Vicious Legacy





<Obscure Characteristic>



「イヒッ、イヒヒヒヒヒヒ」
 常人と呼ぶには程遠い笑い声を伴って、その男――ヒトという種類であるかどうかは定かではない――はこちらに近づく。
「あんたらにも教えてやるよ。真っ黒な夜の醍醐味ってやつをさ」
 男が握っている鉄パイプが床を引き摺っている。ガリガリという音とわずかに生じる土煙にケビンは不信感を示しつつ、
銃口を男の頭部に向けた。駅に入った時と同様、ポイントマンである自分がまず対処しなければならない。
「両手を頭の後ろに乗せろ。それから足を交差させて座れ」
 相手が人間かどうか。それも大切な分水嶺だが、何も人間すべてを保護することが警察官の本分ではない。
ここにくるまでもそうだが、基本的に保護対象は善良な市民だけであり、それ以外――暴徒や盗人の安全に配慮する必要はないのだ。
 かりに目の前の男が“人間”だったとしても、守るに値しないならばそれまでだ。
こちらの指示に従わない、こちらに危害を加える――そういう場合は、いつも通りの対処をすればいい。
「イヒ、イヒヒヒヒィィィィィイイ!」
 右手で振り上げられた鉄パイプをケビンは苦もなく銃身で受け止める。
この程度の衝撃――腕力なら大したことはない。ラクーンシティで相手にした化け物に比べれば、こいつの相手は子守のようなものだ。
「ジムはどうした」
「知らねェナァ。ま、どうせゾンビの餌にでもなってるだろうさ。あいつはどんくさいからなァ……イヒヒ」
「ああ、そうかよ」
 期待など最初からしていない。一応聞いただけだ。
銃身を滑らせ、相手の眉間に銃口を突き付ける。
「動くな」
「ヤダねェエエ!」
 あまった左手がケビンの顎目掛けて飛んでくる。警官は舌打ちひとつでそれをかわし、右膝を相手の腹にめり込ませた。
内臓にめり込む時の特有の感覚。奇妙な柔らかさによる不快感。駅員の手から鉄パイプが転げ落ち、金属独特の音をたてる。
「ゴウッ……!」
「悪いが手錠もロープも持ち合わせがねえんだ。連行も逮捕もできねえ以上、てめえにはしばらく地面とキスしてもらわなきゃならねぇ」
 膝を突いた男の首筋に、ケビンは容赦なく踵を叩き込む。無様な悲鳴と転倒。それきり駅員は静かになった。
 警告はした。それでもこいつは襲ってきた。軽犯罪あるいは公務執行妨害――鎮圧する理由にはそれで充分だ。
「クソッ、どうなってやがる」
 目下の問題はそこではない。たしかにこいつは死んでいた。完全なる死体だったのだ。
プロフェッショナルの自分がそう判断したのだから、それはほぼ確かな情報だと信じていい。
仕事でも災害でもああいうのは嫌というほど見てきた。
 しかし、現にこいつは動きもしたし、喋りもした。ゾンビとは違う。さらに言えば、ラクーンシティで遭遇したどのモンスターとも性質が異なっている。
あえて呼ぶならば、『賢い死者』といったところか。単純で化物然としていたあの町のゾンビよりタチが悪い。
なまじ人間性があるものだから、明確な敵かどうか判断しにくいのだ。下手に信用して背中を撃たれるのも、善人を撃って罪悪感に塗れるのも御免だ。
(ベトコン相手にするのって、こういう気分なのかもな)
 ボリボリと頭を掻いて、目の前の鉄パイプを拾い上げる。この男がいつ目覚めるかわからない以上、こういうものは遠ざけておいた方がいいだろう。

