断片集 ファルシータ・フォーセット
――私が〝ファルシータ・フォーセット〟を取り戻してから、六時間ほどが経過した。
時間にしてみれば短い、そもそも私がこの地で紡いだ時間は、〝音夢〟としてのほうが長かったのだと気づく。
改めて考えてみると……笑い話だわ。自ら禁忌に触れようとして、返り討ちにあった。つくづく滑稽な話。
改めて考えてみると……笑い話だわ。自ら禁忌に触れようとして、返り討ちにあった。つくづく滑稽な話。
でも、そうね。
逆に、こうは考えられないかしら。
逆に、こうは考えられないかしら。
――私は〝ファルシータ・フォーセット〟を捨てたからこそ、今まで生き延びることができた。
危うい場面は何度もあったはず。けれど私は、〝音夢〟でいる間も安全に立ち回ることができていた。
結果論なのかもしれないけれど。〝音夢〟でなければ、真人さんや奏さんに受け入れられることもなかったのかしら。
ええ、きっとそうね。なんて、悪運の強い……これを強運と捉えることができないのは、私の中でなにかが変わったから?
結果論なのかもしれないけれど。〝音夢〟でなければ、真人さんや奏さんに受け入れられることもなかったのかしら。
ええ、きっとそうね。なんて、悪運の強い……これを強運と捉えることができないのは、私の中でなにかが変わったから?
人の価値観なんて、早々変わるものではない。
私の生き方を否定したクリスさん……彼と結ばれた私が断言するんだもの。
事件に巻き込まれたから、記憶を失ったから、だとしても。
私は結局、〝ファルシータ・フォーセット〟なんだ。
私の生き方を否定したクリスさん……彼と結ばれた私が断言するんだもの。
事件に巻き込まれたから、記憶を失ったから、だとしても。
私は結局、〝ファルシータ・フォーセット〟なんだ。
……なら、私は彼女たちをどうしたいのかしら。
高槻やよいさん。
食堂に一人残してきた彼女は、とても可愛らしい子よ。過去の私が見たら、嫉妬してしまうくらい。
放送の前に聴いた彼女の『歌』……独創的という評がぴたりと当てはまる、けれどあれも才能には違いない。
彼女なら、私とは違った手段、違った可能性、違った歌で、高みへと上れる。
私が彼女に抱いているこの感情は……クリスさんに抱いていたものと同じ?
私にない才能を持っているあの子となら、もっと高みへいける――結局は、利用しようとしている。
食堂に一人残してきた彼女は、とても可愛らしい子よ。過去の私が見たら、嫉妬してしまうくらい。
放送の前に聴いた彼女の『歌』……独創的という評がぴたりと当てはまる、けれどあれも才能には違いない。
彼女なら、私とは違った手段、違った可能性、違った歌で、高みへと上れる。
私が彼女に抱いているこの感情は……クリスさんに抱いていたものと同じ?
私にない才能を持っているあの子となら、もっと高みへいける――結局は、利用しようとしている。
……ふふふ。そうね、やっぱり私は変わらない。
今も昔も、〝ファルシータ・フォーセット〟はそうやって生き残ってきたんだ。
自分の未来を獲得するために、他人の未来に便乗して、時には蹂躙して、時には横取りして……。
それでも、やよいさんは私を『いい人』だなんて言うんでしょうけど……それもあの子の才能、か。
今も昔も、〝ファルシータ・フォーセット〟はそうやって生き残ってきたんだ。
自分の未来を獲得するために、他人の未来に便乗して、時には蹂躙して、時には横取りして……。
それでも、やよいさんは私を『いい人』だなんて言うんでしょうけど……それもあの子の才能、か。
トーニャさんとドクター・ウェストさん。
寄宿舎の門前で怪物退治に勤しんでいるあの人たちも、結局はあてにしているだけ。
やよいさんのような優しい子と一緒にいたとしても、この戦いを生き抜くことはできない。
ああいう、私ややよいさんとは住む世界が違う人間の存在が不可欠なのだ。
毎日のパンを得るために酷使してきた私の歌声も、鉄火場ではなんの役にも立たない。
この歯がゆさは、やよいさんも感じているところなのかしら。
私たちの歌でこのくだらない戦争が終結するというのなら……いくらだって歌ってあげるのに。
寄宿舎の門前で怪物退治に勤しんでいるあの人たちも、結局はあてにしているだけ。
やよいさんのような優しい子と一緒にいたとしても、この戦いを生き抜くことはできない。
ああいう、私ややよいさんとは住む世界が違う人間の存在が不可欠なのだ。
毎日のパンを得るために酷使してきた私の歌声も、鉄火場ではなんの役にも立たない。
この歯がゆさは、やよいさんも感じているところなのかしら。
私たちの歌でこのくだらない戦争が終結するというのなら……いくらだって歌ってあげるのに。
……もし、今の私がピオーヴァに帰れたのなら。
クリスさんは私を見てどうするかしら。変わったね、の一言くらいはもらえそうな気もするけど。
いいえ、そもそもクリスさんも、まだこの島にいるのだったわね。
生きることを優先的に考えて、今まで彼のことを気にも留めなかったのは……やっぱり、彼を道具としか見ていなかったから?
