人として生まれ ◆S71MbhUMlM
本。
本本。
本本本。
見渡す限りの、本の山。
ここは古本屋だというが…図書館でさえコレだけ冊数の本を所蔵しているものは珍しいだろう。
見える範囲に在るのは本と本棚だけであり、床と天井がそれに続く。
兎にも角にも本本本と、本とそれを保管する場所しか視界には存在しない。
本本。
本本本。
見渡す限りの、本の山。
ここは古本屋だというが…図書館でさえコレだけ冊数の本を所蔵しているものは珍しいだろう。
見える範囲に在るのは本と本棚だけであり、床と天井がそれに続く。
兎にも角にも本本本と、本とそれを保管する場所しか視界には存在しない。
彼らとしては、まず何処かにあるであろう出口を探さないといけないのであり、多少の危険を承知しつつも二手に別れて捜索となった。
そのついでに、先ほどの声の主の言っていた好きな本一冊、も選ぶ事になったのだが、
「……どれ選べば良いんだよ?」
「うっうー…多すぎて選べないですー……」
高槻やよいとプッチャンの二人(正確には一人と一体)は、悩んでいた。
正直…好きなものを一冊と言われてもどうしようも無い。
やよいはまあ本(主に雑誌)は人並みに読んではいるが…この店の品揃えでは、どれを選んでよいのかまるで検討が付かなかった。
とても高そうなハードカバー本の横に、ペラペラの冊子が置いてあり、その反対側にはどうみても週刊誌にしか見えない本がある。
内容から選ぼうにも、題名なども良く判らない本が多い。
ならば、といっそ金額で選んでもやし大感謝祭だー!と意気込んでみたものの、それすら基準が良く判らない。
適当に取った『今日の献立1000種』という、紙を束ねただけの原稿にゼロが幾つも並んでおり、やよいの目を仰天させたかと思えば、その近くにあるやたら立派な装丁の本の値段はソレよりも桁が2つ低い。
名前だけ聞いた事のあるゲーテの詩集を手にとってみればかなり安かったり、『イ■■スフィー■・フォン・ア■■■■■ンに捧ぐ』という先ほどのと似た原稿は更に桁3つ高い。
ならばと思い、『新世紀に問う魔道の道』という同じような束ねた原稿を手にとってみれば、『特価』の札が付いており、近くにあったハードカバーの『無名祭祀書』という本には『時価』とだけ書かれている。
…と、兎に角(二人の目には)基準も曖昧なのだ。
そのついでに、先ほどの声の主の言っていた好きな本一冊、も選ぶ事になったのだが、
「……どれ選べば良いんだよ?」
「うっうー…多すぎて選べないですー……」
高槻やよいとプッチャンの二人(正確には一人と一体)は、悩んでいた。
正直…好きなものを一冊と言われてもどうしようも無い。
やよいはまあ本(主に雑誌)は人並みに読んではいるが…この店の品揃えでは、どれを選んでよいのかまるで検討が付かなかった。
とても高そうなハードカバー本の横に、ペラペラの冊子が置いてあり、その反対側にはどうみても週刊誌にしか見えない本がある。
内容から選ぼうにも、題名なども良く判らない本が多い。
ならば、といっそ金額で選んでもやし大感謝祭だー!と意気込んでみたものの、それすら基準が良く判らない。
適当に取った『今日の献立1000種』という、紙を束ねただけの原稿にゼロが幾つも並んでおり、やよいの目を仰天させたかと思えば、その近くにあるやたら立派な装丁の本の値段はソレよりも桁が2つ低い。
名前だけ聞いた事のあるゲーテの詩集を手にとってみればかなり安かったり、『イ■■スフィー■・フォン・ア■■■■■ンに捧ぐ』という先ほどのと似た原稿は更に桁3つ高い。
ならばと思い、『新世紀に問う魔道の道』という同じような束ねた原稿を手にとってみれば、『特価』の札が付いており、近くにあったハードカバーの『無名祭祀書』という本には『時価』とだけ書かれている。
…と、兎に角(二人の目には)基準も曖昧なのだ。
そうして特に選ぶものもなくぶーらぶーらと歩き回り、葛木先生は選んだかなー、そろそろ一度合流しようかなー…などと、やよいが考えたところで、
「あん?何だありゃ?」
困惑の声を上げたプッチャンの声につられてやよいが目にしたものは、明らかに他とは趣の異なる場所。
机と椅子があり、戸棚やら小物入れなどの細々したものが並んでいる。
椅子の上のクッションは柔らかそうであり、年季を感じさせる机の上には何枚かの書類が散らばっていた。
「ここは、カウンターみたいですねー」
「だな」
二人とも失念していたが、そもそも古本屋という以上は確実に存在している、会計のカウンターであった。
まあ、忘れていた事はどうでも良い。 重要なのは、
「ってこたぁ出口が近いのか?」
「そうなりますねー」
店の形にもよるが、基本的に会計というものは、入り口付近、もしくは一番奥などにあることが多い。
デパートなどでは真ん中にあることもあるが、その場合は大抵エスカレータが近くに存在したりと、いずれにせよフロアに置ける基準になる場所である。
つまるところ、出口は近い(かもしれない)のだ。
「葛木先生ーーーーーー!!」
「相棒ーーーーーーー!!」
とりあえずと、もう一人の同行者である葛木を呼ぶ二人。
同時に叫んだ所為で『くず相棒ーーーーー!!』と聞こえた上に、やたら木霊していた気もしたが、あえては突っ込むまい。
「あん?何だありゃ?」
困惑の声を上げたプッチャンの声につられてやよいが目にしたものは、明らかに他とは趣の異なる場所。
机と椅子があり、戸棚やら小物入れなどの細々したものが並んでいる。
椅子の上のクッションは柔らかそうであり、年季を感じさせる机の上には何枚かの書類が散らばっていた。
「ここは、カウンターみたいですねー」
「だな」
二人とも失念していたが、そもそも古本屋という以上は確実に存在している、会計のカウンターであった。
まあ、忘れていた事はどうでも良い。 重要なのは、
「ってこたぁ出口が近いのか?」
「そうなりますねー」
店の形にもよるが、基本的に会計というものは、入り口付近、もしくは一番奥などにあることが多い。
デパートなどでは真ん中にあることもあるが、その場合は大抵エスカレータが近くに存在したりと、いずれにせよフロアに置ける基準になる場所である。
つまるところ、出口は近い(かもしれない)のだ。
「葛木先生ーーーーーー!!」
「相棒ーーーーーーー!!」
とりあえずと、もう一人の同行者である葛木を呼ぶ二人。
同時に叫んだ所為で『くず相棒ーーーーー!!』と聞こえた上に、やたら木霊していた気もしたが、あえては突っ込むまい。
そうして、安心したように息をつくやよいに、今の内に出口も探しちまおうぜと急かすプッチャン。
まあ確かに何時来るかも、それ以前に葛木に聞こえたかも不明である以上、それは正しい。
で、とりあえず、とカウンターの付近を捜索…しようとした二人の目に飛び込んできたのは、金庫……では無い。
「なんでしょう、これ?」
カウンターの上に置いてある一冊の本。
やたら年季と高級さを感じさせる本が、一冊だけカウンターに置かれていた。
ただ置かれていた訳では無い。 それは革?の紐で十字に止められ、南京錠で封じられているのだ。
どう見ても……あやしい。
普通本に鍵は掛けない。
まあ人に見られたくない日記帳などには鍵が付いていることもあるが、どう見てもそのような雰囲気ではない。