「ケビン!」
「大丈夫だ、問題ない」
 ジルの声に振り返ると、彼女は自分を見ていなかった。線路が続いているであろう空洞をともえと一緒に覗き込んでいた。
「電車が来たわ」
「……オーライ」
 少しは心配してくれたっていいんじゃないか? ケビンは少量の不満を胸中でぼやきながら、徐々に光が満ちていくそこへ歩いていく。
「ジル、嬉しいのはわかるがな、電車にはしゃぐ歳でもないだろ?」
 笑いながらそう言うと、彼女は不機嫌そうな顔でこちらを見た。
文句のひとつでもぶつけるつもりなのか、その口がわずかに動く。
「……ん?」
 突然、自身を包む影が、闇が濃くなった。光を遮る何かが頭上にでもあるかのような感覚。
ジルの顔が引きつっている。遅れてこちらを向いたともえの顔色は青い。
「避けて!」
 どちらの叫びかはわからない。それを判別していられる程の余裕はなかった。


<The penalty for humankind>



 電車が線路を軋ませる音で気付けなかった。視界が悪いのも祟った。
その存在には気付いていたというのに!
「ケビン!」
「俺のことはいい! エスコートは頼んだ」
 衣擦れのような音とともに、そいつは床を滑った。
ケビンを狙ったと思われる攻撃、その対象が実は倒れている男だったことにジルは一時的に安堵する。
所々禿げたような緑色の皮膚。忘れようのない大きさと圧迫感。
駅員を丸呑みしたそいつはゆっくりと振り返り、こちらを見下ろす。
ジルはその巨大なヘビとの遭遇に、奇妙な郷愁と少量の恐怖を感じた。
そんな風にしか動かない感情に、自分は随分遠いところに来てしまったな、と憂鬱になりつつ、
彼女は背後で停車した電車と大蛇を交互に視界に入れた。電車は鈍い音を立てて扉を開き、大蛇は自分とともえを凝視している。
餌の品定めでもしているのだろうか。あるいは、自分のことを覚えているか。それとも単純に数が多いからか。
 ――今はそんなことどうでもいい。
「電車に乗って逃げるわよ」
 来た道は蛇によって塞がれている。何とか突破したとしても、前後を気にしながらの逃走はともえがいる以上厳しい。
鉄の箱による高速での離脱――電車が通常通りの働きをしてくれればの話だが――が現状では最も賢明だろう。
「そうしてくれ。――オイ、ヘビ公! 人間の女に色目使ってんじゃねえ!」
 二発の銃声。こちらを睥睨していた顔に銃弾が浅くめり込む。その鋭い視線はケビンへスライドし、巨体はそちらを這っていく。
「行くわよ」
 呆然としているともえの着物の手を取り、電車へ入ろうとすると、「待って」と女の声。
「きっぷ……」
「なに……?」
「“きっぷ”がないと電車には乗れないはずでしょ……?」
 笑うか焦るか怒るか――ジルは数瞬悩んだが、無言で車内に引きずり込むことにした。
箱入り娘とは、こうも扱いが難しいのか。ジルは場違いな感慨を心のどこかで感じながら、電車の中を見まわす。
 暗い車内で、ジルのライトが何かを捉えた。身につけているナースキャップや白い服から、生存者かも知れないと思ったが、
彼女はすぐにその可能性を放棄した。奇怪な肉声と動作、そして面相。ここに来て遭遇した怪物と同じような性質がある。
看護婦は奇声を発し、持っていた銃を二人に向ける。ジルの背後でともえが小さな悲鳴を漏らした。

 ナースの銃口がジルの頭部を狙う――直後、ナースの肩に銃弾が飛び込む。
 怪物が絶叫し、銃を握っていた腕がだらりと垂れる。ジルの放った銃弾がその手を穿ち、否応なく拳銃を落とさせる。
 最後の一発。正確な射撃がその異形の頭部を貫いた。支えがなくなったかのように、ナースはその場に体を投げ出す。

