生まれ変わったら双子がいいね
あの腐った肉体に入り込んだ『同族』は、赤い涙を流す『眷族』に次々と駆逐されていった。
理由は明白だ。予想通りあの腐った肉体は、身体のどの部位もが動きが鈍い。修復も遅いようだ。
混戦地帯のど真ん中でもあるモールのロビー付近では、あの肉体に入り込んだところで修復も退避も間に合わずにやられてしまうのだ。
『殻』が無ければ脆い闇霊達。とはいえ、あの『殻』では満足に戦うことも出来ない。
少なくとも、今、この状況では。
その闇霊は、今の『殻』を得る前からその事を懸念はしていた。
故に極力混戦地帯から多少なりとも離れた位置にあり、そしてまだ新鮮な状態の肉体を求めたのだ。
とりあえず今の『殻』――記憶を辿れば名を「竜宮レナ(礼奈)」と言う――の損傷は酷いものだったが、
新鮮であることが幸いして修復速度は腐った『同族』に比べれば速いものだ。
半身以上がミンチの状態から、ごく最低限、何とか動ける程度までの修復は
『眷族』にも腐った死体にも気付かれること無く完了した。
しかし、まだまだ完治というには程遠い。まだまだ時間が必要だ。
(戦況も芳しくないし…………撤退するであります伍長殿! ……かな? かな?)
『殻』の思考としては、こんなところだろうか。
その闇霊/レナは武器を拾うと、治りつつある足を引きずりながらショッピングモールを後にした。
背後で絶え間なく続いている奇声や銃声は次第に遠ざかり、その内、風の中に掻き消えていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
レナがその気配に気付いたのは、この肉体に入り込んですぐの事だった。
カラカラと何かを引きずる何者かの音が、レナの方向に近付いてくる。
新たな『殻』だ。そう判断すると、レナは少しの間も置かずに開け放たれていた扉から外に出た。
着地すると同時に、暗闇でも昼間のように見通せるようになった視力で辺りを見回す。
視界の中には動く者の姿はない。だが音は聞こえてくる。後ろだ。
自分が今居た車が遮蔽物となっている為に姿はまだ見えないが、『殻』は後ろに居る。
「助けて!」
相手を油断させる為の、至極単純な騙し討ちの声を上げる。
拾ったバッグに入っていたナイフを服の中に隠し、レナは車の陰から飛び出した。
「……えっ!?」
そこに居たものは『同族』だった。
あまりにも意外な『同族』だった。
思わずレナは、今自分が出てきた『ワゴン車』のドアミラーで自身の顔を確認していた。
「わ、わたし?!」
目の前には、自分と全く同じ『殻』が居る。こんな出来事、一度として経験は無い。
二人のレナはまるで鏡写しのように、唖然とした顔を見合わせていた。
【E-2/ワゴン車付近/一日目深夜】
【クリーチャー】
【闇人(竜宮レナ1)】
[状態]:死亡時の損傷・火傷(回復中)
[装備]:鉄パイプ
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動指針:地上奪還の為、『殻』を増やす
0:双子……じゃないよね?
1:自分の『殻』の修復
【闇人(竜宮レナ2)】
[状態]:死亡時の銃撃による損傷(回復中)
[装備]:山狗のナイフ
[道具]:山狗のバッグ(中身不明)
[思考・状況]
基本行動指針:地上奪還の為、『殻』を増やす
0:双子……じゃないよね?
1:魅ぃちゃん達も早くこっちにこないかな? かな?
最終更新:2014年03月17日 22:17