明らかに、見てはいけないような空気が漂っている。
「…………あやしい」
「…………ですねー」
慎重に、……と言っても何に注意すればよいのか不明だが慎重に、縛られた本を手に取るやよい(ついでプッチャン)。
ずっしりと重い感触が二人の手に伝わる。
「読めませんね…」
「何語だろうなコレ?」
表紙に書いてある字は、二人には読むことが出来ない。
何となくアルファベットに近い気もするが、見たことの無い文字である。
どうしようもないので、とりあえず引っ繰り返してみる二人。
裏面には値札が存在せず、売り物でも無いのかもしれない。
「むむむ…なあやよい、その辺りに伝票とかねーか?」
「え、あ、はいちょっと待って下さーい」
慌ててカウンターの付近の紙をめくり上げるやよいであったが…やがて……
「これですかね…『ナコト…写本』? …聞いたことも無いですねー」
「俺はこれでも割と博識なんだが…知らねーな」
見つけた伝票に書かれていた書名は、二人とも知らない。
いずれにせよ、本にわざわざ鍵を掛けるなど普通ではない。
それに売り物でも無い以上は持っていても仕方が無いかと思いなおし、本を置こうとするやよいであった。
まあ確かに何時来るかも、それ以前に葛木に聞こえたかも不明である以上、それは正しい。
で、とりあえず、とカウンターの付近を捜索…しようとした二人の目に飛び込んできたのは、金庫……では無い。
「なんでしょう、これ?」
カウンターの上に置いてある一冊の本。
やたら年季と高級さを感じさせる本が、一冊だけカウンターに置かれていた。
ただ置かれていた訳では無い。 それは革?の紐で十字に止められ、南京錠で封じられているのだ。
どう見ても……あやしい。
普通本に鍵は掛けない。
まあ人に見られたくない日記帳などには鍵が付いていることもあるが、どう見てもそのような雰囲気ではない。
明らかに、見てはいけないような空気が漂っている。
「…………あやしい」
「…………ですねー」
慎重に、……と言っても何に注意すればよいのか不明だが慎重に、縛られた本を手に取るやよい(ついでプッチャン)。
ずっしりと重い感触が二人の手に伝わる。
「読めませんね…」
「何語だろうなコレ?」
表紙に書いてある字は、二人には読むことが出来ない。
何となくアルファベットに近い気もするが、見たことの無い文字である。
どうしようもないので、とりあえず引っ繰り返してみる二人。
裏面には値札が存在せず、売り物でも無いのかもしれない。
「むむむ…なあやよい、その辺りに伝票とかねーか?」
「え、あ、はいちょっと待って下さーい」
慌ててカウンターの付近の紙をめくり上げるやよいであったが…やがて……
「これですかね…『ナコト…写本』? …聞いたことも無いですねー」
「俺はこれでも割と博識なんだが…知らねーな」
見つけた伝票に書かれていた書名は、二人とも知らない。
いずれにせよ、本にわざわざ鍵を掛けるなど普通ではない。
それに売り物でも無い以上は持っていても仕方が無いかと思いなおし、本を置こうとするやよいであった。
……だが、
「おいおい待てよ、こんなどう見ても曰くがありそうなものを無視する気かよ?」
この漢(?)が、そんな事を許す筈も無い。
「もしかしたもの凄いお宝かもしれねーし、脱出の手がかりになるかもしれねーんだぞ!
そんな凄いものをこんな所に置いておくなんざ、神さまが許しても俺っちが許さねえ!」
やたらと男前にやよいを責めるプッチャン。
どうでも良いがやよいの声で言っているのでイマイチ迫力に欠ける。
「うー? でもどうすればよいのですかー?」
「とりあえずハサミか何かでこの紐をちょん切って中身だけ見るってのはどうだ?」
「うう……それは犯罪ですー」
「何、そんときゃゴメンナサイってあやまりゃあいいんだよ」
「その場合謝るのは私です~」
「…………でもよ、気になるだろ?」
「…………そりゃまあ、少し……」
そうして、悪魔の誘惑に屈しそうになるやよい。
とりあえず、と皮ひもを手で引っ張ってみるが、当然切れる気配など無い。
どうしよーかなーなどと考えていた所に…
「何かあったのか?」
漸く、葛木が到着した。
「あ、葛木先生」
「おお、ナイスタイミングだぜ相棒! ちょっとあの変な短剣を貸してくれよ」
「……ふむ」
特に気にもせず、彼の言うとおりに短剣を渡してしまう葛木。
ソレを両の手で起用に持ち上げ、気合の声と共に皮ひもに振り下ろすプッチャン。
もっとも、そんな事では紐は切れる筈が無い。
切ろうとするなら、紐に当てて引くのが普通である。
……普通の、筈であった。
「おいおい待てよ、こんなどう見ても曰くがありそうなものを無視する気かよ?」
この漢(?)が、そんな事を許す筈も無い。
「もしかしたもの凄いお宝かもしれねーし、脱出の手がかりになるかもしれねーんだぞ!
そんな凄いものをこんな所に置いておくなんざ、神さまが許しても俺っちが許さねえ!」
やたらと男前にやよいを責めるプッチャン。
どうでも良いがやよいの声で言っているのでイマイチ迫力に欠ける。
「うー? でもどうすればよいのですかー?」
「とりあえずハサミか何かでこの紐をちょん切って中身だけ見るってのはどうだ?」
「うう……それは犯罪ですー」
「何、そんときゃゴメンナサイってあやまりゃあいいんだよ」
「その場合謝るのは私です~」
「…………でもよ、気になるだろ?」
「…………そりゃまあ、少し……」
そうして、悪魔の誘惑に屈しそうになるやよい。
とりあえず、と皮ひもを手で引っ張ってみるが、当然切れる気配など無い。
どうしよーかなーなどと考えていた所に…
「何かあったのか?」
漸く、葛木が到着した。
「あ、葛木先生」
「おお、ナイスタイミングだぜ相棒! ちょっとあの変な短剣を貸してくれよ」
「……ふむ」
特に気にもせず、彼の言うとおりに短剣を渡してしまう葛木。
ソレを両の手で起用に持ち上げ、気合の声と共に皮ひもに振り下ろすプッチャン。
もっとも、そんな事では紐は切れる筈が無い。
切ろうとするなら、紐に当てて引くのが普通である。
……普通の、筈であった。
その時ありのまま起こった事を話すなら、皮ひもに短剣を当てた途端、“パキンッ”と乾いた音を立てて、南京錠が外れた。
何を言っているのか判らないと思うが、当事者達も何が起きたのか理解できていなかった。
「は?」
「ふえ?」
「……む」
驚きの声は三者三様。
だがそれも当然。
何処の誰が、皮ひもにナイフを当てたら鍵が外れるなどど思うだろう。
手品とか仕掛け細工なんてチャチなものでは断じて無い、もっと恐ろしい何かを味わったのであった。
そうして、事実外れた南京錠と革ひもはカウンターの上に落ち、やよいの手の中には閲覧可能になった本が一冊。
何を言っているのか判らないと思うが、当事者達も何が起きたのか理解できていなかった。
「は?」
「ふえ?」
「……む」
驚きの声は三者三様。
だがそれも当然。
何処の誰が、皮ひもにナイフを当てたら鍵が外れるなどど思うだろう。
手品とか仕掛け細工なんてチャチなものでは断じて無い、もっと恐ろしい何かを味わったのであった。
そうして、事実外れた南京錠と革ひもはカウンターの上に落ち、やよいの手の中には閲覧可能になった本が一冊。
と、その時、
“フ、フ、アハハハハハハハ!”
