショットガンレミントンM1100-P。Pは「Police」のP。
銃身を短く切り詰めた警察仕様で、12ゲージショットシェルを使用する。装弾数は5発。
本来のレミントンM1100はセミオート式だが、ゲーム中ではカスタム前はポンプアクション式。
射撃範囲が広く、横に広がった複数の敵に攻撃を加えられる他、距離が離れていれば姿勢が低い敵にも命中する。
ただし、威力は接近している時が最も高く、離れれば離れるほど低下するので、接近戦が主な用途となる。
攻撃後の隙が大きいため、敵を仕留め切れないと反撃を受けやすいが、ゾンビに対しては頭部を攻撃して即死させるも良し、
集団を引きつけて一掃するも良しと非常に便利。
ショットガンパーツと組み合わせると「カスタムショットガン(レミントンM1100)」になり、装弾数が7発に増加、
威力が2倍近くまで増加するが、射撃時の隙が更に大きくなる。


マグナム@バイオハザード
IMI社が生産している大型軍用拳銃デザートイーグル。R.P.D.のメダリオンが埋め込まれた木製グリップが装着されている。
強力な.50AEマグナム弾を使用しているため高威力を誇り、雑魚敵はほぼ一撃で倒すことができる。
反動もショットガンに比べ小さく、隙が生じにくい。弾が敵を貫通するので一直線に並んでいる敵はまとめて倒せる。
マグナムパーツと組み合わせると「カスタムマグナム(デザートイーグル.50AE10インチ)」になる。
バレルが10インチに延長され威力がさらに上がるが、反動が極端に大きくなり、発射後の隙が大きくなる。


硫酸弾@バイオハザード
着弾時に濃硫酸を撒き散らす。リッカーやタイラントに有効。


back 目次へ next
Significant Commitment 時系列順・目次 Vicious Legacy
Significant Commitment 投下順・目次 悪鬼がとおる

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年06月21日 21:22