復讐の女神
――――――――足りない。
一片の光も差さない暗く、静まり返った地下の中で、『そいつ』は今、硬いレールの上を這いずっていた。
『そいつ』の宿主はあの凄まじい爆発で、頭部を吹き飛ばされた。腕を二本とも付け根からもぎ取られた。紅炎に巻かれ、茶褐色の肌や剥き出しの筋繊維は、黒ずむまでに焼け爛れた。
個体の持つ代謝による回復だけでは、最早追いつかず。並大抵の個体ならば致命傷に等しいダメージを受けた宿主は、炎の中で膝から崩れ落ち、高熱を帯びた金網に巨体を倒し、ただ焼かれていた。
その宿主にとって幸運だったのは――――――――寄生生物『NE-α型』、通称『ネメシス』。『そいつ』が取り付いていた事だ。
そいつは宿主が負傷した直後から、宿主が負わされたその負傷を、宿主が奪われた部位を、一刻も早く再生させようと。その生存本能を激しく働かせ、細胞組織を賦活させる成分の大量分泌を始めていた。
それは、その寄生体と宿主を創り出した者達の想定を超える事象。宿主の首が千切れていて尚もネメシスが活動を行うとは、誰もが想像すらしなかった。
死を待つだけとなった筈の肉体を確実に再生させる為に。大量に、それこそ異常なまでの量を分泌されたその成分は、宿主の新陳代謝をもまた異常に促進させ、身体に歪な再生を施しながら、全身を巡った。
焼け爛れ、脆く変わり果ててしまった肉体の内側で、黒ずんだ筋繊維は脈動を繰り返し、気味の悪い音を立てて盛り上がった。
もぎ取られた腕は、復元する事は叶わなかったが――――その付け根からは、紫色の触手がくねりを見せながら突き出され、まるで腕の様に伸びた。
延髄付近に独自の脳を形成し、瘤状の隆起と変化していたネメシス本体もまた、失われた首にすげ変わるかの様に、切断面まで這い進み、それを塞いだ。
そして宿主の負傷を補いながら、ネメシス自身もこの危機的な状況に変質を始めていた。
宿主の全身を突き破りつつ絡み付いていた毒々しい触手もまた、自己の身を守ろうとする防衛本能か、或いは敵を排除する殺戮本能か、盛り上がる宿主の肉体と連動するかの様に膨れ上がり出していた。
寄生体の分泌物と、宿主の新陳代謝の暴走により、首と腕を失いながらも、しかし、悍ましい触手を全身から覗かせ、短時間で二回り以上もの大きさへと形態を変えた怪物。
シビル・ベネットが見届けたものとは、その姿だった。
――――――――足りない。
金網と共に落下し、遥か上方から硬い地面に激突したにも関わらず、ネメシスの生存本能と殺戮本能は宿主が力尽きる事を許さなかった。
しかし――――その恐るべき再生能力にも限界は訪れる。
落下の衝撃で砕け折れた骨や、潰れた臓物。爆発の負傷の再生を完全には終えていない肉体に上乗せされた、新たな外傷。
全てを再生しきるだけの余力は、今のネメシスには無かった。
細胞賦活作用を有する分泌物は、無限ではない。それを作り出す為には、必要な物質がある。
それが、T-ウィルス細胞。ネメシスは自己の増殖の為に、T-ウィルス細胞を糧とする寄生体なのだ。
度重なる負傷と再生により、最早再生に回せるだけのT-ウィルス細胞は体内に残されていない。このままでは、宿主の命は尽きてしまう。
――――――――足りない。
T-ウィルス細胞が、足りない。
ネメシスの本能は、その一点に重点を置き、効率よくT-ウィルス細胞を取り込む為の更なる変形を見せた。
首に乗せた本体部分がもう一度大きく膨れ上がり、二つに割れ、長い口吻の様な形を取る。それは、消化、吸収を目的とした器官。
最も望ましいのは同個体を喰らい、取り込む事。だが、とりあえずは、何でも良い。T-ウィルス細胞を補給出来さえすれば、何でも――――。
ごく短い変形を終えるとネメシスは、触手を操り、芋虫の様に巨体を這わせ始めた。
優先するのは、T-ウィルス細胞。呼ばれし者は、その後で良い。
そう、何者かに書き換えられた使命を、自己の本能で塗り潰して。
【???/地下・線路上/一日目深夜】
【タイラントNEMESISーT型・形態不明@バイオハザードシリーズ】
[状態]:タイラント部分の腕部及び頭部完全破壊(ネメシス部分が補っている)、全身及びネメシス部分肥大化。
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:『呼ばれし者』の皆殺し
0:T-ウィルス細胞の補給。補給が済むまでは1以下の行動は保留。
1:シビル・ベネットを優先的に追跡、殺害する。
2:それ以外の「呼ばれし者」と遭遇した場合、その場で殺害する。
3:シビル・ベネットとそれ以外の「呼ばれし者」を同時に発見した場合、シビル・ベネットの殺害を優先。
4:シビル・ベネット殺害を完了し次第、新たな標的の探索に戻る。
※シビル以外の参加者と遭遇し、逃走される等してそれを殺害出来なかった場合、
シビルを追跡するか新たな標的を追跡するかの優先順位は後続の方に一任します。
※タイラントNEMESISーT型の形態は損傷の度合いとその再生方法によって変わる為、必ずしも原作通りの変化をするとは限りません。
※タイラントNEMESISーT型が落下した位置はB-2ですが、現在どの地点まで移動しているかは後続の方に一任します。
※T-ウィルス感染者の呼ばれし者を見つけた場合、ネメシスが何を優先するかは後続の方に一任します。
最終更新:2012年12月20日 20:31