再び、何処とも知らぬ場所から響く謎の声。
葛木達をこの場所に誘ったと思われる声が響いてきた。
葛木達をこの場所に誘ったと思われる声が響いてきた。
“ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!”
笑い声は続く。
そうして、
「オイこら、何が面白いんだよ」
そうして、
「オイこら、何が面白いんだよ」
“いやいや、何と言う偶然だろうと思ってね。
まさかそんな物を君たちが持っているなんて思いもしなかったのさ”
まさかそんな物を君たちが持っているなんて思いもしなかったのさ”
溜まりかねたプッチャンの声に、漸くマトモな返事が返ってくる。
その声には、明らかな興奮と興味の色が混ざっていた。
その声には、明らかな興奮と興味の色が混ざっていた。
“何と言う偶然だろう。 本来は条件が満たされなければ外れる事は無かったのだけどね”
プッチャン達には、彼女?の言っている事は何一つ判らない。
ただ、どうやらこの鍵はそう簡単に開くものではなかったようだ。
ただ、どうやらこの鍵はそう簡単に開くものではなかったようだ。
“いささか予定外だけど…うん、凄く面白い。その本は君たちに進呈しよう。
せいぜい可愛がってあげなよ”
せいぜい可愛がってあげなよ”
そして、最初と同じく唐突に声は消えた。
“あ、そうそう、出口はそこの通路を少し行った先だよ”
と、思いきや割と親切な助言を残して、
そうして、今度こそ場には沈黙が残った。
そうして、今度こそ場には沈黙が残った。
「可愛がる…ですかー…」
数秒後、ぼーとしてても仕方が無いと思い直したやよいが、手にしていた本に向き直る。
そして、数秒の黙考の後、本の表紙を摩りだす。
「いや、本を撫でてどうするよ」
自分のお腹の部分を本を撫でるのに使われたプッチャンが、抗議交じりのツッコミを入れる。
確かに可愛がっているのだが、何か違うだろうと、
「えーでも何となく喜んでいるような雰囲気がしますよー」
「気のせいかな、俺にはとてつもなく怒っているように感じられるんだぜ。
……こう、『こ、この小娘が、私に触れてよいのはマスターだけです! …まあ扱いは悪く無いですが』みたいな」
「それ怒ってるのですかー?」
「いやまあ、そんな気がしただけなんだけどよ」
無論、本が喋る筈も無く、やよいとプッチャンが感じたのは単なる気のせいのはずである。
数秒後、ぼーとしてても仕方が無いと思い直したやよいが、手にしていた本に向き直る。
そして、数秒の黙考の後、本の表紙を摩りだす。
「いや、本を撫でてどうするよ」
自分のお腹の部分を本を撫でるのに使われたプッチャンが、抗議交じりのツッコミを入れる。
確かに可愛がっているのだが、何か違うだろうと、
「えーでも何となく喜んでいるような雰囲気がしますよー」
「気のせいかな、俺にはとてつもなく怒っているように感じられるんだぜ。
……こう、『こ、この小娘が、私に触れてよいのはマスターだけです! …まあ扱いは悪く無いですが』みたいな」
「それ怒ってるのですかー?」
「いやまあ、そんな気がしただけなんだけどよ」
無論、本が喋る筈も無く、やよいとプッチャンが感じたのは単なる気のせいのはずである。
◇
エレベーター。
穀物を貯蔵するのに使われる火気厳禁の施設……では無い。
飛行機の動翼の昇降舵……の事でも無い。
この場合は、人や荷物を載せた箱を、垂直に移動させる昇降機の事を表す。
で、何が言いたいのかというと、
「何でエレベーターなのでしょうね?」
先ほどの声の通りに進んできた三人が見たものは、エレベーターであった。
恐らくは、コレが出口という事なのだろう。
……だが、
「この案内板を見る限りだとかなり上の階になるんだが…俺らいつこんなに昇って来たんだろうな?」
案内板に書かれている各階の名前は、
穀物を貯蔵するのに使われる火気厳禁の施設……では無い。
飛行機の動翼の昇降舵……の事でも無い。
この場合は、人や荷物を載せた箱を、垂直に移動させる昇降機の事を表す。
で、何が言いたいのかというと、
「何でエレベーターなのでしょうね?」
先ほどの声の通りに進んできた三人が見たものは、エレベーターであった。
恐らくは、コレが出口という事なのだろう。
……だが、
「この案内板を見る限りだとかなり上の階になるんだが…俺らいつこんなに昇って来たんだろうな?」
案内板に書かれている各階の名前は、
◇
ア■■ー■の箱庭
セラエノ
主催者本拠地
食料倉庫
風架学園
主催者本拠地
食料倉庫
風架学園
ツインタワー
教会
ビーチリゾート
発電所
地下通路の何処か、ランダム
教会
ビーチリゾート
発電所
地下通路の何処か、ランダム
※注意:一度降りた場合再乗車はできないの。予めご了承下さいなの。
後別れるのは基本危険だから団体さんは一度に乗るの。
後別れるのは基本危険だから団体さんは一度に乗るの。
◇
とある。
そして、彼らの横の案内図には“セラエノ”とある。
となると、おそらくここはセラエノという名前の場所になるのだろう。 古書店にしては小洒落た名前である。
だが、そんなことよりも、
「『主催者本拠地』…てオイ、そのまんまじゃねーか」
「……ツインタワーの中ではなくて、ツインタワーが階なのです~?」
「地図に書かれている場所もあるが、バラバラのようだな」
ツッコミどころが満載どころか、ツッコミどころしか無い。
幾ら最初の時のワープなどがあるにしても、もう少しまとまりを……そういう問題でも無いか。
そして、彼らの横の案内図には“セラエノ”とある。
となると、おそらくここはセラエノという名前の場所になるのだろう。 古書店にしては小洒落た名前である。
だが、そんなことよりも、
「『主催者本拠地』…てオイ、そのまんまじゃねーか」
「……ツインタワーの中ではなくて、ツインタワーが階なのです~?」
「地図に書かれている場所もあるが、バラバラのようだな」
ツッコミどころが満載どころか、ツッコミどころしか無い。
幾ら最初の時のワープなどがあるにしても、もう少しまとまりを……そういう問題でも無いか。
「……でよ…どこに行くべきだと思う?」
「待ち合わせを考えるなら距離的にはビーチリゾート、あるいは…発電所かツインタワーならば三時までに遊園地付近まで到達可能ではあるな」
ひとしきりツッコミを入れ終わった後、取りあえず何処に行くかを考える三人。
まず、現在時刻は、2時の少し前。
ビーチリゾートからなら遊園地は充分間に合う距離といえる。
発電所かツインタワーからなら、電車に乗り三時までに遊園地に到達することは不可能ではない。
約束を優先するならば、その何処かを選択するべきなのだが、
「う…でも真さんたちが…」
菊地真と伊藤誠。
彼らの同行者である二人の身柄も、心配ではある。
特に、やよいにとって、真はこの島での最後の友人である。
たとえ異なる記憶を持っていようと、同じ657プロのアイドル候補生として過ごした日々には変わりが無い。
いくら、この場をすでに離れて安全な場所まで移動したといわれても、納得できるものでもない。
特に、この隣のエリアがもうすぐ禁止エリアになる以上、そこで何かが起きてしまったという可能性も、無いとは言えないのだ。
ならば、二手に別れるという案もあるが、注意の通り非常に危険であるし、
何より、遊園地での再会を約束した人間の一人、真アサシンの名が呼ばれた以上、遊園地が危険という可能性もある。
「なら、決定だな」
つまるところ、目的地は教会。
先ほどの場所となる。
「この、本拠地ってのはどうするよ?」
「現時点では危険すぎるな」
「あー、まあそりゃそうか」
何の情報も無い場所に行くのは、危険きわまり無い。
場合によっては禁止エリアの中という可能性もある。
「待ち合わせを考えるなら距離的にはビーチリゾート、あるいは…発電所かツインタワーならば三時までに遊園地付近まで到達可能ではあるな」
ひとしきりツッコミを入れ終わった後、取りあえず何処に行くかを考える三人。
まず、現在時刻は、2時の少し前。
ビーチリゾートからなら遊園地は充分間に合う距離といえる。
発電所かツインタワーからなら、電車に乗り三時までに遊園地に到達することは不可能ではない。
