Exodus



下世話な香りと騒々しい音楽。


それこそがこのモール内に漂っているべきものだった。


――――このモールが通常通り営業していれば。


朝日の差し込むモールはその広大な敷地を支配していた闇を徐々に取り払い、明かりに照らし出された専門店の数々は何処か無機質で、かつて存在していた人間の営みを思い出させる。

その闇を消し去る朝日を嫌悪するかのように、黒い布とビニールに覆われた場所がモール内に点在していた。

太陽は必要ない。
もう、「人間」は此処に存在しないのだ。
「光」を嫌う者達が此処を支配していれば尚更。


かつて流れていた騒々しい音楽は呻き声と銃声に、漂っていた下世話な香りは血と硝煙の匂いに。
その変貌こそ此処に"人間"が存在しない証拠であり、また"人間"でない者達が存在している証拠でもあった。


不規則な短機関銃の銃声が響き、周囲の動く屍、ゾンビを撃ち抜いていく。どこか嬉々とした様子で短機関銃を乱射する男の顔には生気が全く無く、市松人形のように真っ白だ。


かつて人間だった彼らは生前の記憶を僅かに留めているものの、暴れ狂う殺人者―――闇人と化していた。彼らは死体から産み出され、死体の有る限り無限に増殖する。



その点においては、彼らもゾンビと同じなのかもしれない。違うのは知能を持つか持たないかという点のみ。そうなれば「持たざる者」であるゾンビが「持つ者」である闇人に駆逐されるのは自然な流れだった。


そして、もう一人。
モール2階のバルコニーで戦闘を行う彼は「持つ者」か、「持たざる者」か。






慣れた手付きで振り下ろされた鉄パイプが鎌を手にした男の顔面を砕く。
顔を押さえて苦しむ男の足を払い、バルコニーの手すりに寄りかかった所を突き飛ばしてバルコニーから階下へと投げ落とした。
後ろから集団で襲い掛かってきた闇霊を横殴りにして倒す。
その隙に肉を喰らおうと横から近づいてきたゾンビの腹部をパイプで貫く。ゾンビを床に叩きつけようとパイプを振り上げた瞬間、銃声と共にゾンビの頭部が吹き飛んだ。

「大丈夫か?」

迷彩服姿の男が構えていた銃を下ろしてゆっくりと近づき、串刺しになったゾンビを一瞥しながら冗談めいた口調で言った。

「ふむ....どうやら助けるまでも無かったようだな」

死体を踏みつけて鉄パイプから外し、配管工――――デビットは悪態をつきながら答える。

「....軍が今頃何の用だ。当局は"完全隔離"したんじゃないのか。」

ラクーンで発生した未曾有のバイオハザード。
その渦中にいたデビットはゾンビの発生という非常識な出来事に対し、持ち前の戦闘能力と鋭い感を発揮して生き延びてきたものの、合衆国政府はラクーンシティの隔離を決定、頼みの綱であったラクーン市警も壊滅。ほとんど生きる望みは残されていなかった。
隔離が決定された以上、市内の生存者は見殺しにするということだ。
軍隊が投入されたのであれば、目的は"救助"ではなく"殲滅"だろう。
目の前の男が自分を手助けした理由は分からないが、味方であるとは限らない。細心の注意を払いながら男の答えを待つ。

そんなデビットの鋭い目付きに睨まれた目の前の男は言いにくそうに口を開いた。

「あー...残念だけど俺達はあんたらを助けに派遣された訳じゃない。それに、俺達は軍隊じゃない。自衛隊だよ。あんた、この辺りの人?」

ジエータイ....確か日本の軍隊だったような気がする。
なぜジエータイがラクーンに?いや、ここがラクーンでないことは確かだ。
ラクーンシティにこんな趣味の悪いショッピングモールは無い。
ここは何処なのか。
そもそもなぜ自分はここに居るのか。
今まで意識的に考えようとしなかった疑問の数々が頭に溢れる。
ジエータイの男が疑問の答えを提供してくれる事を願い、質問する。