「切符代よ」
 番人を沈黙させ、安全を確認したジルは素早くリロードし、ドアから車外に身を乗り出す。
それとほぼ同時に、ケビンが車両へ飛び込んできた。彼女は慌てて道を開ける。
「ヘビは?」
「何とかなった」
「まさか、倒したの?」
 ジルが薄闇にライトを走らせると、警官はハッと笑った。
「ゲームじゃあるまいし、そんなことする必要はねえよ」
 闇の中でのたうりまわる緑色の巨体が見えた。苦しんでいるようだが、外傷はなさそうだ。
口を大きく開け、見えない何かと戦っているようにもがいている。
いや、よく見ると、口の中で光を反射しているものがある。
「思い付きだったが、案外うまくいくもんだな。あれでしばらくは周りを気にしてる余裕はないだろうよ」
 鉄パイプだ。鉄パイプがヘビの上顎と下顎の間に直立し、つっかい棒となっている。
大蛇に四肢がない以上、あれを自力で取るのはほぼ不可能だ。
 開いた時と同じ音を立て、扉が閉まった。電車はそれに連動して動きだし、徐々に加速していく。
ジルはヘビがこちらを追う気がないのを確認してから、ようやく安堵のため息をこぼした。
「おいおい、安心するのは早いぜ。行き先が安全だって保証はないんだからな」
「だとしても、一歩前進よ。あなたのおかげでね。洋館事件の時にあなたがいてくれれば、リチャードは……」
「止せよ。過去のことは事実でしかない。そこに“もしも”なんて存在しねえよ」
 苦々しげにジルの言葉を制し、ケビンは不衛生なシートに腰を下ろす。
彼女に救えなかった命があるように、この男にも助けられなかった人はいる。
仮定の話をしたところで何の意味もない。後悔と願望が横たわるだけだ。
ジルにもそれはわかっている。わかってはいるが、そう簡単に割り切れるものではない。
「今俺たちがしなきゃなんねえのは、職務怠慢な警察署へのクレームだろ?」
「……そうね。ごめんなさい」
「それから、そこのお嬢さんを無事にジパングまでエスコートしなきゃな」
 茶目っ気たっぷりにウィンクをするケビンに、ともえは仰々しく頭を下げた。
「ありがとう。このお礼はいつか必ず」
「ヒュー! そいつは楽しみだ」
 制服の男が上機嫌に口笛を吹くと、着物の女はあっ、と声を上げ、
「夜に口笛を吹くとヘビが出るのよ」
「……もう出たでしょ」
 ジルの呟きに二人は笑った。



【A-2/地下鉄/1日目夜中】


【ケビン・ライマン@バイオハザードアウトブレイク】
[状態]:身体的疲労(小) 、T-ウィルス感染中、手を洗ってない
[装備]:ケビン専用45オート(装弾数3/7)@バイオハザードシリーズ、日本刀、ハンドライト
[道具]:法執行官証票
[思考・状況]
基本行動方針:救難者は助けながら、脱出。T-ウィルスに感染したままなら、最後ぐらい恰好つける。
1:警察署で街の情報を集める。
※T-ウィルス感染者です。時間経過、もしくは死亡後にゾンビ化する可能性があります。
※闇人がゾンビのように敵かどうか判断し兼ねています。




【ジル・バレンタイン@バイオハザード アンブレラ・クロニクルズ】
[状態]:健康
[装備]:M92Fカスタム"サムライエッジ2"(装弾数15/15)@バイオハザードシリーズ
[道具]:キーピック、M92(装弾数15/15)、ナイフ、地図、ハンドガンの弾(24/30)、携帯用救急キット、栄養ドリンク、ハンドライト
[思考・状況]
基本行動方針:救難者は助けながら、脱出。
1:警察署で街の情報を集める。
※ケビンがT-ウィルスに感染していることを知っています。
※闇人がゾンビのように敵かどうか判断し兼ねています。



【太田ともえ@SIREN2】
[状態]:身体的・精神的疲労(小)
[装備]:髪飾り@SIRENシリーズ
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:夜見島に帰る。
1:ケビンたちに同行し、状況を調べる。
2:事態が穢れによるものであるならば、総領の娘としての使命を全うする。
※闇人の存在に対して、何かしら察知することができるかもしれません。




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最終更新:2012年06月22日 23:28