約束を優先するならば、その何処かを選択するべきなのだが、
「う…でも真さんたちが…」
菊地真と伊藤誠。
彼らの同行者である二人の身柄も、心配ではある。
特に、やよいにとって、真はこの島での最後の友人である。
たとえ異なる記憶を持っていようと、同じ657プロのアイドル候補生として過ごした日々には変わりが無い。
いくら、この場をすでに離れて安全な場所まで移動したといわれても、納得できるものでもない。
特に、この隣のエリアがもうすぐ禁止エリアになる以上、そこで何かが起きてしまったという可能性も、無いとは言えないのだ。
ならば、二手に別れるという案もあるが、注意の通り非常に危険であるし、
何より、遊園地での再会を約束した人間の一人、真アサシンの名が呼ばれた以上、遊園地が危険という可能性もある。
「なら、決定だな」
つまるところ、目的地は教会。
先ほどの場所となる。
「この、本拠地ってのはどうするよ?」
「現時点では危険すぎるな」
「あー、まあそりゃそうか」
何の情報も無い場所に行くのは、危険きわまり無い。
場合によっては禁止エリアの中という可能性もある。
そうして、エレベーターに乗り込み(見た感じでは普通のエレベーター)ボタンを押す。
少しして、浮遊感と共に、動きだしたのが判る。
「あ、でもそういえば葛木先生は本を貰ったのですか?」
「ああ」
「お?何時の間にだ」
「先ほどだ、適当に見繕ったものだがな」
現在位置を示すランプが順番に移動していき、そうして、チンという音と共に、開く扉。
そこは、教会の入り口。
彼らが出てきたのは、礼拝堂の入り口のドアであった。
振り返れば、そこにあるのは木目調の両開きのドア。
数秒の黙考の後、開かれたドアの先に広がるのは、外の風景。
先ほどまで乗っていたエレベータなど、影も形も無い。
「……どうなってやがるんだろうな?」
少しして、浮遊感と共に、動きだしたのが判る。
「あ、でもそういえば葛木先生は本を貰ったのですか?」
「ああ」
「お?何時の間にだ」
「先ほどだ、適当に見繕ったものだがな」
現在位置を示すランプが順番に移動していき、そうして、チンという音と共に、開く扉。
そこは、教会の入り口。
彼らが出てきたのは、礼拝堂の入り口のドアであった。
振り返れば、そこにあるのは木目調の両開きのドア。
数秒の黙考の後、開かれたドアの先に広がるのは、外の風景。
先ほどまで乗っていたエレベータなど、影も形も無い。
「……どうなってやがるんだろうな?」
そのプッチャンの問いに答える声は、存在しなかった。
◇
少女は、歩く。
のんびりと、楽しそうに、幸せそうに。
誰かが彼女の笑顔を見たとしたら、恐らくこう言うだろう。
『なんという幸せそうな少女だろう』と。
だが、今の彼女全体を見たとしたら、恐らくこう言うだろう。
『気がふれた少女だろう』と。
それだけ、彼女の姿は奇怪であった。
至るところが血に染まった服。
乱れ、もつれ、やはり血に染まった髪。
そして、それらとは全くそぐわない、幸せそうな笑顔。
のんびりと、楽しそうに、幸せそうに。
誰かが彼女の笑顔を見たとしたら、恐らくこう言うだろう。
『なんという幸せそうな少女だろう』と。
だが、今の彼女全体を見たとしたら、恐らくこう言うだろう。
『気がふれた少女だろう』と。
それだけ、彼女の姿は奇怪であった。
至るところが血に染まった服。
乱れ、もつれ、やはり血に染まった髪。
そして、それらとは全くそぐわない、幸せそうな笑顔。
「あのね、誠…」
少女は、西園寺世界は、歩く。
幸せな想いに浸りながら。
「貴方は私の誠じゃないけど、でもやっぱり誠だったたんだよね…」
少女の内面世界において、少女自身の外見など何一つ意味は無い。
彼女は、気がふれてなど居ない。
いや、既に気が狂って久しいが、それでも彼女自身の世界は、未だに人並みに幸せな夢の中にある。
『大好きな人と、一つになれた』
その想いが、喜びが、少女の内面から、溢れだしている。
「私、誠と一つになれて凄く幸せなの」
「誠は…そう、思ってくれる?」
世界は、慈母の笑みを浮かべながら、ただ、穏やかに自身の腹を撫でる。
彼の証。
伊藤誠という存在がそこにいた証。
まるで、その中にいるのは愛しき誠そのものであるかのように。
いや、伊藤誠の血肉を糧に育つという意味では、その子供は伊藤誠そのものであると言ってもよいのかもしれない。
無論そのような道理は無いが、愛に溺れた少女に、道理など通用しない。
愛しき人は永遠に彼女と共にある。
もはや何があろうとも離れる事など無いのだ。
少女は、西園寺世界は、歩く。
幸せな想いに浸りながら。
「貴方は私の誠じゃないけど、でもやっぱり誠だったたんだよね…」
少女の内面世界において、少女自身の外見など何一つ意味は無い。
彼女は、気がふれてなど居ない。
いや、既に気が狂って久しいが、それでも彼女自身の世界は、未だに人並みに幸せな夢の中にある。
『大好きな人と、一つになれた』
その想いが、喜びが、少女の内面から、溢れだしている。
「私、誠と一つになれて凄く幸せなの」
「誠は…そう、思ってくれる?」
世界は、慈母の笑みを浮かべながら、ただ、穏やかに自身の腹を撫でる。
彼の証。
伊藤誠という存在がそこにいた証。
まるで、その中にいるのは愛しき誠そのものであるかのように。
いや、伊藤誠の血肉を糧に育つという意味では、その子供は伊藤誠そのものであると言ってもよいのかもしれない。
無論そのような道理は無いが、愛に溺れた少女に、道理など通用しない。
愛しき人は永遠に彼女と共にある。
もはや何があろうとも離れる事など無いのだ。
少女は歩く。
■を探して。
愛しき人と一つになった今、彼女の考える事は一つ。
彼との愛の結晶を、この世に産み落とすのだ。
その為には、桂言葉を捜さないといけない。
彼女から、自分の子供を取り返さないと。
世界の子供を宿した彼女が、死ぬはずがないと。
死んだのなら、彼女を食べて己の子を取り返さないといけないと。
■を探して。
愛しき人と一つになった今、彼女の考える事は一つ。
彼との愛の結晶を、この世に産み落とすのだ。
その為には、桂言葉を捜さないといけない。
彼女から、自分の子供を取り返さないと。
世界の子供を宿した彼女が、死ぬはずがないと。
死んだのなら、彼女を食べて己の子を取り返さないといけないと。
少女は、歩く。
幸せな夢に浸り、確かに狂いながら、それでも母として、西園寺世界として。
幸せな夢に浸り、確かに狂いながら、それでも母として、西園寺世界として。
◇
殺せて一人。
それが、葛木宗一郎の出した結論であった。
仮に、あのエレベータで主催者という二人に出会ったとして、彼が殺せるのは、恐らく一人のみ。
最初の時に見せた神崎という少年の実力を鑑みて、そう判断した。
彼の実力ならば、殺せる。
ただ、同時に自分も彼によって死ぬというだけだ。
それでは意味が無い。
少なくとも、もう一人を殺せるだけの人間がいなければ。
それが、葛木宗一郎の出した結論であった。
仮に、あのエレベータで主催者という二人に出会ったとして、彼が殺せるのは、恐らく一人のみ。
最初の時に見せた神崎という少年の実力を鑑みて、そう判断した。
彼の実力ならば、殺せる。
ただ、同時に自分も彼によって死ぬというだけだ。
それでは意味が無い。
少なくとも、もう一人を殺せるだけの人間がいなければ。
今の同行者は、そういう意味では何の役にも立ちはしない。
ただ偶然出会い、今まで共に行動してきただけの相手。
それだけの、相手。
一人と、一つ。
いや、二人。
人形であるプッチャンと、道具である自分。
どちらも同じである。
ならば、自分が人として扱われている以上、彼も人として扱うべきであろう。
いずれにしろ、彼らでは戦闘において意味は無い。
現在探している二人も、同様であり、強力な殺人技能者の心当たりも無い。
(……いずれにせよ、『仲間』というものを探さねばなるまい)
『仲間』
葛木宗一郎にとっては理解の出来ない概念ではある。
同行者とは同じようで異なるもの。
それを、探さなければならない。
何処にいるのか?