「いや、こんな寂れたモールは知らん。それより、なぜジエータイがここに?ここは何処なんだ?」

男は暫く考え、一気に話し出した。

「そっちの状況も似たようなものか。いや、俺達も詳しい状況は分からなくてな。現地の人間なら何か知ってると思ったんだが....」

デビットが答えようとした時、数発の銃声と呻き声が響く。

「....移動した方がいいな」

どちらともなく言った。








とりあえず手近な店の一つであったパン屋に入り情報を交換する。
あの動く死体、ゾンビとラクーンでの地獄。
バーでゾンビと遭遇し、命からがら逃げ延びたこと。避難先の警察署が壊滅したこと。
半ばヤケクソで逃げ込んだ研究所。
その地下で化け物に襲われたこと。
――――――そして、そこで化け物に殴り殺されたこと。

その後、気が付いたらここにいたこと。

なぜ自分は生きているのか。あの地下水路で死んだのではなかったか。
多くの疑問を押し殺し、ただ襲ってくる化け物と闘っていた。
この目の前の男が何か知っているとは思わなかったが、何か知っているかもしれないという希望を持っていた事も事実だった。
だが男は本当に何も知らないらしく、ただ目を閉じて自分が語る地獄の様子を聞いていた。
全てを聞き終わった男は口を開き、

「あんたもか」

とだけ言った。
それが何を意味しているのか、デビットにははっきりと分かった。
男は、自分はジエータイの一佐(軍隊でいう大佐の事らしい)で、物資の輸送中に乗っていたヘリが不慮の事故に遭い数人の部下と共に死亡....したはずだと告げた。
彼もまた、なぜここに居るのかは分からないようだった。
そもそもなぜ日本人の彼と言葉が通じるのかも疑問の一つだったが、これ以上余計な謎を増やすのはやめておこう。無駄なことだ。

「.....」

一通り情報交換が終わったところで、デビットはおもむろに腰掛けていたカウンターから立ち上がり、出口のドアに手を掛けた。

「何処へ行く気だ」

男か釘を刺すような口調で訪ねる。

「.....情報交換が終わった以上、一緒に行動する理由は無いはずだが?」

元より団体行動を苦手とする自分が他人と行動するのは無理がある。
あの地獄でもそれは変わらなかったのだから、今更行動方針を変えるつもりは無い。

「"また"死ぬぞ」
「......」

少しの間続いた沈黙を破り、男は銃を肩に担いで立ち上がった。

「....何のつもりだ」
「なぁに、外国人といえど民間人を守るのが自衛隊の役目よ。それに、せっかく会った人間だしな。も少し仲良く行こうや。」

笑みを浮かべながら男は手を差し出す。

「悪いな、自己紹介を忘れてた。陸上自衛隊、一藤二孝一等陸佐だ。」
「....デビット。デビット・キング、配管工だ。」

「よし、宜しく頼むぞデビット。....ところで、これからどうするか、だが....出ていこうとしたんだ、策は有るよな?まさかここに残って探索を続ける、なんて言わねぇよな?」
「駄目なのか?」
「馬鹿、ここはもう安全じゃない。あの化け物達がうろついてるんだ、逃げた方が良い。.....それに、あんたは知らないだろうが俺の部下――――5、6人はいたか――――も全滅してる。」

聞けば、一藤は一人でここに来た訳では無く、彼と共に数人の部下――――もちろん死んだはずの――――も居たという。彼らは全員あの化け物達に襲われて"もう一度"殺されたと。
今更ながら、只の民間人である自分が生き残ったのは幸運だったと思い直した。重い空気を消し去ろうと、一藤がわざと明るい口調で言った。

「さて、脱出に関して異論は無いな?問題はどうやって脱出するか、だが....あんたの趣味の悪い武器じゃ頼りねぇな」

一藤がデビットの手元の鉄パイプを銃でつつきながら言う。そのパイプは本来の用途である配管や建材には凡そ似つかわしくない色―――――綺麗に光り輝く「金色」であった。....所々血で汚れてはいるが。

「.....フン、これも謎の一つといったところだ。」

自嘲気味にそう答えると、一藤が自分の腰から拳銃を抜いて差し出した。

「扱い方は解るな?装弾数は9発。無駄撃ちするなよ。」
頷きながらデビットは拳銃を受け取り、腰のベルトに差し込んだ。
「趣味の悪い武器」も一応持っていた方が良いだろう。