私の歌を引き立たせるための奏者、それだけ、としか見ていなかったから……?
落ち着きを取り戻した今だからこそ考える。私は、クリスさんを……?
いいえ、そもそもクリスさんも、まだこの島にいるのだったわね。
生きることを優先的に考えて、今まで彼のことを気にも留めなかったのは……やっぱり、彼を道具としか見ていなかったから?
私の歌を引き立たせるための奏者、それだけ、としか見ていなかったから……?
落ち着きを取り戻した今だからこそ考える。私は、クリスさんを……?
「……そんなことは、生き残ってからでしょう?」
私は、自分自身にそう語りかけた。
こういう生き方をする上で、心がけなければならない鉄則がある。
欲張っては駄目。先を見据えて、けれど目先のものを見失わないように。
今は今。過去は過去。明日は明日――だからこそ、やるべきことは一つだけなのよ。
こういう生き方をする上で、心がけなければならない鉄則がある。
欲張っては駄目。先を見据えて、けれど目先のものを見失わないように。
今は今。過去は過去。明日は明日――だからこそ、やるべきことは一つだけなのよ。
うん。
そうだった。
そのとおりなんだ。
そうだった。
そのとおりなんだ。
私は〝ファルシータ・フォーセット〟。
もう、記憶を失った〝音夢〟ではないのだから。
もう、記憶を失った〝音夢〟ではないのだから。
「これが終わったらまた、無事にランチを楽しみたいものね……みんなで〝いっしょ〟に」
私は自然と、そう言葉を漏らしていた。
この『みんな』というのは――考えるまでもない。
やよいさんと、プッチャンさんと、トーニャさんと、ダンセイニさん。
騒がしいのは好きではないのだけれど、ウェストさんも。もしかしたら、もっと大勢。
この『みんな』というのは――考えるまでもない。
やよいさんと、プッチャンさんと、トーニャさんと、ダンセイニさん。
騒がしいのは好きではないのだけれど、ウェストさんも。もしかしたら、もっと大勢。
――〝いっしょ〟に、というのは、やはり考えるまでもない。
『――「……それって、〝いっしょ〟ってことですよね!」――』
『――「そうね。それが素敵なことなら……〝いっしょ〟がいいわね」――』
『――「……ま、今後とも仲良くやっていきましょうか。〝いっしょ〟に」――』
『――「そうね。それが素敵なことなら……〝いっしょ〟がいいわね」――』
『――「……ま、今後とも仲良くやっていきましょうか。〝いっしょ〟に」――』
――〝いっしょ〟に。やよいさんやトーニャさんが思っているそれと、同じ想い。
これが、今の〝ファルシータ・フォーセット〟。
私は〝ファルシータ・フォーセット〟として、自らが当たるべき難敵に挑むのだ。
私は〝ファルシータ・フォーセット〟として、自らが当たるべき難敵に挑むのだ。
「……はぁ~。もうちょっと、これは……巡り合わせの悪さを呪うがごとく、涙腺から青春汁が溢れ出しそう」
トーニャさんから託されたレーダーに引っかかった迷い猫。
こそこそと隠れトーニャさんの戦いを窺う様は……そうね、見たところ同類かしら。
言峰綺礼という神父に感じたそれと同じ。嗅覚的なもの、いえ、くだらない直感ね、これは。
ただね、私の勘は当たるのよ。
こそこそと隠れトーニャさんの戦いを窺う様は……そうね、見たところ同類かしら。
言峰綺礼という神父に感じたそれと同じ。嗅覚的なもの、いえ、くだらない直感ね、これは。
ただね、私の勘は当たるのよ。
「……早くやよいさんを安心させてあげなくちゃいけないしね」
群青色の服を着たお嬢さん、少し勝負をしましょうか。
あなたがこちら側に寄るのなら、私の勝ち。
私の誘いを蹴ってどこかへ逃げるなら、あなたの勝ち。
その寂しげな背中……なんなら私が慰めてあげましょうか?
あなたがこちら側に寄るのなら、私の勝ち。
私の誘いを蹴ってどこかへ逃げるなら、あなたの勝ち。
その寂しげな背中……なんなら私が慰めてあげましょうか?
「さくっと倒しちゃってくれないかなぁ……」
「倒すわよ。彼女、強いもの」
「倒すわよ。彼女、強いもの」
私が、みんなと〝いっしょ〟に歩むと決めて、始めて切り出す行動。
黒か白か、これが〝新しいファルシータ・フォーセット〟としての明暗を分ける――。
黒か白か、これが〝新しいファルシータ・フォーセット〟としての明暗を分ける――。