どこか遠くにいるのか。
何処にもいないのか。
…あるいは、
ただ偶然出会い、今まで共に行動してきただけの相手。
それだけの、相手。
一人と、一つ。
いや、二人。
人形であるプッチャンと、道具である自分。
どちらも同じである。
ならば、自分が人として扱われている以上、彼も人として扱うべきであろう。
いずれにしろ、彼らでは戦闘において意味は無い。
現在探している二人も、同様であり、強力な殺人技能者の心当たりも無い。
(……いずれにせよ、『仲間』というものを探さねばなるまい)
『仲間』
葛木宗一郎にとっては理解の出来ない概念ではある。
同行者とは同じようで異なるもの。
それを、探さなければならない。
何処にいるのか?
どこか遠くにいるのか。
何処にもいないのか。
…あるいは、
「お前は、…西園寺、世界か?」
目の前に現れた少女は、そうなのか?
目の前に現れた少女は、そうなのか?
◇
何か言っている。
目の前にいる二人の内、大きい方の人が何か言っている。
私の、名前?
「そう、ですけど…」
何で、知っているのだろう?
心当たりは、無いわけじゃないけど。
目の前にいる二人の内、大きい方の人が何か言っている。
私の、名前?
「そう、ですけど…」
何で、知っているのだろう?
心当たりは、無いわけじゃないけど。
…島の中心に向かおうとしたけど、道を変えることにした。
見覚えのある場所が、目に映ったから。
とてもとても、イヤな場所。 あの、『柚原このみ』と出会った場所が。
だから、戻ってきて、そして……匂いがした。
さっきまで、一緒にいた、誠の匂い。
正確に言えば、その残り香。
見覚えのある場所が、目に映ったから。
とてもとても、イヤな場所。 あの、『柚原このみ』と出会った場所が。
だから、戻ってきて、そして……匂いがした。
さっきまで、一緒にいた、誠の匂い。
正確に言えば、その残り香。
…だから
「……伊藤誠に、聞いた」
ああ、やっぱり。
誠は、ずっと私の事を探していてくれたんだ。
うん、やっぱり誠はやさしいね。
だって、
「……伊藤誠に、聞いた」
ああ、やっぱり。
誠は、ずっと私の事を探していてくれたんだ。
うん、やっぱり誠はやさしいね。
だって、
私に、
食べ物を用意してくれたんだもの。
◇
その時、やよいには世界の身体が膨張したように見えた。
無論、それは錯覚。 だが、そう見えるほどの速さで、世界はやよいに向かい飛び掛ったのだ。
その接近に対して、いや、そもそもやよいには、接近とすら認識出来ていない行動に対して、当然、やよいはどうすることも出来ない。 彼女には、何が起きているのかすら、理解できていないのだから。
彼女がその行動の意味を理解するのに要する時間は……おおよそ2秒。
だが、その2秒の間に『全て』は終わる。
やよいが理解した時には、既に世界の牙は彼女の首筋に突き立ち、その滑らかな柔肌から赤い液体を流していた。
……いや、流している筈だった。
「え?え?」
突如として、横に吹き飛ぶ世界。
その喉から苦悶の声を上げ、その身体から土煙を上げ、地に伏す。
やよいには、何が起きたか理解出来ない。
世界の身体が膨らんだ次の瞬間には、彼女が横っ飛びに吹っ飛んでいたとしか判らない。
「高槻…少し下がってろ」
「え…あ、はい……」
己のデイパックをやよいに放りながら、放たれる葛木の言葉。
言われたとおりに、下るやよい。
…そもそも、最初から怖かったのだ。
伊藤誠は、菊地真の仲間。
ならば、伊藤誠の知り合いである西園寺世界は、安心できる筈の相手。
…でも、全身を血に染めて、それで笑顔を浮かべている相手が、恐ろしくないはずが無い。
葛木宗一郎が何事も無いかのように話すので、何とかその場に留まっていたのだ。
無論、それは錯覚。 だが、そう見えるほどの速さで、世界はやよいに向かい飛び掛ったのだ。
その接近に対して、いや、そもそもやよいには、接近とすら認識出来ていない行動に対して、当然、やよいはどうすることも出来ない。 彼女には、何が起きているのかすら、理解できていないのだから。
彼女がその行動の意味を理解するのに要する時間は……おおよそ2秒。
だが、その2秒の間に『全て』は終わる。
やよいが理解した時には、既に世界の牙は彼女の首筋に突き立ち、その滑らかな柔肌から赤い液体を流していた。
……いや、流している筈だった。
「え?え?」
突如として、横に吹き飛ぶ世界。
その喉から苦悶の声を上げ、その身体から土煙を上げ、地に伏す。
やよいには、何が起きたか理解出来ない。
世界の身体が膨らんだ次の瞬間には、彼女が横っ飛びに吹っ飛んでいたとしか判らない。
「高槻…少し下がってろ」
「え…あ、はい……」
己のデイパックをやよいに放りながら、放たれる葛木の言葉。
言われたとおりに、下るやよい。
…そもそも、最初から怖かったのだ。
伊藤誠は、菊地真の仲間。
ならば、伊藤誠の知り合いである西園寺世界は、安心できる筈の相手。
…でも、全身を血に染めて、それで笑顔を浮かべている相手が、恐ろしくないはずが無い。
葛木宗一郎が何事も無いかのように話すので、何とかその場に留まっていたのだ。
「……ふむ、いきなりどういうつもりだ?」
やよいが下ったのを後ろ目に確認しつつ、葛木は問いかける。
今の世界の動きは、明らかにやよいに対して害意が存在していた。
誠の情報によれば、世界は多少やきもち焼きな一般女子学生に過ぎない筈だが…
少なくとも、いきなり襲い掛かるののは、普通ではない。
加えて、今の動きは断じて一般の女子学生ではあり得ない。
動作そのものは普通の女子学生でありながら、その速度は獣のような敏捷性と言ってよいだろう。
明らかに、アンバランスなのだ。
やよいが下ったのを後ろ目に確認しつつ、葛木は問いかける。
今の世界の動きは、明らかにやよいに対して害意が存在していた。
誠の情報によれば、世界は多少やきもち焼きな一般女子学生に過ぎない筈だが…
少なくとも、いきなり襲い掛かるののは、普通ではない。
加えて、今の動きは断じて一般の女子学生ではあり得ない。
動作そのものは普通の女子学生でありながら、その速度は獣のような敏捷性と言ってよいだろう。
明らかに、アンバランスなのだ。
「……ひどいよ」
少女の答えは、少なくともそれだけでは意味不明なものであった。
「誠の子供を産むには、沢山栄養が必要なのに…どうして邪魔するの?」
子供…つまり西園寺世界は妊娠しているのであろうか?