「準備出来たか?」
「ああ。」
「よし、行くぞ。周囲には気を配れ。俺だっていつも守ってやれるとは限らんからな。....っと、いかん。大事なことを言い忘れてた。デビット、あんたも死んだんだよな。」
「それがどうした。」
「あんたも超能力者になれるかもしれんぞ?」
「あんた"も"?」
「ああ、俺も死んだ後に使えるようになったからな。いわゆる千里眼、て奴さ。」
「千里眼?あの別の所の出来事が解るって超能力か?」
「俺だって信じてなかったがな。ま、口で言うよりやってみた方が速いだろ。まず目を瞑ってだな....」

一藤の指示通り目を瞑って意識を集中させる。意識を一藤の方向に向けると、視界を覆っていたノイズが一気に晴れて自分の顔が浮かび上がった。

「なんだこれは....」
「それが千里眼だな。どうやら近くにいる奴の視界を奪いとれる仕組みらしい。なかなか使えるだろう?」
「まぁ、な.....」
「よし、それなら手始めにこの辺に化け物共がいないか探してくれ。やり方はさっきと同じだ。頼んだぞ。もし反応したら言ってくれ。俺がやる。突然襲いかかられたら弾丸をぶちこんでやれ。いいな?」
「...ああ。」

いつでも撃てるよう腰の拳銃を抜き、再び意識を集中させる。
しばらくノイズが続き、ふいに視界が明るくなる。
が、視界が曇っていて何も見えない。視界の持ち主が異様な声を上げているのが聞こえる。恐らくゾンビだろう。
何度か試してみるが、浮かんだ視界はどれも曇っているか、真っ黒で見えなかった。

「まともな視界の持ち主はいない様だな。」
「そうか、奴等日が昇ってきたから隠れたんだな.....今のうちにさっさと脱出するぞ」

一藤が慎重にドアを開け、パン屋から出る。
その背中を追ってしばらく歩き、バルコニーの手すりに身を隠す。

「デビット、あんたによると、敵に銃を使えそうな奴はいなかったんだよな。」
「ああ、目が見えなきゃ銃は使えんだろう。」
「なるべく銃は使わない方が良さそうだな。」
「何故だ?」
「奴等、視覚が使えないのに正確に俺達の居場所を嗅ぎ付けてる。つまり他の感覚....恐らく嗅覚か聴覚が発達してるものとみていい。銃声を聞きつけて別の所から奴等が集まってきたら目もあてられん。」

話しながら手元の小銃に銃剣を装着する一藤を横目で見て、そうかと頷く。
拳銃をしまい、鉄パイプを取り出す。

「見つからないように階段まで向かうぞ。」

無言で頷き、鉄パイプを手に階段へと向かう。その途中、自分が先程迄疑っていた相手に完全に頼りきっていることに気付き、ひとり呟いた。

「俺も甘くなったな.....」
ふと、ラクーンで出会った生存者を思い出す。

「あいつら....生き残ってるのか?」

自分の様に無様に死んでいない事を祈ったデビットには、その内の数人がここにいるとは到底予想できなかった。






俺は嘘をついている。
否、正確には「伝えるべき情報を伝えていない」。
自衛官が民間人に情報を伝えない場合、最も多いケースが「軍事機密」。
それは敵にばれてしまうと大事になる作戦内容であったり、反対に民間人にばれてしまうと士気を下げかねない情報――――作戦の失敗や部隊の全滅等々。
俺がデビットに伝えていない2つの情報の内、1つがそれにあたる。

それはごく単純な内容ではあるものの、この状況では目の前の不敵な男を混乱させかねない情報。
――――簡潔に言うと、「自分達は一度死んだ。そして生き返ってなどいない」。
自分達が一度死んだ事については「民間人」デビットも重々承知している。問題はその後。
彼は自分が生き返ったと思っている。生き返ったなどという非現実的な事実をあっさりと受け入れるほど彼もおめでたくはないはずだが、状況が状況だけに信じ込んでしまっていても不思議では無い。

