蒼い朝
ふと空を見上げたのは、生物としての本能だろうか。
深い霧と、今は蒼くなりつつある闇。
どす黒い血液で額にへばりつく金髪の隙間から見えるのは、それだけだ。
しかし、確かに感じる気配がある。
予感と言い換えても良いかもしれない。
目に見えるものではないが、遥か頭上から『彼女』の苦手とするものが広がり始める予感。
暗闇が薄まるにつれて、『彼女』の身体を焼くものが静かに密度を増してくる予感。
「このままでは、まずい、ですわね……」
脳を取り込み、記憶の再生までは完了したが、未だに肉体の全てと融合を終えた訳ではない。
この肉体のままでは、間に合わない。急がねば、ならない――――。
迫る危険に、本能が後押しされるかのように。
『彼女』の宿主――――北条沙都子――――の死体の表皮が、唐突に、不自然に、蠢き始めた。
肉体の表面だけを覆っていた『彼女』の組織。
小柄な身体を動かすだけならばそれでも充分だったのだが、危険を感知した今、悠長に構えてはいられない。
肉が押し潰され、骨が砕ける小気味悪い音が、ワゴン車付近に立つ北条沙都子の肉体から鳴り続けていた。
それは可能な限り早く、効率良く融合を果たす為の作業だった。
体組織を取り込み、『彼女』のものへと変換していく為の単純な作業。
殊に時間のかかる記憶の取り込みは最初に済ませてある。後は、そう時間を取られる事は無い。
――――周囲の蒼さが消え、霧の向こうから日光が路地に差し込み始めた、その時。
光に反応するかのように、北条沙都子の小柄な肉体は急速な肥大化を見せた。
衣類が破れ落ち、中から現れたのは滑りつく灰色の体表に数本の触腕を携えた、人型のフォルムをした巨大なヒル。
宿主の肉体は全て自身のものとした。身体組織の融合は、完全に果たされたのだ。
これで、死体を操るよりも遥かに俊敏に動く事が出来る。危険から――――『彼女』の躯体の最大の弱点である紫外線から逃れる事が出来る。
数度、感触を確かめる様に触腕を靡かせると、『彼女』は肥大した足でアスファルトの上を滑るように移動し始めた。
ズルリ、ズルリと立てられる擦過音。次第にその音は硬質を帯びていく。まるで、革靴が立てる足音の様な硬質を。
軟体の躯体はいつの間にか凝縮し、滑りついた体表に人間や衣類の質感を持たせている。
数秒後――――『彼女』の全身は、宿主であった北条沙都子の姿へと完全に擬態していた。
攻撃擬態。融合が『彼女』の生物としての生存本能故の行動であるならば、獲物を捉える為の擬態もまた生物としての本能だ。
北条沙都子を模したそれは、光の強まるその場から迅速に離れ行く。
危険から逃れる為に。
己の食欲を満たす為に。
【E-2/ワゴン車付近/二日目早朝】
【女王ヒル@バイオハザードシリーズ】
[状態]:人間形態(北条沙都子に擬態)
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:日光から逃れられる場所で食料を探す
1:日の当たらない場所へ潜む。
2:食料を補給する。
※北条沙都子の肉体と融合を果たした事により北条沙都子に擬態する事が、また、女王ヒル第一形態になる事が可能となりました。
第一形態のサイズは、取り込んだ北条沙都子の肉体とそう変わらない大きさとします。
※北条沙都子の記憶を持っています。
最終更新:2012年08月04日 16:55