栄養とは…つまりはそういう事だろう。
邪魔ということは、その事をなんとも思っていないという事だ。
結論から言えば、西園寺世界は狂気に侵されている、そう、葛木は結論付けた。
「…伊藤誠ならば、数時間前までは共にいたが」
それでもなお、葛木は彼女に告げる。
狂っているとはいえ、彼女が伊藤誠の探し人であることには、変わりがないのだから。
少なくとも、その事を告げねばならない。
少女の答えは、少なくともそれだけでは意味不明なものであった。
「誠の子供を産むには、沢山栄養が必要なのに…どうして邪魔するの?」
子供…つまり西園寺世界は妊娠しているのであろうか?
栄養とは…つまりはそういう事だろう。
邪魔ということは、その事をなんとも思っていないという事だ。
結論から言えば、西園寺世界は狂気に侵されている、そう、葛木は結論付けた。
「…伊藤誠ならば、数時間前までは共にいたが」
それでもなお、葛木は彼女に告げる。
狂っているとはいえ、彼女が伊藤誠の探し人であることには、変わりがないのだから。
少なくとも、その事を告げねばならない。
「誠?」
世界が反応を返す。
その表情は、明るさを増している。
そして、
「誠なら、私と一緒だよ」
その言葉を告げた。
とても嬉しそうに、まるで天上の福音を告げるかのように。
「誠は、私の中に居る。 ずっと、一緒だよ。
誠と、誠の子供を、生むんだ。 うん、誠……美味しかったよ」
その事実を、告げた。
嬉しそうに、
楽しそうに、
誇らしげに。
世界が反応を返す。
その表情は、明るさを増している。
そして、
「誠なら、私と一緒だよ」
その言葉を告げた。
とても嬉しそうに、まるで天上の福音を告げるかのように。
「誠は、私の中に居る。 ずっと、一緒だよ。
誠と、誠の子供を、生むんだ。 うん、誠……美味しかったよ」
その事実を、告げた。
嬉しそうに、
楽しそうに、
誇らしげに。
「……そうか」
葛木の後方で、やよいが声にならない悲鳴を上げているが、その事には構ってはいられない。
少なくとも、世界は危険な存在である。
「それで、西園寺はこれからどうするつもりなのだ?」
だが、その上であえて問いかける。
殺人自体は、葛木には取るには足らない出来事だ。
食人という行為にも、忌避感はあれど否定はしない。
故に、問う。 これからどうするのか、と。
葛木の後方で、やよいが声にならない悲鳴を上げているが、その事には構ってはいられない。
少なくとも、世界は危険な存在である。
「それで、西園寺はこれからどうするつもりなのだ?」
だが、その上であえて問いかける。
殺人自体は、葛木には取るには足らない出来事だ。
食人という行為にも、忌避感はあれど否定はしない。
故に、問う。 これからどうするのか、と。
「そんなの、決まってるよ」
起き上がりながらも、その視線は葛木と、やよいから離さない。
彼女の目に映っているのは、あくまで食料でしかない。
「誠の子供を生むの」
そのためには、
「栄養を、沢山取らないといけないよね!」
起き上がりながらも、その視線は葛木と、やよいから離さない。
彼女の目に映っているのは、あくまで食料でしかない。
「誠の子供を生むの」
そのためには、
「栄養を、沢山取らないといけないよね!」
◇
世界の手がデイパックに伸ばされる。
そして、中から取り出されるのは…巨大な銃。
構え、そして発砲。
元より世界に射撃の経験などは無いが、それでも悪鬼の力によって、反動に負けず、狙った地点へと飛ぶ。
だが、葛木は避けない。
銃というのは非常に正確な武器であり、銃口の向いている方向に飛ぶ。
葛木には、彼女の銃が自分を外れる事は、引き金を引くタイミングで理解できていた。
それ故に、彼は前に進む。
顔の直側を通過する弾丸には目もくれず、世界の近くにまで。
「えっ!?」
葛木の動きに世界が驚愕の声を上げるが、それにも構わず進む。
多少の制限があるとはいえ、彼の速度は鬼となった世界のソレを上回る。
彼女にできたのは、何とか銃をもう一度撃つことだけ。
無論、そのようなものなど当たる筈もなく、葛木も気にも留めない。
そして…
そして、中から取り出されるのは…巨大な銃。
構え、そして発砲。
元より世界に射撃の経験などは無いが、それでも悪鬼の力によって、反動に負けず、狙った地点へと飛ぶ。
だが、葛木は避けない。
銃というのは非常に正確な武器であり、銃口の向いている方向に飛ぶ。
葛木には、彼女の銃が自分を外れる事は、引き金を引くタイミングで理解できていた。
それ故に、彼は前に進む。
顔の直側を通過する弾丸には目もくれず、世界の近くにまで。
「えっ!?」
葛木の動きに世界が驚愕の声を上げるが、それにも構わず進む。
多少の制限があるとはいえ、彼の速度は鬼となった世界のソレを上回る。
彼女にできたのは、何とか銃をもう一度撃つことだけ。
無論、そのようなものなど当たる筈もなく、葛木も気にも留めない。
そして…
「あぐっ!?」
衝撃。
世界の視界が、光に支配される。
何処を殴られたのか判らないけれども、衝撃から考えると恐らく肩。
ついで、胸、あご、腕、
「がっ! グッ! ゲハッ!!」
どこも見えはしないが、痛みだけが伝わる。
その度に、世界の視界が揺らぐ……が、それだけ。
衝撃。
世界の視界が、光に支配される。
何処を殴られたのか判らないけれども、衝撃から考えると恐らく肩。
ついで、胸、あご、腕、
「がっ! グッ! ゲハッ!!」
どこも見えはしないが、痛みだけが伝わる。
その度に、世界の視界が揺らぐ……が、それだけ。
「……む」
異変を感じ取った葛木が、世界より離れる。
彼の拳をこれだけ受けて、幾ら普通ではないとはいえ、女子高生が普通にしていられる筈が無い。
だが、現実に彼女はそこに立っている。
そして、目の光はそのままに、葛木を睨みつけている。
「…………」
少なくとも、既にマトモな人ではない。
そう、葛木は結論付ける。
と、その時、背後から爆発音と、それに伴うやよいの悲鳴。
この時、初めて葛木は世界の持つ銃が榴弾であった事を理解した。
……無論、だからといって行動には変化など無いのだが。
異変を感じ取った葛木が、世界より離れる。
彼の拳をこれだけ受けて、幾ら普通ではないとはいえ、女子高生が普通にしていられる筈が無い。
だが、現実に彼女はそこに立っている。
そして、目の光はそのままに、葛木を睨みつけている。
「…………」
少なくとも、既にマトモな人ではない。
そう、葛木は結論付ける。
と、その時、背後から爆発音と、それに伴うやよいの悲鳴。
この時、初めて葛木は世界の持つ銃が榴弾であった事を理解した。
……無論、だからといって行動には変化など無いのだが。
「ケホッ、ゲホッ…………死ん、じゃえ!」
息を切らしていた世界が、再び銃を構えて発砲。
今度は当たると理解した葛木は、少し動き目標を外す。
そうして再び前進し、接近戦を挑もうとした葛木の目の前に……突如転がってくる丸い物体。
「!」
後退、
後方に向かい、全力で後退する葛木、
そして、彼の居た位置を、爆音が支配する。
息を切らしていた世界が、再び銃を構えて発砲。
今度は当たると理解した葛木は、少し動き目標を外す。
そうして再び前進し、接近戦を挑もうとした葛木の目の前に……突如転がってくる丸い物体。