だが、それは大きな間違いで、生き返ってなどいない。むしろ、死んだ方がましであったとさえ思える状況に自分達は置かれている。いや、これもある種の"生き返り"か。
自分が生き返ったのでは無いと気づいたのはかなり前。
ヘリの墜落から少し後の事だった。俺が生き残った数人の部下と共に墜落地点の周囲を警戒していた時、突然攻撃を受けた。他の地点にいた部下も既に倒され、俺も銃撃された。意識を失う前、俺が見たのは二人の部下――――永井と三沢。俺の頭をぶち抜いたのは間違いなく永井頼人だった。
仮にも一佐である俺だ、部下の性格くらい把握している。あの二人は仲間に攻撃を仕掛ける様な男ではない。何故?
答えるまでも無い。俺がここにいること自体が答えなのだ。頭をぶち抜かれた俺がここにいること自体が。即ち、俺は人間でなくなったのだ。不死身の化け物。ここにいる動く死体や部下の成れの果てである殺戮者と変わらない。
恐らく永井や三沢には俺達があの化け物共と同じに見えたに違いない。
事実そうなのだ。
――――その事実を伝えるのは、あまりに衝撃が大き過ぎる。だからデビットには未だ伝えていない。

――――そしてもう1つ。こちらは特に隠す理由も無いが、公私混同の関係上、一応隠してある。つまり恥ずかしかったのだ。
俺の恋人、鍋島揉子の事。
頭をぶち抜かれた後、俺はもう一度"生き返り"、彼女と出会った。部下に人間として認められず、柄にも無く落ち込んでいた俺を慰めてくれたのだ。聞けば、彼女もいきなり何者かに襲われてこの様な姿になったのだと言う。
落ち込んでいる俺に彼女は「私だって望んでいなかったけど、こうなってしまった以上仕方が無いのよ。それより、この姿でも楽しむ努力をしましょうよ。」と言った。事実、彼女は俺に"この姿でも楽しむ努力"をさせてくれた。

......話が逸れたが、問題は彼女が行方不明になっているという事だ。ひょっとすると行方不明になっているのは俺の方かもしれない。なら、すぐにこの場から脱出したい所だが、俺は自衛官である。この場にはデビットのような民間人がまだいるかも知れない。それを見捨てて自分だけ脱出等と出来るはずが無い。
例え化け物であり、死体であったとしてもこの襟章を付けている限りは自衛官としての責任を果たす義務がある。

彼女が気にならないと言えば嘘になるが、恋愛と職務が一致しないのは世の常。むしろ自衛官として責任を果たさなければ彼女に会わせる顔が無い。

自分自身をそう叱責し、俺は出口に向かって慎重に移動する。
自衛官の責任を果たす為に。
「この姿でも楽しむ努力」をする為に。








彼らは「屍人」。ゾンビの様な数も無ければ、闇人の様な高度な知能も無い。そんな彼らは、この場では最も「持たざる者」かも知れない。




「持たざる者」達は出口を探して歩き始めた。
彼らは駆逐される側か、する側か。
今はまだ分からない。

【E-2/ショッピングモール二階階段付近/二日目早朝】

※ショッピングモール内の闇人はどこかに隠れているようです。

※ショッピングモール内の屍人はほぼ全滅しました。時間経過で復活、闇人化します。


【一藤二孝@SIREN2】

[状態]健康、屍人化、強い決意

[装備]89式小銃着剣仕様(27/30)、L型懐中電灯(電池切れ)

[道具]89式小銃用弾倉×2、陸上自衛官身分証明書

基本行動方針:自衛官として責任を果たす。
1:モールから脱出し、民間人を保護する。
2:部下の捜索。
3:「鍋島揉子」の捜索。

※懐中電灯の電池が切れています。

※「鍋島揉子」がサイレントヒルに来ているかどうかは不明です。

※会場が夜見島でないことに気付いているようです。

※自身が化け物となっている事に気づいています。が、デビットには伝えていません。



【デビット・キング@バイオハザードアウトブレイク】

[状態]健康、屍人化

[装備]金のパイプ@サイレントヒル3

[道具]9ミリ拳銃(9/9)、ライター、バッテリー、工具入れ(折り畳みナイフ、スパナ×11、ビニールテープ×8、ジャンクパーツ×3、工具一式)

基本行動方針:サイレントヒルからの脱出
1:とりあえずは「一藤二孝」と行動。
2:モールから脱出する。

※「金のパイプ」と何かを組み合わせられるかもしれません。

※工具一式を所持している為、特定の物を修理出来るかもしれません。また、特定箇所の扉や通路を開ける事ができるかもしれません。

※「ジャンクパーツ」を所持している為、壊れた武器を修理できます。また、「バッテリー」と組み合わせる事で「時限爆弾」を作成できます。

※会場がラクーンシティでないことに気付いているようです。




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最終更新:2016年03月13日 15:24