「!」
後退、
後方に向かい、全力で後退する葛木、
そして、彼の居た位置を、爆音が支配する。
手榴弾。
それが彼に向け放たれた世界の武装。
そして……
「あうっ……」
後方から、やよいの悲鳴が上がる。
彼女の目に飛び込んできたのは、その威力を間近で浴びた世界の姿。
全身にその破片をあび、無残な姿となっている。
だが、やよいが声を上げたのは、それだけが理由ではない。
「な、何なんだよ…ありゃあよう……」
世界の傷が、治っていくのだ。
今しがた付いたばかりの傷が、たちどころに小さくなっていく。
その傷口には、白い何かが蠢き、肉を埋めていく。
それは、世界の手にある魔道書、『妖蛆の秘密』の力。
そして、彼女の憎しみにより鬼へと変化した、彼女自身の肉体の力だ。
そして……
「あうっ……」
後方から、やよいの悲鳴が上がる。
彼女の目に飛び込んできたのは、その威力を間近で浴びた世界の姿。
全身にその破片をあび、無残な姿となっている。
だが、やよいが声を上げたのは、それだけが理由ではない。
「な、何なんだよ…ありゃあよう……」
世界の傷が、治っていくのだ。
今しがた付いたばかりの傷が、たちどころに小さくなっていく。
その傷口には、白い何かが蠢き、肉を埋めていく。
それは、世界の手にある魔道書、『妖蛆の秘密』の力。
そして、彼女の憎しみにより鬼へと変化した、彼女自身の肉体の力だ。
「痛いよ! この!」
そして、憎しみのままに再び銃を撃つ世界。
その痛みの大本が何であったかなど、彼女にはどうでもよいことだ。
ただ、葛木への憎悪を膨らませる。
そして、彼女の銃弾の向かう先は、
「ひうっ!?」
葛木ではなく、後方に控えるやよいの、その足元であった。
憎しみに捕らわれながらも、彼女の思考は、ある意味合理的だ。
葛木に当たらないのなら、やよいにあてれば良い。
そして、先ほどは放った手榴弾が、世界にヒントを与えていた。
爆発するのであれば、本人を狙うよりも地面に当てて広範囲に被害を及ぼせば良い。
距離感などの問題で外れはしたが、最後の一発。
この一撃は確実に当たる。
そう、考え最後の銃弾を放ち、
そして、憎しみのままに再び銃を撃つ世界。
その痛みの大本が何であったかなど、彼女にはどうでもよいことだ。
ただ、葛木への憎悪を膨らませる。
そして、彼女の銃弾の向かう先は、
「ひうっ!?」
葛木ではなく、後方に控えるやよいの、その足元であった。
憎しみに捕らわれながらも、彼女の思考は、ある意味合理的だ。
葛木に当たらないのなら、やよいにあてれば良い。
そして、先ほどは放った手榴弾が、世界にヒントを与えていた。
爆発するのであれば、本人を狙うよりも地面に当てて広範囲に被害を及ぼせば良い。
距離感などの問題で外れはしたが、最後の一発。
この一撃は確実に当たる。
そう、考え最後の銃弾を放ち、
「痛っ!!」
その銃弾はあらぬ方向に消えた。
風のような速度で近づいていた葛木の手によって、彼女の手にあった『エクスカリバーMk2マルチショット・ライオットガン』が弾き飛ばされたのだ。
そして、葛木の攻撃は手に留まらず、
「ゴホッ! ゴホッ! げ」
後頭部、喉、眉間に放たれる。
いくら身体を鍛えようと、どうにもならない部分というのはある。
この場合の世界は鍛えたわけではないが、それでも同じ。
肉体が鬼のそれに変わっていようと、元が人であることには変わりが無い。
その銃弾はあらぬ方向に消えた。
風のような速度で近づいていた葛木の手によって、彼女の手にあった『エクスカリバーMk2マルチショット・ライオットガン』が弾き飛ばされたのだ。
そして、葛木の攻撃は手に留まらず、
「ゴホッ! ゴホッ! げ」
後頭部、喉、眉間に放たれる。
いくら身体を鍛えようと、どうにもならない部分というのはある。
この場合の世界は鍛えたわけではないが、それでも同じ。
肉体が鬼のそれに変わっていようと、元が人であることには変わりが無い。
……だが
「……くっ」
あがるのは葛木の苦悶の声。
そして、声と共に大きく後退する葛木。
その拳には、細かい無数の傷跡。
世界には葛木の攻撃を見切ることなど不可能。
故に、反撃など出来ない。
だが、見切らなくても、当たっている瞬間、そのとき確かに、葛木の拳はそこにあるのだ。
ならば、反撃することは不可能ではない。
あがるのは葛木の苦悶の声。
そして、声と共に大きく後退する葛木。
その拳には、細かい無数の傷跡。
世界には葛木の攻撃を見切ることなど不可能。
故に、反撃など出来ない。
だが、見切らなくても、当たっている瞬間、そのとき確かに、葛木の拳はそこにあるのだ。
ならば、反撃することは不可能ではない。
「痛いよ…凄く痛いから…お返しだよ」
彼女の全身を覆う、蛆蟲。
それが、触れた瞬間に葛木の手にダメージを与えたものの正体。
彼女の全身を覆う、蛆蟲。
それが、触れた瞬間に葛木の手にダメージを与えたものの正体。
◇
憎いよ。
凄く、憎たらしいよ。
桂さんの子供も、誠も、きっと死んじゃった。
でも、直に戻る。
でも、お返し。
何がどういう理由だか知らないけど、出来る気がしたから。
うん、さあお返ししないと。
銃は遠くに飛んじゃったけど、それでもまだもう一つあるし。
でも、その時、何となく思った。
凄く、憎たらしいよ。
桂さんの子供も、誠も、きっと死んじゃった。
でも、直に戻る。
でも、お返し。
何がどういう理由だか知らないけど、出来る気がしたから。
うん、さあお返ししないと。
銃は遠くに飛んじゃったけど、それでもまだもう一つあるし。
でも、その時、何となく思った。
「うん、これにしよう」
凄く、綺麗な剣。
私は剣とか詳しくないけど、それでも、凄く綺麗だと思った。
そして、何より…
私は剣とか詳しくないけど、それでも、凄く綺麗だと思った。
そして、何より…
この剣は、
「…約束された…」
凄く、
「……勝利の剣!!」
強い感じがしたから。
音が、消えた。
眩しくて、見つめることも出来ない。
とにかく、大きな光。
でも、こんなものじゃない。
もっと、大きな力がこの剣にはある。
少し、疲れるけど、
凄く強い力が。
眩しくて、見つめることも出来ない。
とにかく、大きな光。
でも、こんなものじゃない。
もっと、大きな力がこの剣にはある。
少し、疲れるけど、
凄く強い力が。
光の通り過ぎた部分が、大きく削られている。
学校の廊下くらいの広さが、ずっと遠くまで。
なんだか、凄く、スカッとした気分。
ああ、うん、
でも、
学校の廊下くらいの広さが、ずっと遠くまで。
なんだか、凄く、スカッとした気分。
ああ、うん、
でも、
「もっと、スッキリできるよね」
あの男の人を殺せば、もっと気持ちいいはず。
うん、あの人は殺してしまおう。
食べるのは、後ろの子だけで充分だよね。
あの男の人を殺せば、もっと気持ちいいはず。
うん、あの人は殺してしまおう。
食べるのは、後ろの子だけで充分だよね。
男の人が、またこっちに向かってくる。
でも、気にする必要はないよね。
痛いけど、あの人のが痛いし。
でも、気にする必要はないよね。
痛いけど、あの人のが痛いし。
案の状、何回か殴って、それでお仕舞い。
うん、今度はこっちのばんだね。
もう一度、今度は、外さない。
うん、やっぱり、あの子も殺してもいいかな?
あの子を狙って撃てば、男の人も避けないよね。
そうしたら、二人とも食べられるかな?
うん、今度はこっちのばんだね。
もう一度、今度は、外さない。
うん、やっぱり、あの子も殺してもいいかな?
あの子を狙って撃てば、男の人も避けないよね。
そうしたら、二人とも食べられるかな?
うん、じゃああの子……………は?
「葛木先生! 伏せて!!」
そうして、瞬間。
西園寺世界の肉体に、強力な衝撃が襲った。
西園寺世界の肉体に、強力な衝撃が襲った。
◇
「やよい! アレだ!」
「ふぇ?」
「ふぇ?」
プッチャンの指し示すもの、それは…『エクスカリバーMk2マルチショット・ライオットガン』
西園寺世界の手から跳ね飛ばされた、無用の長物。
ああ、だがそれは無用の長物などでは断じて無い。
西園寺世界の手から跳ね飛ばされた、無用の長物。
ああ、だがそれは無用の長物などでは断じて無い。
何故なら、
葛木は駆ける。
再び、世界の元に、
彼女の注意を、自分に向ける為に。
再び、世界の元に、
彼女の注意を、自分に向ける為に。
そこに、弾が存在するのだから。
博物館にて入手した弾丸。
それは、葛木のデイパックの中に保管され、そしていまそれはやよいの手の内にある。
やたらと色々な知識に詳しいプッチャンならば、銃のリロードの仕方程度は解る。
そして、発砲。
それは、葛木のデイパックの中に保管され、そしていまそれはやよいの手の内にある。
やたらと色々な知識に詳しいプッチャンならば、銃のリロードの仕方程度は解る。
そして、発砲。
その刹那の時間の間にも、葛木の連撃は続く。
だが、それは大した意味など無い。
元より、彼女には先ほどから致命傷を何度も与えているが、どれも効果が無い。
むしろ、葛木の疲労と負傷のみが、積もって行く。
だが、それは大した意味など無い。
元より、彼女には先ほどから致命傷を何度も与えているが、どれも効果が無い。
むしろ、葛木の疲労と負傷のみが、積もって行く。
と、そこでやよいの銃弾が、素人とは思えない精度で、世界の肩に着弾。
やよいが反動で倒れるも、確かにそれは命中した。
そして、爆発。
彼女の腹部に大穴が空き…彼女の反応は変わらない。
常人ならば、とうに致命傷を負っておきながら、それでも彼女は動き続ける。
すでに傷口には不気味に蠢く蛆虫が這い回り、端からその傷を塞ぎ出している。
どう見ても、まともな現象ではない。
物理的な破壊力では…通用しない可能性すら…高い。
やよいが反動で倒れるも、確かにそれは命中した。
そして、爆発。
彼女の腹部に大穴が空き…彼女の反応は変わらない。
常人ならば、とうに致命傷を負っておきながら、それでも彼女は動き続ける。
すでに傷口には不気味に蠢く蛆虫が這い回り、端からその傷を塞ぎ出している。
どう見ても、まともな現象ではない。
物理的な破壊力では…通用しない可能性すら…高い。
ならば…彼に撃つ手段など…………一つしか、無い。
その胸に、持ち続けていた歪な短剣。
普通では無い現象には、それに対しうる力が必要である。
だが、この程度の武器を持ったところで何の意味があろうか?
既に幾たびも打撃を与えながら、その全てから立ち上がってきた怪物。
そんなものに、こんな短剣一本で何の効果があるのだろうか?
だが、それでも葛木に迷いは無い。
普通では無い現象には、それに対しうる力が必要である。
だが、この程度の武器を持ったところで何の意味があろうか?
既に幾たびも打撃を与えながら、その全てから立ち上がってきた怪物。
そんなものに、こんな短剣一本で何の効果があるのだろうか?
だが、それでも葛木に迷いは無い。
……何故なら、
「……破戒、すべき」
……それは、『彼女』の持ち物なのだから
「全ての符」
乾いた、音がした。
◇
『破戒すべき全ての符』
ギリシャ神話にその名を残す反英霊、裏切りの魔女「メディア」
第五回聖杯戦争にて、キャスターのサーヴァントとして召喚された彼女の宝具こそが、この歪な短剣。
彼女の持つ『裏切りの魔女』という特性の象徴たる道具。
宝具の名を関してはいるものの、この剣自体は多少良く切れる短剣でしかない。
その宝具の真価は、ありとあらゆる『契約の破棄』という能力にある。
サーヴァントとマスターという、この世界に存在するのに不可欠な契約でさえ、その短剣は断ち切る。
手にして間もない魔道書と、その主の契約など、薄紙にも等しい。
第五回聖杯戦争にて、キャスターのサーヴァントとして召喚された彼女の宝具こそが、この歪な短剣。
彼女の持つ『裏切りの魔女』という特性の象徴たる道具。
宝具の名を関してはいるものの、この剣自体は多少良く切れる短剣でしかない。
その宝具の真価は、ありとあらゆる『契約の破棄』という能力にある。
サーヴァントとマスターという、この世界に存在するのに不可欠な契約でさえ、その短剣は断ち切る。
手にして間もない魔道書と、その主の契約など、薄紙にも等しい。
だが、この場合葛木の頭にはそのような理屈は意味が無い。
彼にとって重要なのは、その短剣が、彼女の、葛木自身のサーヴァントたる『キャスター』の持ち物であるという点のみ。
偽りの主従であったとしても、
仮の婚約者であったとしても、
葛木宗一郎という人間にとっては、最も信じるに値するものであるのだから……
彼にとって重要なのは、その短剣が、彼女の、葛木自身のサーヴァントたる『キャスター』の持ち物であるという点のみ。
偽りの主従であったとしても、
仮の婚約者であったとしても、
葛木宗一郎という人間にとっては、最も信じるに値するものであるのだから……
◇
163:hope | 投下順 | 164:人であったもの/人で無くなったもの |
162:すれ違うイト | 時系列順 | |
149:THE GAMEM@STER (後編) | 葛木宗一郎 | |
高槻やよい | ||
154:誠と世界、そして侵食 | 西園寺世界 | |
149:THE GAMEM@STER (後編) | ??? |